SMEが手がける新たなインディゲームレーベル「UNTIES(アンティーズ)」,その展望と本気度
それぞれの得意分野が異なる中で,個人をはじめとする小規模のゲーム開発者が作った作品の家庭用ゲーム機展開や,世界展開を助ける仕組みが充実してきている。
こうしてインディゲームに注目が集まるなか,ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下,SME)は本日,新しいインディゲームレーベルとして「UNTIES(アンティーズ)」を発足した。
ニュースリリース:ソニー・ミュージックエンタテインメント,パブリッシングレーベル「UNTIES」を発足
2017年10月17日,市ヶ谷のSMEオフィスにてUNTIES発足パーティが開かれた。筆者もインディゲームクリエイターのはしくれとしてお招きにあずかったので,当イベント会場の様子をレポートしたい。
「音楽レーベル」のメソッドでインディーゲームタイトルをプロデュース
UNTIESプロジェクト誕生の経緯としては,昨年12月にSMEからPS VR向けにリリースされた「anywhereVR」がきっかけだったそうだ。このときにゲームリリースを再びSMEからやっていきたいという思いと,ゲーム産業におけるインディゲームの盛り上がりを見て,プロジェクトが発足されたのだという。今野氏は,クリエイターにはなるべく自由に新しいゲームの世界を作ってもらえるようなサポートができるレーベルとして育てていきたい,と意気込みを語った。
坂本氏はプロジェクトリーダーに就いたきっかけとして,3年前の「BitSummit」に初めて参加した際,インディーゲームの持つ創造性やクオリティの高さに感動して以来,インディーゲームクリエイターたちの才能をもっと多くの人に伝えたいという思いを持ったことだったと語った。また,プロジェクトのメンバーもBitSummitでの出会いによって素晴らしい人材が見つかったのだそうだ。
ローンチ時に発表された4タイトル
先のニュースリリースでもすでに公開されているが,UNTIESは発足と共に4タイトルのパブリッシング支援を発表している。
本作は「SNS解析をした結果をゲーム内容に反映させる」というソーシャルを意識した切り口で作られたタイトルで,開発度は20%程度だという。なんと高校時代からの友達6人とのチームで開発しているそうで,リーダーである中道氏は弱冠21歳の超若手だ。
UNTIESの実務を担う実力派プロジェクトメンバー
すでに紹介したように,UNTIESは発足から4組のクリエイターが参画している。ゲーム業界のベテランから,開発会社で経験を積んで独立したチーム,はたまた21歳の若手,そして台湾からの参戦と非常にバラエティの富んだラインナップとなっている。それもこれも,このプロジェクトの仕掛け人である伊東章成氏のこれまでの知見と仕込みが生かされていると筆者は感じた。
伊東章成氏は,この事業に取り組む以前にソニー・インタラクティブエンタテインメントに在籍していた。そこでは国内インディゲームクリエイターのPS4/Vita展開を積極的に行う活動を行ってきた立役者だ。この功績により,クリエイターからの信頼は非常に厚い。
次に伊藤雅哉氏は,「懸け橋ゲームズ」というゲームローカライズの会社に所属にも所属しており,インディゲームの翻訳方面に詳しい人物だ。そして以前はBitSummitの運営にも関わっており,イベント運営と翻訳に長けている担当だといえるだろう。
もう一人の担当者であるジョン・デイビス氏は,世界中でインディゲームの展示会を手掛ける「Indie MEGABOOTH」でマネージャーを担当しており,海外のインディゲームコミュニティとのコネクションが非常に強い。UNTIESでは海外方面の渉外を担当するそうだ。
まさにこの3名,「インディゲームへの知見が深い三銃士を連れてきたよ」といっても過言ではない。
本プロジェクトの趣旨は,SMEの持つマーケティングパワーを活用して,インディゲームクリエイターを世界に羽ばたかせることが主な目的だ。そのため,「ソニー」の名はついているがプラットフォームの垣根はない。会場には任天堂のインディゲームプロジェクト「NINDIES」を率いる担当者や,マイクロソフトの「ID@Xbox」担当者も来場し,コメントを寄せていた。そして,UNTIESは既存のインディゲームパブリッシャと競合するわけでもない。良いタイトルと良いクリエイターの支援のため,ときにはタッグを組んで展開する姿勢もありえるようだ。
日本発のインディゲームを強力にバックアップする盤石の布陣
実は昨年まで,Tokyo Game Showと日程を同じくして「Indie Stream Fes」というインディゲームクリエイターの集いが毎年開かれていた。残念ながら今年はお休みとなってしまったのだが,発表会に集まった面々は,まさにそうした集いでよく見かけた方々だ。エンジン/ツールメーカーの代表者や,オリジナルIPを創出する中堅開発会社も来ていた。UNTIESはパブリッシングレーベルのみならず,そうした日本国内のインディゲームに関わる人々のハブになっていく予兆を感じた。
また,筆者の感想だが,UNTIESが自らをパブリッシャではなく「レーベル」と呼んでいるところから,音楽業界の文脈を感じることにも注目したい。個人・小規模ゲームにおいては,通常規模のゲーム開発と異なり,「作品」にファンがつくのではなく,「作家」にファンがつくようになってほしい,と都度考えている。これはつまり,音楽アーティストに近いスタイルだ。アルバムを出すたびに大きくジャンルが変わるアーティストがいても,ファンはアーティストについてく。そうした流れができることを筆者は期待している。
TGSのインディーゲームコーナー取材でも述べたように,日本には刺激的な小規模ゲーム作家が多いにもかかわらず,クリエイター支援の仕組みは諸外国と比較して驚くほど少ない。
UNTIESはそうした現状を打開する強い起爆剤となりそうだ。SMEという大きなバックボーンと,これまでインディゲームを支えてきたプロジェクトメンバーの経験が組み合わさった盤石の布陣といえるだろう。今後に向けて大いに期待したい。