【月間総括】Nintendo Switchの逼迫状態は今年度一杯は続く? 

 まず,前回の「形」仮説について寄せられたご意見についてコメントしよう(関連記事)。それは,「PS2は,DVDプレイヤー+ゲーム機としてお買い得だったから売れたのではないか?」というものであった。「形」仮説は,ゲーム機の成否を決める主たる要因が形であるとしているだけで,このご意見のような傾向を否定していないことはご留意いただきたい。
 筆者の主観ではあるが,当時,PS2を発売日に購買したときの印象は斬新なデザインと,ゲーム機でDVDを視聴するという新しいスタイルが驚きだった。
 また,Nintendo Switch(以下Switch)であるが,SwitchはWebブラウザなどの機能が実装されていない。発売時点では,ゲーム以外の機能はなく純粋なゲーム専用機である。3DS,Wii Uから見ると,機能的にはグレードダウンし,価格も任天堂の伝統的な据え置きゲーム機より上昇したにもかかわらず人気である。本当にハードのお買い得感が販売動向を決めるのであれば,このようなダウングレードは販売の障害になってしかるべきである。PS2がお買い得で売れたことがゲーム機の販売の主要因だったとはとても思えないと,エース経済研究所では考えている。

(※編注:需要の差は考えられる。たとえば4Gamer.netの2016年冬の特大プレゼントへの応募では,ゲーム機全体からのアクセス自体が100件未満でありWii Uからのアクセスは13件だった)

 本題に入ろう。Switchは以前,エース経済研究所が指摘した2週間で50万台のハードルを下回ったにもかかわらず,依然として小売店舗では品薄が続いている。エース経済研究所では,この指摘を取り下げていないが,この矛盾は以前も述べたように,任天堂に対するヒアリングの感触から見て,消化率(推定販売数/出荷数)が低すぎるため,販売推計値に誤差・脱漏があった可能性が高いと考えている。おそらく,マイニンテンドーストアなどWeb系のチャネル比率が増大しており,推計が難しくなっているためと推察している。大事なことは,最初に勢いがあるかどうかを確認するための指標としての数字であるということだ。

 この点は,さておき,Switchの増産ペースが遅いと考えている読者も数多いだろう。しかし,そう簡単には増産できないのである。
 Switchは,さまざまな部品から構成されている。メインのSoCはNVIDIA製のカスタマイズされたTegraプロセッサだが,半導体は通常,ウェハ投入から完成まで3か月程度を要する製品である。任天堂が仮に3月に増産を決意しても,チップとして供給されるのは6月末以降であり,組み立てから輸送まで考えると実際に販売に反映されるには6か月程度が必要になる。このため,秋以降出荷を増やすとしているのである。
 時間的な制約だけではない。部材サプライヤーの生産能力にも影響される。半導体,液晶,リチウムイオンバッテリーは装置産業であり,生産能力の拡大には膨大な設備投資と時間が必要である。一部のコントローラやバッテリーなどの機材はスマートフォンと競合する可能性がある。Switchの分解記事では,バッテリーはTDKの子会社が手掛けていることが判明している(※提供元が1社とは限らないが)。スマートフォンでは昨年,SamsungのGalaxy Noteが発火事故を起こしたが,これは大容量バッテリーを採用したためとされている。逆に言えば,バッテリーの搭載容量は増え続けており,Switchはスマートフォンとの生産能力の取り合い状況にあるというわけだ。
 さらに,フラッシュメモリも懸念材料だ。東芝の第4四半期のASP(総平均単価)は前四半期比10%も上昇したと,会社側はコメントしている。通常,半導体の単価は販売が増えるにつれて下がる。ところが,AWSやグーグルクラウドなど汎用データセンターが積極的な投資を継続しており,フラッシュメモリは需要が大幅に伸長,供給の拡大ペースを上回り,価格が上昇している。ウェハを手掛けるSUMCOは決算説明会で,ウェハメーカーが増産しないため,ひっ迫は当面続くとコメントしている。
 このほかにも,人員面での課題もある。2016年6月の任天堂の株主総会でも,変動が激しいゲーム機生産の自動化は難しい面があると回答されている。人海戦術での生産となると,生産人員を集める必要がある。しかし,生産拠点となっている中華圏は人件費が上昇してきており,一定の規模を雇用し続けるのはリスクが高いのである。
 しかも,Wii Uが任天堂歴代ハード最低の販売台数となったこともあり,Switchは据え置き機としての需要を想定していたと見られ,一家に一台であれば不需要期の4-6月は問題ないだろうと思われた台数しか製造計画を持っていなかったのではないかというと推測もできる。
 それが,一人に一台ペースで売れる兆しが見られるなど,想定外の状況となり,急に増産したくてもまったくできない状況にある。
 その結果,日本では大手量販店の抽選販売に多数の行列ができる事態になっている。転売目的が多数いると指摘する向きもあるが,希望小売価格以上の価格であっても最終的に欲しい人々がいるために起こっている現象であることを留意しておく必要がる。
 このような現象はここ10年,コンシューマゲーム業界では見られなかった現象だ。PS VitaやPS4,Wii Uでは,転売目的の購買は(発売初期しか)起こらなかったのである。つまり,我が国においては,これらのハードは最終消費者に欲しいと思わせる力に乏しかったということであろう。
 多くの識者は,これをスマートフォンの台頭によるものとしていたが,エース経済研究所では,任天堂がプレイヤーの好むデザインとスタイルを確立できなかったことによる個別要因で外部要因ではないと考えている。

 Switchに関しては,任天堂は秋から供給を増やすとしているが,第1四半期の出荷は国内52万台,全世界で197万台に留まった。また,前述の制約条件から現状の3万台前後と見られる出荷水準を3倍程度にするのがやっとであろう。現状の潜在的な国内需要は1000万台で,現時点での実売は120万台を超えたところであるため,とても品薄を解消できる状況にはならないだろう。エース経済研究所では,部品の需給状況などを勘案したうえで,2017年度のSwitch販売台数予想を会社側計画の1.6倍,1600万台としている。これは,PS4の2年度めの売上台数1480万台を上回る水準である。据え置きゲーム機としては,十分な生産量になるといえるが,おそらくこれでも今年度一杯は品薄の状況を解消できないだろう。
 これまでの通説では大型タイトルこそが,ハード販売を決めるとされていたため,ソフトウェアラインナップ数が潤沢とは言えないSwitchは失速すると予想されるところだ。しかし,エース経済研究所では,「形」仮説から見て販売好調が今後18か月程度は続くと想定している。