ゲームクリエイターがブランドを守るために知っておくべきこと

Lewis Silkin法律事務所は,任天堂が告訴したカートレーシング問題を分析し,ゲーム会社にアドバイスを提供する。

 ゲーム業界はファッション業界や映画・テレビ業界とも似て,印象的なキャラクターとその存在感に牽引されている。ソニック,マリオ,ドンキーコングなどは消費者に広く親しまれている。貴重な黄金のコインやお姫様のためのクエストで膨大な時間を費やして彼らを助けていればなおさらだ。

 これらのキャラクターから発生したエンタテイメントブランドは,それらの利用権を独占することによって彼らのビジネスの重要な部分となっている。生意気なイタリア人の配管工と彼の友達は全世界で何十億ドルもの産業を形成している。この産業は単にTシャツやランチボックスを売るだけに留まらない。 Fred FlintstoneはHalifaxのローンを扱っているが,そこではファイナルファンタジーシリーズのキャラクターがハンドバッグのプロモーションに使われている。

 ゲームブランドは,キャラクターの価値の重要な部分はキャラクターとファンの関係にあると認識している。パックマンは8bit風味とバックストーリーで有名なだけではない。彼を自分の子供時代と関連付けて,自分たちの歴史の一部だと感じているのだ。これらのキャラクターのいくつかには所有権共有の認識が存在する。これはブランドに,彼らの権利を侵害するかもしれない方法でファンたちがキャラクターの楽しさの表現を行うのを,いつどこで線を引いて防ぐのかの判断を難しくしている。


口ひげの問題


 一般的にブランドは個人に,商業的利用でないという条件で彼らのキャラクターを参照することを容認している(場合によっては歓迎している)。しかしながら,キャラクターの不正な商業利用はしばしば論争となっている。我々はそういったものをTeenage Mutant Ninja TurtlesやStorm Troopers,Betty Boopなどで目にしてきた。

 現在,マリオ,そしてその友人と恋人,宿敵が訴訟に巻き込まれている。任天堂は最近,マリカーを告訴したと発表した。マリカーは日本でちょっと変わった市内観光を提供している。旅行者は有名なマリオカートシリーズのキャラクターの扮装でさまざまな日本の都市をドライブできるのだ。


 プレスリリースによると,任天堂は「長年の努力により築き上げてきた」彼らの「大切な知的財産」を守ろうとしており,それゆえ著作権法違反と「不正競争行為」に対して訴訟を起こしている。任天堂は将来ほかの人に対しても行動を起こしていくと警告している(参考URL)。

 これによって,任天堂は商業的にはちょっとしたギャンブルに出ているといえるかもしれない。多くの人(とくに日本で)「コスプレ」(コスチュームロールプレイングの意)と呼ばれているものを強く非難することで,その領域のファンを遠ざけかねない。

 これが裁判になった場合,日本では赤い帽子と付け髭が著作権によって保護されるかという点で(とくに法律家にとっては)魅力的な議論のネタを提供するだろう。さらにこれは「マリカー(MariCar)」が「マリオカート(Mario Kart)」と似ているかどうか,マリカーがマリオカートブランドに便乗して不正な利益を上げているかどうかも争点となる。マリカーはおそらくコスチュームには十分な違いがあり,彼らは単にコスプレを楽しんでいるだけだと主張するだろう。

※商標に関する任天堂の請求はすでに棄却されている


もしマリカーがイギリスにやってきたら?


 イギリスでは,ブランドは多くの法律のバッチワークで第三者によるキャラクターの悪用を防いでいる。たとえば,Teenage Mutant Ninja Turtlesの権利者は著作権(キャラクターの絵)と「詐称通用」(大衆にTシャツにあるキャラクターがライセンスされたないし認可されたものだと期待させること)の両方をあてにできる。Betty Boopの件では,大手パブリッシャHearstは,著作権法侵害と詐称通用,そして商標侵害をあてにできる。

「登録された権利は,しばしばあなたの労作から第三者が利益を得ることを防ぐ第一線のものとなる。キャラクターの名前や図を登録商標として登録しなさい。それもコンピュータゲーム関連だけでなく」

 もし,任天堂がイギリスで著作権侵害の訴訟を起こしたとすると,彼らはマリカーがオリジナルのマリオカートのデザインの「本質的な部分」コピーしたことを示す必要がある。しかしながら,このような訴訟では,著作権が保護するのは,アイデアそのものではなく,アイデアの表現であるというルールの引用が持ち出されることが多い。なので,任天堂は著作権法の下では第三者がゴーカートによる市内観光を,お姫様やキノコ,配管工を含むさまざまなキャラクターで観光させることを防ぐ一般的な能力を持ちえないだろう。著作権法で防ぐことができるのは「芸術作品」の複製のみなのだ。これは必然的に,これまでコピーされたされてないを問わずすべてのキャラクターの要素を分析し,そしてそれらの要素の単独ないし累積が本質的な部分の複製を構成するかどうか判定するところに行き着く。

 イギリスの「詐称通用」の主張も同様な難しさを持っている。もしマリカービジネスのオンライン画像が適用されるのなら,そのコスチュームは公式なマリオカートキャラクターのほとんど忠実な“扮装”である。実際には,消費者が,それが本当に任天堂から認可されたものだと信じることはほとんどない。とくにいくつかがミニーマウスやスーパーマン,セサミストリートのクッキーモンスターといった任天堂以外のキャラクターのコスチュームだった場合には。


ゲームビジネスでの重要なヒント


 ゲームは非常に成長している産業であり,忠実なファンと増大する歳入,商業的利害を持った分野だ。そのうえ,現在はインディ開発者や小規模スタジオが楽しいキャラクターを作り,アーケードスタイルのゲームを作ってiOSやAndroidが動くデバイスのプラットフォームでローンチするなど,市場参入するのはこれまでにないくらい低コストで簡単になっている。これらのキャラクターは速やかに牽引力を得て,ゲーム以外でも利用できるようになる。人に必要なのは,Angry Birdsシリーズがどうやって大成功を収めたのかを見ることだけだ。しかし,ゲームクリエイターとブランドは,彼らの想像性と重労働を最大にすることを確認するためになにをするべきなのだろうか?

1.自分がなにを持っているかを知る
 ゲームプログラムやキャラクターのデザインに含まれるものすべてから,知的所有権の割り当てを受けているか? 一般的なルールでは,文学ないし芸術作品の著作権は著作者に所有される(従業員の場合を除く)。これは,たとえばデザイン会社やフリーランサーは著作権(および関連した権利)をかれらのプログラムやデザイン中に所有している。彼らがそれをあなたに割り当てない限りは。

2.権利の登録
 登録された権利は,しばしばあなたの労作から第三者が利益を得ることを防ぐ第一線のものとなる。キャラクターの名前や図を登録商標として登録しなさい。コンピュータゲーム関連だけでなくテレビや映画,商業,小売などでも登録すること。追加の保護のためにキャラクターをデザインとして登録することも考慮しなさい。

3.戦略を持つ
 ゲームプロデューサーはしばしば彼らのIPを尊重して使用することを奨励したいと思っている。あなたのブランドは“コスプレ”とファンサイトを奨励するか? もしくは鉄拳を持って制限するのか? どちらの方法でも戦略を選び,それにこだわること。

4.よい契約書を作る
 ハードウェア,ソフトウェア,デザインなどなんらかのサービスでサードパーティを使う場合,その関係は正式なものとなっていることを確認しなさい。単に請求書に添付するだけではいけない。ゲーム業界の契約は,しばしばタイトなスケジュールと知的所有権,信頼性,テクニカルサービスレベル,そして成果物などに関わる複雑な問題に対処する条件の下に存在する。

5.ちゃんと記録を残す
 キャラクターの図面やコードを維持すること。安全に保管しておきなさい。デザイナーがゲームの新しい機能やアートワークを作った場合,彼らは単純に以前のバージョンに上書きしていないか? もしそうなら,誰かに製品の重要な要素をコピーされたときの貴重な証拠を失っているのかもしれない。可能であれば,違ったイテレーションのゲームやアートワークは安全な場所に保存しておくべきだ。

6.セキュリティの改善
 産業スパイやサイバー犯罪が増えているのは悲しい事実だ。ゲームはしばしば何年にもわたる作業の集大成である。失うことによるダメージは大きい。そのうえ,ゲームブランドはしばしば個人情報を含むたくさんの極秘情報を抱えている。誰か個人ががネットワーク上ないし物理的にドキュメントを削除していたり,地球の裏側からそれが行われたときに検知できますか?

Oliver Watson氏はLewis Silkin法律事務所の管理提携者,Oliver Fairhurst氏は同事務所の提携者です。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら