CEDEC+KYUSHU 2017開催,VFXの知見から現れた無反射テクスチャ撮影の技法とは
ここではスペシャルエフエックススタジオの古賀信明氏による「リアルなCG人間の質感表現に役立つ皮膚の写真撮影法(完全無反射撮影装置)」を紹介してみたい。
古賀氏は,元々東京で約36年前のまだアナログの特撮の時代からスペシャルエフエックス スタジオを設立してVFXやCGをやったあと,現在は九州に戻って,映像から離れ研究開発の仕事をしている。
さて,セッション内容とは直接関係がないのだが,先に展示コーナーでデモされていたEpic Gamesブースの「Meet Mike」デモの画像をご覧いただきたい(Meet Mikeの詳細はこちら)。
動画があったので以下に貼っておこう。会場ではこれと同じものがリアルタイムで動いていたわけだ。
Meet_Mike_PressPromo_WithGFX_073117_24_SUPER from fxguide | fxphd on Vimeo.
見て分かるように,非常にリアルな人間の頭部である。これがパフォーマンスキャプチャのデータとリアルタイムでリンクして,実際の人間と同じようにCGのデータが動くのだ。これはVR空間上でCGキャラクターによるインタビューを行うという企画で作られたものだが,「綺麗ではない」肌の質感が実に見事だ。眉毛あたりは完全に毛の1本1本が独立しているのが分かる。おそらく髪の毛も1本単位で作られている。
本人の顔データと本人の表情データをリアルタイムリンクすることに意味があるのかと思う人もいるかもしれないが(実写で流すほうが早い),VRでインタビューというとFOO SHOWのような人気番組(?)もあり,インタビューが行われている空間に自分も存在するという体験はそれなりに需要があるようではある。それが,人間そっくりのCGモデルが人間の表情をそのまま再現できるところまできているわけだ。
とにかく,現代というのは広く提供されているゲームエンジンでこれだけのものが作れる世の中になってきているということだ。高精度で形状を取り込んで,顔のリグ付けをもの凄く頑張ったり,もの凄い解像度のテクスチャを使ったりといったことをすれば,ここまでリアルなキャラクターを実現できるのである。
手描きでのテクスチャには限界があると古賀氏は語る。かなり頑張ったテクスチャでも細かく見ると残念な点は多いという。こういうのは将来的にはプロシージャルで解決するべき課題だと思うが,現状では現実からのサンプリングが最も確実だ。
人間の顔を写真撮影して,それをテクスチャとして使用するというのは誰でも考え付く手法だろう。ただし,素直に撮影したデータをそのまま使うのは少し問題がある。撮影された顔は現実世界のライトでライティング済みだからだ。ゲーム内のライティングで自然な映像を得るためには,余計なものは付いていないほうが望ましい。ソフトウェアで写真からラインティング要素をなくすようなツールも存在するが,最初からライティング要素の薄い写真が撮れればそれにこしたことはない。
ライティングによる影は多方向からの多数のライティングでかなり打ち消すことができるが,表面のテカリ(ツヤ)による反射をなくすことはできない。古賀氏が今回紹介したのは,無反射のテクスチャを撮影するためのノウハウだった。
「顔色が悪い」などというのもRGB値にしてみればほんのわずかの変化でしかないが,人は敏感に反応する。近年のAIが得意としている画像認識でも,人間の顔色まで判定するのは難しいのではないかという。
そんな誤魔化しの利かない顔画像だけに,リアリティの追究では手が抜けない。きちんとしたモデリングデータを使い,きちんとしたテクスチャをきちんとシェーディングする必要がある。
ただ,古賀氏はそれがコストに見合ったものなのかについては疑問を投げかけていた。SSSの効果がはっきり出るのは逆光時の耳たぶであるとか,鼻先であるとか,かなり限られている。透明感に似た効果を出すだけなら,後処理の色補正で黒っぽい影の部分に少し赤みを入れることで「透明感」ぽい表現は可能だと例を示した。
また,顔表現で最も難しいのが化粧をした女性の顔だそうで,化粧品のベースで使われる酸化チタンは,光透過性のまったくないものであり,「透明感のあるメイク」などは基本的に矛盾する言葉なのだという。不透明な材料を使って透明感を感じるように仕上げるのがメイクのテクニックであり,実際の女性の顔の表現にSSSは必ずしも必要ではないのではないかとする見解を示していた。
一方で顔のリアリティを支配する要素としてスペキュラー(鏡面反射成分)が挙げられた。とくに黒人の肌はスペキュラーを適切に加えるだけで非常にリアルになるという。
そのための装置についての解説が続いたのだが,古賀氏は無反射画像だけでなく,スペキュラー成分のみを取り出したような画像を同時に得るようにしている。素材として無反射のテクスチャはほしいが,リアリティを出すにはスペキュラー成分は欠かせないということだろう。
ちなみにスペキュラー成分の抽出は,無反射画像を得ることよりずっと難しいという。今回のシステムでも,画像として取得しているのは,通常のライティングを施した写真のみである。無反射の画像と比較すれば販社成分が得られそうだ。
ポイントとなるのは,
- 無反射用偏光フィルタ付きライトと偏光フィルタなしのライトを交互に配置
- 対象を囲むように広い範囲にライトを配置
- 偏光フィルタのある/なしの2パターンで素早く切り替えて2枚の写真を撮る
といったとこころだろうか。
この無反射の画像にスペキュラーを合成すると,実際の写真そのもののようなリアルな画像となる。
講演では,こういった写真を撮影するための装置を作成するための情報が公開されていた。装置は,多数のライト,それを制御する装置などで構成されている。個々のライトはLEDと電源回路,反射板,拡散板,フィルタで構成されており,ライトの反射板は片面銀色の紙製だ。発熱の少ないLEDライトを使うので紙で十分とのこと。
偏光フィルタにはPLとCPL(直線偏光と円偏光)があるが,すべてマニュアル(フォーカス,露出を手動)で行うため,通常のPLで問題ない。
ライトなどの装置自体は頑張れば誰にでも作れそうなものではあるが,ライトを点灯して撮影し,0.5秒後にライトを切り替えて再び撮影するといったあたりは素人には無理な部分でもある。
最後に簡単に紹介された2例は,物理的にレンズ前の偏光フィルタを回転させる方式とギロチン式でやはりレンズ前でフィルタを切り替える方式だが,どちらも2枚の画像を撮影する。詳しい説明はなかったものの,どちらも1枚は上記の説明と同じ無反射画像を得るためのもの,もう1枚は反射成分を撮影するためのものだ。
テクスチャとは関係ないが,ハードウェア製品の物撮りで光沢面かつ曲面が多い製品などは撮影にかなり苦労する。反射を抑制するPLフィルタを使用しても効果は限定的だからだが,こういった工夫を行えばうまく撮れそうだ。個人的には非常に興味深い講演だった。