ActivisionのCEOが語る「ゲーマーは開発プロセスの要素の一つ」とはどういう意味か
ActivisionのCEOであるEric Hirshberg氏は,「Call of Duty」シリーズの危機からの脱出,「Destiny」の新しい船出,そして「Skylanders」シリーズの今後について語った。
「テレビドラマシリーズのツインピークスの最初の広告キャンペーンを打ったのは,私だということをご存じですか?」
ActivisionのCEO,Eric Hirshberg氏とのインタビューは,いきなり驚くべき方向へ展開していた。
ノスタルジーというものが消費者に与える力と,それが同社の「クラッシュ・バンディクー」シリーズの再興にどのように役立つのかを我々が議論していたときだった。私は,「ゴーストバスターズ」や「Xファイル」,そして「ツインピークス」といった1980年代から90年代の知的財産が,ここのところカムバックしている状況について示唆すると,Hirshberg氏は上記のように答えたのだ。
続けて,「Xファイルは,私が担当に加わった初めての大きな仕事の一つでした」と話すHirshberg氏。「私はもともと,広告企業に勤めていたのです。大学を卒業して最初の1年でした。ABC TVは我々のクライアントの一つでしたので,数々の賞を受賞したツインピークスの素晴らしいキャンペーンに関わることができたのです。
そのキャンペーンのタグラインの一つが“アメリカは視ている”というものでした。誰がローラ・パルマ―という登場人物を殺害したのかについて,さまざまな推理がファンたちの間で交わされていたので,これを利用しようと考えたのです。当時,我々のキャンペーンには筋書がなく,熱烈なファンを探し出しては,彼らの住む地域をバックにクレイジーな推理について話してもらい,それを録画して放映するというようなことを行いました」と彼は語った。
「アメリカは視ている」キャンペーンの背後にあった基本的なコンセプトは,彼がActivisionで行おうとしていることと似ている。ファンを観察し,彼らと会話し,彼らの向かう方向に進んでいくというものだ。28年前に「ツインピークス」で達成できたものは,「Call of Duty」においても当てはまることなのかもしれない。
そして,「Call of Duty」から「Destiny」,そして「Skylanders」シリーズの今後のステップとして話題を進めていく我々の会話の中で,このキャンペーンのコンセプトこそがバックボーンになっていたといえる。
「Call of Duty: Infinite Warfare」は,あまりにも未来へと突っ走りすぎたゲームだった
昨年リリースされた「Call of Duty: Infinite Warfare」がファンから受けた評価の低さは驚くべきものだった。
Activisionは,宇宙空間を舞台にしたことと,「Modern Warfare」オリジナル版のリメイクをリリースすることで,ファンを満足させることができると考えていた。しかし,その予告となるアナウンストレイラーがリリースされるや否や,YouTube史上で最も嫌悪されるゲームになってしまったのだ。「今,あなたが何のゲームについてお話ししようとしているのか,まったく思い当たるフシがないんですよ」と,Hirshberg氏もジョークで返すしかない。
それから1年が過ぎ,これまでの評価に対する答えとしてアナウンスした「Call of Duty: WWII」は,批判されていた未来ではなく過去の戦争をテーマにしていることから,状況はずっと好転している。Activisionは,「ツインピークス」のキャンペーンのようにしっかりとCall of Dutyのファンに耳を傾け,未来をテーマにした戦争について多くのゲーマーが“疲労”を感じていたことを認めているのだ。
「このシリーズが,あまりにも未来へと突っ走りすぎていたのは明らかなことです」というHirshberg氏は,続けて「1年前のコミュニティの状態を考慮すると,第2次世界大戦に舞台に戻したゲームをもっと早く開発するようにできていたら,ベターであったことは疑いないでしょう。しかし,我々は,シリーズの企画については3年前にゴーサインを行い,開発を進めるというシステムをとっていますので,コミュニティの声を反映させるのに時間がかかってしまったのです。Call of Duty: Infinite Warfareにゴーサインを出したときは,まだゲーマーたちの未来テーマに対する疲労感を十分に汲み取ることができなかったのです。ですから,遅れてしまったとはいえ,シリーズのルーツにようやく戻れることは皆さんに評価してもらっていると思います」と話す。
また,Hirshberg氏は「(2012年の)Black Ops IIで未来のウォーフェアをテーマにしたのは,非常にタイミングは良かったと思います。フランチャイズに求められていた新鮮味を与えることができたからです。この定番であることと新鮮味という二極にファンの振り子は常に動いており,WWIIへの評価を見る限りは良いタイミングで良いテーマのシリーズに振り戻せたのではないかと考えています」と続ける。
Call of Dutyは,実際にActivisionにとっては複雑な存在であり,そのファン層も,Black Ops系統,Modern Warfare系統,さらにはAdvanced WarfareやInfinite Warfareを中心にプレイするファン系統と細分化されている。これについてHirshberg氏は,「Call of Dutyというフランチャイズは,単にゲームというものではなく,一つの文化として成り立っています。毎年リリースされる年次作品というのも珍しいですし,ヒットチャートでは何年も上位に居座り続けているような状態で,まさに前例のないものなのです」と語り始める。
「その結果として,特殊な利点と問題点が噴出してきました。その一つが,同じゲームであるのに異なるユニバースが存在しているという点です。我々のポリシーは,ゲーマーの皆さんがCall of Dutyのブランドで楽しく遊んでくれている限りは,我々も嬉しいというものでしかありません。もし,とあるゲーマーが新作を購入したのに,それに満足できなくて過去のシリーズ作品に戻っていったとしても大きな問題とはなり得ません。しかし,それが大規模に起きていたなら,古い作品であっても継続してコンテンツをリリースしていこうという姿勢なのです。すでにローンチされてから1年半も経過しているBlack Ops IIIのゾンビモード向けコンテンツであるZombie Chroniclesをリリースしたのもそれが理由なのです」
そして,Hirshberg氏は,「つまりCall of Dutyは,継続的なプラットフォームではなく,継続的な“エトス(精神)”であると考えているのです。このゲームは,ゲーマーの皆さんに何かを感じてもらうために存在するのであり,そのゲーム性や世界観,そのプレイの感覚に対するゲーマーの期待が実現されたものであるわけです。そうした期待感を実現させるには複数の方法があると考えており,それはシリーズが毎年チャートのトップに輝いているだけでなく,トップの座についてからも継続的にプレイしてもらっていることからも実証できていると思っています」と語った。
「これは,ポップカルチャーではジャンルを超えて発生しているトレンドだと思います」とHirshberg氏は解説する。「人々は,自分が愛する世界へとのめり込むようになっています。マーベルコミックスであれ,ハリー・ポッターであれ,Call of Dutyだって同じことなのです。こうしたコアなファン層を持つゲームは,これまでになかったような長寿化を果たしています。我々は,必ずしもゲームを発売する以前に,そのプロジェクトがどれくらいの寿命になるのかを知ることはできませんが,だからこそコミュニティの反応に対しては敏感になるべきなのです。それが,ゲームビジネスをユニークなものにしています。ゲーマーの選択や行動は,ゲームの開発プロセスの一部と化しているのです」
Hirshberg氏は,こうしてActivisionには,死守するべき社是のようなものは存在しておらず,非常に流動的な構造であるということを強調する。同社は,ファンのいる方向に進んでいるのであり,もしファンがBlack Ops III向けの新しいコンテンツを求めているのであれば,作ればいいじゃないかという姿勢である。しかし,ここで疑問が浮かぶ。もしファンたちがずっとCall of Dutyで遊んでいるのであれば,そもそも年次リリースにこだわる必要があるのかということだ。それよりも,「Destiny」のように数年に1回の続編をリリースし,アップデートを重ねるようなスタイルでよいのではないだろうか。
これについてHirshberg氏は,「それぞれのゲームはユニークで,ゲームコミュニティを作る手法論は一つであはありません」と語る。「Destiny 2は続編で,ゲーム世界のリセットを行うものであり,その決定は安易に行われたものではありません。ActivisionとBungieは何度も何度も議論を重ね,継続性のある世界観にするのかどうか,プレイヤーが前作で行ってきた時間的な投資にどのような価値を持たせるかといったことをしっかりと話し合いました。しかし,どんなプロジェクトであっても新しく始めるのに躊躇してしまうプレイヤーはいるものなのです」と語った。
続けて,「もしCall of Dutyのように年次で世界がリセットされるのであれば,新しいゲームにはプレイヤーが投資してきたものが移行できなくなってしまうので,前作シリーズに居残るという判断を行うプレイヤーが少なからず出てくるリスクは負わなければなりません。しかし,年次リリースというコンセプトは,一つのフランチャイズを常に新しいものにしていくという大きな効果もあるのです。もし,10年以上にわたって多くのファンに親しまれようと継続的な世界観にこだわり,年次リリースという手法をCall of Dutyで採用していなければ,逆に新鮮なアイデアを練り込むことで10年もプレイしてくれるようなシリーズにはならなかったでしょう」と話す。
さらに,「つまり,こうした戦略で我々が見つけ出したのは,成功するための方程式は一つではないということなのです。Call of Dutyではその方程式を見つけ出しました。Destinyの方式がそのフランチャイズに合っているのかどうかを現時点では判断しきれませんが,拡張パックを3年にわたる長期的なスパンでリリースする前作の仕組みは十分に受け入れられており,Destiny 2はさらに成功するのではないかと考えており,我々は一つめの方程式を生み出すことになるわけです」とHirshberg氏は語った。
「Destinyの歩調に満足しているわけではありません」
Destinyに関する戦略は,マルチプレイヤーゲームをプレイするタイプの消費者にはしっかりとフィットしているのは間違いない。これらのゲームは,仲間たちが時間を合わせて集まり,何か月も何年もプレイするソーシャルハブとして成長しているのだ。Bungieは,DLCでのアップデートを重ねることでDestinyの前作を,そう成長させようと試みていたのも確かであろう。
しかし,ファンのエンゲージメントを継続させようという努力にも関わらず,Hirshberg氏は必ずしも大成功だったとは捉えていないようだ。「決してDestinyの歩調に満足しているわけではありません」と彼は話す。
「Destinyに関しては,うまくやったことはいくつもありますが,うまくできなかったことの一つにコンテンツへの需要に対応し切れていなかったというこものがあります。The Dark Below,House of Wolves,The Taken King,そしてRise of IronというDLCはすべて素晴らしいコンテンツであったと確信していますが,ファンたちはもっと短いスパンでのリリースを求めていたのも事実です。Destiny 2のローンチ後に皆さんに期待していただきたいことは,Activisionの持つ傘下企業の中でもAAAタイトルを開発できるサポーターとして,Vicarious VisionとHigh Noon Studiosの2社をコンテンツ開発に参加させる手はずになっているということです。Destinyのフランチャイズの中で,さらにストリーム化したパイプラインを構築できると信じています」
「Toy-to-Life型のゲームビジネスが死んだとは思いません。単に過密なんでしょう」
Activsionの本年度のリリーススケジュールで駆けているのが「Skylanders」だ。一時的には,同社にとってはもっとも成長していたフランチャイズでもあったのだが,ここ数年は徐々に売り上げが下降しており,もはや生命維持装置につながれた状態にある。
「Skylanders」の何が失敗だったかというのは明白だ。ほかのパブリッシャからも似たようなタイプのゲームは量産されており,それらすべてが成功することがなかった。今年,この“Toy-to-Life"と呼ばれる,おもちゃと連動するタイプの新作ゲームは1本もリリースされない予定だ。
しかしながら,Ubisoft EntertainmentはE3 2017で「Starlink」という新作をアナウンスしており,このジャンルに新しい切り口で挑もうとしている。こうした他社の動きを考慮すると,Toy-to-Lifeジャンルはまだまだ狙い目があるとHirshberg氏自身も考えているのであろうか?
「そもそもToy-to-Life型のゲームビジネスは瀕死なのではなく,ライバルソフトで超過している状態なのだと考えています。供給と需要のバランスが崩れていると考えると分かりやすいでしょう。大手玩具チェーンの棚で,6mほどの大きなスペースが,Skylandersを含めた4種類のToy-to-Lifeジャンルのメジャータイトルに占有されていたこともありました」と彼は言う。
「Skylandersをローンチして新しい市場が形成されました。同フランチャイズは21世紀の子供たちに相応の玩具を提供し,彼らのDNAに備わっているインタラクティブエンターテイメントの消費者として育んでいくことを可能にしているのです。ですから,一つの視点から考えると,このジャンルにいくつものライバル製品が短期間に投入されたのは理解できることです。しかし,その一方でSkylandersの収益性やファンの獲得という環境を狭めた要因にもなりました。Skylandersを見放しているわけではありません。2016年度にリリースされたImaginatorsをしっかりとサポートしていますし,前作にはなかった拡張パックも近々リリースされる予定です。Netflixでは,Skylandersのテレビ番組も継続していますし,フランチャイズのモバイルゲーム市場への参入も進めているところです。この方向で投資を進めていくことで,より良い結果も出てくると考えているのです」
我々は,Skylandersが壁に直面したのは,Wii Uがプラットフォームとして機能しなくなったことが理由ではないかと聞いてみた。
「そうですね」というHirshberg氏。「現在の家庭用ゲーム機市場には,我々のような手法で家族やカジュアルゲーマー層を獲得したようなパブリッシャはいません。Wii U向けのゲームラインアップにもなかったはずです。Skylandersの中心にいるのは子供たちであり,家族であり,カジュアルなゲーマーたちでした。ですから,ハードウェアのエコシステムに砦を築かないような状態で奮闘するのは難しいことでした。しかし結局,我々がゲーマーのいる場所に足を延ばしていくべきなのです。もちろん,子供たちはゲームをプレイすることを止めてしまったのではなく,異なるプラットフォームでもプレイしています。多くのカジュアルゲーマーはモバイルでもプレイしています。Skylandersでは苦労して進むことになるでしょう」
Skylandersがスケジュールに入っていないうえに,現時点では「Guitar Hero」も簡単にカムバックしそうにはない。Activisionのラインアップに穴ができてしまった格好になっているのだ。Activisionはこれまで,1兆円を超える価値のラインアップに誇りを持っていただけに,この次のステップについてはどう考えているのだろうか。
Hirshberg氏は,今後の活動については常に内部やサードパーティの開発者たちと話し合っていることを強調したうえで,「Crash Bandicoot」のリバイバルについても忘れてはいないと話してくれた。
「Crash Bandicootについてはいくつかの実験を行っているような段階です」とHirshberg氏は語り,続けて「ファンの中には声高にカムバックを求めている人が少なくないのは理解しています。しかし,それが大きなファンベースを象徴するものであるのか,ちょっとしたノスタルジーに駆られたニッチ市場でしかないのかまでは判断できていません。熱烈に新作を作ろうという人も開発メンバーにはおりますので,今後大きく動き出していくことは十分にあり得ますね」と語った。
そして,Hirshberg氏は,「もちろん,我々は“次の大きな新作”について常に念頭に置いて協議しています。しかし,我々の最大の懸念は,幸運にも我々のゲームをプレイし続けてくれているファンに対して,どのようなサービスを提供できるかということなのです」と結んだ。
今回のインタビューは,こうしてHirshberg氏自身のルーツでもあるツインピークスのキャンペーンであった「ファンの向かう方向に進んでいく」に帰結した。
Activisionにとってのチャレンジは,この現状をどう維持するかということにほかならないのだ。
「テレビドラマシリーズのツインピークスの最初の広告キャンペーンを打ったのは,私だということをご存じですか?」
ActivisionのCEO,Eric Hirshberg氏とのインタビューは,いきなり驚くべき方向へ展開していた。
ノスタルジーというものが消費者に与える力と,それが同社の「クラッシュ・バンディクー」シリーズの再興にどのように役立つのかを我々が議論していたときだった。私は,「ゴーストバスターズ」や「Xファイル」,そして「ツインピークス」といった1980年代から90年代の知的財産が,ここのところカムバックしている状況について示唆すると,Hirshberg氏は上記のように答えたのだ。
そのキャンペーンのタグラインの一つが“アメリカは視ている”というものでした。誰がローラ・パルマ―という登場人物を殺害したのかについて,さまざまな推理がファンたちの間で交わされていたので,これを利用しようと考えたのです。当時,我々のキャンペーンには筋書がなく,熱烈なファンを探し出しては,彼らの住む地域をバックにクレイジーな推理について話してもらい,それを録画して放映するというようなことを行いました」と彼は語った。
「アメリカは視ている」キャンペーンの背後にあった基本的なコンセプトは,彼がActivisionで行おうとしていることと似ている。ファンを観察し,彼らと会話し,彼らの向かう方向に進んでいくというものだ。28年前に「ツインピークス」で達成できたものは,「Call of Duty」においても当てはまることなのかもしれない。
そして,「Call of Duty」から「Destiny」,そして「Skylanders」シリーズの今後のステップとして話題を進めていく我々の会話の中で,このキャンペーンのコンセプトこそがバックボーンになっていたといえる。
「Call of Duty: Infinite Warfare」は,あまりにも未来へと突っ走りすぎたゲームだった
昨年リリースされた「Call of Duty: Infinite Warfare」がファンから受けた評価の低さは驚くべきものだった。
Activisionは,宇宙空間を舞台にしたことと,「Modern Warfare」オリジナル版のリメイクをリリースすることで,ファンを満足させることができると考えていた。しかし,その予告となるアナウンストレイラーがリリースされるや否や,YouTube史上で最も嫌悪されるゲームになってしまったのだ。「今,あなたが何のゲームについてお話ししようとしているのか,まったく思い当たるフシがないんですよ」と,Hirshberg氏もジョークで返すしかない。
それから1年が過ぎ,これまでの評価に対する答えとしてアナウンスした「Call of Duty: WWII」は,批判されていた未来ではなく過去の戦争をテーマにしていることから,状況はずっと好転している。Activisionは,「ツインピークス」のキャンペーンのようにしっかりとCall of Dutyのファンに耳を傾け,未来をテーマにした戦争について多くのゲーマーが“疲労”を感じていたことを認めているのだ。
「このシリーズが,あまりにも未来へと突っ走りすぎていたのは明らかなことです」というHirshberg氏は,続けて「1年前のコミュニティの状態を考慮すると,第2次世界大戦に舞台に戻したゲームをもっと早く開発するようにできていたら,ベターであったことは疑いないでしょう。しかし,我々は,シリーズの企画については3年前にゴーサインを行い,開発を進めるというシステムをとっていますので,コミュニティの声を反映させるのに時間がかかってしまったのです。Call of Duty: Infinite Warfareにゴーサインを出したときは,まだゲーマーたちの未来テーマに対する疲労感を十分に汲み取ることができなかったのです。ですから,遅れてしまったとはいえ,シリーズのルーツにようやく戻れることは皆さんに評価してもらっていると思います」と話す。
また,Hirshberg氏は「(2012年の)Black Ops IIで未来のウォーフェアをテーマにしたのは,非常にタイミングは良かったと思います。フランチャイズに求められていた新鮮味を与えることができたからです。この定番であることと新鮮味という二極にファンの振り子は常に動いており,WWIIへの評価を見る限りは良いタイミングで良いテーマのシリーズに振り戻せたのではないかと考えています」と続ける。
Call of Dutyは,実際にActivisionにとっては複雑な存在であり,そのファン層も,Black Ops系統,Modern Warfare系統,さらにはAdvanced WarfareやInfinite Warfareを中心にプレイするファン系統と細分化されている。これについてHirshberg氏は,「Call of Dutyというフランチャイズは,単にゲームというものではなく,一つの文化として成り立っています。毎年リリースされる年次作品というのも珍しいですし,ヒットチャートでは何年も上位に居座り続けているような状態で,まさに前例のないものなのです」と語り始める。
「その結果として,特殊な利点と問題点が噴出してきました。その一つが,同じゲームであるのに異なるユニバースが存在しているという点です。我々のポリシーは,ゲーマーの皆さんがCall of Dutyのブランドで楽しく遊んでくれている限りは,我々も嬉しいというものでしかありません。もし,とあるゲーマーが新作を購入したのに,それに満足できなくて過去のシリーズ作品に戻っていったとしても大きな問題とはなり得ません。しかし,それが大規模に起きていたなら,古い作品であっても継続してコンテンツをリリースしていこうという姿勢なのです。すでにローンチされてから1年半も経過しているBlack Ops IIIのゾンビモード向けコンテンツであるZombie Chroniclesをリリースしたのもそれが理由なのです」
そして,Hirshberg氏は,「つまりCall of Dutyは,継続的なプラットフォームではなく,継続的な“エトス(精神)”であると考えているのです。このゲームは,ゲーマーの皆さんに何かを感じてもらうために存在するのであり,そのゲーム性や世界観,そのプレイの感覚に対するゲーマーの期待が実現されたものであるわけです。そうした期待感を実現させるには複数の方法があると考えており,それはシリーズが毎年チャートのトップに輝いているだけでなく,トップの座についてからも継続的にプレイしてもらっていることからも実証できていると思っています」と語った。
「我々のポリシーは,ゲーマーの皆さんがCall of Dutyのブランドで楽しく遊んでくれている限りは,我々も嬉しいというものでしかありません」
実際,Activisionにとって,Call of Dutyシリーズ向けに12か月以上のコンテンツサポートを行うのは珍しいことではないが,上記のBlack Ops III向けにリリースされたZombie Chroniclesは予想以上の成功を収めているようだ。ゲーマーにとっては「Rainbow Six: Siege」のような前例もあるものの,Call of Dutyシリーズにとっては新しい領域であると言える。「これは,ポップカルチャーではジャンルを超えて発生しているトレンドだと思います」とHirshberg氏は解説する。「人々は,自分が愛する世界へとのめり込むようになっています。マーベルコミックスであれ,ハリー・ポッターであれ,Call of Dutyだって同じことなのです。こうしたコアなファン層を持つゲームは,これまでになかったような長寿化を果たしています。我々は,必ずしもゲームを発売する以前に,そのプロジェクトがどれくらいの寿命になるのかを知ることはできませんが,だからこそコミュニティの反応に対しては敏感になるべきなのです。それが,ゲームビジネスをユニークなものにしています。ゲーマーの選択や行動は,ゲームの開発プロセスの一部と化しているのです」
Hirshberg氏は,こうしてActivisionには,死守するべき社是のようなものは存在しておらず,非常に流動的な構造であるということを強調する。同社は,ファンのいる方向に進んでいるのであり,もしファンがBlack Ops III向けの新しいコンテンツを求めているのであれば,作ればいいじゃないかという姿勢である。しかし,ここで疑問が浮かぶ。もしファンたちがずっとCall of Dutyで遊んでいるのであれば,そもそも年次リリースにこだわる必要があるのかということだ。それよりも,「Destiny」のように数年に1回の続編をリリースし,アップデートを重ねるようなスタイルでよいのではないだろうか。
これについてHirshberg氏は,「それぞれのゲームはユニークで,ゲームコミュニティを作る手法論は一つであはありません」と語る。「Destiny 2は続編で,ゲーム世界のリセットを行うものであり,その決定は安易に行われたものではありません。ActivisionとBungieは何度も何度も議論を重ね,継続性のある世界観にするのかどうか,プレイヤーが前作で行ってきた時間的な投資にどのような価値を持たせるかといったことをしっかりと話し合いました。しかし,どんなプロジェクトであっても新しく始めるのに躊躇してしまうプレイヤーはいるものなのです」と語った。
続けて,「もしCall of Dutyのように年次で世界がリセットされるのであれば,新しいゲームにはプレイヤーが投資してきたものが移行できなくなってしまうので,前作シリーズに居残るという判断を行うプレイヤーが少なからず出てくるリスクは負わなければなりません。しかし,年次リリースというコンセプトは,一つのフランチャイズを常に新しいものにしていくという大きな効果もあるのです。もし,10年以上にわたって多くのファンに親しまれようと継続的な世界観にこだわり,年次リリースという手法をCall of Dutyで採用していなければ,逆に新鮮なアイデアを練り込むことで10年もプレイしてくれるようなシリーズにはならなかったでしょう」と話す。
さらに,「つまり,こうした戦略で我々が見つけ出したのは,成功するための方程式は一つではないということなのです。Call of Dutyではその方程式を見つけ出しました。Destinyの方式がそのフランチャイズに合っているのかどうかを現時点では判断しきれませんが,拡張パックを3年にわたる長期的なスパンでリリースする前作の仕組みは十分に受け入れられており,Destiny 2はさらに成功するのではないかと考えており,我々は一つめの方程式を生み出すことになるわけです」とHirshberg氏は語った。
「Destinyの歩調に満足しているわけではありません」
Destinyに関する戦略は,マルチプレイヤーゲームをプレイするタイプの消費者にはしっかりとフィットしているのは間違いない。これらのゲームは,仲間たちが時間を合わせて集まり,何か月も何年もプレイするソーシャルハブとして成長しているのだ。Bungieは,DLCでのアップデートを重ねることでDestinyの前作を,そう成長させようと試みていたのも確かであろう。
しかし,ファンのエンゲージメントを継続させようという努力にも関わらず,Hirshberg氏は必ずしも大成功だったとは捉えていないようだ。「決してDestinyの歩調に満足しているわけではありません」と彼は話す。
「Destinyに関しては,うまくやったことはいくつもありますが,うまくできなかったことの一つにコンテンツへの需要に対応し切れていなかったというこものがあります。The Dark Below,House of Wolves,The Taken King,そしてRise of IronというDLCはすべて素晴らしいコンテンツであったと確信していますが,ファンたちはもっと短いスパンでのリリースを求めていたのも事実です。Destiny 2のローンチ後に皆さんに期待していただきたいことは,Activisionの持つ傘下企業の中でもAAAタイトルを開発できるサポーターとして,Vicarious VisionとHigh Noon Studiosの2社をコンテンツ開発に参加させる手はずになっているということです。Destinyのフランチャイズの中で,さらにストリーム化したパイプラインを構築できると信じています」
「Toy-to-Life型のゲームビジネスが死んだとは思いません。単に過密なんでしょう」
Activsionの本年度のリリーススケジュールで駆けているのが「Skylanders」だ。一時的には,同社にとってはもっとも成長していたフランチャイズでもあったのだが,ここ数年は徐々に売り上げが下降しており,もはや生命維持装置につながれた状態にある。
「Skylanders」の何が失敗だったかというのは明白だ。ほかのパブリッシャからも似たようなタイプのゲームは量産されており,それらすべてが成功することがなかった。今年,この“Toy-to-Life"と呼ばれる,おもちゃと連動するタイプの新作ゲームは1本もリリースされない予定だ。
しかしながら,Ubisoft EntertainmentはE3 2017で「Starlink」という新作をアナウンスしており,このジャンルに新しい切り口で挑もうとしている。こうした他社の動きを考慮すると,Toy-to-Lifeジャンルはまだまだ狙い目があるとHirshberg氏自身も考えているのであろうか?
「そもそもToy-to-Life型のゲームビジネスは瀕死なのではなく,ライバルソフトで超過している状態なのだと考えています。供給と需要のバランスが崩れていると考えると分かりやすいでしょう。大手玩具チェーンの棚で,6mほどの大きなスペースが,Skylandersを含めた4種類のToy-to-Lifeジャンルのメジャータイトルに占有されていたこともありました」と彼は言う。
「Skylandersをローンチして新しい市場が形成されました。同フランチャイズは21世紀の子供たちに相応の玩具を提供し,彼らのDNAに備わっているインタラクティブエンターテイメントの消費者として育んでいくことを可能にしているのです。ですから,一つの視点から考えると,このジャンルにいくつものライバル製品が短期間に投入されたのは理解できることです。しかし,その一方でSkylandersの収益性やファンの獲得という環境を狭めた要因にもなりました。Skylandersを見放しているわけではありません。2016年度にリリースされたImaginatorsをしっかりとサポートしていますし,前作にはなかった拡張パックも近々リリースされる予定です。Netflixでは,Skylandersのテレビ番組も継続していますし,フランチャイズのモバイルゲーム市場への参入も進めているところです。この方向で投資を進めていくことで,より良い結果も出てくると考えているのです」
「現在の家庭用ゲーム機市場には,我々のような手法で家族やカジュアルゲーマー層を獲得したようなパブリッシャはいません」
そしてHirshberg氏は,「我々が認識していることは,Skylandersのキャラクターやゲーム世界を愛してくれている人も少なくないということです。フランチャイズそのものに壊れている部分はありません。競合が増えるにつれて,ビジネス面での命題が変化してしまっていたのです」と続けた。我々は,Skylandersが壁に直面したのは,Wii Uがプラットフォームとして機能しなくなったことが理由ではないかと聞いてみた。
「そうですね」というHirshberg氏。「現在の家庭用ゲーム機市場には,我々のような手法で家族やカジュアルゲーマー層を獲得したようなパブリッシャはいません。Wii U向けのゲームラインアップにもなかったはずです。Skylandersの中心にいるのは子供たちであり,家族であり,カジュアルなゲーマーたちでした。ですから,ハードウェアのエコシステムに砦を築かないような状態で奮闘するのは難しいことでした。しかし結局,我々がゲーマーのいる場所に足を延ばしていくべきなのです。もちろん,子供たちはゲームをプレイすることを止めてしまったのではなく,異なるプラットフォームでもプレイしています。多くのカジュアルゲーマーはモバイルでもプレイしています。Skylandersでは苦労して進むことになるでしょう」
Skylandersがスケジュールに入っていないうえに,現時点では「Guitar Hero」も簡単にカムバックしそうにはない。Activisionのラインアップに穴ができてしまった格好になっているのだ。Activisionはこれまで,1兆円を超える価値のラインアップに誇りを持っていただけに,この次のステップについてはどう考えているのだろうか。
Hirshberg氏は,今後の活動については常に内部やサードパーティの開発者たちと話し合っていることを強調したうえで,「Crash Bandicoot」のリバイバルについても忘れてはいないと話してくれた。
そして,Hirshberg氏は,「もちろん,我々は“次の大きな新作”について常に念頭に置いて協議しています。しかし,我々の最大の懸念は,幸運にも我々のゲームをプレイし続けてくれているファンに対して,どのようなサービスを提供できるかということなのです」と結んだ。
今回のインタビューは,こうしてHirshberg氏自身のルーツでもあるツインピークスのキャンペーンであった「ファンの向かう方向に進んでいく」に帰結した。
Activisionにとってのチャレンジは,この現状をどう維持するかということにほかならないのだ。
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)