ゲームのサポートに「チャットツール」を導入する意義とポイントは? GTMF 2017「チャットボット活用セミナー」レポート
セッションは二部構成で行われ,第一部では,カスタマーサポート代行事業などを手がけるマーケティングアソシエーションのアウトソーシング部 営業課課長の飯塚慶太氏が,カスタマーサポートにおけるチャットツールの活用法を説明した。
飯塚氏によると,スマホゲームに対するユーザーの問い合わせが集中するのは,「朝の通勤時間」「昼休みの時間」「帰宅から寝る前の時間」という3つの時間帯という。その中でも,課金ユーザーからの問い合わせは,とくに夜に多くなっているそうだ。
しかしその一方では,件数の多寡はあるにせよ,問い合わせは24時間いつ来てもおかしくないという事実もある。
そうした状況に対して,カスタマーサポートはどのような運用体制を取ればいいだろうか。
もちろん,予想される最大問い合わせ件数に合わせた人数のスタッフを配置し,24時間問い合わせに対応するという体制が万全なのはいうまでもない。だが,それでは問い合わせ件数が少ない時間帯に,無駄が生じてしまうだろう。
時間帯に合わせて効率よくカスタマーサポートを行うためのカギは,問い合わせ内容の分析と分類にある。問い合わせの中には,テンプレートを使って回答できるものもあれば,個別にユーザーの状況を把握した上でないと回答できないものもあるためだ。
とくにテンプレートを使って対応可能な問い合わせは,ロボット機能を使ったシステムでオートマチックに対応するようにしておけば,そのぶん手間が省ける。
しかし,テンプレートを使うとはいっても,メールによる問い合わせの返信には,きちんとユーザーの名前を書いたり,あるいはメールを送信したかチェックしたりといった手間が必要となり,結局手間がかかってしまう。
そこで活用したいのが,チャットツールの「チャットボット」(※スライドではチャットBOT)機能である。この機能を使い,よくある問い合わせを選択肢として登録したうえで,それに対する回答をあらかじめ設定しておけば,ユーザーの問い合わせに対する自動返答が可能になるのである。
当然,問い合わせの中には個別対応が必要なものも出てくるが,それらはスタッフがユーザーと直接チャットして解決を試みる。それでも解決できない複雑な問い合わせに関しては,メールなどを介したサポートに誘導していく。
ここで重要なのは,問い合わせ件数が増えても,実際にスタッフが対応しなければならないケースを少なくできるということである。すなわち,それだけコストが削減できるというわけだ。
伊藤氏によると,チャットツールを使ったカスタマーサポートを始めるにあたっては,「目的」「設定ページ」「人数・メンバー」「営業時間」「対応方法」という5項目を検討する必要があるとのこと。
まず,カスタマーサポートにチャットツールを導入する目的には,「プロモーション目的」と「サポート目的」の2つがあるという。
前者は,チャットを使うことにより「新タイトルをアピールする」「無課金ユーザーを課金ユーザーにする」「長期的な売上増を目指す」といったものが含まれる。一方,後者は「問い合わせ対応の効率化(ユーザーの自己解決率向上)」「電話やメールによる問い合わせを減らす」「顧客満足度の向上による継続率上昇」といったことが目的となろう。
目的が不明瞭な状態でチャットツールを導入しても,成果も出なければ,何を改善すればいいかも分からなくなってしまうと,伊藤氏は警告する。また,目的に応じてチャットボットの設計も変わるので,最初に目的を明確にすることは極めて重要になると,氏は強調していた。
さて,チャットツールを使ったカスタマーサポートの仕様策定,たとえば設定ページや担当する人数と人選,営業時間の設定にあたっては,「ミニマムから始めたほうがいい」(伊藤氏)そうだ。
まず設定ページだが,スマホゲームのサービス開始当初,チャットは公式サイトのトップページに設けないほうがいいという。なぜならば,そうした時期にチャットをユーザーの目に触れやすい(=ページビューの高い)場所に置いてしまうと,問い合わせ件数が極端に増加してしまうからである。
そのため,サービス開始当初のチャットは,登録ユーザー限定ページやFAQなど,ページビューが少なめのところに置くといいとのこと。そして,サービス開始からある程度の時間が経ち,ユーザーがゲームに慣れ,同時にカスタマーサポートのスタッフが業務に慣れた時期を見計らって,トップページにチャットを移すのがいいと,伊藤氏は述べていた。
チャットツールを使ったカスタマーサポートの人数をミニマムにするのは,対応するスタッフの人数が多くなると,それだけ教育に手間がかかるという理由であるという。そのため,最初はベテランのスタッフだけでスタートし,徐々に人数を増やしていくのが理想となる。
また,チャット対応スタッフは,メール対応より電話対応が得意な人のほうが向いているという。これはチャットの場合,メールよりも即時の対応を求められるケースが多いためとのことだった。
次に,チャットツールを使ったカスタマーサポートの営業時間をミニマムにするのは,第一部で示した「問い合わせが集中する時間帯」を避けることが目的だ。問い合わせ件数の少ない時間帯から始めて,段階的にフルタイムサポートにシフトしていくというわけである。
最後のチャットツールを使ったカスタマーサポートの対応方法は,「チャットボット+フォーム」「チャットボット+有人対応」「有人対応のみ」の3種類が考えられるという。
第一部で示されたとおり,それぞれに長所と短所があり対応できる問い合わせが異なるのだが,多くの企業が採用するのは,「チャットボットで効率化を図りつつ,要所で有人対応をする」2番めの選択肢とのこと。ただし,この選択肢は,きちんとバランスを図らないと予想以上に人的リソースが必要になったり,逆にチャットボット対応ばかりになって顧客満足度が上がらなかったりといった課題を抱えているため,定期的な確認が必要となるそうだ。
ゲーム業界に限らず,「カスタマーサポートにチャットツールを導入して効率化を図り,顧客満足度の向上を目指す」といった謳い文句を,ちょくちょく耳にするようになった。しかし,その言葉をお題目だけで終わらせず,きちんと実現するためには,漫然とチャットツールを導入しても意味がない。
目的を明確にしたり,あるいはユーザーからの問い合わせをしっかり分析・分類したりする必要があるということを,あらためて認識したセッションだった。