JVRS3レポート:官民挙げてVR産業を推進する中国の現状とは
登壇したのはHuawei TechnologyHead of VR Esports and Live ShowのWilliam Luo氏とTencentProduct Director / Smart Innovation Device DepartmentのJeff Pan氏,つまりHuaweiとTencentという中国でのハードとソフトの巨頭が揃って登壇する注目のセッションである。モデレーターはインフィニティ・ベンチャーズLLP共同代表パートナーの田中章雄氏だ。
最初にHuaweiとTencentのVRに関する取り組みが紹介された。現状では両社ともさほどVRに力を入れているわけではないとはいえ,中国でのハード,ソフトのトップランナーであることは間違いない。
最初に紹介されたのはHuaweiの取り組みだが,同社の立ち位置としては直接的にVRデバイスなどを展開するのではなく,ネットワーク環境の整備と高性能端末の開発などが中心となるようだ。現状ではほとんどのVRアプリがシングルプレイヤーであることに触れ,今後出てくるであろうマルチプレイヤータイプでの可能性が語られた。そのためには通信環境が重要だというのが一つのメッセージである。
現状ではHuaweiはVRというよりも360度動画のほうに重点を置いているようであった。その基盤となる現在の中国国内の動画配信サービスのビットレートなどが挙げられていたが,YouTubeと比べるとかなり低く,今後高解像度の360度動画を配信するためには,通信環境に5Gが必須とされていた。それを実現するのが同社の役目であろう。ちなみに中国国内の5Gについては,今後数年で整備できるとのことだった。
関連して中国国内のVR事情についてもいくつか語られたので,その内容からいくつか拾ってみよう。
まず,日本ではあまり見られないものの中国では一般化してきている「モールVR」についてだ。これはショッピングセンターなどの片隅に設置される体感型VR筐体などのある施設で,中国国内ではかなりの普及を見せているようだが,リピーターは少ないという。VR体験自体も上質なものではなく,コンテンツに問題があるとの見方が示されていた。
次に中国のVR政策について。日本だと「VR政策」などというものが存在すること自体に驚く人も少なくないだろう。最近の中国内でのVRの盛り上がりは凄まじく,2016年8月末には中華人民共和国国家発展改革委員会(NDRC)によるVRポリシーが発表されている。それによると中国内の10の省に「VRタウン」の建設(2箇所開設済み,10箇所建設中)という「なにそれ!」な規模で展開している。VRタウンというのは工業団地的なものとのこと。
この講演ではハードとソフトの巨頭が対談をしているが,実際に中国でVRを主導しているのはほとんどがごく小規模のベンチャー企業であり,基礎体力は大きくない。山のように出てきて山のようにつぶれている。こういったVRタウンは,ハード関連企業とソフト関連企業を誘致して緊密な協力体制を作ることを目的としている。まさに親方五星紅旗で,VR産業は隆盛真っ盛りとなっている。さらにHuaweiやTencentといった企業もインキュベーションに力を入れており,スタートアップ企業を支援している状況だ。
次にSteamでのVRのトッププロダクトの状況が示され,上位のものについてはそれなりに稼いでいること,ただ,それでも額は小さめだということなどが語られた。これらのアクセス率は横ばいであり,PC VR市場ではキラーアプリが待ち望まれていると結論づけていた。VR関連の技術革新はまだまだ続いており,そこにチャンスが生まれるとPan氏は見ているようだ。
アーケードVRについては,規模によって4つに分類されて説明が行われたが,そのうち最も大規模なものについて取り上げて見よう。これは日本にはない大規模な施設(4000m2以上)についてだ。ロケーションベースのVRで必ず言及されるような大規模なVRアーケードは,現在アメリカと中国で先行して稼動しており,その状況が語られた。動員数は低下しており,こちらも飽きられてきていることが窺われた。よかったのは最初の3か月間だけで,コンテンツもオペレーションも課題を抱えているという。
そんななかでTencentが作っているVRコンテンツも紹介されたが,同社がより力を入れているのは,ゲームの実況配信システムのようだ。Twitchのようなサービスだが,最近サービスが開始されており,多くのゲームで使われることになるのだろう。実はHuaweiのパートでも話が出ていたのだが,VRのゲーム大会をVRで配信するといった計画もあるようで,どのような形態になるのか興味深いところだ。
さて,中国の状況からはVRコンテンツの改善が切実に望まれていることが分かる。中国が日本のゲームメーカーに期待している部分でもある。そういった市場への日本からの参入などについても話に上ったものの,求められているのはコンテンツそのものというよりはノウハウといった雰囲気であった。
足りないのはVRのノウハウというよりもゲームのノウハウかもしれないが,実はどちらも結構世に出回っているものではある。取り入れるかどうかは作り手次第だが,どちらかというとこれまでクオリティを上げる必要がなかったのが問題であろう。VRであればそれだけで金になったのだ。中国に限らないが,VRコンテンツ制作者がOculus VRのベストプラクティスガイドラインすら読んでないと思われるものも多々存在するのも事実であり,安易に作られたコンテンツで消費者のVRに対する印象が悪くなることは,先行する多くのVR事業者が恐れていたことでもある。
日本などから見ると非常に乱暴な状態ではあるが,中国のコンテンツ産業は規模感とスピード感がまったく違う。進展も急速であり,官民挙げてVRを進める中国で現状のクオリティのままであることもありえない。投資額を考えれば,VR/ARで中国発のイノベーションが登場し,今後の業界をリードしていく展開も当然のように発生するだろう。今回は「巨大VR市場」という講演タイトルではあったが,いつまでも「市場」であるとの認識でいると,世界の趨勢を読み違えることになるのかもしれない。