Amazonは“続編メンタリティ”に束縛されたゲーム業界の破壊者となる
我々のような消費者の多くにとって,Amazonはすでにショッピング,映像鑑賞,音楽,読者など,我々の生活のさまざまな面で影響を及ぼす存在となっている。そして今,Twitchの買収やLumberyardエンジンの開発,Amazon Web Servicesの拡張,さらには内部ゲーム開発スタジオの設置などによって,このインターネット世代の巨大企業は,ゲーム産業においても無視できない存在になり始めている。
これまで,Amazon Game StudiosはFire TVプラットフォームにおけるモバイルゲームの開発チームであると業界では認識されてきたが,TwitchConの開催に合わせて発表した「Breakaway」「New World」,そして「Crucible」という三つのタイトルは,AAAゲームビジネスにおけるゲーマーコミュニティ主導型のアプローチを新たに提言している。
これらのゲームはLumberyardを使ってPC上で開発されているが,より重要なのはTwitchとの連動を当初から念頭にして開発が始まっているということである。
皮肉屋であれば,Amazonは単に彼らが持つTwitchプラットフォームを推進するのに一番いい方法を取っているだけだというかもしれない。これらのゲームはその目的で作られているだけだと。Amazon Game OC (Orange County)のスタジオヘッドであるPatrick Gilmore氏は,本誌の取材でそれに反論した。
「元々は独立系のデベロッパだった我々,旧Double Helix Productionsがスタジオごと買収される以前は,MicrosoftのXbox One向けにKiller Instinctを開発していました。ゲームの発売が開始されるや否や,そのプレイ動画がライブ配信される様子を目撃したときは本当にシュールな気持ちになったものです。観衆たちがリアルタイムでゲームについて語っており,良い部分や悪い部分,そのフランチャイズを愛している理由などが手に取るように分かったのです。それは我々に強烈な印象を与えました。本当にダイレクトに満足感やフィードバックループが返ってくるんですよ。それはゲーム開発中に得られるものの100倍の価値があります」とGilmore氏は話す。
「Twitchやストリーミングをテーマにしていますが,ゲーマーとしてプレイすることと,観衆として見ることを両立させようとすることで中核となるゲームプレイが鮮明になり,そのことがゲームとして良いものにしているのです」
また,Gilmore氏は「ですから,我々はライブ配信について深い情熱を持ってAmazonに参加したのです。複数のブロードキャスターがチームにいましたし,ゲームコミュニティのマネージメントの深い情熱,カスタマーサービスへの情熱,そしてコミュニティを第一にしたストラテジーは,Double Helixがゲーム開発に際して重視していたものですから,それが部分的にAmazonが新設したゲーム事業に伝播していったのです。ハードコアで情熱のある,Twitchに集まるような高いレベルのゲームコミュニティを一から生み出すというのは至難ですが,それを達成したときの満足感は非常に高いのです」と続ける。さらにGilmore氏は,「ですから先ほどの質問に答えますと,皮肉屋な人たちならAmazonライブ配信の最先端を見せつけるためにゲームを利用しているとお思いかもしれませんが,実際にはその逆であるのです。我々には,こうした最先端の技術を使うことを考えるチームがあり,プレイする人と同様に見る人にも思いがけず楽しいゲーム体験を提供しようとしているから,ゲームがより良いものになるのです。
Twitchやストリーミングをテーマにしていますが,ゲーマーとしてプレイすることと,観衆として見ることを両立させようとすることで中核となるゲームプレイが鮮明になり,そのことがゲームとして良いものにしているのです」と語った。
Gilmore氏は,「Brealaway」のような対戦ゲームをサポートできるバックエンドサーバーやスケーラビリティについての技術的なインフラを用意することは,「Amazonにとっては簡単なこと」であるという。そしてもちろん,現在の彼のスタジオはAmazon直属の開発部門となったことで,Lumberyardのポテンシャルを最大限に引き出し,Twitchとも相性の良いゲームを生み出せるわけだ。
「我々にとってのLumberyardは,どの開発者でも制作費の調整やオンラインモードを実装するためにサーバーの用意を行えるようにするサーバープロビジョニングシステムGameLiftが大きな比重を占めています。こうしたネットワークのレイヤーに加えて,キャラクターのパイプランだとかTwitch,そしてディスカバビリティの問題だけでなくTwitchから得られるプレイヤーのエンゲージメントやフィードバックといった問題を効率良く管理できるシステムのことです。Amazonと連動した巨大なエコシステムが存在しており,より良いゲームを作り出すために,我々はそれを最大限に活用しています。ですから,ゲームにはショーケースとしての意味合いもありますが,それは我々の提供するサービスの質と比較されるべきだと思うのです」とGilmore氏は語った。
Gilmore氏はまた,Amazonのコミュニティ第一主義のアプローチは,典型的なAAAタイトルを比べて,プレイヤーが非常に早くゲームにアクセスすることを可能にさせるという。Gilmore氏は,「Breakawayでの計画は,TwitchConが終了するとともにαテストを開始するというもので,本作が幅広いゲーマー層をサポートすることを明確に示し,一人でも多くのプレイヤーに素晴らしい体験をできると認識してもらうのです」と付け加える。
「ほかのプラットフォームよりも我々は素早くゲームをリリースできるようになると思いますが,同時に長期的にゲームをサポートしていくことも強調しておきたいですね。こうした手法がAAAタイトルという概念に当てはまるかどうかはともかく,ゲームの質という点では最高峰のゲームと肩を並べることができると確信しています。販売戦略についてAAAのタイトルとはまったく異なるかもしれませんが,我々はゲーマーたちに少しでも早くゲームを届けることで,これまでの概念を変えようとしているのです」
「近年のAAAタイトルの進展を見てみると,それぞれのゲームのスケールが拡大し,それ一つが単体のビジネスになっています。プレイヤーはさらにさまざまなものを求めるようになることで,イノベーションはより大きなリスクを呼び込むことになり,新しいことをするのは益々難しくなっていきます」
これに加えてGimore氏は,「どうやってゲームをリリースするのか,そしてどうやって顧客がゲーム開発に積極的に参加してもらえるのかを達成するために,Amazonの各部門の中でも我々は最も透明性のある事業を展開しようとしています。我々のチームには,何十年にもわたってゲーム開発を行ってきたベテランも多く,こうした最先端のテクノロジーをどう活用するのかや,ゲームの方向性はしっかりと把握しています。しかし,同時にゲームを顧客の手に渡して,そこから得られるゲームの感想を大切にしたいのです」と話した。Gilmore氏は,AmazonはGrand Theft Auto並みの開発を行うのに十分な資金力を持っているなどとはあからさまには言わず,「良い企画には,それに見合った資金を投入する」と話すが,それよりも重要なのが,さらに大きなスケールでゲーム開発現場に革命をもたらすことであるという。
彼は続けて,「開発規模の大きなゲームになると,そのサイズだけでなくゲームプレイも斬新なものになりがちで,非常にリスキーになってしまいます。それが開発への投資にどのように影響するかを考えた場合,おそらく皆さんも顧客からのフィードバックなくしてGrand Theft Autoのような規模のゲームを作ろうとは思わないのではないでしょうか」と語った。
2003年から2009年までElectronic Artsで過ごしたGilmore氏は,ここ10年ほどの間にAAAタイトルの開発現場が大きく変わったことを肌身で感じている。パブリッシャはリスクを取ることを極度に回避するようになり,“製品”だったゲームはいつしか“サービス”でないと投資されることもなくなり,一年かそれ以上にわたってゲーマーを熱中させることが求められるようになった。
Gilmore氏は,そのことのマイナス点も強調し,「Battlefieldであれ,Grand Theft Autoであれ,Call of Dutyであれ,近年のAAAタイトルの進展を見てみると,それぞれのゲームのスケールが拡大し,それ一つが単体のビジネスになっています。プレイヤーはさらにさまざまなものを求めるようになることで,イノベーションはより大きなリスクを呼び込むことになり,新しいことをするのは益々難しくなっていきますので,既存のありがちなゲームであってはならないという暗黙の了解が生まれています」と続ける。
「そして,そこに我々は大きなチャンスを見ており,カジュアルゲーマーであれコアゲーマーであれ,コンシューマによって生み出されていくゲームにフォーカスすることの大きな理由はそこにあるのです。我々のゲームはコミュニティ向けに傾倒しており,我々のゲームはある意味,続編作りやサービスとしてのゲームを開発するというメンタリティという,これまでのゲーム業界の持っていた慣習の破壊者であり,新しいものを持ち込む役割を果たすのです。開発への投資は作品に見合ったものでなければならないという意見はおっしゃるとおりで間違った見方ではないでしょうが,私にはAmazonはゲーム市場でまったく新しいものをやろうとしているように見えるのです」
Amazonの新作群がモバイルではなくPC向けというのも,必ずしも後退ではない。Gilmore氏は,その気構えが旧Double Helix開発陣のモバイル開発チームとしてのDNAにあるのではなく,彼によると「我々はとにかくビジネスとしてのゲーム部門を立脚することから始めなければいけず,そこから成長していくのです。可能性は無限に広がっていると思いますね」とのこと。
Twitchへの対応を考慮すれば,新作を利用してAmazonはe-Sportsへの参入も狙っているのではという疑問も当然ながら浮かんでくる。もちろん,まったく土台がない状態で生み出したゲームを人気のe-Sports種目にするというのは,実際にプレイヤーが競技者として興味を示さない限りはほとんどのメーカーでは不可能なことである。しかし,コミュニティを大切にしつつライブ動画の配信にフォーカスしているのであれば,その可能性もなくはないだろう。
これについては,「我々はe-Sportsについていろいろと研究しておりますし,実際にBreakawayをプロゲーマーにプレイしてもらうことでさまざまなフィードバックをゲームシステムに活かしており,対戦ゲームとしてすでに良いバランスになりつつあると思います。このようにEスポーツ市場や機会については真剣に考えてますが,しかしながら,やはりゲーマーコミュニティが対戦ゲームとして利用してくれるかどうかに限るのです。e-Sportsについては我々も重視してはいるのですが,プレイヤーたちが対戦し合ってくれるような愛すべきゲーム作りに専念するしかありません」とGilmore氏は話した。
「Breakawayについて言えることは,ゲームの上手なプレイヤーとそれほどではない私のようなプレイヤーのスキルの差は非常に明白に表れ,まるでスポーツをプロとアマが対戦するような結果になることに満足しています,カジュアルゲーマーでもすでに遊んでくれている人からも良い手応えを受けてますし,A,AA,AAAといった異なる段階を用意することで,ゲーマーが上達するにしたがって新しいレベルへと卒業していくような雰囲気になり,自分より低い段階にいるプレイヤーには常勝するようになります。これはEスポーツとしては非常に良いバランスであることを示す前兆であると言え,ゲーム業界でのe-Sports市場の台頭にもしっかりと対応できると思っているのです」
Amazon Game Studiosは,まだ始まったばかりだ。同社の公式サイトの求人案内を見てみると,まだまだ非常にアグレッシブに採用しているのも分かるし,Gilmore氏も「我々は,とてつもないスピードで成長を続けています。開発スタジオだけで二つのオフィスに120人くらいの従業員がおりますが,200人ほどのメンバーがいるLumberyardの開発チームとはライブチームからプラットフォームのサービスチームまで非常に綿密に作業をしております。Amazonはゲームに大きな投資をしているのです」と解説する。
「Breakawayの目的の一つはLumberyardのようなサービスの作り出すパイプの最初の引水となることなのです。ゲーム開発チームは,こうした内部のありとあらゆるサービスやAPIを駆使し,今後コンテンツを生み出す顧客の先鞭となることを意識しています」
数年前にAmazonがDouble Helixを買収して以来,同時期に買収されて統合することとなったReflexive Entertainment,さらにはBlizzard Entertainment,Riot Games,Turtle Rock Studiosなどのメーカーからのメンバー参加で侮れない勢力となりつつあるのは確かだ。しかしながら,Amazonがゲーム産業でも影響力のある帝国になるのかどうかは,ビデオストリーミングやWebサービス,そしてゲームエンジンを含む開発ツールの効果的なバランスの上に成り立っていくはずだ。例えばValveは,すでにゲーム開発よりもSteamプラットフォームの運営を重視しており,Epic Gamesも同様にUnreal Engineの開発に主眼を置くようになっている。「そうしたことは,我々の社内でも皆とよく話し合うことです」と認めるGilmore氏は,「サービスを構築することは製品を構築することとは異なります。サービスであれば運用を初めた後に顧客の反応を見ながら変化を加えていくことができますが,製品であれば事前の開発に多大な時間や資産を割き,顧客に提供する最終的なものとしてさらに創造力を働かせなければなりません。こうしたことはAmazonでも頻繁に議論されます。例えばAppleやGoogleなどと比べてAmazonの素晴らしいことの一つは,顧客の日常にどれだけ関連できるかということなのです。顧客がなくては存在できないビジネスなのです。Amazon Instant Videoのようなサービスを見てみますとTransparentやMan on the High Castleといったメインストリームでは受け入れられないようなドラマシリーズを制作しています。我々は,顧客の欲するコンテンツを作り出すのです」
さらにGilmore氏は続けて,「これまでAmazonがサービスを提供していたものを見ますと,“コンテンツを生み出す顧客”だけでなく,エンドプレイヤーである顧客の理解に努めようと努力してきていることが分かります。BreakawayやAmazon Instant Videoの独自コンテンツにAmazonが投資しているのは,そうした顧客のための制作という全体的な戦略の上にあるわけです。それは,今後も変わることはないでしょう。Lumperyardのようなサービスを提供する企業と,Breakawayのようなコンテンツを提供する企業は,外部から見ると相容れないもののように見えるかもしれませんが,そもそもBreakawayの目的の一つはLumberyardのようなサービスの作り出すパイプラインで最初の引水となることなのです。ゲーム開発チームは,こうした内部のありとあらゆるサービスやAPIを駆使し,今後コンテンツを生み出す顧客の先鞭となることを意識しています。我々は,皆の前に立って動き始めているのです。我々の最大の議題は,エンドプレイヤー向けに素晴らしいコンテンツ,つまり楽しいゲームを作ることにほかなりません」と語った。
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)