[JVRS2]Oculus VR,HTC,SIE,Googleの4大VRプラットフォーマーが一堂に。VRの可能性と2020年に向けたビジョンを語る
本稿ではOculus VR,HTC,ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE),そしてGoogleと,4大VRプラットフォーマーの重鎮が一堂に会し,VRの現状と今後の展望について語ったパネルディスカッション「VRトッププレイヤーが描く2020年のビジョン」をレポートしよう。登壇したパネリストは以下の4名だ。
Oculus VR Head of Publishing Jason Holtman氏
HTC Vive VP Global VR Content Joel Breton氏
ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部 担当課長 高橋泰生氏
Google Chief Game Designer Noah Falstein氏
HTC Vive VP Global VR Content Joel Breton氏
ソニー・インタラクティブエンタテインメント グローバル商品企画部 担当課長 高橋泰生氏
Google Chief Game Designer Noah Falstein氏
ディスカッションの最初のテーマは,VR元年となった2016年の振り返りである。まずOculusのJason Holtman氏は,登壇したパネリスト4名の所属する企業すべてがVRプラットフォームを商品として世に送り出したことにより,多くの人がVRを体験したこととし,それを実現できた理由の一つとして,この3年間にPCやスマートフォンの性能が飛躍的に向上したことを挙げた。
Holtman氏は数年後に2016年を振り返ったとき,人々はVRの4大プラットフォームが出そろった年であったとともに,VRがゲーム以外のジャンルに大きく踏み出した年であったと考えるだろうとし,VRにとって非常に好調な滑り出しの1年だったとまとめた。
HTCのJoel Breton氏は,VRは20年前にも存在していたが,当時の機材は開発に150万ドルも掛かる軍事用のものだったと紹介した。現在ではそれがわずか1500ドルとなり,誰もがリビングルームで楽しめるようになった。2016年はまさに大きな分水嶺だったとし,今後はもっとパワフルな展開が見られるだろうとした。
さらにBreton氏は,「今やVRコンテンツ開発は黄金期に入っている」と表現していた。つまりUnityやUnreal Engineの存在によって,小人数のチームでもVRコンテンツを開発することが可能となり,かつネットワークの普及により,どの国や地域からでも世界中に配信することができるからだ。
また,自身も含め,デジタルコンテンツを作ってきた多くの人間にとって,プレイヤーの周囲をVR空間で取り囲む状況を実現できるようになったことは,まさに感無量だという。
SIEの高橋泰生氏は,VRの新しさを人々に伝えるには体験してもらうほかないとし,2014年からPSVRの体験イベントを開催してきたことを紹介した。それと並行して,いわゆるVR酔いを発生させることなく快適にVRを楽しめるようにするにはどうすればいいか,あるいはまったく新しいコンテンツであるVRコンテンツをどうやって作ればいいのか研究を重ねてきたと語った。
それらの努力や研究が結実し,2016年10月にPSVRは世に送り出されたわけだが,高橋氏はそれを「一般の方が家庭でVRを体験し,さらにほかの一般の方に広げていく」「クリエイターの表現を広めていく環境がようやく整った」と表現し,これからのVRの展開に期待しているとした。
GoogleのNoah Falstein氏は,同社のVRビューア「Cardboard」が500万台出荷され,5000万本前後の専用コンテンツがダウンロードされたことを報告し,2016年はそれだけ多くの人が初めてVRに触れた年だったと表現していた。
また,今後はどんなコンテンツをVRにすればヒットするのか,逆にVRにすべきでないコンテンツとはどういうものなのかといったことが明確になっていくだろうとし,その中心となるのは消費者であり,デベロッパは彼らの求めるものを汲み取ることが重要であると語った。
二つめのテーマは,2020年までのVRの中期的な展望についてだ。Holtman氏はVRに取り組む開発者や企業が考えなければならないこととして,入力デバイスを挙げた。たとえば人間の手は指を指したりジェスチャーをしたりすることにより,言語を使わずとも他人と意思疎通を図れる。Oculusでは12月発売予定のRift用コントローラ「Touch」を使うことで,そうした動作の実現を目指しているとのことで, Holtman氏は「2020年には,より実用的になっているだろう」と展望を語った。
さらにTouchを使ったデモ「Toybox」では,二人のプレイヤーが同じVR空間を共有して楽しむことを可能にしたが,2020年にはもっと大人数向け,ひょっとしたら万単位の人数で楽しめるものになるかもしれないとも話していた。
Breton氏は,VIVEが360度の空間を使ってコンテンツを作れる環境をクリエイターに提供し,それがさらに彼らに想像力を刺激したと表現。そのため2020年までにはプレイヤーの周囲360度を取り囲むコンテンツが開発されるとともに,フィードバックによって内容が洗練されていくだろうとした。
さらにViveの開発者達は,VRの没入度を高めるべく,2Kや4Kといった高解像度の映像表示にもチャレンジしているという。これはワイヤレス仕様と両立することが難しいため,やはり2020年までに何とか実現したいとのことだった。
高橋氏は,1964年の東京オリンピックが日本におけるカラーテレビ普及に貢献したことを引き合いに出して,VRの普及にも同様のキラーコンテンツが必要になるとし,SIEでは2020年までに可能なかぎりハイクオリティなPSVR向けのコンテンツをリリースしていく戦略を展開していくと語った。
さらに高橋氏は一般の人達にVRを体験してもらうためには,コンテンツの質だけでなくバリエーションも重要であるとし,ゲームだけではなく映像作品や旅行体験など,「毎日のようにVRの世界に触れていたい」と思わせるコンテンツを充実していきたいとも話していた。
また6月にはPSVR用のガンコントローラ「Aim Controller」が発表されているが,今後も必要に応じて新たな入力デバイスの導入を検討するという。
たとえばDaydreamの外装にはジャージー素材が使われているが,これは長時間身に付けたときの快適性や,スマートフォンなどの端末が熱を持ったときのことを考慮した上での判断だったという。
さらに本体の形状をゴーグルタイプにしたのは,どんな髪型でも装着しやすいことを優先した結果とのことだ。
またそうしたユーザーの反応からは,多くの人々はVRを,まるで本を読むかのように楽しんでいる事実が浮かび上がってきたそうだ。そのためFalstein氏は,VIVEの思想を否定するわけではないと前置きしつつも,椅子に座ったまま180度の画面を見せるだけでも十分楽しめるコンテンツを作れるとした。
Falstein氏は2020年がどうなっっているか予測が付かないとする一方で,一つだけ「オーディオVR」が実現するのではないかと展望を語った。VRにおける音響にはまだ課題が多いとのことだが,Googleが提供している360度ムービー「Spotlight Stories」の試みでも,VR自体に驚くほど人間の感情を揺さぶる効果があるといった研究が進んでいるとのことで,2020年までにはオーディオVRを含めさまざまな形のVRを実現できる可能性があるそうだ。
最後のテーマは,今後VRで世界がどのように変わるのかである。Holtman氏はVRは,現在まだ見えていない方向にも発展していくのではないかとする。これまでにも電話やメールといった技術の登場と普及により,人々のライフスタイルは変わってきたが,たとえば今後VRによって社会にアバターの概念が浸透したときもまた,生活や仕事のありさまが変わるだろうというのである。
Breton氏はVRの普及により,数年後にそれまでの概念をすべて覆すような大革新が起きると予想する。例として工業デザインにおける手法の変化や,アルコール依存症やPTSDの治療などの医療的への応用,録画した講義を世界に向けて配信するなどの教育への応用,パイロットや警察官のトレーニングが挙げられた。
その延長として,ショッピングも変わっていくのではないかという。すなわちこれまではリアル店舗でもオンラインショッピングでも,室内やWebサイトといった限られた空間に商品を並べていたが,VRを使えば店のオーナーが自由に店内のレイアウトをデザインできるようになる。一方,客もVR空間の中で商品のスケール感を確認でき,さらにたとえば洋服などであれば自分のアバターに着用させてみて,どんな雰囲気になるかをチェックできるというわけである。
Falstein氏は,映像作品の作り手がVRを使うことにより,これまでにない物語の伝え方が生まれてくるのではないかと展望を語る。
最後にFalstein氏は,たBreton氏と同じくVRの医療への応用についても期待を語り,VRを医師が処方可能な治療法として扱う取り組みがあることを紹介してディスカッションを締めくくった。