[Unite]中国2億人市場にゲームを届ける! Xiaomi-Unityプロジェクト概要
2017年5月8日に開幕した,Unity主催の一大カンファレンス「Unite 2017 Tokyo」。数多くのデベロッパが集うUniteだが,今年は会場を変え,規模を拡大。セッションも多岐にわたる顔ぶれとなった。
そんな中,レッドオーシャンにあえぐゲームアプリ市場の救世主になるかもしれないUnityの新たな取り組みの経過報告があった。中国で大きなシェアを占めるスマートフォンメーカーXiaomiと,Unityとの共同プロジェクトだ。
これは,参入障壁が非常に高かった中国スマートフォンアプリ市場への展開について,UnityとXiaomiが提携し,専門のアプリのリリース窓口を作るというもの。対象のデベロッパは法人・個人を問わない。取り組みそのものは2016年末に発表されていたが,Unite 2017初日となる5月8日,ついにその具体的な内容とロードマップおよび,開始時期についてのアナウンスが行われた。
本稿では,そのセッション「中国でAndroidアプリを出す!Xiaomiストアでのアプリリース、収益化のためにできること」のレポートをお届けする。
プレゼンターとして登壇したのは,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの金田一 確氏。氏はこれまでUnity Adsの担当として国内で活動をしており,勉強会「Unity 道場」シリーズにおいても,このXiaomiとUnityの取り組みについて紹介してきた人物だ。
始めに提供時期についての発表があった。Xiaomi-Unityのデベロッパサイトのオープンは2017年7月になるとのことだ。このプロジェクトはすでに公式サイトが存在し,7月以降はここがそのまま,iOSにおけるApple Developer Centerのような役割の場所になるようだ。
実は現在,このサイトでアーリーアクセスとしてアカウントを登録することができる(筆者はもう登録済みで,心待ちにしているところだ)。
続いて金田一氏から,中国市場の現状についての紹介が行われた。現在,Xiaomiのシェアは10%で,ユーザーは2億人だという。Google Playがサービスしていない中国では,Android用のアプリマーケットが200以上あると言われており,その中での10%は非常に大きな数値だ。
また,アクティブデバイス数で見てもXiaomiはAndroidで最多を誇る。今回の取り組みにおいてアプリのリリース先となるXiaomiアプリストアは,中国国内でのNo.1プリインストールストアとして存在感がある。
ユニークな点はXiaomiのユーザー層だ。当初から高級路線のブランドだったこともあり,都市圏のユーザーが多く,また6割以上が若者で,さらに全体の男女比が5:5なのだそうだ。
中国はAndroid主体の市場で,その規模は圧倒的だ。しかし,そこへゲームを進出させるまでには越えるべき壁が多数存在する。
最も高いハードルとなっているのが「中国政府の認定」だ。中国国内でゲームをサービスするには,中国企業のみが取得可能な販売ライセンスが必要である。アプリの公開のために必要な許諾番号も存在する。
すなわち,日本のゲームを中国で展開するためには,中国本土のパブリッシング会社と契約することが必須であった。これは,大手の企業でなければできないことだ。
そうして現地パブリッシャと契約できたとしても,デベロッパにとっての収益率がかなり低くなってしまうことも問題の一つであった。開発者自身がApp StoreやGoogle Playにリリースした場合,プラットフォーマーに支払う手数料は30%だ。しかし中国リリースでは,まずプレイヤーが支払った金額からキャリア手数料が引かれ,アプリストアで売り上げの30%,さらにパブリッシャがその残りの半分を取っていくため,デベロッパの最終的な取り分は20%程度まで落ちてしまう。
20%しかデベロッパに身入りがない状態はかなり厳しいものだが,ほかに手立てがなかったため,この状況を受け入れざるを得なかったのだ。
そこに追い打ちをかけるのが「海賊版」問題だ。Androidアプリはコピーされるのが当たり前になり,「Monument Valley」は95%が海賊版であったという報告も記憶に新しい。
このように中国市場はハードルだらけであり,挑戦できるのは資本とチャレンジ精神のある,ごく一部の企業に限られていた。そこに風穴を開けようというのが,Xiaomi-Unityの取り組みといえる。
Xiaomi-Unityが提供するサービス内容は,かなり充実したものになっている。中国国内でアプリを配信するための必要条件を,すべて2社の取り組みによって吸収している。
まずUnity Editorでは今後,ターゲットをXiaomi端末としたビルドが可能になる。Unityの課金システムであるUnity IAPには,「Target Xiaomi Mi Pay」という選択肢が加わり,特別な設定をしなくてもXiaomiストアでの決済に対応する。また,収入源として,Unity Adsもそのまま利用できる。
機能の実装はEditorですべて完結でき,そのほかの申請関連は「Xiaomi-Unity Developer Portal」で行う。アプリの申請やXiaomiとの契約,収益の受け取りに関する申請などは,すべて「英語で」やりとりができるのだそうだ。
デベロッパにとって最も嬉しいのがライセンス問題の解消だ。先ほど中国でサービスを展開するための認定番号について触れたが,この申請には5〜50万円の費用がかかるという。そこを,申請はXiaomiが代行し,取得費用も「当初は」すべてXiaomiが負担すると発表された。個人ゲーム開発者や小規模アプリ事業者には,このうえなく嬉しいサービスである。
日本国内では,レーティング審査にかかる費用がコンソールゲーム機展開における問題になっている。中国Android市場でも同様の壁があったわけだが,そこをプラットフォーマーが負担することでクリアしたということになる。プラットフォームにタイトルを誘致したいときに,最も的確で効果が高い施策といえる。
ここまで手厚いサービスがあると心配になるのが手数料率だ。しかし,それも50%程度がデベロッパにバックされる仕組みになるという。前述のように中国進出では20%の手取りが当たり前の中,この数字は大変魅力的である。
アプリをXiaomiストアでリリースするためには,いくつかの条件を満たしている必要がある。まずはUnityのバージョンが5.3以上であること。そして,簡体字へのローカライズが必須だ。これは政府審査の要件として存在するものである。
発表では触れられなかったが,基本的に中国国内でコンテンツをリリースする際は「英語」を含むことが禁止されていると言われている。ボタンの「OK」表記や,ゲーム内の看板などに英語が含まれている場合も,すべて簡体字に置き換える必要がある。これはデベロッパが十分注意すべきポイントだ。
そして,もう一つの山が,Unity IAP(アプリ内課金システム)の実装が「必須」になっていることだ。すなわち,純粋な無料広告アプリはリリースすることができない。これはXiaomi側のビジネスモデルを考えてのことと思われる。
それらの諸条件を満たしてさえいれば,スマートフォンアプリをXiaomiストアへリリースする手続きはさほど複雑ではない。
アプリの申請については,Xiaomi-Unityデベロッパーポータルで行うことになる。こちらは,契約やアプリ情報の入力,apkファイルのアップロードなど,Google Playでの手続きとほぼ同様だ。
ここから先の手続きはXiaomiが代行してくれる。まずはXiaomi内部で審査を通過すると,政府へ各種申請が行われる。そこで承認番号を得ることができれば,すぐにXiaomiストアでリリースできる状態となる。ゲームアプリは「Xiaomi Mi Game Center」というコーナーに公開されることになる。
金田一氏は,「まずは試しにチャレンジしてみてほしい」と会場に呼びかけた。中国向けにゲームシステムを変えたり,課金要素を変えたりするのではなく,現状のシステムのまま,最小工数で実施できるところから挑戦してみてほしい,とのことだ。
中国のゲームユーザーの消費傾向やゲームシステムの好みは,日本とはもちろん違う。しかし,現在はこの取り組みのスタート時期であることから,中国向けに深くカスタムを行うよりも,とにかくクイックに中国でアプリのリリースを行えるデベロッパを求めているようだ。金田一氏は,すべてのUnity開発者に可能性を提供したい,という言葉で講演を締めくくった。
2016年にXiaomiプラットフォームでリリースされた海外ゲームの総数は,わずか50タイトルだという。これまではハードルの高さから挑戦が難しかった中国展開だが,Xiaomi-Unityの取り組みが中国ゲーマーへの太い橋渡しになることだろう。個人開発者も,法人のゲーム開発者も一様に中国展開が可能になる未来が,もうそこまで来ている。もちろん,これは日本だけでなく全世界同時の取り組みであるため,7月の正式サービス以降にデベロッパが成功できるかは,いかに早く進出するかがカギになるだろう。
なお,GamesIndustry.bizでは,Uniteに合わせて来日していたXiaomi-UnityプロジェクトのXiaomi側担当者への独占インタビューに成功した。インタビュー記事は追って掲載するので楽しみに待っていてほしい。
そんな中,レッドオーシャンにあえぐゲームアプリ市場の救世主になるかもしれないUnityの新たな取り組みの経過報告があった。中国で大きなシェアを占めるスマートフォンメーカーXiaomiと,Unityとの共同プロジェクトだ。
これは,参入障壁が非常に高かった中国スマートフォンアプリ市場への展開について,UnityとXiaomiが提携し,専門のアプリのリリース窓口を作るというもの。対象のデベロッパは法人・個人を問わない。取り組みそのものは2016年末に発表されていたが,Unite 2017初日となる5月8日,ついにその具体的な内容とロードマップおよび,開始時期についてのアナウンスが行われた。
本稿では,そのセッション「中国でAndroidアプリを出す!Xiaomiストアでのアプリリース、収益化のためにできること」のレポートをお届けする。
サービススタートは7月!
始めに提供時期についての発表があった。Xiaomi-Unityのデベロッパサイトのオープンは2017年7月になるとのことだ。このプロジェクトはすでに公式サイトが存在し,7月以降はここがそのまま,iOSにおけるApple Developer Centerのような役割の場所になるようだ。
実は現在,このサイトでアーリーアクセスとしてアカウントを登録することができる(筆者はもう登録済みで,心待ちにしているところだ)。
Welcome to 中国市場
続いて金田一氏から,中国市場の現状についての紹介が行われた。現在,Xiaomiのシェアは10%で,ユーザーは2億人だという。Google Playがサービスしていない中国では,Android用のアプリマーケットが200以上あると言われており,その中での10%は非常に大きな数値だ。
また,アクティブデバイス数で見てもXiaomiはAndroidで最多を誇る。今回の取り組みにおいてアプリのリリース先となるXiaomiアプリストアは,中国国内でのNo.1プリインストールストアとして存在感がある。
ユニークな点はXiaomiのユーザー層だ。当初から高級路線のブランドだったこともあり,都市圏のユーザーが多く,また6割以上が若者で,さらに全体の男女比が5:5なのだそうだ。
中国進出を阻むさまざまな壁
中国はAndroid主体の市場で,その規模は圧倒的だ。しかし,そこへゲームを進出させるまでには越えるべき壁が多数存在する。
最も高いハードルとなっているのが「中国政府の認定」だ。中国国内でゲームをサービスするには,中国企業のみが取得可能な販売ライセンスが必要である。アプリの公開のために必要な許諾番号も存在する。
すなわち,日本のゲームを中国で展開するためには,中国本土のパブリッシング会社と契約することが必須であった。これは,大手の企業でなければできないことだ。
そうして現地パブリッシャと契約できたとしても,デベロッパにとっての収益率がかなり低くなってしまうことも問題の一つであった。開発者自身がApp StoreやGoogle Playにリリースした場合,プラットフォーマーに支払う手数料は30%だ。しかし中国リリースでは,まずプレイヤーが支払った金額からキャリア手数料が引かれ,アプリストアで売り上げの30%,さらにパブリッシャがその残りの半分を取っていくため,デベロッパの最終的な取り分は20%程度まで落ちてしまう。
20%しかデベロッパに身入りがない状態はかなり厳しいものだが,ほかに手立てがなかったため,この状況を受け入れざるを得なかったのだ。
そこに追い打ちをかけるのが「海賊版」問題だ。Androidアプリはコピーされるのが当たり前になり,「Monument Valley」は95%が海賊版であったという報告も記憶に新しい。
このように中国市場はハードルだらけであり,挑戦できるのは資本とチャレンジ精神のある,ごく一部の企業に限られていた。そこに風穴を開けようというのが,Xiaomi-Unityの取り組みといえる。
至れり尽くせりなサポート内容
Xiaomi-Unityが提供するサービス内容は,かなり充実したものになっている。中国国内でアプリを配信するための必要条件を,すべて2社の取り組みによって吸収している。
まずUnity Editorでは今後,ターゲットをXiaomi端末としたビルドが可能になる。Unityの課金システムであるUnity IAPには,「Target Xiaomi Mi Pay」という選択肢が加わり,特別な設定をしなくてもXiaomiストアでの決済に対応する。また,収入源として,Unity Adsもそのまま利用できる。
機能の実装はEditorですべて完結でき,そのほかの申請関連は「Xiaomi-Unity Developer Portal」で行う。アプリの申請やXiaomiとの契約,収益の受け取りに関する申請などは,すべて「英語で」やりとりができるのだそうだ。
デベロッパにとって最も嬉しいのがライセンス問題の解消だ。先ほど中国でサービスを展開するための認定番号について触れたが,この申請には5〜50万円の費用がかかるという。そこを,申請はXiaomiが代行し,取得費用も「当初は」すべてXiaomiが負担すると発表された。個人ゲーム開発者や小規模アプリ事業者には,このうえなく嬉しいサービスである。
日本国内では,レーティング審査にかかる費用がコンソールゲーム機展開における問題になっている。中国Android市場でも同様の壁があったわけだが,そこをプラットフォーマーが負担することでクリアしたということになる。プラットフォームにタイトルを誘致したいときに,最も的確で効果が高い施策といえる。
ここまで手厚いサービスがあると心配になるのが手数料率だ。しかし,それも50%程度がデベロッパにバックされる仕組みになるという。前述のように中国進出では20%の手取りが当たり前の中,この数字は大変魅力的である。
Xiaomiストア進出の条件と手順
アプリをXiaomiストアでリリースするためには,いくつかの条件を満たしている必要がある。まずはUnityのバージョンが5.3以上であること。そして,簡体字へのローカライズが必須だ。これは政府審査の要件として存在するものである。
発表では触れられなかったが,基本的に中国国内でコンテンツをリリースする際は「英語」を含むことが禁止されていると言われている。ボタンの「OK」表記や,ゲーム内の看板などに英語が含まれている場合も,すべて簡体字に置き換える必要がある。これはデベロッパが十分注意すべきポイントだ。
そして,もう一つの山が,Unity IAP(アプリ内課金システム)の実装が「必須」になっていることだ。すなわち,純粋な無料広告アプリはリリースすることができない。これはXiaomi側のビジネスモデルを考えてのことと思われる。
それらの諸条件を満たしてさえいれば,スマートフォンアプリをXiaomiストアへリリースする手続きはさほど複雑ではない。
アプリの申請については,Xiaomi-Unityデベロッパーポータルで行うことになる。こちらは,契約やアプリ情報の入力,apkファイルのアップロードなど,Google Playでの手続きとほぼ同様だ。
ここから先の手続きはXiaomiが代行してくれる。まずはXiaomi内部で審査を通過すると,政府へ各種申請が行われる。そこで承認番号を得ることができれば,すぐにXiaomiストアでリリースできる状態となる。ゲームアプリは「Xiaomi Mi Game Center」というコーナーに公開されることになる。
金田一氏は,「まずは試しにチャレンジしてみてほしい」と会場に呼びかけた。中国向けにゲームシステムを変えたり,課金要素を変えたりするのではなく,現状のシステムのまま,最小工数で実施できるところから挑戦してみてほしい,とのことだ。
中国のゲームユーザーの消費傾向やゲームシステムの好みは,日本とはもちろん違う。しかし,現在はこの取り組みのスタート時期であることから,中国向けに深くカスタムを行うよりも,とにかくクイックに中国でアプリのリリースを行えるデベロッパを求めているようだ。金田一氏は,すべてのUnity開発者に可能性を提供したい,という言葉で講演を締めくくった。
世界のデベロッパに開かれた広大な市場
2016年にXiaomiプラットフォームでリリースされた海外ゲームの総数は,わずか50タイトルだという。これまではハードルの高さから挑戦が難しかった中国展開だが,Xiaomi-Unityの取り組みが中国ゲーマーへの太い橋渡しになることだろう。個人開発者も,法人のゲーム開発者も一様に中国展開が可能になる未来が,もうそこまで来ている。もちろん,これは日本だけでなく全世界同時の取り組みであるため,7月の正式サービス以降にデベロッパが成功できるかは,いかに早く進出するかがカギになるだろう。
なお,GamesIndustry.bizでは,Uniteに合わせて来日していたXiaomi-UnityプロジェクトのXiaomi側担当者への独占インタビューに成功した。インタビュー記事は追って掲載するので楽しみに待っていてほしい。