BlueStacks CEOに聞くモバイルゲームを活用する新たなプラットフォーム戦略とは
日本では一律にエミュレータでのアプリ利用を禁止しているコンテンツプロバイダがあり,一般ユーザーは現時点では利用にあたって不安もあるかもしれないが,コンテンツプロバイダであればそのビジネススキームを理解しておくことは無益ではあるまい。
実際,BlueStacksの実態は日本ではあまり知られていないように思わる。誤解も多い。ここではBlueStacksが提供するサービスや機能について,BlueStacks SystemsのPresident&CEO Rosen Sharma氏に話を聞いてみた。
高ARPUのPCゲーマーをモバイルアプリへ
「現在,世界的なトレンドとしてPCでゲームをする人が増えています。BlueStacksのユーザーを見ても,その約4割がSteamを併用しており,PCでゲームをする習慣が根付いていることが分かります。そこに市場の可能性を見出しました。さらにPCでゲームをする人々は,ユーザーベースとしてもクオリティが高いのです。長時間プレイされますし,購買成功も高い,そういった数字が出ており,BlueStacksはそういった質の高いユーザー層を囲い込んでいます。現在モバイルのTop50のうち約3割の会社と取引がありますが,効率よく質の高いユーザーにリーチできるという点に価値を見出していただいているようです」(Sharma氏)
同社は現在国内の複数のコンテンツプロバイダーと話をしており,グローバルなプラットフォームとしてコンテンツを海外展開することの魅力を訴えているところだそうだ。
同社のビジネスモデルは3つあるという。まず,アプリに表示される広告によるプロモーション展開だ。次に,BlueStacksからアクセスしたプレイヤーの消費に応じたレベニューシェア型のビジネスモデルがある。高ARPUのユーザーベースを抱えているからできるプランであろう。そして最後にB2C展開で,プレミア会員制による月額(年額)課金となっている。BlueStacksは無料のツールだが,ウィンドウ内に表示される広告を消去できたり,無料ゲームを一時中断するブロッカーが解除されたりする。
BlueStacks内に広告を出したり,おすすめアプリとしてインストールを促したりとプロモーションツールとしても活用されている。
実は強力で柔軟なアンチチート機能
実際のところ,ちょっと検索すればBlueStacksを使ってチート行為を行っているという話はたくさん出てくる。一方で,海外では多くのコンテンツプロバイダと協力関係にあるという。
また,冒頭でも書いたように,現在日本ではBlueStacksなどのエミュレータの使用を明確に禁止しているコンテンツプロバイダも存在し,そのような障害が撤廃されない限りは日本展開はおぼつかない。海外と日本では明らかに温度差があるのだが,それはなぜだろうか? また総じてエミュレータには否定的な国内コンテンツプロバイダにはどのように対応していくのだろうか。
「台湾や韓国でも最初はそうでした。モバイルゲームの会社はPCでプレイされることでのチート行為を恐れるようです。そこで,我々の技術について話し合いを行い,安全性とメリットを理解してもらいました。たとえば,韓国の某有名ゲーム会社の社内ランキングではBlueStacksを介したアクセスはきわめて高評価だったと聞きます」(Sharma氏)
そこでBlueStacksが提供しているアンチチートはどのようなものなのか具体的に聞いてみた。なお,Sharma氏はCEOではあるが,過去にはIntelのCTOなども務めた技術に通じている人でもあり,このあたりについても詳しく解説してくれた。
簡単にまとめると,BlueStacksではプレイ中のマクロやオートキー,メモリハッキングなどを高精度で検出できるという。検出されたチート行為はクラウド上に集積され,ユーザーごとの評価付けが行われているのだそうだ。その内容はコンテンツプロバイダと共有され,コンテンツプロバイダは独自の基準でアクセス制限を行うことができる仕組みだ。会社によっては,チートツールは一切ダメというポリシーもあれば,メモリハッキングはダメだがマクロは許容といったところもあるだろう。1回試したくらいならいいけど,常用している人はちょっとという場合もあるだろう。ユーザーのランクでどこまでを許容するかはコンテンツプロバイダ側が自由に設定できるようになっているとのこと。
つまりBlueStacksを利用したチートは可能ではあったが,それらはすべて検出されており,コンテンツプロバイダ側が制御をしていなかったから素通りしているだけというのが実情のようだ。
検出したチート行為を一律に規制していない理由について,氏は次のように説明した。
「たとえば,コンテンツのローンチ時には多くのユーザーを確保したいため,基準を緩めに設定するところがあります。マネタイジングの時期になると,基準をきつめにして優良なユーザーだけを残すといったマーケティング手法を取るところが多いのです。我々はこのシステムを構築するのに2年かかりました」(Sharma氏)
要するに,柔軟で使い勝手のよいアンチチートシステムになっているため,ちゃんと使わないとうまく機能しないといったところだろうか。ただ,実質的にアンチチートが機能していない状態で運用されてしまう点は,メーカー側にとってもユーザー側にとってもあまり好ましい結果になっていない。適切な告知が行われてしかるべきであろう。
BlueStacksの日本展開はこれから始まるところだ。海外での事例を見る限りは,今後は日本のコンテンツプロバイダでの活用も進んでいくものと思われる。
また,アンチチートについて,Sharma氏が強調していたのは,e-Sportsでの利用だ。最近台湾と中国で,BlueStacksを使ったモバイルアプリのゲーム大会が行われたのだそうだ。つまり,言ってはなんだが,最もチートの激しそうな国で最もチートに気を使わなければならないe-Sportsの大会を成立させたというのは大きな実績だということであろう。
Ver.3から始まるBlueStacksの日本展開
モバイルアプリは,携帯電話(スマートフォン)が持つ特性を前提に作られている。それを違った環境で動作させることは想定外の使われ方ではあるだろう。ゲームにどのような影響があるのかはしっかりと検証する必要がある。一方で,アプリ市場はレッドオーシャン化が進み,莫大なマーケティングコストをかけて薄い利益を市場規模の大きさでカバーするような効率の悪い事業となっている。ごく一部のコアなユーザー群がゲームの売り上げを支えているようなケースも少なくないだろう。
コアゲーマーのユーザーベースを持つBlueStacksはそのような状況に対して売り込みを行っているわけだ。実際のところBlueStacksプラットフォームの高ARPUが評価されて,BlueStacksのみをターゲットにしたゲーム展開を行うところも出てきているという。常識的に考えると幅広いプラットフォームで展開するほうが収益は上がるのだろうが,関係するコストも考えるとBlueStacksだけに絞ったほうが利益が上がるケースがあるということだ。
「コアゲーマーをカジュアルゲームに」というBlueStacksの方針は明確だ。モバイルのユーザーをベースとしてPCユーザーからさらに収益を上げるビジネスモデルを,PC用のプログラムを作る必要なく展開できる。高ARPUのユーザー層と良質なコンテンツが組み合わされば,プラットフォームの魅力はさらに上がっていくだろう。
最後に日本のコンテンツプロバイダ,そしてユーザー向けにメッセージをもらったので紹介しておこう。
「日本ではコンシューマゲームが盛んなので見えにくいのですが,世界的なトレンドとしてゲーム業界はPCでの展開に移行しつつあります。日本でもYahoo!で動きがありましたが,世界的に見てもAmazon,FacebookなどがPCのプラットフォームを立ち上げており,中国のTencentは自社のPC向けプラットフォームをグローバルに展開しようとしています。皆さん数字を見て気づき始めているのでしょう。新たな世代に対してどう向かっていくかについて,我々と同じような意識を持っています。日本においても,コンテンツプロバイダさんには,この大きな波に乗っていただきたいと考えています。
ユーザーの皆さんは,ぜひ一度BlueStacksを使ってモバイルゲームを大画面で楽しんでみてください。ゲームがより"Alive",いきいきと感じられるのが分かると思います。ゲームに対しても感情的ななにかが生まれてきます。ぜひ一度体験してみてください」(Sharma氏)