InnoGames:リスクの分散はエネルギーを拡散させてしまうことをも意味する

Devcom 2017に先立ち,InnoGames CEOのHendrik Klindworth氏が,ブラウザからモバイルへの移行にあたって,削ぎ落とされたポートフォリオがいかに役立ったかを語る。

 前回,2011年にInnoGamesを訪れたときドイツの産業は好況期にあった。ハンブルクに拠点を置くこのデベロッパ・パブリッシャのスタジオは,Forge of Empiresという前途有望な新しいタイトルをリリースしようとしていたタイミングで,結果的にそれは素晴らしいヒットを記録した(関連英文記事)。

 Gamigo,Bigpoint,Goodgame Studiosなど,同じ年に私が訪れたドイツのほかのゲーム会社も,まだ底堅いブラウザ市場で成功を収めており,好調に推移できると見通していた。結果としてほぼすべてのゲーム会社はうまくいかなかったが,InnoGamesは成功した。

 今年,スウェーデンのデジタル・エンターテイメント会社Modern Times Groupは,人気ゲームの数々と年々増収を続けるInnoGamesの実績を認め,同社の株式持分を51%に引き上げた(関連英文記事)。来週,ドイツ・ケルンで開催されるDevcomでCEOのHendrik Klindworth氏は,同社の成功にモバイルがどのような役割を果たしたかについて詳しく説明する予定だ(※元記事は8月17日掲載のものです)。

 「成功だけではありません。その途上には大変なこともありましたよ」と氏は付け加える。

GamesIndustry.biz:
 2011年当時,御社はブラウザに大きく重点を置いていました。同じ土俵には,Bigpoint, Goodgame Studios, Gamigoがいて,ドイツのゲーム業界は活況の時期でしたが,どんどん強くなっていったのはInnoGamesだけでした。

「2011年頃は,まるでノンストップに成長していけそうだと思ったものです」

Klindworth氏:
 2011年頃は,まるでノンストップに成長していけそうだと思ったものです。成長すること自体はまだまだ容易でしたが,競争がさらに激しくなったのもこの頃です。プレイヤー獲得争いは一層進み,マーケットはより挑戦的なものになりましたが,これは極めて相対的なものであって,InnoGameにとってはますます状況が良くなっていました。

 マーケットがより困難になればなるほど,むしろ私たちにとっては有利でした。適切な分析を行い,優れたマーケティングを展開しつつ,ゲームを描くときに私たちのすべての活動が効率的であるかを確認していました。マーケットが加熱し,競争が激化するほど,それは非常にうまく機能しました。

 その時点では,競合他社を大幅に上回ることができていました。しかし,私たちにとって常にとても大事であった,そして今でも大事な側面の一つは,会社の規模,従業員などの面で急激な成長を望まないとうことです。あまりにも速く成長すると,一貫したカルチャーを維持し,適切なプロセスを見つけることが難しくなってしまいます。

GamesIndustry.biz:
 競合他社の一部は,別の戦略をとって比較的速いペースで大きく成長しました。御社はもっと慎重なアプローチをしたかったということですか?

Klindworth氏:
 物事がうまくいっているときは,より多くの人を雇って,次々となんでもやっていくのがベストアイデアだと思いがちですが,そういうときであっても,成長戦略に忠実に沿ってやっていくことがとくに重要です。予算の使いすぎ,人の雇い過ぎに注意しなければなりません。後になって考えれば,これらが私たちにとってとても重要だったのです。

 また,適切な人材を採用することにも注力しました。たくさん雇えばいいというものではなく,やはりクオリティが大事なのです。

InnoGamesは2003年に初めてのブラウザゲームTribal Warsを発表し,今日もまだプレイされ続けている

GamesIndustry.biz:
 私がInnoGamesを訪れたときはおよそ200人の所帯でした。今は何人ですか?

Klindworth氏:
 約420人です。

GamesIndustry.biz:
 InnoGamesがどれだけの成功を収めたかを考えると,6年間で2倍というのはかなり控えめです。成功に寄与したものの一つは,Forge of Empiresで,ブラウザバージョンは2011年当時,まもなく発売予定というところでした。それが今年5月には2億5000万ユーロ(約322.2億円)のLifetime Revenueを達成しました。
(※ここでいうLifetimeはゲームのLifetimeだと思われる)

Klindworth氏:
 マーケットに出てすでに数年経っていますが,まだ成長しています。Forge of Empiresを新たな成長段階に引き上げるモバイル版を出したことは非常に良かったと思っています。

 モバイルに全力を尽くすようになってから数年経っていますが,プレイヤーベースと収益の両方を増やし続けることができています。それは本当にうれしいことですし,ゲームを何年にもわたって運営できるのは我々InnoGamesの強みでもあります。私たちのまさに一番際最初のゲーム,Tribal Warsは14年も前のタイトルですが,現在もまだプレイされています。

GamesIndustry.biz:
 2011年に私が訪問したすべてのゲーム会社がうまくいっているわけではありません。InnoGamesがモバイルへの移行を他社よりもうまくやってのけたからでしょうか。そんなシンプルなことなのでしょうか?

「実際のところ,数を打てということではありません。例えば可もなく不可もないゲームを12個リリースしても意味がないのです」

Klindworth氏:
 最終的にはうまくいったと言えるでしょうが,そこに至るまではとても大変でした。真のブレークスルーは,2014年の(モバイル版)Forge of Empiresでした。ただ,会社全体としてモバイルに集中していこうと決断するまでに3年はかかりましたし,その後もすぐ完璧に移行できたわけではありません。何度もトライしなければならないこともありましたが,それが身を助けたと思います。

 その経験から学び,新しいアプローチを試み,ようやくたどり着いた本当のブレークスルーが2014年のタブレット版Forge of Empiresだったわけです。そのとき初めて「ついに,ようやく,すべての苦労が報われた。よし,モバイルはいける」と思えたのです。

GamesIndustry.biz:
 ブラウザゲームはInnoGamesで現在どのような役割を果たしていますか? これからはすべての新製品がモバイルになるのでしょうか。

Klindworth氏:
 ありがたいことに,会社としては引き続きブラウザの収益を伸ばしています。もちろん,成長速度はモバイルほど大きくはありませんので,新しいゲームはモバイルに集中させています。ブラウザゲームも続けますが,会社としての成長はモバイルで見込んでいます。

GamesIndustry.biz:
 今やより多くのプラットフォームで展開されていますが,ポートフォリオとしては依然かなり削ぎ落とされた感じのものです。2011年当時よりは大きくなっているものの,そこまでではありませんね。

Klindworth氏:
 それが重要なのです。つい多くのことを同時にやってしまいそうになるものですが,たった400人であっても,会社として真に素晴らしいゲームを作ることにエネルギーを集中させなければなりません。そして,成功したゲームが2,3あれば,それをもっと成功させることに集中できますし,それでもってプレイヤーを開拓することができます。実際のところ,数を打てということではありません。例えば可もなく不可もないゲームを12個リリースしても意味がないのです。

 近頃では,これはすべてのゲーム会社にとって重要なことだと思います。強力なゲームがあれば,そこにもっと投資する,その繰り返しですべてが良くなります。

タブレット向けのForge of Empiresの発売は,InnoGamesがブラウザからモバイルへ移行する大事な瞬間だった

GamesIndustry.biz:
 大きな事業ポートフォリオを持つことや,ゲームを増やしてリスクを分散することに関してはどう考えますか?

Klindworth氏:
 リスクを分散させることは,エネルギーを拡散させてしまうことをも意味します。どんな会社でも,成功するのに使える経営資源もエネルギーも限られているものです。だからこそ集中しなければならないと思います。

GamesIndustry.biz:
 2016年度の売上は1億3000万ユーロ(約167.5億円)で,前年同期比25%の増加です。活気のない年というのは多くあったのでしょうか?

どんな会社でも,成功するのに使える経営資源もエネルギーも限られているものです。だからこそ集中しなければならないと思います

Klindworth氏:
 現在に至るまで毎年です(毎年,前年対比増を続けています)。それが私たちが達成して来た歴史であり,将来に渡って続けていきたいと願うことです。

GamesIndustry.biz:
 将来の成長を考えると,世界展開はどのくらい大事ですか? 欧米の先,アジアや南米を目指していますか?

Klindworth氏:
 南米は私たちにとっては関連したマーケットであり,成長市場でもあります。しかし,韓国でのさらなる展開はやめることにしました。プレイヤーの期待は,アメリカやヨーロッパのそれとはかなり異なっており,違う種類のゲームが成功しています。地元のデベロッパが非常に強く,極めてよくマーケットを理解しています。私たちのフォーカスはやはり欧米であり,韓国,中国,日本ではありません。

GamesIndustry.biz:
 御社は今,モバイルマーケットに焦点を当てていますが,この市場は,これからずっと激しいものになると見られていますね。

Klindworth氏:
 しかし,私たちは集めた経験を生かして,来月,または何年後にどういうことが起こるかを予測する能力も獲得しています。私たちが経験を積み上げるとき,その後ろで何が起きているかも把握しています。すなわち,マーケティング,投資,プレイヤーベースを成長させる方法が何かを知っています。とくに実際のゲームを展開しているときにビジネスの予測ができるようになりました。

 新しいゲームですか? ゲームがどのようなものになるのか見るのはいつも面白いです。よりやりがいがあります。

GamesIndustry.biz:
 重点的に取り組むことに価値があると分かりましたが,それを維持しつつ1年間に何本のゲームをリリースできますか?

Klindworth氏:
 1年に数本,それが私たちが達成できる上限でしょう。2本か3本でさえ私たちにとっては大きな挑戦です。私たちはこれからも常に品質に重点を置いていきます。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら