[CEDEC 2017]ゲーム特許とはなにか? 効果的なゲーム特許の取得方法
キーワードは「遊びが財産」
では,具体的に新しい遊び・発明はどんなものがあたるのか。これは,先ほどの著作権と特許権の違いで述べたように,課金の仕方といったビジネスモデルからガチャの仕組みやRPGのバトルシステム,パズルゲームのルールといったものから,コントローラの作りといったハードの仕組みやタッチパネルの操作方法などゲームのアイデア全般だ。さらに立体視,VRといった表現に加えて,通信関係であればマッチングやフレンド対戦の仕様にネットワーク対戦の仕様まで,本当にゲームを面白くするために考えられた遊び全般が該当すると恩田氏は語る。
次に特許の権利が財産となる理由が説明された。まず,特許の権利というものは,新しい遊びを考えた人・法人に対して一定期間,自分の発明を自分だけが独占できる権利を与えるものであり,特許を申請して国に認められれば,申請者が認められた遊びを独占して使用できる権利を有することになる。一定期間独占的に実施できるということは,発明した遊びを他社が使いたいときに使用に対して対価を要求できるだけではなく,そもそも「やってはダメ」と言えるのだ。
「要は他人の自由を束縛するのです。基本的人権を尊重されている日本という国の中で他人の自由を制圧する権利はあまりないのですが,特許はそういう意味でも特別な許可なので,他人の自由,法人の自由を制限できるのです。それだけ強い力があることで,財産としての価値があるのでは,ということになります」(恩田氏)
他社に勝手に権利を使われたときには,商品の差し止めや損害賠償を請求でき,特別に対価を支払うことで利用可能にするライセンス契約を結んだりすることができるといった,一般的に知られている特許の強い効果の部分だ。
このような差し止めやライセンス契約など,特許の独占の強さみたいなところが出てくると「特許なんかあるとゲームが作れなくなる」という風に考えがちだが,実はそうでもない側面もあるという。例えば,面白くて新しい遊びが生まれたときに特許がない場合には,他社がその面白い遊びを使って粗製乱造されたゲームによってゲーム市場が画一化するような事態になるかもしれない。そうなると,ゲーム市場自体が,プレイヤーに飽きられて衰退していく事態にもなりかねないという。しかし,特許によって守られているならその権利を侵害すれば問題が起こるので,その新しい遊びに対して権利を侵害しない面白い方法がないかと,それぞれのゲームメーカーが考え,その結果生まれたものが,ゲームをもっと面白くすることになっていくというのだ。
特許制度自体は,中世ヨーロッパの頃に生まれ,産業革命以降に特許制度も一般的になってから,いまだに世界中で活用されている。このような背景からも,特許があるから物が作れないのではなく,特許があるからこそ面白いものがどんどん出てくるといえると考えられると恩田氏は説明する。
続いて特許制度の知っておきたい基本事項としていくつかの特徴が説明された。
まず,すべての特許出願は出願されてから1年半で一般公開されるということ。特許自体,新しいことに対して与えられるので,申請しようとしている特許がすでにあるかどうかを確認することで無駄を省け,公開された特許を調べることで競合他社が,どんな事業にチャレンジしているかが分かったりするという。
次に日本で取得した特許の有効期限は最大20年ということ。有効期限内であれば,独占して使用できるが,それ以降は独占が強制解除されるのだ。いまから20年前,ちょうどポリゴンゲームが出始めたくらいに取得された特許は,すべて自由に使えるようになっている。当然のことながら,現在でも使えるかどうかはそれぞれの特許次第だし,最先端のものは新しく特許が取られているという。
また,日本で取った特許は日本でしか原則使えない。別の国で特許を取得したい場合は,それぞれの国にある特許庁やそれに値する組織へ出願し,審査をしてもらう必要がある。特許取得にはそれなりのお金と時間がかかり,状況によって変わるが,特許になるまでの時間も1年くらいはかかり,場合によっては5年もの時間がかかることもあるという。金額としては最低でも100万円くらいはかかるということだ。
このように特許を取得するには時間と費用が掛かる。ただ,直接的な時間と費用だけで考えず「それだけの費用と時間をかけても自分たちで考えたアイデアに財産としての価値が高いと判断できるかどかが大事だという。絶対に使われないもので特許を取得しても仕方ないが,特許があることで新しい遊びの優位性を発揮できると判断できるかどうかが重要であり,かかる費用は決して高くはないということだ。
楽しませる仕組みを言葉にする
まずゲーム開発において,プレイヤーを楽しませる仕組みを考えるときに,その遊びの仕組みの流れをフローチャートなどで書くことが多いだろう。フローチャートで重要なことは,なにがどのタイミングでどの条件でなにをどうするのかということだ。それぞれのブロックで遊びに必要な構成要素がまとまっている。つまり,このフローチャートが,遊びの仕組みの根幹であり,実は特許出願には,このフローチャートで書いたブロックの仕組みをある程度文章に置き換えたものが必要になるという。これは,考えた遊びの仕組みを,誰でも分かる普遍的なものとまではいかなくても,ある程度特定できる形で説明する文章に置き換えることにほかならない。少しシンプルすぎるが,フローチャートを文書化すると特許出願できる文章にできるという風に考えればいいとのことだ。
特許申請の文章を書くために
いよいよゲームでの具体例の説明だ。面白さの仕組みを特許化する実例として,恩田氏が具体例として出したのが,「ドルアーガの塔」で主人公のギルが宝箱に触れるとアイテムがランダムで入手できるという仕組みだ。
遊びの目的は,「もしかしたらいいモノが手に入るかもしれないという期待感」を持ってプレイヤーにゲームを遊んでもらうことであり,効果はランダムでアイテムを入手できることだ。これをゲームで実現するためには,宝箱とキャラクターが接触するとアイテムがランダムでもらえるという仕組みが必要であり,この目的や効果を実現可能な発明が,いままで存在しなければ特許化が可能ということになる。
では,この仕組みを特許の文章で書くための流れを見ていこう。
先ほどのフローチャートを特許出願の形の文章にするのが,フローチャートを文章に落とし込むということになる。こちらは,言い回しが異なるだけで,内容自体はフローチャートと一緒なのが分かるだろう。ただ,2ブロックめのアイテム入手個数に関しては,「少なくとも一つ」書いてある。ゲームへの実装は一つでも,実際は複数入手したシステムでも特許として認められるように書かれている。このようにフローチャートと申請用の文章の内容は一緒とはいえ,やはり独特な言い回しや表現が必要であり,特許出願用の文章へ落とし込むのは専門家の手を借りないと難しい部分があるという。
ただし,申請するために文章化する前段階で,新しい特許が取れる可能性があるかどうかという判断は,特許の専門家でなく制作現場の企画やプログラマでも判断していいと恩田氏は語る。
続いて,この宝箱の例をもとに言葉一つでさまざまな意味を内包でき,概念自体も広げることができるテクニックを紹介した。
右にある仕様Bが,仕様Aの概念を広げたチャートだ。できることはどちらもほぼ同じで,宝箱からアイテムを入手するというものだ。変更されているのは,アイテムを入手できるタイミングと入手できるアイテムの条件の場所である。
仕様Aでは,自キャラが動いているゲームなどでしか該当しないが,仕様Bでは,宝箱を獲得するイベントが発生したらという条件になっていて,どんなタイプのゲームでも対応できる。つまり,より広い概念として定義されている。
同じく,仕様Aでは「抽選」と書かれているところが,仕様Bでは「所定の条件」となっていて,必ずしもランダムな抽選である必要はなく,ポイントによる判定などの条件もこの特許に含まれるようになっているのだ。ただし,あまり広い意味として取れてしまうと,過去に同じものがあるリスクがどんどん広がっていっていまう。同じものがあると特許の取得はできないのでその点は注意は必要だという。
続いて,先ほどの宝箱からのアイテム入手をスマホでやったらどうなるかを具体例として紹介した。昨今のスマホアプリの特徴的な構成としてサーバー側でデータの管理などを行うようになっているので,スマホでは,あくまでゲームアプリとコントローラとしての役割を持たせ,各プレイヤーのデータ管理やハッキング防止を含めて抽選処理も行うという具合だ。
こうすることで,遊びの目的・効果として,従来のアイテムがもらえる期待感を与えるだけでなく,サーバー独自のデータ消失対策やハッキング対策といったいろいろな効果が出てくる可能性があるという。アイテムを入手できるという目的は一緒でも,方法を変えることで大きな進歩があり,新たな特許を取得できる可能性があるのだ。
特許の観点からガチャシステムを見る
三つめの具体例として最近はやりのスマホガチャについて。本物のガチャ(ガシャポン)とゲームのガチャの違いがどこになあるのかを特許で考えるときに非常に参考になるという。
本物のガチャは,コインを入れレバーを回すなりするとガチャマシンの中に入っているアイテムがランダムに出てくる仕組みになっている(アイテムを補充する際に作為的な行動はないとする)。これをゲームで再現するときには,アイテムごとに出現する確率を設定することで,出てくるアイテムにランダム性を持たせる仕組みにになる。
本物のガチャとゲームのガチャの違いで発明的なものが,この「アイテムに確率を設定して排出率を決める」ことと「確率だけで永遠にアイテムを抽選して払い出せる点」だという。このいままでにあった本物のガチャにない仕組みがあることで,ゲームのガチャが非常に特許性の高いものになるようだ。
タッチパネル操作の特許
具体例の最後として,今度はソフトウェアではなく,タッチパネル操作を特許取得したいときの流れが紹介された。これまでにない新しい操作方法であれば,ちゃんと特許を取得できる可能性があるのだ。考え方は基本的にこれまで紹介した具体例と変わらず,目的と効果を明確にし,それに必要な構成を洗い出してから,フローチャートに載せていくという作業だ。
ゲームにおいての特許は,遊びの処理=フローチャートが,処理自体や構成,組み合わせの特徴に新しさがあるかどうかを判断できれば,特許を取得できる可能性があるかどうかが分かるとのこと
最後に恩田氏は「特許があるとゲームが作りにくくなるだけでなく,新しい特許を生み出すことにもつながるので,いい特許をいっぱい取ってゲーム業界が発展してほしい」という言葉を述べ,セッションを終了した。
ゲームにおいての特許自体がどういうものか,特許が取得できるかどうかの考え方を基本学ぶことができたセッションだったといえよう。