[CEDEC 2017]ゲーム開発者こそ,優れたゲームライターになれる。「ゲーム開発経験を生かすライター活動のすすめ」をレポート
2017年8月31日,パシフィコ横浜で開催された国内最大規模のゲーム開発者カンファレンス CEDEC 2017でショートセッション「ゲーム開発経験を生かすライター活動のすすめ」が行われた。登壇者はライター歴25年のベテラン,戸塚伎一氏だ。
戸塚氏はライターとしての活動だけでなく,最近は自らゲーム制作を行うようになり,ノベルゲーム開発ツールである「ティラノビルダー」のセミナーを開くなど,多面的に活躍している人物だ。そんな戸塚氏の講演の模様をお届けしよう。
戸塚氏はまず,講演で話す「ゲーム系メディアライター」を定義した。氏によればゲーム系メディアライターとは,自ら取材した記事をネットメディアに書くライターのことだという。
1990年代はハードウェアごとに専門誌があるほど紙媒体のゲームメディアは隆盛をきわめていたが,徐々に総合誌に収束していった。その一方でネットメディアは,2000年代以降大きな広がりを見せ,速報性や紙面の自由度などから,現在ではゲームプレイヤーの一番の情報ソースとして利用されるようになっているという。
ゲーム系メディアライターの仕事を簡単に言えば,「原稿の作成と提出」だ。原稿の提出方法はメディアによって違いがあるが,基本的にはPCで原稿を書き,写真を添付して位置を分かりやすく指定することになる。参考までに筆者の原稿は,Visual Studio Code上でMarkdownを使って書いている。ライターによって,使うツールはさまざまだ。
書いた原稿を編集者に渡すと,あら不思議,きれいに仕上がって読者の手元に届くようになる。
原稿の内容は,自ら情報ソースを当たって書き起こす。情報ソースとは,実際にゲームをプレイすることだったり,開発者などへのインタビューだったりする。また,イベントの取材やインタビュー記事などでは,写真の撮影を求められることもある。
仕事が発生するプロセスについて戸塚氏は,「きっかけは2通りある」と述べた。1つは,記事を載せるメディアの編集部から「これを取材してきてほしい」とお願いされるもの。もう1つは,ライターが自ら「こういうネタがあるのですが」と編集部に提案するパターンだ。
ゲーム系メディアライターは基本的にフリーランスであり,1つのメディアに専属することは少なく,さまざまな媒体で書くことが一般的だ。複数の媒体から仕事を受けるには,仕事がバッティングしないように調整する必要があるため,スケジュール管理能力が求められる。
言うまでもないことだが,自宅か働く場所には,すべてのゲームハードを揃えなくてはならない。これらは仕事で使っているので,購入代金は立派な経費だ。
ライターを目指そうという人にとって,一番気になるのは原稿料だろう。戸塚氏によれば,原稿料はメディアによって違いがあるものの,記事1本でだいたい1万円〜2万円だそうだ。これはあくまで,専門性が高い分野ではなく,多くの人が楽しめるゲームやエンターテイメントの記事を書く場合の相場だという。
残念ながら,取材の交通費や諸経費は基本的に出ないのが通例らしい。ただし,遠隔地であるなどの事情があれば,編集部から経費が出ることもあるそうだ。
このように,条件面ではなかなか厳しいところがあるライター稼業。とはいえ,例えばゲーム系のイベントに優先的に参加できたり,また憧れの開発者にインタビューとしてバンバン質問できたりなど,さまざまなチャンスが得られる。ゲームが好きで,その魅力をもっと世間に広めたい,という気持ちで量をこなしていく必要があるという。
さて,以上のようなサイクルで日々の記事を書くゲーム系メディアライターだが,実は人手が足りていない職種でもある。例えば,このCEDECのレポート記事がスラスラと書けるような十分な知識を持ったライターとなれば,なおさら少ない。
戸塚氏はここで,聴講しているゲームの開発者達に向けて「ライターの仕事をしてみませんか」と呼びかけた。ゲーム開発者やその経験者はゲームについては十分すぎるほどの知識を持っており,ライターとしてはそれがうらやましいのだそうだ。
ゲーム開発の現場で得た知見があれば,それがたとえ自分のキャリアとは関連の薄いタイトルだったとしても,経験を突破口にして記事を広げていくことができる。戸塚氏は開発者ではなくライターとして経歴を重ねてきたため,「もし自分が開発者だったら,もっと話を掘り下げられたのに」と,悔しくなることもあったらしい。
こうした経験は,ライターを志望してメディアに連絡をする際,編集者に対するアピールポイントになるという。「ゲーム開発経験者」という肩書を売り込めるわけだ。
開発者としての経験を最も強く活かせる点としては,ほかのゲーム業界関係者とのつながりがすでにできている点が挙げられる。イベント取材やインタビューにあたって,対象企業に対する理解が深ければ,独自の視点で企画を立てることもやりやすくなるだろう。
いざ開発者がライターを目指そうと思ったとき,まず不安になるのが「文章力」だろう。
これについては,戸塚氏の経験に則して「ライティングに自信がなくても大丈夫」だそうだ。「この人にしか書けない」「この人にしか深堀りできない」というジャンルなら,文章面については編集部がサポートしてくれるという。
メディアが求めるのは,専門分野の知識や独自の切り口,情報ルートだ。そのため,最初は多少文章が粗くてもサポートしてくれるというわけだ。メディアがライターに対してしっかりとした支援を行っているかどうかは,「原稿料の相場で判断しよう」と戸塚氏は語った。
かくして,ゲーム系メディアライターとしてデビューして記事を書くことになったとき,何が必要になるのか。それは「情熱」と「好奇心」であるという。
記事の対象となるゲームがいかに素晴らしいか,どこが楽しいのかなどを多くの人に伝えたいという情熱,そして新しいゲームに対する興味と,どうして開発者がこのゲームを作ろうと思ったのだろう,といった好奇心が大切なのだ。
それらをベースに取材などの活動をし,原稿に落とし込むことができれば,ライターとして長く続けられるだろうと戸塚氏は述べた。
また,ゲーム系メディアライター業は,今後別の仕事で意外な利点を得る可能性も持っている。
戸塚氏の知人に,長くライターをしていたが廃業し,建設業界に入った人物がいた。彼が転職先で3D CADの説明をする際,ゲーム系メディアライターをしていた経験が役に立ったという。
ライター時代にゲームの攻略記事などを作ることで培った,図や資料をまとめる能力は,職場で大好評だった。情報をいかに分かりやすく伝えるかというスキルは,ライターを辞めたとしても,つぶしがきく能力であるということだ。
ゲーム系メディアライターになる入口として最も分かりやすいものとして,戸塚氏は,ゲーム系イベントに来ている「メディアパス」をぶら下げている人に声をかけてみることを推奨した。紙媒体の時代は,まず履歴書を提出するなどきちんとした手続きを踏む必要のある場合が多かったが,最近はネットが中心になったこともあり,例えばTwitterなどでやりとりしていて仕事が決まる場合もあるそうだ。したがって,まずは現場のライターと仲良くなって,相談することが近道なのだという。
最後に戸塚氏は,会場の開発者に向けて,あなたはどちらのタイプですが,と以下のような質問を投げかけた。
例えば「ドラゴンクエスト」に憧れて業界入りしたものの,ゲームから受けた衝撃や感動を与える作品を自分の手で作ってみたいのか,それとも,受けた衝撃や感動をほかの人に伝えたり教えたりしたかったのか。という2択だ。後者の場合,非常にライター向きだと言えるだろう。
ゲームライター,そしてゲーム系メディアは新しいゲームをポジティブに伝えていく役割を持っている。情報を発信することで,ゲーム業界の発展につなげていくのだ。ライターという仕事は,そうしたポジティブな輪を実感できることが魅力だと戸塚氏は語り,講演を締めくくった。
戸塚氏はまず,講演で話す「ゲーム系メディアライター」を定義した。氏によればゲーム系メディアライターとは,自ら取材した記事をネットメディアに書くライターのことだという。
1990年代はハードウェアごとに専門誌があるほど紙媒体のゲームメディアは隆盛をきわめていたが,徐々に総合誌に収束していった。その一方でネットメディアは,2000年代以降大きな広がりを見せ,速報性や紙面の自由度などから,現在ではゲームプレイヤーの一番の情報ソースとして利用されるようになっているという。
ゲーム系メディアライターのお仕事とは?
ゲーム系メディアライターの仕事を簡単に言えば,「原稿の作成と提出」だ。原稿の提出方法はメディアによって違いがあるが,基本的にはPCで原稿を書き,写真を添付して位置を分かりやすく指定することになる。参考までに筆者の原稿は,Visual Studio Code上でMarkdownを使って書いている。ライターによって,使うツールはさまざまだ。
書いた原稿を編集者に渡すと,あら不思議,きれいに仕上がって読者の手元に届くようになる。
原稿の内容は,自ら情報ソースを当たって書き起こす。情報ソースとは,実際にゲームをプレイすることだったり,開発者などへのインタビューだったりする。また,イベントの取材やインタビュー記事などでは,写真の撮影を求められることもある。
仕事が発生するプロセスについて戸塚氏は,「きっかけは2通りある」と述べた。1つは,記事を載せるメディアの編集部から「これを取材してきてほしい」とお願いされるもの。もう1つは,ライターが自ら「こういうネタがあるのですが」と編集部に提案するパターンだ。
ゲーム系メディアライターは基本的にフリーランスであり,1つのメディアに専属することは少なく,さまざまな媒体で書くことが一般的だ。複数の媒体から仕事を受けるには,仕事がバッティングしないように調整する必要があるため,スケジュール管理能力が求められる。
言うまでもないことだが,自宅か働く場所には,すべてのゲームハードを揃えなくてはならない。これらは仕事で使っているので,購入代金は立派な経費だ。
ゲーム系メディアライターはいったいいくらもらっているのか
ライターを目指そうという人にとって,一番気になるのは原稿料だろう。戸塚氏によれば,原稿料はメディアによって違いがあるものの,記事1本でだいたい1万円〜2万円だそうだ。これはあくまで,専門性が高い分野ではなく,多くの人が楽しめるゲームやエンターテイメントの記事を書く場合の相場だという。
残念ながら,取材の交通費や諸経費は基本的に出ないのが通例らしい。ただし,遠隔地であるなどの事情があれば,編集部から経費が出ることもあるそうだ。
このように,条件面ではなかなか厳しいところがあるライター稼業。とはいえ,例えばゲーム系のイベントに優先的に参加できたり,また憧れの開発者にインタビューとしてバンバン質問できたりなど,さまざまなチャンスが得られる。ゲームが好きで,その魅力をもっと世間に広めたい,という気持ちで量をこなしていく必要があるという。
開発経験者がライターをするアドバンテージ
さて,以上のようなサイクルで日々の記事を書くゲーム系メディアライターだが,実は人手が足りていない職種でもある。例えば,このCEDECのレポート記事がスラスラと書けるような十分な知識を持ったライターとなれば,なおさら少ない。
戸塚氏はここで,聴講しているゲームの開発者達に向けて「ライターの仕事をしてみませんか」と呼びかけた。ゲーム開発者やその経験者はゲームについては十分すぎるほどの知識を持っており,ライターとしてはそれがうらやましいのだそうだ。
ゲーム開発の現場で得た知見があれば,それがたとえ自分のキャリアとは関連の薄いタイトルだったとしても,経験を突破口にして記事を広げていくことができる。戸塚氏は開発者ではなくライターとして経歴を重ねてきたため,「もし自分が開発者だったら,もっと話を掘り下げられたのに」と,悔しくなることもあったらしい。
こうした経験は,ライターを志望してメディアに連絡をする際,編集者に対するアピールポイントになるという。「ゲーム開発経験者」という肩書を売り込めるわけだ。
開発者としての経験を最も強く活かせる点としては,ほかのゲーム業界関係者とのつながりがすでにできている点が挙げられる。イベント取材やインタビューにあたって,対象企業に対する理解が深ければ,独自の視点で企画を立てることもやりやすくなるだろう。
原稿を書くのは難しいか
いざ開発者がライターを目指そうと思ったとき,まず不安になるのが「文章力」だろう。
これについては,戸塚氏の経験に則して「ライティングに自信がなくても大丈夫」だそうだ。「この人にしか書けない」「この人にしか深堀りできない」というジャンルなら,文章面については編集部がサポートしてくれるという。
メディアが求めるのは,専門分野の知識や独自の切り口,情報ルートだ。そのため,最初は多少文章が粗くてもサポートしてくれるというわけだ。メディアがライターに対してしっかりとした支援を行っているかどうかは,「原稿料の相場で判断しよう」と戸塚氏は語った。
かくして,ゲーム系メディアライターとしてデビューして記事を書くことになったとき,何が必要になるのか。それは「情熱」と「好奇心」であるという。
記事の対象となるゲームがいかに素晴らしいか,どこが楽しいのかなどを多くの人に伝えたいという情熱,そして新しいゲームに対する興味と,どうして開発者がこのゲームを作ろうと思ったのだろう,といった好奇心が大切なのだ。
それらをベースに取材などの活動をし,原稿に落とし込むことができれば,ライターとして長く続けられるだろうと戸塚氏は述べた。
また,ゲーム系メディアライター業は,今後別の仕事で意外な利点を得る可能性も持っている。
戸塚氏の知人に,長くライターをしていたが廃業し,建設業界に入った人物がいた。彼が転職先で3D CADの説明をする際,ゲーム系メディアライターをしていた経験が役に立ったという。
ライター時代にゲームの攻略記事などを作ることで培った,図や資料をまとめる能力は,職場で大好評だった。情報をいかに分かりやすく伝えるかというスキルは,ライターを辞めたとしても,つぶしがきく能力であるということだ。
ゲーム系メディアのライターになるための入口とは
ゲーム系メディアライターになる入口として最も分かりやすいものとして,戸塚氏は,ゲーム系イベントに来ている「メディアパス」をぶら下げている人に声をかけてみることを推奨した。紙媒体の時代は,まず履歴書を提出するなどきちんとした手続きを踏む必要のある場合が多かったが,最近はネットが中心になったこともあり,例えばTwitterなどでやりとりしていて仕事が決まる場合もあるそうだ。したがって,まずは現場のライターと仲良くなって,相談することが近道なのだという。
最後に戸塚氏は,会場の開発者に向けて,あなたはどちらのタイプですが,と以下のような質問を投げかけた。
例えば「ドラゴンクエスト」に憧れて業界入りしたものの,ゲームから受けた衝撃や感動を与える作品を自分の手で作ってみたいのか,それとも,受けた衝撃や感動をほかの人に伝えたり教えたりしたかったのか。という2択だ。後者の場合,非常にライター向きだと言えるだろう。
ゲームライター,そしてゲーム系メディアは新しいゲームをポジティブに伝えていく役割を持っている。情報を発信することで,ゲーム業界の発展につなげていくのだ。ライターという仕事は,そうしたポジティブな輪を実感できることが魅力だと戸塚氏は語り,講演を締めくくった。