オープンワールドのナラティブをVR用に変えていく
面白いゲームを作るのは難しい。オープンワールドゲームを作るのは難しい。VRゲームを作るのは難しい。そう考えると,明らかに風刺的なオープンワールドのVRゲームであるOther Ocean Interactiveの「Giant Cop:Justice Above All」は険しいチャレンジでしかない。しかし,同社のデザイナー,Marc McGinley氏が先週モントリオール国際ゲームサミットでGamesIndustry.bizに語ったところによれば,同社は自分たちが何に踏み込もうとしているのか見くびっていたという。
「これは私たちが初めて作ったVRゲームですので,ゲームデザインの仕方や,過去のやり方に照らして,多くの期待や判断をもって取り組んできました。私は現在に至るまで約9年にわたってゲームデザインをしてきたので,物事の進め方を知っているつもりだったのですが,VRはある意味それらを根底から揺るがすものでした。前提を立てられないので,実験して試してみるしかありません。そうすると,画面上でプレイするゲームに対してやることをいろいろ試すしかないのですが,ほとんどの場合それでは動作しません。ときにはうまくいきますが,大抵の場合,独自のソリューションを開発する必要があります」
VRにはカットシーンやダイアログ・ツリーの扱い方に関する基準がなく,Giant Copの前提はOther Oceanの限界を大きく広げることとなった。このゲームでは,プレイヤーは小さなマイクロ・シティ(Micro City)という街で200フィート(約60メートル)もの身長がある警官となり,極めて広範囲な法権限を持ち,独断的な裁量でもって住民の苦情を解決し,暴れる犯人を検挙する。
「私たちのゲームはつまるところ,束縛と自由のせめぎ合いなのです」とMcGinley氏は言う。「人々を自由にさせ,守りながら,どれくらいのコントロールを行うか? そのためには,まずあなたが世界を支配しているように感じなければなりません」
プレイヤーにコントロールの感覚を与えることが重要であることは,早い段階で明らかになった。初期のプロトタイプでは,プレイヤーはマイクロ・シティの数ブロック四方に閉じ込められており,街の彼方を見ることはできたが,そこに行くことはできなかった。Other Oceanは,より自由な移動やテレポーテーションなども実験したが,最終的には妥協案に落ち着くこととなったという。
「最終的に,テレポートのポイントが街中にあるという,もっと限定的なシステムのほうが,プレイヤーはどこにでも行けるように感じられるという結論を得ました」とMcGinley氏は語った。「しかし,プレイヤーがどこに行っても私たちは完全にコントロールできたので,非常に密度の高い体験を作ることができました」
McGinley氏は,完全なオープンワールドではないと説明しているが,このゲームでは実際,ストーリーミッション,サイドミッション,街中に隠されている集合的なコンテンツのバランスをとるなど,オープンワールドジャンルの構造的な特徴をいくつか踏襲している。しかし,それでもなお,オープンワールドゲームの重要な要素の多くは,VRのために考え直される必要がある。
「身長の高い人は,VRの世界ではより短期間で問題を抱えることになります」
「例えば『アサシンクリード』では,プレイヤーの移動速度は力学的に行える限界値なので,ゲームの中のあらゆるチャレンジに対応できます」とMcGinley氏は述べた。「しかし,あなたはあなたであり,部屋の中を走り回ったり,あらゆる方法でゲームを一気に壊してしまったりすることもできます。ですので,少し制限しなくてはなりません」異なるプレイスタイルをブロックしてしまうのではなく,サポートすることもできる場合もあるため,変わるものすべてが新しい制限を必要とするわけではない。例えばGiant Copの最初のVR仕様(もともとは標準的なマウス駆動のPCゲームとして着想されていた)は,プレイヤーが床に座り,おもちゃ箱を前にした子供のように遊ぶという考えのもとで設計されていた。このゲームはまだそのスタイルを想定しており,VRとしては極めてユニークということでMcGinley氏もとても気に入っていたが,皆がそう思ったわけではなかった。
McGinley氏によれば「身長の高い人は,VRの世界ではより短期間で問題を抱えることになります」そうだ。
だから同社では,プレイヤーに頻繁にしゃがんだり,座ったり,起立したりさせるのではなく,(映画「スター・ウォーズ」シリーズに登場する)ダース・ベイダーのように「フォースでものをつかむ」スタイルを実装し,遠くの物体を魔法のように手元に引き付けられるようにした。プレイヤーは何かを拾うためにかがむこともできるが,もはや必須ではない。「Giant Cop」にナラティブな構成要素があるため,VRでストーリーを紡ぐプロセスも,プレイヤーにゲームの前提がどのように提示されるかという根本的な問題として考え直されなければならなかった。McGinley氏は「バットマン:アーカムVR」で使用されているのと同様のアプローチでほぼ解決したが,最終的にはプレイヤーが既存のキャラクターにならなくていいように調整する必要があったと述べた。
「もし私たちが,『やあ,君は(映画「バットマン」シリーズに登場する)ブルース・ウェインだよ』と言われたら,あなたはすぐにそのキャラクターのように道徳的な意思決定を下すことができるでしょう。『あぁ,ブルース・ウェインならどう振る舞うか知ってるぞ。犯罪と戦うんだ。銃を使わずに』とか。Giant Copではそれはやりたくなかったのです。私たちは,あなたの性格や個性を踏まえてあなたに意思決定をしてほしいのです」とMcGinley氏は語った。
とはいうものの,そうした意思決定がどのようなものになるのか,だいたい分かるという。「良い警官か悪い警官になるかでゲーム展開が変わってくるのかについて,私たちは大いに話し合いました。そのうえで,そのようなことはしないほうがいいと思い至ったのです。だって,皆さん悪徳警官になってプレイしたいでしょう? 街をぶち壊すこと,それがゲームの楽しさですから。もちろん良い警官にもなれます。その場合,私たちはゲームの中で良い警官に報いるシステムを埋め込んでいます。でもポイントはそこではなく,街をめちゃくちゃにするということ。それがあなたにこの風刺的なメッセージを送ることになるのです。『街を守ろうとするほどにめちゃくちゃにしてしまっている』と」
その風刺的なメッセージは,ゲームで頻繁に提供される欠点だらけの注釈よりもちゃんとしているそうで,ある程度の安心感を与えるものだ。
「私たちが今までリリースしてきたものは,まったくもって実直なものです。(ゲームの中で)『ハハ,人を引っ張り上げてちょっかいを出すのは面白い』しかしGiant Copの内側には,より深くダークなストーリーがあるのです。そして,この2週間での多くの出来事は,私たちがやっていることと並行しているので,かなり興味深いです」
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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)