スクウェア・エニックスとカプコンは,まったく異なる未来像を描いている
表面的に見れば,カプコンとスクウェア・エニックスは同じ目標を追うゲーム企業のように見える。両社によって公開された最新の業績報告は,彼らがリリースしたコンシューマ向けのAAAタイトルの成功や失敗についての大勢を述べ,どのようにして海外市場への展開やモバイルスペースでさらなる発展を遂げていくべきかということについて期待させる内容である。しかし,細かく読んでいけば,日本のゲームパブリッシングビジネスをリードしているこの二つの企業が,まったく異なる未来像の両極端にあることに位置することが分かってくる。
カプコンは,ゲーム市場の中でもひと際多くの声高なファン層に支持されるゲームパブリッシャである。「バイオハザード 7」をはじめとして,既存のIPでも興味深い新要素を入れたり,古いタイトルを改良して復活させたり,AAAタイトルにクラシカルなタイトルのHDリメイク版を混ぜ込んだりすることで魅力的なラインアップを維持し続けている。モバイル市場への野望については熱心に語ることが多いものの,現状ではコンシューマ機へのフォーカスを怠る気配はなく,現状ではスマートフォンへの事業拡大にそれほど興味を示していない。
その代わりに,カプコンは新しい市場アピールできるようフランチャイズを育てていくことに主眼を置いている様子で,現在は日本で「モンスターハンター」が人気となった理由をヨーロッパやアメリカの消費者に理解してもらうことに専念している。自社開発にこだわるという姿勢とともに,こうした結果による企業の成長速度は非常に緩やかなものにすぎず,その名声とは裏腹に日本のトップ企業の中でも規模は非常に小さい。
「スクウェア・エニックスがモバイルスペースで行っているのは,任天堂が行ってきたようなモバイル市場での予行演習であるようにも見える」
おそらく,カプコンの企業規模の小ささが市場の現実に挑戦する意欲を失わせているのかもしれないが,それとは異なる道を歩んでいるのがスクウェア・エニックスである。モバイルゲーム市場への移行を満足気に感じている企業リーダーのいるコナミとも違い,スクウェア・エニックスはコンシューマ機向けのゲーム開発会社であるという企業カルチャーを深く追求し続けている。コンシューマ機向けのゲーム開発費も順調に増やしており,「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」に加えて,海外生まれの「デウスエクス」や「トゥームレイダー」を加えたフランチャイズは非常に大規模だ。スクウェア・エニックスはコンシューマ機の市場を信じており,今ではアクティビジョンや任天堂のような“第一列”と比べれば“第二列”に座すゲーム企業であるとは言うものの,コンシューマ機向けゲームのビジネスにおいてはグローバルに戦えるパブリッシャであると自認している。
スクウェア・エニックスについて珠に瑕と思うのは,同社はカプコンとは違ってフランチャイズ作品のモバイル化にも躊躇しておらず,しかも非常に良い成果を上げているということだ。2015年度には,その収益はコンシューマ機ビジネスを上回るまで成長してしまったが,今年に入って,さらに同社にとっての三つめのビジネスにあたるMMO市場で上げた収益とコンシューマ機市場での収益を合わせたものよりも大きくなってしまった。これを現実的に解釈すれば,同社のゲーム開発が緩慢になったり,コンシューマ機へのフォーカスを見失ってしまうことになれば,すでに「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」のモバイルオリジナル版や,そして「グリムノーツ」といった新作で成果を上げているように,同社の収入源はモバイル市場からのものに頼らざるを得ない結果となっていくだろう。
先ほどコナミを比較対象として例に出したが,コナミはこうしたモバイルゲーム市場に飲み込まれていったメーカーの一つだ。実際に考察してみると非常に興味深く,コナミのモバイル部門が大成功を収めているのに比べ,コンシューマ機市場ではその立ち位置をキープすることに苦悩しており,多大な費用を要するコンシューマ機向けのゲーム開発と開発リソースとの整合性が採れなくなっている。
もしスクウェア・エニックスの上層部がコナミと同じ戦略に立っているのであれば,このままでは「ファイナルファンタジーXV」のローンチ以降はコンシューマ機向け開発を徐々に縮小させ,同社の焦点をモバイル市場に合わせていくことになるかもしれない。
もちろん,それが起こりえる可能性は非常に小さい。スクウェア・エニックスが企業カルチャーと野望を持っているのは間違いなく,同社のモバイルゲームの多くはコンシューマ機で育てたIPを利用しているにすぎない。ある意味,我々の目から見ると,スクウェア・エニックスがモバイルスペースで行っているのは,任天堂が行ってきているようなモバイル市場での予行演習であるようにも見える。「ファイナルファンタジー」のようなフランチャイズのモバイルプラットフォームにおける成功は,その知名度とファン層へのアピールによるところが多く,理論的にいってもそのリリースは,そもそもモバイルゲームに熱中していたプレイヤーが,より作り込まれた同じフランチャイズタイトルへ移行することになることから,コンシューマ向けの新作タイトルへのフィードバックにつながる良いセールスを生み出すことになる。このことは,任天堂がモバイルゲーム市場で達成しようとしているように,良好な循環機能を獲得できることになる。
スクウェア・エニックスは任天堂以前から同じ道筋の開拓に励んできたが,おそらくはプレイヤーからのフィードバックがコンシューマ機市場向けにどれくらい効果的に利用できるのかということについては,まだ明確には理解できていないといったところだろうか。
「Free-to-Play型ビジネスモデルにおいてはアグレッシブに展開しがちなMachine Zoneのゲームが,このフランチャイズの看板を汚してしまうことになる可能性もあるだろう。いずれにせよ,スクウェア・エニックスが広報やマーケティングに関してもある程度の影響力を保持していくことは想像に難くない」
スクウェア・エニックスの将来像の根本が意味するものは,同社は価値あるIPを巻き込んでまで,ほかのパブリッシャと果敢にパートナーシップを結んでいるという点で,この点では内部開発を至上とするカプコンとは大きく対比できる部分である。スクウェア・エニックスの業績報告の影に隠れる形になっているものの,おそらく同社が今年アナウンスした発表で最も重要であると思われるものが,モバイルゲームの「Game of War」を開発したMachine Zoneに「ファイナルファンタジー XV」をベースとしたモバイルMMORPGを委託開発させているというニュースであろう(関連英文記事)。Machine Zoneの活発過ぎるほどのマーケティングへのアプローチは,ゲーム業界内部でも首を傾げる向きもないわけではない。しかし,ミリタリー戦略ゲームのテレビコマーシャルにアーノルド・シュワルツネッガーを起用するという広報キャンペーンについては,嫉妬を含めた陰口もあるはずで,モバイルゲームのグローバル市場で最も収益性の高いと言われる2本のヒット作を抱える同社が,「ファイナルファンタジー」というブランドで何をしてくるのかは非常に興味深いところである。もちろん,このことは同意にリスクでもあり,Free-to-Play型ビジネスモデルにおいてはアグレッシブに展開しがちなMachine Zoneのゲームが,このフランチャイズの看板を汚してしまうことになる可能性もあるだろう。いずれにせよ,コアなファン層を怒らせることなく,すでにモバイルゲーム市場でも一定の成果を上げているスクウェア・エニックスが,広報やマーケティングに関してもある程度の影響力を保持していくことは想像に難くない。
究極的に言って,カプコンはゲーム業界が過去のような姿のまま存続することを前提に未来像を描いている企業と言えるのではないだろうか。カプコンが開発の迅速化を進められないのは,経験値の高いベテランスタッフを雇用するのではなく,新卒採用を行っていく方針であると述べていることだけでも,同社がどれだけ頑固に社風の伝統を守り続けている企業なのかが見えてくる。なんのゲーム開発の経験も持たないであろう新卒を一度に何人も雇用するというのは,日本人が一生同じ会社で働いていた時代から続く伝統であり,スキルや能力ではなく会社に忠誠を誓えるだけの雇用者を生み出していくことに比重を置いた思想である。もちろん,日本のハイテク企業の多くは,とくに開発人材においてはこのような伝統はすでに捨て去っている。
「長期的には,カプコンという企業の健康状態は,ゲーム業界が今までと同じように存続していくことに比重を置いており,自分の心地良い居場所から大きく出てこようとはしていない」
カプコンがこのような伝統を頑なに守っているという事実は,同社の経営者たちのゲーム市場に対する見方にもつながっているはずだ。「モンスターハンター」「バイオハザード」,そして「ストリートファイター」といったゲームを順序よくリリースしていくことを重視し,新しいハードウェアがリリースされるとHD版をリリースするといったことも行うが,新しいIPを生み出せる環境には乏しく,上層部には新しいものを生み出そうというゲームに対する情熱がないのではないかと疑ってしまうほど小回りが利かない。同社のコンシューマ機へのコミットメントは称賛に価するものがあるとはいえ,モバイル向けの価値ある展開に苦労している様子や開発におけるパートナーシップにおよび腰になる姿勢,そして内部開発の拡張は氷河の動くようなスピードでしか行っていないことは,「モンスターハンター」についてアメリカ人から振り向いてもらうという意味のない戦略を推し進めていることとまったくバランスが取れていない。長期的には,カプコンという企業の健康状態は,ゲーム業界が今までと同じように存続していくことに比重を置いており,自分の心地良い居場所から大きく出てこようとはしていない。それに対してスクウェア・エニックスは,変革し続けるゲーム市場をどのように利用していくかという将来像を明確に打ち立てている。モバイルゲームのパブリッシャとして台頭しようと真剣に取り組んでおり,巨額の投資によって「キャンディ・クラッシュ」のメーカーであるKing.comを買収したアクティビジョンを除けば,その目標はすでにほぼ実現してしまっていると言える。コンシューマ機市場においても第一列目に名を連ねようとし,「ファイナルファンタジー XV」のような人気フランチャイズのマルチメディア化やマルチプラットフォーム化を推進しつつ,「Hitman」ではエピソード形式のAAAタイトルという新しいビジネスモデルにも挑戦している。
その野心には感嘆するが,正確に表現しておくと,これはAAAタイトルとインディーズ系のダウンロード型ゲームという二極に分かれてしまたコンシューマ機市場においては,そうした変革を行わざるを得ないという必要性から生まれたものであろう。その苦労は今期の業績報告からもはっきりとうかがえる。カプコンなどほかの企業にも言えることであろうが,コンシューマ機市場における新作ゲームの開発費の増大が,必ずしも収益と結びついているとは言えないのが現状であり,このまま高々とした梯子を登っていくか,完全に降りてしまってコナミのような“モバイル第一,ときどきコンシューマ機”といったパブリッシング戦略に変更するしかないのである。
カプコンもスクウェア・エニックスも,非常に価値の高いIPと,熱狂的なファンベースを抱えており,成功していくには十分なほどの土壌を持っている。しかし,今後の成長戦略を考えると,それぞれに違った観点に立つ必要もあるだろう。スクウェア・エニックスは動き続けて拡大し,カプコンは同じ場所から動かずに,自分たちのできることを継続してやっていく……。双方のアプローチには先天的なリスクがあり,両社ともに現時点では揺るぎない経営状態にあるとはいえ,その未来はどこか不鮮明である。今後数年間にわたって,ゲーム業界における伝統の間接的なせめぎ合いが見ものになるはずだ。
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)