VRにキラーアプリは必要か?
多くの人にとって,バイオハザード7の成功とその独特な雰囲気のあるキャンペーンは,バーチャルリアリティでの“キラーアプリ”がどんなものかを垣間見せるものだっただろう。このゲームは,VRの一般的な認識を,“興味深い未来を垣間見せるもの”から,“現代のエンタテインメントの本質的な部分”へと変えたのだ。キラーアプリという言葉は,新しいゲーム機が発売されるたびに馴染みのあるものになっていく。しかし,今日 Casual Connect Europeで専門家たちがパネルディスカッションで議論していたのは,そのような単純な分類に挑むというものだった。
その議論はnDreamsのCEOであるPatrick O'Luanaigh氏が引き金となって始まった。実は,彼はValveやNVIDIAの代表者を含むパネルディスカッションを見にきていた聴衆の一人だった。“キラーアプリケーション”という言葉の定義で氏の意見が求められたとき,O'Luanaigh氏は「売り上げのことではないでしょう。もっと誰もが語っているなにかです。多くの人は,VRにはまだキラーアプリがないと言っています」
「もし我々がコンシューマゲーム機を見たなら,『マリオかソニックは持っておいたほうがいいよ。どうだい?』と話しかけてしまうかもしれません」
「世の中にはたくさんのクールなゲームがあります。でも,本当の意味で『おお神様,こいつは凄いぜ,ヘッドセットを買いに行かなきゃ』と思わせるようなものはありません。我々はみなそのようなゲームが出ることを待望していると語り,予算が上がるにつれてうまくすればそれが登場することを望んでいます。これは本当にそのゲームがどこからやってくるかということです」ValveのVRへの取り組みで世界を駆ける代表者となったChet Faliszek氏にとっては,まさに“キラーアプリ”の概念は,任天堂やセガ,Microsoftなどが作った伝統的なゲームハードウェアに深く根ざしたもののように思われるのだという。「我々にはこれがなんであるか把握するために推定に必要なデータがあまりにも少ないのです」と氏は語る。「もし我々がコンシューマゲーム機を見たなら,『マリオかソニックは持っておいたほうがいいよ。どうだい?』と話しかけてしまうかもしれません」
Faliszek氏は過去に語った内容を参照しつつ,そこでスマートフォンをより適切なVR技術の比較として示唆している。「App Storeでのキラーアプリは何ですか?」と氏はかつて来場者に尋ねたのだ。「私は,それは柔軟性だといいたいですね。それぞれの人で違ってくるようなものです。もし20年前に携帯電話に必要な機能は何かと聞かれたら,私はおそらくなにか電話の通話機能に関するものを挙げていたでしょう。いまではめったに通話しなくなりましたが」
「それが現在のVRの状況です。20年前の,始まったばかりなのです」
Faliszek氏そこを再度強調し,アナリストがVR市場への取り組みで直面しているこの手の誤解からくる困難を示唆していた。「これが多くの人が予測していたよりもVR市場の成長が遅い原因なのです」と氏は続けた。「それに対して,私が思うに,VR業界の人はこれを理解しています。10個のデモをやったとしましょう。VR業界以外の人は『なんでこれがそこにあるんだ?』と言ったり,別の人は『これまで見た中で一番だよ』などと言ったりするのです」
「今日のハイエンドは明日のメインストリームになります。もしあなたがハイエンド向けに開発をしているのなら,それが最もロングテイルになっていると分かるでしょう」
「あなたはこのような個人個人の反応をもらいます……誰もがそこに自分が望むものを見つけるのです」現時点で最も印象的なVRアプリはなにかと聞かれたとき, Faliszek氏はクリエイティブなツールのリストを挙げるという話も行われた。GoogleのTilt BrushとかUnityやEpicのゲームエンジンのVR開発機能だ。
完全に形成されたVR市場が早くきてほしい,すでにきていればいいのにといった願望があります。しかし実際のところ,それがくるのはOculus RiftやHTC Viveのローンチから1年後がせいぜいでしょう。空間は開発者たちによってしっかり定義されており,幅広い使い方が模索されています。
一つの基本的な事実を何度も繰り返しているとはいえ,O'Luanaigh氏の元々の質問,VRハードウェアにおけるポジショナルトラッキングとモーションコントロールの重要性については,モバイルVRでは標準になりつつある。これらは現在のハイエンドVRハードウェア ―HTC Viveを含む(それに限らないが)― のコア機能である。しかし,Faliszek氏は可能な限り多くのユーザーにリーチしたいと思っている開発者にとっては,これが最良のターゲットだと信じているという。
「もしあなたがVRでもっと稼ぎたいのなら,最も広い市場に向けてゲームを作るべきです」と氏は語る。「現時点で最も広がっている市場は,ローテーション(頭の回転)しかできない(※移動できない)ヘッドセットかもしれません。しかし,そういったものは数年で博物館行きになるでしょう。ポジショナルヘッドトラッキングやモーションコントロールを使ったタイトルを作るのなら,これから数年間はそのゲームかバージョンアップしたものを販売できるでしょう。ローテーション対応だけだったら? それを体験するためには物置からヘッドセットを引っ張り出さなくてはならなくなるでしょう。製品の賞味期限は短くなっていきますから(※ポジショナルトラッキングをサポートしたヘッドセットがローテーションをサポートしていないことはおよそありえないので,動かすのに古いハードを必要とする事態は発生しないと思われる)」
Faliszek氏は,以前にも似たような主張をしている。Casual Connectの参加者に「今日のハイエンドは明日のメインストリームになります。もしあなたが本当に最も広い市場にリーチしたいと考えているなら,単一のプラットフォームで出荷されたヘッドセットの台数など問題ではありません。なにがスタンダードになるかが問題なのです。もしあなたがハイエンド向けに開発をしているのなら,それが最もロングテイルになっていると分かるでしょう」とアドバイスしていたのだ。
ヘッドセットのユーザー数から予想される優位性にも関わらず,いまやモバイルVRはよりより技術的スタンダードをよりよい商機へ導く必要が出てきている。とにかく,現時点では,どのVR市場も巨大なインストールベースを抱えているわけではない。そして,Faliszek氏が指摘したように,“今年500万台のモバイルヘッドセットで動いているゲームが,数年後に5000万台のヘッドセットで動くとは限らない”のだ。
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