東洋と西洋の出会い ― カプコンはどのように海外ユーザーとの向き合い方を変えたのか
あなたにとってハッシュタグ(#)はどういう意味を持つだろうか?
世界のどこに住んでいるかによって,その答えはまったく違ったものになるかもしれない。私にとって,それは特定の書き込みを区別するために設計されたソーシャルメディアツールのことだ。これは,カプコンヨーロッパに新しくCOOとして任命されたStuart Turner氏にとっても同じだった。なので,彼が自社のゲームでキャラクターの頭の上にその記号が現れたのを見て少し驚いた理由も理解していただけるのではないだろうか。
「それはアニメ的な記号で怒りを表すものでした」と氏はGamesIndustry.bizによる着任後初めてのインタビューで説明してくれた。「この記号は,トムとジェリーのマンガで耳の辺りから湯気が出ている表現に相当します。しかし日本以外でゲームをプレイしている人でどれくらいの人が,キャラクターが怒っていると理解できるでしょうか? ゲームプレイのフィードバックループをできるだけシンプルにすることは,我々の地域では誰にでも理解されるというものではありません。これは瑣末なことに思えるかもしれませんが,楽しさを損なうおそれがあります。
氏は続けて「意識的,無意識的に,クリエイターは,政治的状況やほかのエンタテイメント作品といった身の周りのものからインスピレーションを引き出します。しかし,日本に住んでいると,最高のテレビドラマなどは規範とはならず,音楽やゲームは日本の作品で占められているのです。映画館はアニメに覆い尽くされています。なぜいつも日本の考えがシームレスにEMEA(※ヨーロッパ,中東,アフリカ)地域に伝わらないのかを理解していただけたでしょうか。日本のアニメはあらゆるものに浸透していおり,あるアニメの表現は日本文化の規範として受け入れられ,ゲームにも進出してきているのです」
Turner氏は10年以上カプコンに在籍している。彼のキャリアはセガから始まり,5年以上をPlayStationに費やしている。そう,確かに氏は多くの時間を日本企業で過ごしていたのだ。しかし,ゲームのほとんどは日本で制作されており,カプコンは間違いなくほとんどの企業より日本志向が強かった。それゆえ,パブリッシャが強力で安定したレガシーブランドを持っていても,それを西洋のユーザーに関心を持たせることは(古きよきファン以外に)明らかに難しい問題だった。これはTurner氏が改善に注力した点の一つとなる。
「近年て最も成功を収めていたのは,古い日本のゲームデザインと西洋の美学を混ぜ合わせることでした」と氏は語った。「これは将来の製品でも強く継続しているものです。我々はいつもコアなファン層にアピールする日本の奇妙なゲームタイトルを渡されますが,市場シェアを拡大させるためには壁を打ち破る必要があります。30代から40代の古きよきファン層からゲームを始めて間もない人たちまで,できるだけ多くの人々にアピールできるようにしなくてはなりません。」
「日本ではゲームプレイの仕組みが最初に考えられ,ストーリーはその周りに作られます。それに対し,バイオハザード7ではストーリーを最初に書き下ろし,それからゲームが設計されていきました」
「これを実現するためには,研究開発部門の同僚と密接に作業する必要がありました。数か月前,私は大阪を拠点としたゲームディレクターの一人と会い,ゲーム開発期間について議論しました。日本ではゲームプレイの仕組みが最初に考えられ,ストーリーはその周りに作られます。それに対し,バイオハザード7ではストーリーを最初に書き下ろし,それからゲームが設計されていきました。カプコンのバンクーバースタジオには社内シナリオライターが4人おり,最初にストーリーを書きました。ゲーム開発手法としては大きな違いがあります。言うまでもなく完璧なゲームメカニクスは美しいものであり,独自の権利を持ったセールスポイントにもなります。しかし,できる限り多くの聴衆にアピールするためには,プロットとストーリーなどでキャラクターを具体化する必要があります。小さなことですが,実際にアンカーとなります」「私が強調したいのは,会社の重役が確実に開発に含まれていないことです。研究開発部隊には,ゲームの作り方やゲームデザインのためにフォーカスグループによる負荷テストを使うことを話しています。『あと16.4%いかがわしくしてくれ』とか。我々はクリエイターに創作させているのです。我々が試しているのは,同僚にヨーロッパのゲーマーについてやどうやったらもっとゲームが遊びやすくなるのかをアドバイスすることでした。社内スタジオとの交換プログラムであろうともっとグローバルに同期した情報公開であろうとです。これは言葉を超えたほとんどローカライズの追加レベルのものでした。ゲームが開発される前に行うということを除けばですが」
必然的に,これは西洋風の開発であるということを意味しません。一方で,近年パブリッシャはヨーロッパやアメリカのたくさんのスタジオで作業していますが,その結果は必ずしも芳しくありません。
「我々はアウトソーシングと投資を組み合わせて行ってきましたが,いつも外部組織に鍵を手渡すのは難しく,彼らにカプコンDNAを受け取ることないし我々が何十年もかけたシリーズへの思いの強さを理解してもらうことを期待しています」とTurner氏は認めている。「いくつかのデベロッパ,Ninja TheoryやDontnodのといったところはこれを守っていましたが,ほかのところはおそらく予想以上に苦労していたようです」
「しかし,我々は大いに西洋のデベロッパへの投資を続けています。とはいえ,これはJoe Nickollsの指導の下,我々のカプコンバンクーバースタジオに集中していたものです。我々はカプコンというものを理解している明らかにトップクラスのスタジオを持っているわけですが,そこでは膨大なナレッジベースにアクセスしより広い会社のDNAを理解し,全社の研究開発部隊に対する影響力を高めています。
「我々は今後も小さなプロジェクトをアウトソーシングするかもしれませんが,今のところ社内チームが素晴らしい製品を作ってくれることを確信しています」
最新作の反響を考慮すれば,Turner氏は社内開発チームを信頼する資格を持っているといえるだろう。バイオハザード7は単にシリーズを立ち直らせただけではない。最近の数作が不発に終わっていたカプコンをも立ち直らせたのだ。このタイトルは伝統的なバイオハザードのゲームプレイとその公式を変える必要とのバランスがうまく取れていた。一方で,昨年のE3で公開したデモの成功に少なからず助けられ,PRやマーケティングキャンペーンも効果を挙げている。
「我々は善意だけに頼ることはできませんでしたので ― (最近の期待外れだったバイオハザードシリーズに対して)今回の改善を大いに利用し― そして派手なトレイラーはカットされませんでした」とTurner氏は認めている。「発表時にデモを利用可能にしておくことは必須だと決定されました。人々は発表でワクワクするだけでなく,世界のどこにいても正確に同じハンズオンの体験ができることが必要だったのです。そのときPTがGamescom 2014で公開されたのです。社内では机に頭を打ち付ける音が聞こえたものでした」
「デモが昨年のE3で公開されたとき,我々はその発表会で喜んでいました。ダミーの指について大いに話題になり,すべての謎は掲示板やSNSを埋め尽くした過去のシリーズを肯定するものでした。私が思うに,PRチームの時間の半分は行き詰ったジャーナリストからの電話やメール対応に費やされていたのではないでしょうか。我々のデモ拡散の計画通りだったにも関わらず,その反響は我々を驚かせました。そこでグローバルオフィスと研究開発チームと話し合って,計画されていたさらなる伝統的なデモはキャンセルすることに決めました。現在のデモへのフォーカスを上げたのです」
「デモは間違いなくよいアイデアでした。もちろん,もし開発チームの心が広く柔軟でなかったら絶対に実現しなかったでしょう。マーケティングキャンペーンは意図的に短く軽いものとされました。これはおそらく予約数に影響を与えたでしょうが,間違いなく発売日近辺の,誰にとってもすべてが新しいというBuzzを増やしていました」
現在のカプコンにとっての大きな目標はバイオハザード7の売り上げを維持することだ。まもなく公開される無料のDLCが役立つことだろう。しかし本作のVR要素はホラーゲームの寿命を延ばすものになるかもしれないとTurner氏は感じている。 ― これはおそらくPSVRとともに入手すべき最高のゲームだ。
「カプコンとソニーの両者を驚かせたのは,バイオハザード7をPSVRで遊んでいた人たちの合計着用時間でした」
「カプコンとソニーの両者を驚かせたのは,PSVRで遊んでいた人たちの合計着用時間でした」と氏は語る。「着用率はとても高いです。このゲームはテレビで遊んでも怖いのですが,誰であれずっとVRでプレイできる人には感心しますね。これは明らかにゲームに飽きるまでの期間を延ばしており,PSVRユーザー必携のタイトルにしています」バイオハザード7の成功裏に終わったローンチは昨年のStreet Fighter Vとは対照的だ。この格闘ゲームのリリースと構築はオンラインの問題に悩まされていた。コンテンツ不足についての論争など,カプコンにとってはとても最高の時間というわけにはいかなかった。
「私はずっとサービスゲームのモデルは絶対にストリートファイターのことだと信じています」とTurner氏は語る。「それは広く愛された伝統的なパッケージ製品のブランドからサービスゲームのビジネスモデルへと,いつも大きな挑戦をしています。プロデュースされ,開発され,テストされ,市場調査されるゲームの手法は伝統的なパッケージゲームとは大きく異なっています。Street Fighter Vに関しては,そのローンチで我々には十分に理解していなかったといっても過言ではありませんでした。我々は学び,将来このようなことが起きないように準備をしていきます。まず消費者のためにその権利の提供を得ることは常に優先されるべきです」
「しかしながら,Street Fighter Vは本来の調子を取り戻しました。将来的なコンテンツシーズンがありますし我々は何年も前からサポートプランを持っています。Capcom Pro Tourはこれまで以上にたくさんの国に行き,その一歩でローカルトーナメントIndia in 2017といった形で開催されます。難しいスタートを切りましたが,現在のStreet Fighter Vはとてもよい状態です」
近年のこのジャンルの不振にもかかわらず,カプコンは格闘ゲームへの取り組みを明らかにしている。昨年末,同社はディズニーとのライセンス契約をMarvel IPのために更新し,現在はMarvel vs Capcom Infiniteを作成中だという。
「私はずっとサービスゲームのモデルは完全にStreet Fighterのことだと信じています」
「格闘ゲームは興味深いジャンルの一つです」と Turner氏は認めている。「そこは我が社が得意としている領域です,しかし同時にそこは我々が絶えずジャンル全体の成功と状況をしっかりとリードしていかなくてはならない分野でもあります」「このジャンルの長い歴史は,そのファン層がほかのジャンルよりもやや年配寄りだということを意味します。ですので,我々そしてほかのパブリッシャにとっての挑戦は,いつも新しい人たちを格闘ゲームに連れてくることです。これがかつて我々がナムコと一緒に仕事をした理由でもあります ― このジャンルが好調でさえあればいいのです。これは最も重要なことであり,人々がプレイするのがStreet Fighterであろうが,Tekkenであろうが,Mortal Kombatであろうが,Injusticeやほかのタイトルであろうが関係ありません」
「現在,e-Sportsがもたらしているさらなる露出は,うまくいけば格闘ジャンルに今後数年の成長をもたらしてくれそうです。観戦イベントとしての格闘ゲームは大きな可能性を秘めています。ゲームは短時間で分かりやすく,競技者は非常に熟達した人物揃いであり,トーナメントの番狂わせも珍しいことではありません。これが伝統的なテレビ放送とオンラインストリーミングの両方で世界中に我々のトーナメントが配信されている理由なのです」
現在,カプコンヨーロッパは格闘ゲームとホラータイトルで構成された会社のように思える。― 扱っているのはMarvelやStreet Fighter, Resident Evil or Dead Risingなどだ。日本にはMonster Hunter(徐々に西洋でも広がりつつある)がある。そしてもちろん,カプコンの手の内にはたくさんの封印されたブランドがあり,それらはいつ世に出てくるかもしれない。
次の章について? カプコンの歴史の中には,新規IPが展望の中心にいる瞬間がある。おそらく最も顕著だったのは同社がGameCubeでCapcom Fiveを発表したときだろう。PN03,Viewtiful Joe,キャンセルはされたがDead PheonixとKiller 7が4つの新規IPの形で発表されたのだ(5つめはバイオハザード4)。さらにOkami,Lost Planet,Zack and Wiki,Remember Meそして Dragon's Dogmaなどもある。確かにこれらのゲームの多くは最初のリリース以降は残らなかった。しかしこれらのタイトルが単に存在することが示すのは,この会社が熱心に次の人気シリーズを見つけようとしていたということだ。現在,脱走兵のDeep Downを除いて,カプコンの新規IP名簿は明らかに空っぽである。
「ゲーム開発はお金のかかるビジネスです」とTurner氏は結論づけた。「30年以上の歴史と数百のブランドを抱えている場合,安全策はなにかあなたが知っているもののところに立ち返ることです。明らかに危険なのは偏狭になりすぎる懸念があることです。重要なのは何に対しても広い心を持ち続けることです。再想像や再始動,新規IPなどを問わずにです。種類に関係なく良いゲームは良いゲームなのです。ポートフォリオにさえ合えば,我々は確実に内部スタジオから新規IPを公開するでしょう」
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)