[CEDEC 2017]Steamの膨大なゲーム群に埋もれないために。どのように自社タイトルをPRすればいいのか

(左から)GIANTY ディレクターの三原龍磨氏,CTOのグエン アン バング氏,プランナーの中村 蒼氏
 2017年8月30日,今年もパシフィコ横浜で国内最大級のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2017」が開幕した。

 毎年,さまざまなゲームの開発スタイルについて情報交換が行われるCEDECだが,継続的にホットな話題として,海外展開とPC市場の開拓というテーマがある。
 そんな中,「Steamでのオリジナルタイトルリリース」「ベトナムへのオフショア」という,2つの挑戦をしたGIANTY(ジャイアンティ)の講演「日本とベトナムとで開発&PRしたSteam向けゲームの『反省と未来』」が行われた。

「GOKEN」スペック情報。現在,アーリーアクセス版が1480円で販売中(Steamのプロダクトページ
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 このセッションでは,ベトナムへのゲーム開発におけるオフショアの様子と,Steamに中小企業として参加したときにどのようにPRしたか,という2点がテーマになっていた。
 GIANTYはこれまでソーシャルゲームを作っていたが,今年は同社初のスタンドアロンRPGタイトルである「GOKEN」をSteamでリリースした。

「GOKEN」のターゲット層はスーパーファミコン世代で,見下ろし型の3DアクションRPG
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Steamでどうやって生き残っていくか?


 実際の順序とは逆になるが,先に「Steamでのリリース」について触れておきたい。
 中小ゲーム向けのグローバルPRについては,バング氏から説明された。ご存じのとおり,Steamでは6月から「Steam Direct」という新しいパブリッシング方法が導入されているが,これは以前の「Steam Greenlight」をリプレイスしたものだ。従来はユーザーからの投票制だったパブリッシング権の付与が,簡単な書面の提出と100ドルだけで通過できるようになる。
 個人や小規模でゲームを開発しているクリエイターにとってはありがたい仕組みだが,ユーザー側からしてみると,今後は益々,Steamでリリースされるゲームが増加するということを意味する。
 GIANTYはSteamでゲームをリリースするのが初めてだったため,どうやってPR展開をするのかがまったく分からず,「できることはすべてやろう」と考えたそうだ。そして,まずはE3への出展を決めた。



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 E3では,中小企業ながらもしっかりした広さのブースを取り,積極的にタイトルのアピールを行った。E3への出展で得られたこととして,「ゲームリテラシーの高いプレイヤーとの対話」が挙げられている。
 今年のE3では一般参加者の入場が認められるようになったが,こうしたゲームイベントには,ふだんからさまざまなゲームを楽しんでいるコア層が集まるものだ。彼らからフィードバックをもらえることは,ゲーム開発者にとって貴重である。

 そのほかの成果としては,日本国内では得られない情報や世界各国のゲーム関連企業とのつながりを得られたことを挙げていた。また,E3出展によって会社やタイトルに箔が付いたことも大事なポイントだ。


実はSteamに存在する「裏レーティングシステム」とは


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 GIANTYではSteamを運営するValveを訪問して,どのようなPR施策が有効かどうかについてアドバイスをもらったという。

 ValveはSteamについて,「企業とユーザーとのコミュニケーション」を最も大事にしていると話したそうだ。これはカスタマーサポートだけを指しているのではなく,ゲーム開発会社とユーザーとのコミュニケーションが可能な状態になっていることを含む。海外のタイトルでは,大抵「コミュニティマネジャー」といったタイトルとユーザーの間を取り持つ役職があるが,日本ではまだ浸透していない。

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 そして,「この会社やタイトルはコミュニケーションが十分でない」とValveに判断されてしまった場合,Steam内部での隠し評価が低くなってしまうそうだ。バング氏はこれを「Auto Rating」と呼んでいた。
 Steamでは開発会社が広告を出稿できないため,あくまで起動時のバナーやフィーチャーされるタイトルは,Valveの判断次第としている。

 さらに,Steamにはタイトルの自動分析システムが存在し,裏ではコミュニケーションの運用について評価されているという。たとえば,多言語でのサポートをしているかどうか,コミュニティにおける返答の割合,サポート状況などが判定されているそうだ。

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 こうした基準から「このタイトルはコミュニティから支持されている」と判断されたタイトルが,バナー掲載につながっているとのこと。GIANTYではこれらのアドバイスを元に,ユーザーとコミュニケーションを図る努力を行い,Steamのトップページにバナーを掲出してもらうことに成功した。

 デベロッパがお金を出して広告枠を買えない代わりに,「どれだけユーザーへのサポートやコミュニケーションに努めているか」という点でタイトルを評価し,フィーチャーするタイトルを決めているというのは非常に興味深いシステムだ。

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Steamでゲームが目立てる「露出ラウンド」


 次なるPR手法としては,Steamでの「ニュース」欄のアップデートを増やすというものがある。ユーザーにゲームへの興味を持ち続けてもらうために重要であり,更新頻度が下がると内部評価の低下にもつながる。

 アーリーアクセスを実施するタイトルは,ウィッシュリストに追加されてから,その後に購入となるケースが多いことが分かっているそうだ。つまり,ウィッシュリストに入れているユーザーに対して,タイトルの情報を継続的に出していくことが購入につながっていく。
 とくに「GOKEN」はアーリーアクセスを実施したタイトルであり,このような「ウィッシュリスト入れただけ層」の割合が高い。

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 バング氏はアーリーアクセスを実施した理由として,「純粋にタイトル開発に対して,利点が多いから」と述べている。プレイヤーの意見を取り入れながら作っていくことができ,開発費を回収しながらプロダクトを進められるというわけだ。

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 しかし,アーリーアクセスにはデメリットもある。前述したように,ウィッシュリストに入れただけのユーザーが多くなってしまうこともその1つだ。
 Steam GreenlightからSteam Directに移行したことで,SteamでのリリースはApp Storeに近いシステムになった。しかし,ユーザーから見ればどちらも「アーリーアクセス」に変わりはない。

 以前はSteam Greenlightに登録されたゲームに投票をするものの,アーリーアクセス版を購入せずにウィッシュリストに追加するだけというユーザーが多かった。それがSteam Directに切り替わっても,依然として「まだ完成していないタイトルだから,ウィッシュリストに登録だけして購入はしない」という意識が根深いのではないかと,バング氏は分析していた。

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 バング氏は,Steamの数少ない宣伝のタイミングにも触れている。Steamには,リリースされたタイトルをフィーチャーしてくれる「露出ラウンド」というものが存在する。これは5回までと限られているため,たとえば大型アップデートを実施したときなどに使えるのだそうだ。

 「露出ラウンド」に掲出した広告は,クリック数が3万viewに達するか,設定期間が終了するまで掲載される。多数のゲームがリリースされるSteamにおいては,適切なタイミングでアップデートを実施し,このシステムと組み合わせることが鍵になるようだ。

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IT立国として国を挙げてサポートする

ベトナムへのオフショア


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 今回のセッションでは,ベトナムとのオフショア体制についても情報共有が行われた。 「GOKEN」の開発体制はプロデューサーが1名,ディレクターが1名,プランナーが1名だ。そのほかの開発業務はベトナムの会社にオフショアしている。ベトナム側の人数はコアメンバーが2〜3人,あとは状況に応じてフレキシブルに変えていたという。

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 ベトナムと日本の時差は2時間しかない。また,平均年齢が29歳という驚異的に若い国だ。公用語はベトナム語だが,IT関連であればほとんどの人が英語を話せるそうで,国全体としてIT産業が成長方向にある。
 ベトナムにオフショアしたときの人月は35万円/月。これは日本を大きく下回るコストだ。ベトナムでは首都の大卒初任給が20万円程度で,物価は日本と比較して低い。

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 さらにベトナムは国策として「IT技術大国を目指す」と掲げている。そのため,優秀な技術者を増やそうと,情報系大学の費用を無償化するといったさまざまな支援を国が行っている。
 日本で言うところの「弁護士になる」「医者になる」といった目標が,ベトナムでは「IT技術者」であり,ステータスなのだそうだ。そのため,とても優秀な人たちがIT業界を目指している。

 ゲーム市場も成長を続けている。英語が通じるということは,日本よりもクオリティの高いゲームに触れられるということだ。ゲーム開発者にも「もっと面白いゲームを作ろう」というハングリーな精神があると語っていたので,日本や周辺国から企画を持ち込まれるだけでなく,彼ら自身がSteamなどのプラットフォームへ向けて,内製タイトルを作るようになるのは間近だろう。


日本とベトナムでゲームを開発していく未来


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 実際に開発に携わったプランナーと,ベトナム側のマネージャーとの会話を再現する寸劇も行われた。「ベトナムとの文化の違い」という切り口で事例が紹介されていたが,その実態はベトナムやオフショアに関係なく,発注側の企業文化を受注者に十分伝えないまま進行したため,すれ違いが生じたという内容だ。

 言葉の定義を十分に伝えなかったことで生じる意思疎通のミス,「このゲームでは何が大事か」というポイントの開示不足による行き違いといった苦労が語られたが,筆者は「むしろ,日本国内でもよく見られる現象では?」という感想を持った。

 最後にディレクターの三原氏は「独自の考えとして,最近の日本市場では巨大な予算をかけたAAA級タイトルか,ソーシャルゲームでもIPタイトルでなければ売れなくなってきていると述べた。「GOKEN」はJRPGとして世界に発信していきたいと考えており,「日本人がJRPGを作っている」と世界から認識されたいという。
 ただ,現実において,JRPGは1つのジャンルとしての呼び名になっており,作り手が日本主導である必要はなくなっている。クオリティの面でも海外発のJPRGに肩を並べられている状況だが,そうした潮流に抗っていきたいという意味合いが,三原氏の発言に込められていたと思う。

 中小企業がゲームを作り続けてしていくためには,あらゆる意味でのグローバルな視点を持っていなければ,生き残っていけないだろう。これからSteamに進出する中小の開発会社は,自分達に何が期待されているかを,あらためて見直す必要がありそうだ。