モバイルアプリのソフトローンチに潜む10個の落とし穴
モバイルゲームのリリースを計画する際には,多くのデベロッパの皆さんの中には,ソフトローンチ(徐々に発売枠を広げていく手法)を準備していくにあたって予想される問題点ではなく,その製品のことだけを考えている人が多いことと思うが,問題が起こることを回避するためにも,想定されるリスクを理解していくことは非常に重要だ。熟練のモバイル開発会社であっても,この重要な計画期間に間違いを起こさないような抗体があるわけではない。こうしたありがちな問題を回避するためにも,我々が見聞きしたり,実際に身をもって体験した10種の落とし穴を紹介したい。
1. ソフトローンチ時期の決め方
企画時点において最も明白な問いとなるのは,いつソフトローンチを始めるかということだろう。多くのデベロッパは,新しい機能やレベル,ソーシャル性を追加するのに手間取りすぎて,肝心のゲームシステムをファンが十分に楽しめないとか,初動で大きなトラブルを抱えてしまうことになる。
2か月というタイムスケールは,ほぼ完成に近い状態のゲームで,必要なのはバランスやマネタイゼーションの調整のみだと確信できるなら可能かもしれないが,そうでなければ,最低でも4か月から半年といった期間を予定しておくことをお勧めしたい。
我々のアドバイスは,ソフトローンチにおいては最初の15分から20分はゲームプレイにフォーカスさせろということだ。これだけかければ,プレイヤーがゲームを理解し,初日のリテンション(定着率)を確保するために十分だからだ。カジュアルゲーマーにとっては最初の10レベルとか,レースゲームの新車種1台や二つの新コースをアンロックするといった内容で十分であろう。もっとも重要なのは,これはただのテストであり,ここで無駄な開発資金や余力を注ぎ込むことなく,主要な指標を理解しておくいうことなのだ。
もちろん,これはバグだらけの醜いゲームのまま完成されていないゲームをローンチさせろというアドバイスではない。皆さんのゲームからプレイヤーが受けるべき印象は映画と同じで,安っぽいストーリーやスタジオのセットであることが丸分かりな状態のままであってはならないのだ。
2. 目的とプロセスを見失うな
ソフトローンチは,ゲームを作りながらビジネスのイロハを学んでいくという同時進行を可能にすることから,資金的な余力のないスタートアップ企業にとっては典型的なビジネス手法になりつつある。しかし,ローンチの際には必ず,初日,3日め,7日めのリテンションと,ARPU(Average Revenue Per User)つまり,プレイヤー平均の収益を理解し,サポート地域ごとに指標を理解しなければならない。当然ながら,ARPUは例えば香港とトルクメニスタンでは大きく異なるのだ。
開発チームは,ソフトローンチをしたことで発生する多大な作業に対処できるよう準備しておかなけれなならない。データを収集して分析するプロセスを用意し,そこから得た情報を評価する方法を持ち,そしてUIデザイナー,グラフィックスデザイナー,プログラマーたちに余裕を持たせておくことが必要になる。スプリントごとに2週間なりの必要な時間枠を用意しておき,改善すべき指標のみに集中していくのがよいだろう。
3. 非現実的な期間設定に期待するな
多くのデベロッパは,ソフトローンチを2か月間のみにするなど,短い期間に限定している。Woogaの「Jelly Splash」やSupercellの「Clash Royale」のような大作でも短い期間で正式ローンチにこぎ着けることができたのだから,我々のような小さなプロジェクトで不可能なわけがない,と考えてしまうわけだ。しかしながら,こうしたメーカーは社内でも十分なテスティング体制が整っており,専門のプレイヤーリサーチ企業に委託したりしているので,そもそものスタートラインが異なっている。
2か月というタイムスケールは,ほぼ完成に近い状態のゲームで,必要なのはバランスやマネタイゼーションの調整のみだと確信できるなら可能かもしれないが,そうでなければ,最低でも4か月から半年といった期間を予定しておくことをお勧めしたい。
4. プラットフォームとデバイスはどうするか
開発費を削減したくても,最初に最適化すべきプラットフォームとしてiPadを選択することはお勧めしない。Androidのスマートフォンと比べて,その開発コストはインストールベースで最大5倍は変わってしまうこともある。小さなモバイルゲーム市場では,iPadの普及率が悪い国であることも念頭に置いておくとがいいだろう。
最初はAndroidのスマートフォン向けにゲームやアプリをリリースし,そこからiPhoneやiPadへとサポートを広げていくというのが理想的なシナリオである。
5. どこでソフトローンチを行うか
もしパフォーマンスが悪い状態が続くのであれば,ゲームプロジェクトを終了させることも考えなければならない。こうした自己批判的なアプローチについては,Supercellが辿った道筋を思い出すのがよいだろう。
ローンチする国や地域を選ぶ際の戦略の一つは,競合する作品が展開している地域を狙うということだが,それは一方で競合メーカーがなぜその地域を選んだのか,どのような指標に基づいて判断したのかを理解できない。それぞれの市場の規模,期待されるCPI(Cost Per Inquiry/問い合わせ1件あたりから想定される獲得コスト),言語,その地域で好まれるゲームジャンル,そして競合タイトルなどを各自で調査すべきだ。6. 当初のターゲット
スタートアップ企業が最も起こしやすいミスの一つに,ターゲットとすべきプレイヤー層をしっかりと把握していないというものがある。漠然としたプレイヤー層を想定するだけならマーケティングに長けた人でなくてもできるが,ひとたびUAマネージャー(ユーザー獲得責任者)が第1回のキャンペーンの準備に取り掛かるのであれば,その問題は重要な意味を帯びてくる。
自分たちで想定するプレイヤーたちの年齢層,性別,居住地域,興味,性格,ゲームジャンル,もしくはデスクトップやモバイルゲーム市場での好みの作品といったことを調査しておくべきだ。私個人としては,Facebook IQ(外部リンク: <https://insights.fb.com/2014/12/18/the-many-lives-of-gamers/>)のようにゲームのプロフィールを作ることをお勧めしたい。広報キャンペーンのマネージャーにとって,ターゲットとなるゲーマー層での実験を行い,そこから最高の情報を引き出すというのはよい基礎を築くためにも大切なことだ。
7. 正しいトラッキング
まるで傷だらけの古いレコード盤のように,我々は何度も何度も,分析におけるセットアップの間違いや属性ツールの不足による問題の発生を見てきた。正しいデータの収集は,時には何週間もの時間を必要とし,ソフトローンチのスタートを遅らせる原因にもなる。
正しいモバイル用分析ツールを見つけ出し,重要なトラッキングポイントのセットアップを行い,属性ツールと支払い認証システムを統合ておこう。これらをサンドボックスのシミュレーションや社内の数少ないテスターによる調整ではなく,現実的なトラフィックでテストすべきだ。
8. 運用費の無駄使い
数か月にわたってソフトローンチを行い,徐々にプレイヤー層を増やしていくにはそれなりの費用がかかってくる。とはいえ,多くのデベロッパは必要以上に運用費を掛けているようだ。必要なデータを採取するのに最低限必要な資金は5000ドルから1万ドル程度と見ておくべきだろう。より多くのサンプルが収益性の悪さを補えるのではないかと,さらに多くのプレイヤーを獲得しようとしたり,リテンションやユーザーインタフェースの問題点を克服する前に,より大きな市場へと参入しようと多大な資金を使ってしまうこともよくある。
一つ一つのステップをしっかりと踏んでいくよう心掛け,基本的なゲームプレイを改良しないまま新しいフィーチャーを加えるといったことは避けるべきだ。収集したデータの内容は,その正確性については何度がチェックしながらも信用することを心がけ,自分と自分のチームに100%正直なデータ分析を届ける。もしパフォーマンスが悪い状態が続くのであれば,ゲームプロジェクトを終了させることも考えなければならない。こうした自己批判的なアプローチについては,Supercellが辿った道筋を思い出すのがよいだろう。
9. サイレント・ローンチに対する期待感
モバイルゲーム市場のストアはすでに非常に混雑したショッピングモールのようなもので,あなたのゲームは一番下の棚に隠されて置かれているマッチ箱のような存在であることを念頭に置いておくべきだ。
我々は,それほどのサポートを行うことなく,より多くの国や地域でローンチすることにより,少しでも多くのオーガニックなトラフィックを得ようというストラテジーを何度か見てきた。このストラテジーの最大の理由は,「より多くのトラフィックが得られるから」というものだが,実際にはそのようなことは起きない。モバイルゲーム市場のストアはすでに非常に混雑したショッピングモールのようなもので,あなたのゲームは一番下の棚に隠されて置かれているマッチ箱のような存在であることを念頭に置いておくべきだ。ソフトローンチに関しては,自分たちの手でアクティブにサポートをできる3つから8つほどの市場に絞ってサービスを行うことがよいと思われる。とてつもないトラフィックを得るというミラクルを期待して,世界中の地域に一気にローンチして,そこにある機会を潰してしまわないように注意したい。
10. いつ,どこでグローバルローンチを行うべきか
十分な大きな市場向けにオプティマイズされたCPIを見つけることにより,そのゲームアプリが生み出すことのできるLTV(Life-Time Value/顧客生涯価値)の最低ラインを把握できるはずだ。ひとたびそのプロジェクトに採算性のあるLTVが見込めるようになれば,グローバルローンチへとさらに1歩近付くことになる。また,すでに運用されているゲームサービスを獲得しようという十分な買収資金を持つパブリッシャがそう多くないのも現実なので,自分たちがどの地域を足場にゲームのサポートを行っていくのかも考えておくべきだろう。AppleやGoogleでの最終審査に6週間,そしてメディアにレビュー記事を書いてもらうために必要な広報期間は3週間程度と見積もっておこう。
追記. マーケティング戦略をテスティングすることもお忘れなく!
ソフトローンチは,マーケティング戦略をテストする場としても重要であることも覚えておいてほしい。ターゲット層で実験を繰り返し,メッセージの頻度やクリエイティブな挑戦,複数のアドネットワークとの連携を試してみよう。プレイヤーたちとの対話を改善するために耳を傾け,グローバルローンチに際して助力になる潜在的なプレイヤー層へのアピールを行っておくべきだ。
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)