BioWare:良いゲームデザインには謙虚さと妥協が重要だ

Digital DragonsでBioWareのデザイン・ディレクターJames Ohlen氏がゲーム開発における夢と現実の狭間への取り組みについて語る。

 カナダに拠点を置くゲーム開発会社BioWareのJames Ohlen氏は,中央ヨーロッパ最大のゲーム業界向けカンファレンス「Digital Dragons 2017」に登壇し,謙虚さ,共感,そして妥協がBioWareにおいてだけでなく,ゲーム業界全体でゲームデザイナーにとって重要な性質であると語った。
 BioWareのデザイン・ディレクターを務めるOhlen氏は,若手ゲームデザイナーの教育や訓練の仕方と,実際に彼ら/彼女らが業界で働き始めたときに遭遇する環境との間に不一致があると述べた。「ゲームデザイナーになろうと考える,それを夢見るのであれば,あなたはビジョンを持ったクリエイティブ・ディレクターになるでしょう。最終決定を下す人とも言えます」

 ゲームデザイナーが最初に勤務するゲーム会社が,数百名といったチームサイズが当たり前となっているEA,ユービーアイソフト,アクティビジョンのような巨大企業になるというのはありがちなことだろう。Ohlen氏によれば,教育段階での環境はより親密で,はるかに小さく,しばしば学生も含めてもわずか4〜5人程度のチームでコラボレーションしているという。これは,学生に「当事者意識」と「自律性」を習得させるものだが,ゲーム業界の大きなスタジオで働く経験と実際には一致しない。

「謙虚さは,BioWareのゲームデザイナーだけでなく,あらゆる業界のクリエイティブな人材にとって重要な要素です」

 「この業界でデザイナーとして仕事をするのは素晴らしいことです。もっとも充実している仕事の一つと言えるでしょう」と氏は言い添えたが,同時に強調もした。「ゲーム業界で働く現実は,夢と一致しないこともあるのです」

 「Star Wars: The Old Republic」「Mass Effect: Andromeda」「Dragon Age」シリーズのような巨大なゲームを生み出すBioWareのようなスタジオは,新しいデザイナーに対して,ある特定の価値観に基づく企業文化にフィットするように奨励することになる。Ohlen氏によると,その価値感は「製品の品質」と「職場の品質」だが,共に「謙虚さの文脈」にあるという。

 「謙虚さは,BioWareのゲームデザイナーだけでなく,あらゆる業界のクリエイティブな人材にとって重要な要素だと思っています。私が謙虚さについて語るとき,自信がない,当事者意識がない,グイグイやらないという意味ではありません。常により良い方法というものがあるのです。問題には多くの答えがあり,あなたの答えはそのうちの一つでしかなく,そしてそれはおそらくベストアンサーではないでしょう」

 往々にして,ベストアンサーというものはほかの誰かが出すものだ。デザイナーの仕事は自分のアイデアか誰かほかの人のアイデアかに関わらず,ベストなアイデアだけをゲームに入れようとすることだとOhlen氏は言い添えた。

「常に理想を目指さなければなりませんが,その理想を達成できないときに自分自身を許す必要もあります」

 BioWareでデザイナーは二つの役割を担う。まずは常にゲームデザインの創造的で先見的な側面に関連する「建築家としての役割」だ。「しかし,もう一つの役割はほかの人のビジョンを翻訳するエキスパートであれということです。これは成功するためには非常に重要なのです。クリエイティブ・ディレクターの仕事をしたいのであれば,ほかの人たちのビジョンを理解し,解釈するのに秀でていなければなりません」

 これは難しいことだとOhlen氏は認める。「そのビジョンがダメだと思う場合,これは難しいでしょう。ゲーム業界で働いたことがある人は誰もが置かれる立場です。皆さんへのアドバイスで私自身も実践していることは,そのビジョンに共感する,それを支持する人に共感を持つということです。つまりそのビジョンを翻訳する機会をくれた人をリスペクトするということです」

 Ohlen氏は,ゲーム業界の最も一般的な側面の一つである「妥協」,そして,それとは矛盾するゲーム開発の「理想」について語った。「ゲーム業界は常に妥協しています。予算は限られており,制作にはタイムリミットがある。その中で優れたデザイナーになるには,適切な妥協をしなければなりません」

 「しかし同時に,理想を見失ってもいけません。あなたは何を成し遂げようとしているのでしょうか? 達成するためには,業界の流行を把握し,業界から何を期待されているのかを知っておかねばなりません。あなたが手がけるものにどう基準を設定していくべきでしょうか?」

 「常に理想を目指さなければなりませんが,その理想を達成できないときに自分自身を許す必要もあります。誰も完全に達成できることなんてないのですから。ときには近づけることがあり,ときにはまったく遠いところで甘んじるかもしれません。でも,必ず何か学ぶことはあるのです。それを糧に前に進み続けなければなりません」

 「うまくいかないときでも目指すものが何かをきちんと認識していることは良いことです。大丈夫,きっと,次はもっとうまくいきますから」

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