FacebookはいつかOculusを必要としなくなるかもしれない
もしあなたがすべてを正しく処理し,会社の成功に貢献したとして,それが単にあなたの仕事は不要だと見なされる結果になったとしたらどんなに奇妙に感じるだろうか。これはOculus VRのコンテンツ部門の長であるJason Rubin氏と彼のチームがVR企業で味わっている実感だ。なぜか? 我々が知る限りFacebookはプラットフォームであり,最終的にVRがFacebookに統合されてソーシャルVRとして機能するようになれば,コンテンツ作成はもはや主要な目標とはならないからだ。
「皮肉な結果だとは思いません」と,Rubin氏は先月行われたGame Develpers Congerenceで我々に語ってくれた。「実際問題として,健全なエコシステムがあって,デベロッパはお金を稼ぎつつ彼らの仕事を楽しんでおり,システムにコンテンツが還元され続けていたと仮定しましょう。Facebookはいうかもしれません『Jasonありがとう。君の仕事は終わったよ。もうエコシステムは立ち上がった。あとはインディ開発者や小規模デベロッパ,大規模デベロッパ,EAみたいなパブリッシャの仕事だ。彼らに任せよう』と」
「コンテンツ作成はFacebookが長期的に手がけたいと思っているビジネスではありません。FacobookはVRが機能し,巨大になることを望んでいます。そしてFacebookがそこに見出している長期的な原動力は,もっとソーシャルな世界を作り上げ,人々をつなげることにあります」と氏は続けた。
完全に機能するVRワールドができるまで何年掛かるか知らないが,Facebookがそのコアとなっているだろうことは誰もが示唆するところである。しかし,現時点では全体としてゲームというのはVRテクノロジーに注意を引き付けるために欠かせない。
「Facebookはメディアカンパニーではありません。ですのでいつかFacobookが自身のコアコンピタンスを追求するよと言い出す日がくるのかもしれません」
「誰もが最終的には,VR空間に集まってやり取りをする大きなグループに取り込まれるのだろうと思っています。そして我々はいろんな方法でそこに向かっています……。その方向への動きはありますが,人々の娯楽となる程度までユーザーベースを成長させる必要があります」とRubin氏は語る。「我々は,現時点においては私の仕事が信じられないほど重要なものだと理解しています。それはこれらのタイトルを結実させます。しかし,現時点から『いいエコシステムだ。君たち自身で作業していける』といえるようになるまでどれくらい時間が掛かるのでしょうか。そうiOSみたいに。Appleはほとんどタイトルに投資していませんよね。それは自給自足のエコシステムだからです。そこに到達するまでどれくらい時間が掛かるのかは分かりません……。Facebookはメディアカンパニーではありません。ですのでいつかFacobookが自身のコアコンピタンス(他社にはない強み)を追求するよと言い出す日がくるのかもしれません」
氏はさらに「これが,私が社内チームを持たない理由です。確かに私はStory Studiosに関わる3名によるチームを1つ持っています。これは社外には存在しませんでしたので。もう一つ持っている3人のチームはすでに仕上がったDead and Buriedや作業中のGunfireに関わるもので,外部のチームですが,十分肉付けしたくてもその余裕がありませんので困難な作業をしています。これが我々がサードパーティへ行く理由でもあります。教育したり,成功に導いたり,我々は開発者コミュニティを将来なにかを起こせるようなものにしたいと思っています」
たとえいつかOculusが解体されたとしても,同社はVRゲームが繁栄するような状態を作ってくれていることだろう。「ゲームは今後もずっと重要です。Facebook自体にとってはゲームが有機的にプラットフォームにやってくるのが最善でしょう。ちょうどAppleにとってゲームがNo.1のドル箱になっているのと同様に。しかしAppleはiOS用のゲームを作るのにお金を出したりはしません。なぜならそれは自立したエコシステムだからです」とRubin氏は語った。
一方でOculusはRiftのインストールベースが拡大していくことを確信している。このGDCインタビューは,同社がヘッドセットとTouchコントローラを値下げする2日前に行っていた。もっと注意深く聞いていればRubin氏が残したヒントに気づいていたかもしれない。
「コンテンツはさておき,VRを消費者に浸透させる原動力となるものはなんだろうか。この問題は非常に重要であり,我々が行ったBest Buyやほかの場所で何十万回とやったデモからすると,彼らが我々に伝えてくるのは値段を変更してほしい,値段を下げてほしいということでした」とRubin氏は言及した。
「我々は完全に確信しています。その価格に近づければ,ソニーのPSVRのようにたくさんのユニットを売ることができると」
「彼らは今日お見せしたVRシステムのポテンシャルにとても興奮していました。彼らは「やあとても興味深かったよ。こいつに……があればなあ」とは言いません。彼らは我々が提供したものに非常に満足していました。しかし,これがもっと低価格で提供されていたらなあと思っているのです。PCの価格は下がりました。これは素晴らしいことですが,長期的には我々の価格も同様に下げる必要があります。機能の追加についてはそれほど需要が高いわけではないのです。もし機能を追加して値段が上がるようなことになれば,我々は方向を間違えていると思うのです」と氏は競争について語る前にこう言った。「たとえば,我々は本当にデバイス上のヘッドフォンの有用性を信じています。ケーブルが多いと不恰好でしょう。ええ,あなたがお気に入りのヘッドフォンを持ってきたなら,我々はそれに完全に対応します。あなたは付属のヘッドフォンを取り外してRiftで使用することができます。しかし我々は人々にヘッドフォンを使ってもらいたいと思いました。これは現在の価格に含まれています。Viveの価格には含まれていませんよね。彼らは拡張機能として追加の数百ドルかかる製品を先日発表しました。これは我々にとっては悪い方向です。なぜなら,VR空間に突入するために支払うべき正しいヘッドセット価格は799ドルではなく899ドルだと我々が信じているとあなた方が言っているからです」
「その他の昨日を追加すること,より高い解像度の画面であったり,コードレス化だったり,こういったものはVRでは避けられません。しかし現状,それらが価格を押し上げることになったら,それは完全に消費者が求めている方向とは逆だと我々の調査は示しています。消費者は,VRをより安価に求めているのです。もちろん長期的には,そういったものもすべてやってくるでしょう。直近でいえは,価格は最重要なのです」
ソニーのPlayStation VRは399ドル(Move付き499ドル)で販売されているが,(※その成功は)価格が大きな違いを出すことの証明だとRubin氏は信じている。ソニーは自身でも驚いているかのように,ほぼ100万台のユニットが売れたことを発表している。
「そこにたくさんのPS4があったこと以上に,彼らはその価格に反応したのだと思います……。ソニーがたくさんのユニットを売ってくれて本当にうれしいです。これはVRにとってよいことですから」とRubin氏は語った。
もっとたくさんの人がRiftを買うようになると,彼らはその投資に見合った確かなゲームを期待するようになってくる。Oculusの消費者の立ち上がりに合わせて,もしくはその後すぐにデベロッパが大急ぎで ― 開発キットを使って1年くらいで ― タイトルを提供しようとしたとしても,Rubin氏は開発者がVRの難所で経験を積んでおり,何をすべきでなにをすべきでないのかを学んできていることに勇気付けられている。
「単にデベロッパの活動そのものがうまくいくようになるでしょう。我々もSkyrim, GTA, Call of Dutyクラスのゲームを手にするようになるのは間違いありません」
「ですので,我々のPCストアにはTouchタイトルが100本以上あり,1000タイトルがOculusのエコシステムにあると考えています。我々はよいソフトを持っています……。よいソフトを作るためには時間と実験と経験と予算がかかります。そこで現在我々はユーザーベースの拡大に焦点を置いています。これはさらなる売り上げを意味するものであり,デベロッパがもっとお金を使えるようになるという意味でもあります。また単にデベロッパの活動そのものがうまくいくようになるでしょう。我々もSkyrim, GTA, Call of Dutyクラスのゲームを手にするようになるのは間違いありません。しかし,その手のゲームは制作に時間が掛かります。さらにそれらは通常シリーズ作品であり,シリーズ作品にはそれを作るうえでのノウハウを構築しています。我々がそこに到達するには少し時間が掛かるでしょう。しかし我々はそこに向かっており,私はこのソフトの作成と Wilson's Hearts,Lone Echosなどの我々が発表してきたタイトルは完全なエコシステムに向けての大きな飛躍だと考えていますデベロッパとして,もしOculusがあなたのプロジェクトに投資していたら財政的な問題はなくなる。Facebookはすでに2500万ドル(約29億円)をエコシステムに投入しており,さらに2500万ドルの投資を約束している。実のところRubin氏は「少なくともそれくらい」と表現していた。しかし,Oculusからの投資なしで生き残るには,VR市場の現状に対する入念な計画が要求されてくる。
「我々と一緒に働いているデベロッパにはVRだけでやっているろころもありますが,本当によいビジネスモデルだと思います。彼らはユーザーベースが拡大するまでにどれくらい時間が掛かるのか,なにを消費しようとしているのか,なにを作りVR市場拡大に向けてなにを成し遂げてきたのかを計算していました」とRubin氏は説明する。
「モバイルはやっていくのにいい市場ではないというデベロッパもいます。『モバイルは市場に食い込むことができる場所じゃない。KingとSupercellがランキングを独占していて,ここではお金を稼げない。うちはコンシューマゲーム機でやっていくには小規模すぎる。うーん……VRだ!』とあまり考えることもなく市場に飛び込むのです。VR市場に参入するだけでなく,彼らの活動に役に立っていないものを切り捨てます。そして,そういったデベロッパのうちよく考えていないところや考え抜く能力を持たないところはかなりしんどいことになるでしょう」とRubin氏は警告した。
「しかし,もしVRに参画する道を選んだのであればデベロッパにとって次のゴールドラッシュになると信じています。さらに,最近行われた誰がなにに取り組んでいてVR用に計画しているタイトル数などに関するGDCのアンケートからも,デベロッパはそれを理解していると信じています。デベロッパは理解しています―あまりに急いで参入しないという問題があるだけです。どんなビジネスの変更にもリスクはあるのです」
コンテンツ部門の長として,Rubin氏はゲーム以外の体験についても長い時間を費やして見てきた。我々がゲームにフォーカスしているのに対して,多くの人,とくにモバイルVRではその他のVR体験にも関心が集まっている。
「私のチームはすでに50%n時間をモバイルでのノンゲームの体験に費やしています。長期的には,我々はVRがゲームとはかけ離れたものになると完全に信じています。−体験とその他のエンタテイメントが最初にやってきますが,そこから一般的なソーシャルでの使い方やゲーム以外のユーティリティのような利用が増えていくでしょう」とRubin氏は断言した。
「それは今後の我々のビジネスでの大きな部分となります。バーチャルバスケットボールゲーム,劇場に行くこと,そして我々が現在取り組んでいる映画制作の方法を変えることを加えておきます」と氏は追加した。「次世代のStar WarsをVRを使って作ることに関する記事が一つだけありました。私は多くの映画監督を知っています。ロサンゼルスに住んでいるのでよく彼らから電話が掛かってくるのですが,VRでセットのモデリングをして熱心にシーンの検討をしている人たちがいます。彼らは歩き回ったり,どんな風に見えるか動き回って,『Ok,このショットを使おう。ただし,これから作るあの柱が見えるか? あれを動かさなくちゃ。変更が必要だ……』現在,VRは文字どおりハリウッドでの映画の作り方を変えつつあります。しかし出力の面でも変えつつあり,人々は我々が進めているVR映画制作に注目するようになるでしょう」
Rubin氏との35分間も終わりに近づき,私はRubin氏に多くのデベロッパにとって死活問題となる,見つけやすさ(discoverability)について聞いてみた。私は2017年のタイトルのデキは2016年よりずっといいとRubin氏に請け負ったが,もしタイトルがストアで埋もれてしまったら市場のためにはならない。
「我々は両端からそれに取り組んでいます。片方でやっているのはキュレーティングです。長い時間をかけてダウンロードした挙句『これはひどい』ということになる,我々のストアではそういったことをなくそうとしています。これはどこの店にでもできることではありません。我々のストアは他社のストアよりも品質という点で最高級に簡明であり,消費者に分かりやすいと考えています」と氏は言及した。
「長期にわたり,我々はdiscoverabilityと検索について取り組んできました。たくさんのアイデアもあります。Facebookは人々に彼らがまさに望んでいるものを持ってくることに長けた会社です。ですので,我々は完全にdiscoverabilityを改善し,あなたがいうような問題を処理できることでしょう。しかし現在の我々の戦略は,ストアに悪いものを入れないというものになっています。なぜなら消費者を幸せにするプロセスはそこから始まるからです。そして,よいものの中から特定の消費者が望むものを浮上させるのが第2ステップとなります。我々は将来的にこのようにするように気をつけています」と氏は加えた。おそらくAmazonやNetflixの用法に似たアルゴリズムを示唆しているのであろう。
Rubin氏はOculusにとっての品質の大事さを強調していた。それがあまり重要視されそうにない店頭の部分にも及んでいたほどだ。「アーリーアクセスには高い基準を設けています。我々はチームを人間と対照的に,単にお金を払うか単に連れてくるかのどちらかでストアに入れて綿密に調べているのです。そして我々はデベロッパが開発中のゲームを完成させてくれることを信頼しています……。我々はアーリーアクセスとギャラリーについては多くのストアよりかなり高い基準で足切りします。ですので,ギャラリーやアーリーアクセスに行ったときでも,なにかよいものを見つける可能性が高くなっているわけです」
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)