熱血プロジェクトの危険:インディゲーム開発で正気を保つには

Limit Theoryの開発者Josh Parnell氏はインディ開発者の生活と直面するメンタルヘルス問題について打ち明けた。

 Josh Parnell氏はインディゲーム開発者で,最初に有名になったのは2012年にKickstarterでプロシージャル生成によるスペーシシム「Limit Theory」のプロジェクトをを18万ドルで成功させたときだ(参考URL)。しかし,開発はそこで行き詰った。よく知られていることだが,2015年にParnell氏が6か月にわたって公の前から消えた。再び現れたとき,彼は深刻なメンタルヘルス障害に苦しめられており,実家に戻って治療していたことを明らかにした。氏はGamesIndustry.bizにインディゲーム開発で正気を保ち続けることの困難について話してくれた。

 「私はテネシー州の山小屋に一人で住んでいました。とてものどかで,それこそが私がそこで開発をしたいと思った理由でした。しかしご承知のように,そこは気を狂わすにもよい場所だったのです。なぜなら,ずっと一人ぼっちでコードだけを書いているからです」と氏は我々に語った。単独での開発,Kickstarterキャンペーンで多額の資金を集めたにもかかわらず,彼がプロジェクトで外注したのは音楽とサウンドエフェクトの部分だけだった。Parnell氏はタイヤが外れ始めたバスに取り残されていたのだ。


 「私は一人で開発するには大きすぎる問題に直面していました。もしあなたが高いクオリティを求めるなら,本当にうまくコードを書かなければなりません。高い性能を出さなければなりませんし,マシンにとって高い効率性が必要です。しかしあなた一人でも,非常に効率の高い開発センスが求められるのです」と氏は語る。「しかしこれは本当に簡単なことではありません。正直に言って,とくにそれを考えると,私は以前にはそのようなことに対してたいした経験はありませんでした。私はそれが契約違反になると予見できなかったのです」

 Limit Theoryのコードベースは10万行近くとなり,もはや一人でメンテナンスするのは不可能になっていた。自家製のLomit Theory Scripting Languageで行数を節約しているとはいえ,それは許容範囲を超えるパフォーマンス低下をもたらすことになった。そして,その問題の複雑さは,Parnell氏の精神状態に壊滅的な影響を与えていた。


「あなたの情熱はインディ開発者としてとても素晴らしいものです。……半面,それはまったく危険でもあります。なぜなら,それが作業,あるいはあなたの人生を消費するものになった途端,すべてが変わるからです」

 Parnell氏はLimit Thoryの開発当初は大学に通っていた。そして彼が故障したのはわずか22歳のときだった。「21,22,23はまさに形成の時期でした。その頃は頭も柔軟でした」と氏は言及している。「それゆえ,私がメンタルで問題を抱えたとき,間違いなく私の劣悪な生活習慣によって悪化したのです。眠らず,健康な食事を取らず,まったく正直に言ってLimit Theory以外のことはなにもしていませんでした」

 「ある程度の人生経験のある人にはこれらは明白なことでしたので,フォーラムメンバーは何度も私に言っていたものでした。『Josh,これをやめないと君は壊れるか燃え尽きてしまうよ』と」しかしお分かりでしょうが,22歳ではそういう経験はありません。それが本当に意味するものは何かを伝えるのは難しいことだったでしょう。しかし,それは起きてしまったのです。それもとてもひどい形で。私の脳味噌はしばらくシャットダウンしたかのようでした。そしてそれは,非常に不快な時間でした。

 ちなみにメンタルヘルスの問題はゲーム業界に広く存在している。“修羅場”と職業不安がリスクを高めており,病気の症状を悪化させている。彼らの時間と知的所有権を管理することは,一見するとインディ開発者の問題を減少させるように思えるかもしれない。しかし,Parnell氏はインディ開発者のライフスタイルにはそれ自体のリスクがついて回るという。「一方で,あなたの情熱はインディ開発者としてとても素晴らしいものです。それはあなたがあなたの好きなことをやっているということです。半面,それはまったく危険でもあります。なぜなら,それが作業,あるいはあなたの人生を消費するものになった途端,すべてが変わるからです。あなたが『おお,俺はいま自分の好きなことだけをやっているんだ。素晴らしい!』とだけ考えているときにそれが起こると,とても分かりにくいのです」

 インディ開発者は自分が真に作りたいと思っているゲームを作ることができるという事実が,この問題に貢献できる。Parnell氏は「それは大きなリスク要因だと思います。もちろん,人によって違いはあるでしょうが,考えてみてください。夢をかなえ,それを現実のものにしていくという概念自体がすでに危険な概念なのです。なぜなら,多くの人々(ほとんどではないにしても)は夢を持ち,そのままにしています。自分の手が届くところに置いています。あなたが夢をかなえ,現実のものとしていくときに困難はやってくるのです。なぜなら,いまあなたは夢に近づかなければなりません。その夢の詳細を理解しないといけないのです。あなたはそれを現実に−実装しなければなりません。そして多くの場合,汚く,乱雑で一般的に見てつまらないものを含みます。それらはあなたが本当に夢に抱いていたものではありません。私が私の夢のゲームであるLimit Theoryについて考えるときには,レンダリングの最適化や衝突判定などで時間を無駄にするような夢は見ません」

 Limit Teeoryの野望について綴られたKickstarterページは短いものではない。無限のプロシージャル宇宙を宣伝しており,艦隊の戦略的制御,サプライチェーンの創造,ゲーム内NPCとのリッチなソーシャル交流システムなどなど多くの要素がある。このビジョンが持つ野望はダイレクトに効率的な構造の問題につながる。これはParnellを2015年に繰り返し打ちのめしていた問題だ。これをインディ開発者の傲慢さが現実と向き合うときの訓話にすぎないと片付けることは簡単だろう。しかし,Parnell氏が彼の病気のエピソードを通して語り,遥かに健康的な方法でいまだにゲームを作成しているというのは心強い真実だ。

「非常にたくさんのインディ開発者,とくに物事を大きくしたがるような人,なにか高い掛け金を払い,それを成し遂げようとする人は,これと同様なライフバランスの問題と直面することになるでしょう」

 「私はかなり常識的なスケジュールで働いています」と氏は語る。「私は作業スペースとパーソナルスペースを分離しました。これはすべてのインディ開発者に強くお勧めします。ベッドから転がり出て椅子にしてコーディングを始められることは素晴らしいことでもなんでもありません。それは少し危険です」バトンルージュにある彼の故郷に戻り,氏は仕事と生活のバランスにより注意を払うようになった。

 5年前のKickstarterでの成功と一人での開発によるローコストさが合わさり,Parnell氏はゲームの効率性問題を解決する実験を行う時間を得ていた。いま,ほぼ1年間それだけに取り組んできて,スクリプト言語LUAとC言語を組み合わせて使うことで,氏はこの問題を解決できたと確信している。しかし,氏はゲーム公開日を出すことを拒否していた。

 「私はタイムラインを出したくありません。これは単にタイムラインを出してずっと失敗してきているからです」と氏は認めた。「しかし,あと数週間順調に行って(LUAとCの分業の部分が出来上がれば),残りの時間はバランス調整のフェーズのために費やされると予想します。現在は新しいゲームプレイを実装するのが非常に簡単になっていますが,そのゲームプレイがちゃんと調整されていて実際に面白いのかどうかを確認するのは簡単ではないのです。ですので,私のメンタルが壊れる前にすでに実装していた部分の負荷はすでに調整しました。そしてもっとも挑戦的な部分になるのが -大きな間違いがないと仮定すると- この宇宙が正しいと感じさせることです」

 彼が成し遂げた進歩は目に見えるものだ。関連するフォーラムのメンバーに「完璧主義者Joshの燻った死体を見せて」と聞かれると(より健康的でバランスのよい『実用主義者のJosh』になっているため),Parnell氏は1月にテキサス州サンアントニオで開催されたイベントPAX Southで披露されたLimit Thoryのデモを示すこともできただろう。それには「私はまったく見知らぬ人にコントローラを渡して,間違いなく(かなり,いや)非常に不完全なデモをプレイしてもらうつもりです。完全主義者Joshは10種の異なるシナリオを書きたいと思っています。それぞれがLimit Theoryのゲームプレイの違った部分のショーケースとなるものです。実用主義者Joshはそれほどのバグもなく一つの硬いものを銃撃中です。PAX Southが終わったらそいつの燻った死体をお目にかけたいと思います」

 「もしこれらの失敗から得たすべての経験を持ったまま過去に戻ってやり直せるなら,すべては違ったものになるでしょう」と氏は語る。「でも,私が本当に学ぶ必要があった課題を教えてくれたのは,間違いなくそれらなのです。仕事の面でもっと健康的にするとか,トンネルのような狭い視野で細かいディテールにこだわる代わりにもっとグローバルな視点でゲームをとらえたりといったこと ― これらすべてのことは,まったく正直に言って,この体験なしでは知りえなかったことなのです」

 このリスクは多くの小規模デベロッパに共通しているという。「私が経験した苦闘は私だけに限ったものだとは思いません。非常にたくさんのインディ開発者,とくに物事を大きくしたがるような人,なにか高い掛け金を払い,それを成し遂げようとする人は,これと同様なライフバランスの問題と直面することになるでしょう。

 彼にとっても目下の問題は,彼がもともと想定していたゲームの感覚を維持することだ。「実際,難しい部分 - 最も大事な部分 -は夢を思い出すことです」と氏は説明する。「いわば,以前私が詳細を実装して積み込んだビジョンを思い出すことです。実際,私はなにもせず,かつていつも空想していたLimit Theoryについて空想にふけるだけの時間があるときには,そのビジョンを心に焼き付けるように時間をすごしています」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら