私がSteamアカウントを削除した理由

PCゲーム空間におけるValveの優位性は,Steamで毒を吐くプレイヤーへの「寛大さ」があって成り立つ。

 今週の初め(※元記事は9月14日掲載),私はゲームで繰り返される問題について執筆し(関連英文記事),メディアの一員として,それを解決できないかと試みた。今日は,消費者,ゲーマーでもある身として,解決のためにしていることについて書こうと思う。

 本当はフォローする記事を書くつもりはなかったのだが,今週起きた「 PewDiePieがn-word(※Nで始まる黒人差別用語)をストリーミングでこぼした件」(関連英文記事)と「Bungieが白人至上主義のシンボルをDestiny 2から削除した件」(関連英文記事)のワンツーパンチで気分が限界に達した。

 どちらの出来事も,すでに数年にわたってゲームの世界で惨めに繰り返されてきているパターンのひとつである。我々はそこにゲーム文化に対する根強い偏見が警戒するべきほどに表面化しているのを見てとることができる。誰もがそのひどさを指摘して公然と非難し,そうでない人はひどいものを好まなかった人たちに対して腹を立てるのだ。

 極めて運が良いパターンでは,最初にめちゃくちゃにした人たちが公に謝罪し,犯した間違いを思い出して次回はうまくやろうとする。このパターンに間接的に関係している人が自分の役割を正直に見ているケースはかなり希だが,うまくやるには,それが絶対に必要だ。

「人種差別,性差別,性同一性障害などについて,人々はそれを病気のように扱う。しかし,私たちはこれらのことを伝染病のように扱うのではなく,むしろ環境汚染物質に似ていると考えるべきだろう」

 人種差別,性差別,性同一性障害などについて,人々はそれを二元論,まるで病気を持っているか否かのように扱う。「これは人種差別,これは人種差別ではない」というようにだ。しかし,私たちはこれらのことを伝染病のように扱うのではなく,むしろ環境汚染物質に似ていると考えるべきだろう。常に私たちの周囲を取り巻いているものだが,濃度がさまざまなのだ。飲料水におけるヒ素,ポップコーンの中のネズミの糞のように。いずれも完全に取り去ることを目指すべきだが,それは無理で,少量は「受け入れる」しかないのだ(本当に)。極めて少量である場合,ダメージは少ない。しかし,濃度が高くなってくると致死的になりえるのだ。

 これは文化的な問題だ。つまり,私たち全員が,そういう事実を良くしたり悪くしたりするうえで小さな役割を果たすことを意味する。車を運転する代わりに自転車に乗ったり,白熱灯の代わりにLEDを使ったりするように,私たちの行動は一人一人の影響力は弱くて針を動かすことはなくとも,ほかの人たちのそれと積み重なることで意味があるものになる。私は今週起きた出来事を良くするために何かをしたいと思った。それは,FirewatchのSteamレビューで,NSFW(職場閲覧注意)のマークがあるいくつかのスクリーンショットが貼られたツイートを見たときだった(参考URL)。

 人気YouTuberのPewDiePieがストリーム配信で人種差別発言をしたあと,アドベンチャーゲーム「Firewatch」のデベロッパCampo Santoは,YouTubeの著作権侵害の申し立てプロセスを使用して,彼のゲーム動画に削除要請を行った。これに怒ったゲーマー達はこのゲームタイトルのSteamレビューを炎上させ,ゲームに特化したフォーラムを罵りや嫌がらせであふれさせた。なぜならこれが今のやり方なのだ。なぜなら私たちはゲーマーで,私たちが思い通りにするには,すべてのフィードバック方法は兵器のようなものでなければならない。なぜなら私たちはデベロッパがDMCA(デジタルミレニアム著作権法)をきちんと遵守していないことに激怒しており,それを一瞬足りとも発散させることなく,腕組みして,あからさまな人種差別主義や人間のゴミに対する改革運動に加わるのだ(「人々はゲーマーゲート騒動の際に敵意に満ちた女性嫌いやハラスメントについて意欲的に特集したゲームメディアの倫理性を心配した」も参照のこと)。

 Firewatchフォーラムのスレッドのほとんどは統合されており,最も異常な人種差別的なものは削除されている。しかし,この一掃はValveがしたのではない。なぜならValveはゲームに特化したフォーラムの議論の管理をデベロッパに押し付けているからだ。ストアページの翻訳公募ページ(参考URL)やSteamカタログのキュレーションページ(参考URL)のように,Valveは他人に仕事を押し付けるのが好きなようだ。そのアプローチ自体は,ファンクションによっては問題ないかもしれないが,自ら無視してきたことによるコミュニティや文化に対する責任を放棄することは許されない。

「操作のあらゆる面から人間の判断を排除するという独断的なコミットメントは,事実上,自分たちによる判断になる」

 だから私は自分のSteamアカウントを削除することにする。

 過去数十年の間にValveのとった行動がPCゲームのシーンを活性化させたのと同じくらい,彼らが行動しなかったことが着実にゲーム文化を悪化させてきた。我々GamesIndustryのRob Fahey氏が以前,Steamのコミュニティの不祥事についての記事を書いたが(関連英文記事),操作のあらゆる面から人間の判断を排除するという独断的なコミットメントは,事実上,自分たちによる判断であり,すべてのものが容認可能であり,法律を守ること以外の制限はないということになる。ごく稀に,Valveがそのやり方から逸脱していくつかのスタンダードを施行するが,不本意ながらやっている。

 現在,SteamではHatred,Playing History 2 - Slave Trade,そしてHouse Partyを見つけることができる。Valveが銃乱射事件の賛美や残虐行為の軽視,またはレイプのゲームを問題視していないことの現れだ。私たちは,一貫性のあるポイントをいくつか挙げることができる。Paranautical Activityが入手可能であることがValveは自分たちの創設者への脅迫にも明確な反対の立場を取らないことを示唆している。

 これと同じアプローチはもちろんSteamコミュニティにも当てはまる。正確に言えばガイドラインはあるものの,それを強制する気はないようだ。「あれ,人種とかの差別を禁止するガイドラインがあるぜ,変なの」という感じか。ナチスの鉤十字のロゴを入れた「ナチス勧誘グループ(職場閲覧注意)」とその76人のメンバーは過去2年間,(規制されることなく)放置されたままだ。そして,そのプレイヤー“F *** Blacks"のアイコンは,自分自身にフェラチオをしている? 彼がちょうどそのアイコンを変更したタイミングで私はそのサイトを訪れ,彼が出禁になる前のほんの一瞬の間にそれを見たのだと思う。

ゆるい検閲により,2年以上にわたってValveが掲載したままにしていたグループの画像

 いや待てよ,まだ掲載されたままだ。

 そうだ,これもだ。これは何と「白人オンリー(職場閲覧注意)」(参考URL:ただし無効化済み)これは「白人至上主義者,ネオナチ,そして有色人種を嫌悪する人のため」のグループだと!(どうしてもクリックする必要があるなら,中身はどんどん人種差別主義的になっていくのでご注意を)だが,こんなものが存在していてもおそらく誰も気づかないだろう。いや待てよ,そんなことはない。Steamヘルプフォーラムにこんな投稿がある(参考URL)。人種差別主義のグループをどう禁止するか教えてほしいとのことだ。まあ,おそらくValveはこの投稿を見てはいないだろう。いや待てよ,ValveコミュニティMODからの投稿では(参考URL),スレッドをロックし,不正行為を報告する方法に関するサポートページにリンクされている。

「動機が何であれ,Valveは明らかに,オンライン上の肥溜めに社会のクズをかくまうことをよしとしている」

 これは,29個存在するコミュニティMODの一つ(参考URL)で「投稿をクリーンでトピックに沿ったものにし,Steamコミュニティで報告されたコンテンツを作成したプレイヤーを削除する」ボランティアをしている。「建前としてモデレーターをするべく訓練を受け報酬をもらっているValveの実際の従業員は12人しかいない。しかも,プログラマー,ソフトウェアエンジニア,UIデザイナーがいて,彼らが必ずしもそのタスクに焦点を当てているわけではない。同社が言うには,「フォーラムを支援するためにいくらかの時間を割いている」そうだ。

 ちなみに今日ある同じ時間,Steamのオンライン上に1290万人のプレイヤーがいた。Steamがゲームコミュニティの大きな部分を占めているにも関わらず,Valveは開発者やプレイヤーに議論の管理の責任を押し付け,自分たちの問題をほかの人に解決させることに専念している。Steamの毒々しさに嫌気がさして私のアカウントを閉鎖するリクエストを出したところ,Steam Supportから得た最初の応答は「Steam上での不適切な行為やプレイヤーを報告するためには,『暴力を報告する』という機能を使っているか確認してください」であった。

 動機が何であれ,Valveは明らかに,オンライン上の肥溜めに社会のクズをかくまうことをよしとしている。しかし,合理的に必要と思われるコミュニティ管理者を増員する気がなく,Valveが「ある」と主張する最小限のガイドラインを適用することも,コミュニティから悪意にあふれる登場人物をつまみ出す気もないのであれば,ValveはSteam上にそういった人々がいることをむしろ望んでいるのだと考えざるをえない。そして,もし本当にそうなら,Valveが保有し,完全にコントロールしているはずのプラットフォームから噴出する道徳的に非難されるべきことについて会社に責任を押し付けることはまったく持ってフェアなことだと言える。Steamがかつて私に提供した利益があったかもしれないが,周囲のプレイヤー,ゲーム文化,そして社会全体に及ぼす害は相殺してあり余る。私はもうそんなコミュニティの一員にはなりたくない。

 だから私のSteamアカウントはなくなっているし,今後もしSteamサポートが私のリクエストを満たしたら,アカウントは存続するかもしれない。この記事を読んでくれる読者の皆さんにはぜひ,あなたにとってSteamが本当に関わりたいと思うコミュニティであるかどうかを検討していただきたいと思う。一方で,私にとってはこれは大きな犠牲を生むことではないのを認めなければならないだろう。私は数十のゲームや,購入したがプレイしていないゲームタイトルのバックログへのアクセスを失っているが,いずれにせよ,私はあまりPCのゲームをしない。

 だから,誰もがSteamアカウントを削除すべし,とか,デベロッパは,彼らのビジネスの圧倒的多数をもたらすストアからゲームを引き上げよ,と私が呼びかけるのは理不尽だと分かっている。その代わりに,ただシンプルに,皆が実行可能な選択肢を促進するためにできることをするようお願いしたいと思う。消費者たる我々は,新しいゲームがGOG.com,itch.io,または別のストアで入手可能ならSteamから買うのをやめよう。デベロッパは,たとえ徐々にしか最終的な利益を押し上げないとしても,(Steamだけでなく)できるだけ多くのストアで販売することを優先しよう。現在,PCゲーム業界は,人間の基本的な品格にまったく関心を払わない企業に大いに依存しすぎており,それが私たち皆を傷つけているのだ。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら