「高品質なモバイルゲームのための市場は存在します。F2Pにする必要はありません」
任天堂の株価がPokemon GOのローンチ後に跳ね上がり(その世界的な現象を起こしたのが任天堂製品ではなかったとしても),Super Mario Runのサプライズ発表されて以来,多くの人の目がプラットフォーマーのモバイル戦略に向けられてきた。
アナリストや主要なメディアは,伝統的なゲームブランドをモバイルに持ってくることの可能性を迅速にコメントした。しかし,そのような興奮の中,人々はいくつかのパブリッシャがすでに彼らのベストセラーIPをスマートデバイスに持ってきていることを忘れてしまっているようだ。
とくにスクウェア・エニックスは,FINAL FANTASY,Tomb Raiderそしてドラゴンクエストなどの移植とHeavenstrike RivalsやHitman,Lara CroftそしてDeus Exなどでの新しい取り組みとして絶賛されたGOシリーズのおかげでとても健全なモバイルビジネス(※売り切り作品のことを指すと思われる)を行っていた。Goシリーズはスクウェア・エニックスのモントリオールスタジオで制作されている。それを率いるスタジオの長を務めるPatrick Naud氏はGamesIndustry.bizに,任天堂がさらにモバイルを押していく決定をしたことは,日本のパブリッシャが5年以上前からやってきたことを検証するものだと語った。
「もし任天堂のような会社がこの路線をとると決めたというなら,それは彼らが可能性を見出したからです」と氏は語る。「スクウェアはゲームのIPをモバイルに持ってくるということに関しては最大級の会社でしょう。そしていま我々が正しい方向に進んでいることを再確信しました」
「そして,我々はその方向にいち早く向かっていた賢い人間というわけです」と氏は笑いつつ付け加えた。
Naud氏は,任天堂の努力はスクウェア・エニックスが多額の資産を投じてずっと追い求めていたものへの説明でもあると見ている。これらのブランドは,スマートデバイスでのゲームの可能性を調査することでコアプレイヤーを勇気づける手助けになるかもしれない。
「マリオのようなゲームはほかの有名コンシューマゲームIPに道を開き,そしてさらなるコアプレイヤーを得ることでモバイルにチャンスを与えるでしょう」と氏は語る。「悲しいことに,モバイルはある種のゲーマーにはいいイメージを持たれていません。理由は分かります。私はモバイルとコンシューマゲームの両方をプレイする人間ですが,タイトルがモバイルにやってきたときにはモバイルにポジティブになり,プレイするときには最大限に心を広く持つ必要があります」
「マリオはそれができたと思いたいところです。あちこちで,とくにビジネスモデル周りでネガティブな記事を見るのは悲しいことです。なぜなら,私はマリオのやり方は人々にまずゲームをプレイしてもらうのに賢い方法だと思っているからです」
「Super Mario Runについて,とくにビジネスモデル周りでネガティブな記事を見るのは悲しいことです。なぜなら,私はマリオのやり方は人々にまずゲームをプレイしてもらううまい手法だと思っているからです」
ローンチ時の☆一つのレビューなどで示されるSuper Mario Runの7.99ドルという価格設定への反動は,業界の多くの人 ― 私を含めてですが ― にとって不可解なものでした。それが,紛れもなくAppStoreに並ぶ有料ゲームのほとんどより高額だとしても,スクウェア・エニックスは,その2倍以上のモバイルゲームの値付けをしていたのです。会社のカタログを軽く見てみるだけでも,FINAL FANTASYのゲームはFFIIの7.99ポンド(800円)から,なんとFFIXの20.49ポンド(2500円)までの範囲にわたっています。なのにモバイルビジネスはとくに苦戦している様子はありません。なぜ任天堂は最も価値が高いIPに対してそういう値付けをしないのでしょうか。Naud氏は同意して追加した。「そして私が言いたいのは,彼らは明らかにモバイルゲームに画期的な任天堂らしい体験を作り上げたということです。あれはマリオです。ええ,あれは古いマリオゲームからインスパイアされたものです。しかし,新しいルールやプレイ方法が追加されています。レベルデザインとプレイ方法の観点から言うと,それはどこをどう見ても完全に別物です。我々は,任天堂がマリオを携帯電話で遊ぶために発見した手法のすべてを手にしています。それはちゃんとうまくいき,奥が深いものです。すべてのマリオゲームに通じる奥深さを持っています。ですので,その潜在的な価値は通常のゲーム以上のものがあります」
では小枝で作られた深いウサギの穴のような状況のモバイルゲームの価格の話に移ろう。なぜ非常に多くの人々は彼らのデバイスでクオリティの高いゲームに投資するのにまったく熱心でないのかという疑問に関する話だ。Naud氏の指摘によれば,人々は新しいコンシューマゲームについては40ポンド(約5600円)以上を支払うのに何十年も慣れているのに,彼らは遥かに少ない額をモバイルゲームに使うことに消極的だ。なぜだろう?
「携帯電話を使っていてゲームを買うには,あなたはApp Storeへ行きます。ゲームショップではありません。それらはアプリとして紹介されており,アプリはフリーなのです」
「キーとなるものの一つは考え方です」と氏は示唆した。「携帯電話を使っていてゲームを買うには,あなたはApp Storeへ行きます。ゲームショップではありません。Steamで15ポンド(約2000円)を支払う人でも,モバイルだと2ポンド払うことにも苦悩します。たとえ同じゲームであってもです。どこに違いがあるのでしょうか? その理由はそれらがアプリとして紹介されているからです。アプリはフリーなのです」「我々は他社の大作ゲームを押しのけるために大作ゲームを必要としています。本当にいいモバイルゲームタイトルに出会うと,彼らは自分の携帯電話でのプレイに戻り,そこに価値のあるコンテンツがあることに気づくのです。それは予言の自己成就です。我々はこれからも素晴らしいゲームを作り続けます。それで他社のスタジオも同じようなことをするのを勇気づけられればと願っています。もしみんながよりよい体験を求め始めるか,ゲームプレイに期待する水準を上げてきたら,市場は変革され,我々はもっと価値の高いゲームを用意します」
それを勝ち取るには少なからぬ挑戦が必要だ。ゲーマーに実際にモバイルゲームにお金を使うように説得する困難に加えて,ゲームは何か月(何年ではないにしても)にもわたってアップデートされサポートされ続ける(しかも無料で)と喧伝されているのだから。イギリスのインディゲーム制作会社Ustwo GamesはMonument Valleyの拡張 ―ゲームコンテンツを2倍にするような高品質なアドオン― を1.49ポンド(約210円)で課金しようとしたときにその問題に直面した。
しかし,このような態度に媚びへつらったり,パブリッシャが設定した価格よりもモバイルユーザーが期待した価格に値段を下げたりすることは本当に有害なのだろうか? Goシリーズのゲーム,つまりNaud氏と彼のチームが作り出してきたものは,すべて大当たりしてきた。それらを1ドル以下で売ることは,そこに込められた作業を査証評価することにならないだろうか?
「我々にとって,ブランドからそのエッセンスを抽出して,そこから最小限のゲームを作る訓練は,非常に大きな挑戦でもありました」
「ええ,」Noud氏は認めた。「我々は高額で販売することができました。しかし市場の準備ができていなかったら……我々は考え直す必要があったでしょう。価格に見合った経験とコンテンツの量で作ることを」「高品質なモバイルゲームの市場は存在します。そこではFree-to-Playにする必要はないのです」
これがスクウェア・エニックスやほかの会社が初期作品を移植したり,コンシューマゲームの大作を持ってくるときにGoシリーズのようにゲームプレイを縮小したりする理由だというのはたやすい。このような投資への抵抗と直面しつつさらに包括的なタイトル開発を行うのことは,困難でまったく現実的でないと思われるに違いない。もちろんスクウェアはDeus Ex: The Fallのリリースでこれに手を出し,4〜5時間のタイトルでほぼ同等のHuman Revolutionの体験を提供している。しかしNaud氏は,コンシューマゲームプレイヤーがモバイルになにを望んでいるのかと,彼らが実際に楽しんでいるのはなにかについて洞察力を持って取り組まなければならないことがたくさん残っていると語る。
「私が言いたいのは,人々はコンシューマゲームを外出先でもプレイしたがっているということです。しかし,同じ種類の体験はできません」と氏は語る。「居間でソファに座り7.1chサラウンドサウンドと60インチのテレビでコンシューマゲームやPCゲームをプレイする人々は,5分間のセッションを遊ぶときとは違った方法でプレイするのです。ですので,彼らは正確に同じゲームをプレイしているわけではありません。これが私がSwitchを推す理由ですね。最終的にこの問題を解決する中間点になりうるからです」
「私が言いたいのは,人々はコンシューマゲームを外出先でもプレイしたがっているということです。しかし,同じ種類の体験できません」
「私はいまやほとんどのコンシューマゲームプレイヤーがモバイルでも遊んでいることを確信しています。しかし彼らは同じタイプの体験ができているわけではありません。なぜなら彼らは同時には遊んでいないからです。あなたがテレビで −完璧なセッティングと優秀な体感コントローラを使った− FPSのプレイから移動するとして,タッチスクリーン上のサムスティックで同種のゲームをプレイするのでは,同考えても同じ体験にはなりません。それが,我々がモバイルゲームユーザーと携帯電話に特化した体験を作ろうとしている理由なのです」その代わりに,Naud氏はキーになるのは“モバイルに特化した体験を作る”ことだと語った。つまり,スマートフォンユーザーはどれくらい彼らのデバイスを使っているのか,プレイの習慣,使い方などを考慮することだ。最初に例に出したSuper Mario Run― スマートデバイス用に設計されたワンタッチコントロールシステムがマリオプラットフォームのゲームに深みを与えている ―に加えて,氏はHitmanでいかにしてコンシューマゲームIPをモバイルで再現するのかのさらなる検証を行った。
これまで,スクウェア・エニックスモントリオールでは,IO Interactiveの看板IPに対して2種類のアプローチを取ってきた。Hitman Goは低速で,暗殺計画と現在の状況をいかに利用していくかという戦略的な要素に焦点をあてている。それに対してHitman Sniperは,人形使いのような感じで,遠方からよりよい狙撃ポイントを設定するためにイベントを操作するという狙撃要素を楽しむものだ。
後者は,Hitman: Absolution以前にリリースされたダウンロードコンテンツHitman: Sniper Challengeの人気から生まれたともいえるとはいえ,Naud氏はそのコンセプトは“ワールド内の移動制限のない”新たなシリーズの導入作を作りたいという思いから生じていることを明らかにした。
「Hitman GoやLara Croft Go,Deus Ex Goプレイヤーのうちの半分はゲームをApp Storeで見つけています」
「携帯電話でのプレイでの最大の挑戦は,ナビゲーションでした」と氏は語る。「Hitmanにとって,これはずば抜けて賢い方法でした。我々はまだSniperにも取り組んでいますが,いまだに定期的なアップデートを行っています。Goシリーズの中で大成功したというわけではないとしても,売り上げの面ではとても成功しています」しかしそれはGoシリーズであり,Naud氏にとっては,コンシューマゲームでの大ヒットIPをモバイルに持ってくることのメリットをアピールし,新たな顧客層に向けてブランドを紹介するためのものである。
「Hitman GoやLara Croft Go,Deus Ex Goプレイヤーのうちの半分はゲームをApp Storeで見つけています」と氏は語る。「すでに作品のファンであったかどうかはともかく,そうやって見つけたのです。Appleないし友達から推薦されて彼らはゲームを手に取りました。実際のところ,我々はHitmanプレイヤーよりもっと多くの主流プレイヤーをGoシリーズで獲得しているのです」
「Goシリーズに取り組むときはいつでも,原作シリーズとは違った展開が要求され,原作のように感じられなければならず,コンシューマゲームの大作IPでありながら独自の個性も必要です。すべての批評家の賞賛から明らかなように,我々は3回連続して成功していることになります」
「これら3作品のアートでぃれく所んは完全に異なりますが,ゲームプレイはまだ多少似通っています。あなたはルールを理解するでしょう。長大なチュートリアルは必要ありません。そんなに複雑ではありませんから。我々にとって,ブランドからそのエッセンスを抽出して,そこから最小限のゲームを作る訓練は,非常に大きな挑戦でもありました」
これまでスクウェア・エニックスモントリオールは西洋のもの,かつてのEidosが権利を持つHitman,Tomb Raider,Deus Exに限ってアクセスを許されていた。FANAL FANTASYやドラゴンクエスト,さらにキングダムハーツについてはすでにモバイルでの足場が固められている。東洋のIPがGoシリーズで扱われるところを見てみたいものだ。
「ええ分かっています」とNaud氏は語る。「開発について何かあったとしても,お分かりでしょうが,私はなにも言えません。しかし我々は絶えず次にできることや,どんな種類のプロジェクトに取り掛かれるか,Goシリーズで学んだ新たな方向へ我々を導く可能性が合うことについて考えています」
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)