Supercell「ゲームを信じるということ」

SupercellのチームリーダーTimur Haussila氏によれば,「クラッシュ・ロワイヤル」を作った同社は,プロジェクト管理を開発者に委ねることでヒット商品を作り出したという。

 ほとんどの会社にとって,モバイルゲームのマーケットで成功することは奇跡に近い。適正なゲーム,適正なタイミング,適正なプレイヤー獲得戦略が三つ揃いで求められるからだ。これはたった一度やり遂げるだけでも大変で,ましてや繰り返すのはほぼ不可能と言える。しかし,若干なりともうまくやってのけているように見せる会社もある。例えばSupercellだ。「クラッシュ・オブ・クラン」「ヘイ・デイ」「ブーム・ビーチ」「クラッシュ・ロワイヤル」と四つのゲームをリリースし,すべてをヒットさせてきた。

 ヘイ・デイとブーム・ビーチがリリースされたときの開発責任者であったTimur Haussila氏は,モントリオール国際ゲームサミットの基調講演で,Supercellがどのようにして成功できるゲームを量産しているのか,いくつかの洞察を提供してくれた。成功し続ける会社のこと,きっちりとした管理体制と予測可能な開発の方法論が述べられると思った読者もおられるだろうが,Haussila氏によればSupercellのアプローチはまったく異なるものだという。

 Supercellのビジネスモデルに言及する前に,Haussila氏は7年前にFacebookのゲームのプロダクト・マネジャーとして,ヘルシンキに拠点を置くDigital Chocolateでキャリアをスタートさせた際,彼が現場で見た伝統的な業界モデルについてまとめた。

 その他の多くの会社同様,Digital Chocolateでは,経営陣から遠いヒエラルキー型組織の末端に開発チームがあり,長く,労力が多い意思決定と承認プロセスが存在した。定期的に,経営陣がゲームの運命を決めてしまうようなプロダクトレビューもあった。

 Haussila氏によれば,そのシステムはある程度は機能したが問題もあったという。やがて同社では,オーディエンスにとって最良のゲームを作るのではなく,社内のレビュープロセスを通すための商品を作ることがゴールになっていったのである。それはまた,ゲームデザインにあたって,無料ゲームの世界に見合わない,革新的でないアプローチを導くことにもなった。消費者の目の前に無制限に選択肢があるとき,伝統的な家庭用ゲーム機やPCの世界でもそうであるように,目新しさのない同じようなスタイルのゲームを模造してもうまくいかなかったのである。

 監督が行き届かない小さなチームに所属していた頃,業務を中断していた時期があったとHaussila氏は述べた。ここで問題だったのは,開発者が会社の言うことを聞かず自治的に活動をしているという内部告発ではなく,彼のチームが何をやっているか皆が無関心だったということだ。そして彼のプロジェクトが有望な結果を再び出し始めるとすぐに,かつての社内管理が復活した。このようなことが繰り返し起きることに大いに落胆したHaussila氏は新たな活路を求め,Supercellへと至った。

 Supercellでは,意思決定におけるヒエラルキーは覆され,Haussila氏が言うところのセル(細胞)ストラクチャーとなった。各チームにはおよそ15人未満の開発者がいて自治的な細胞のようになっている。開発者はゲームのアイデアを思いつき,それを実現すべく行動する。開発以外の部門は,最高の人材を雇用したり,実務の面倒を見たりと,各開発チームをサポートするために存在するのだ。Haussila氏が言うには,各細胞の中では,リーダーはいるものの責任は全員で取る。このモデルを機能させるには工夫が必要かもしれないが,一度うまく動き出せば,内部でフィードバックをし始め,より良い結果を出すのだ。

 「すべては信用から始まります」とHaussila氏は述べた。「各チームが独立して機能するには,信頼関係なしではやっていけません」

 その信用とは両方向であることが必要だとHaussila氏は言い添えた。開発者が素晴らしいゲームを作るために経営陣は彼らを信用する必要があり,開発者もまた自分たちを支えてくれる経営陣を信用する必要がある。事業としての結果を気にするがゆえに失敗を恐れるようであれば,開発者はリスクを取らなくなる。

 Supercellでさえ,必ずしも,常にスムーズだったわけではない。ヘイ・デイとクラッシュ・オブ・クランの開発のあとは停滞し,宙ぶらりんになってしまったチームやプロジェクトがあった。彼らはプロジェクトをつぶしたくなかったが,一方で,スタジオとして最初の成功となった2作品に追随するようなプロジェクトであるかどうかについても心配していた。失敗しても受け入れられると開発者が十分に会社を信じ切れない空気を同社自身が作り出してしまっていたのである。なにかを試してみて,うまくいかなければ投げ捨ててもいいことを理解していたSupercellは,このネガティブな空気を変えるため,セーフティネットを従業員に供するべくプロトタイプチームを設立した。それは役に立ったが,プロトタイプチームに所属する開発者に彼らの貢献が有益であったと感じてもらえるよう,同社はなおもいくつかの変更を行う必要があった。

 その一つにSupercellの承認プロセスがある。それはデザインに始まり,実施,テスト,分析に及ぶサイクルである。ゲーム開発の従来のモデルにおいては,分析のステージは経営陣によって行われ,そのプロジェクトをつぶすべきか,続けるべきかの意思決定がなされる。同社では,プロジェクトを分析し,つぶすか次のサイクルに進めるかを決める前に,開発者自身が,なにか間違っていないかなど,調整すべきかアイデアがあるかどうか,デザイン段階をもう一度見直すのだ。

 繰り返しになるが,このプロセスは,信用の上に成り立つものだ。クラッシュ・ロワイヤルを開発していた際,その成功を社内のほとんど誰も信じていなかった時期があったと Haussila氏は言う。確かにいくつかの問題はあったが,開発チームはそれでも信じていた。チーム外の社内の人たちと,自分たちが今手がけているもののメリットについてコミュニケーションを取るのは難しくなりがちだ。だからチームが安心して開発を続けられるようSupercellが会社としてそのチームにしっかり信頼を置いたことは極めて重要であった。

 Supercellでは「少ないことはより多くを持つこと」になるとHaussila氏は言った。これはリリースしたゲームのカタログだけでなく,100人以下しかいない同社の従業員数にも当てはまる。より多くのゲームを扱うこと,より多くの従業員がいることはいっそうの管理と官僚主義を意味する。翻ってそれは,プロジェクトにおける各従業員の責任が減り,独立性が削がれ,最終的にはでき上がるゲームのクオリティが低下することを意味する。同社には,一般的な意味での人事部すら存在しない。そういった業務は,採用スタッフと各チームのリーダーに任されている。

 Supercellでは各チームの個人をサポートするための意思決定ヒエラルキーが作られているが,これは同社のみで機能する,通常とは異なる優先事項で作られている。会社としての存在が最優先されるのだ。同社が小所帯でいることに焦点を置くことから,社内資源や開発者は重要なタイトルに振り向けられる。損失を被るプロジェクトの担当者はこのプロセスを嫌がるだろうが,会社の利益が最優先とされ,次がチーム,そしてその後に個人の順となるのである。

 Haussila氏が言うにはSupercellにも「つぶす文化」はあるそうだ。同社が四つのゲームをローンチしている間,その裏でもっと多くのプロジェクトがスタートしていた。プロトタイプとして始まったプロジェクトは無数にあり,プレイできるものはそのうちのはるかに少ない数,β版に至るのが少数のみ(Haussila氏によるとプレイできるのはたった10%だそうだ),そしてほとんどはフルでリリースされることはないという。失敗と向き合うのはキツいことだ。しかし同社はつぶれたプロジェクトから学んだ物事を大切にしたいと願っている。よって,Supercellのゲームが実際にローンチに至るということは,同社ががっちりとコミットしていると言える。

 「もし私たちがグローバルな規模でオーディエンスに何かを届けるとすると,私たちはまた,将来に渡ってその規模のアップデートやメンテナンスの責任を負うと思っています」とHaussila氏は締めくくった。

 Supercellの現在までの実績を踏まえれば,オーディエンス側も同じようにずっとサポートしてくれるはずだ。

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