Microsoftの「ID@Xbox」が日本のインディーズに求愛中

Xboxプラットフォームの商業的成果がないにも関わらず,Microsoft GamesのChris Charla氏は日本の独立系デベロッパの発掘に熱心だ。

 MicrosoftのID@Xboxデベロッパーズプログラムのディレクターとして,同プラットフォームの素晴らしさを開発者たちに伝えるために世界中を飛び回りながら,有能な才能を掘り出すこともChris Charla氏の任務の一つである。そんな彼が,今夏に日本で開催されていたBitSummitで講演した。Xbox Oneは,Xbox 360以上に日本のゲーム市場で足場を作ることに失敗しており,実際に彼がID@Xboxについて熱弁していたカンファレンスルームでは,それに聞き入る観衆の数はほかのどんな講演よりも少なかったほどだ。

 このようなXboxの講演に対する冷ややかな対応にも,Charla氏はまったく怯むことはない様子だった。毎年大きくなっていくBitSummitという独立系開発者たちの祭典に歓喜しながら,Xboxが日本でぶち当たっている商業的な困難をモノともせずに,同プラットフォームでの機会を求めているデベロッパたちに向かってアピールしていた。

「初めにグローバルな規模でのチャンスについて話し始めると,“うーん,日本だけでしか売れないようなゲームですから”というような反応をされるのです」

 「ここに集まったクリエイターの皆さんにお話ししたいのは,ワールドワイドでのチャンスについてです。1回の提出によって世界中でゲームを販売できるという我々の仕組みと,大きな市場である北米などへも一気に出荷できるという魅力について紹介します」とCharla氏は語った。

 ローカルの観衆だけにターゲットを絞り込んでいるデベロッパにとっての障害は,自分たちの作品をより多くのゲーマーたちに見せるという機会を失っていることだ。Charla氏は,「インディーズでゲームを開発している人は,まず自分自身のためにゲームを作ろうとする傾向にあり,自分の身の回りでしか考えていない傾向にあります。ですから,初めにグローバルな規模での機会について話し始めると,「うーん,日本だけでしか売れないようなゲームですから」というような反応をされるのですね。しかし,私たちは,例えばJRPGのゲームというのは,日本だけでなく北米でも大変に人気があるもので,非常に受け入れられているゲームジャンルであるということをしっかりと説明し,彼らにより大きなチャンスがあることを知ってもらわなけれなばならないのです」と続ける。

 日本の独立系デベロッパにとって,世界に打って出る際の大きな障壁になるのは,技術的な問題でもクリエイティビティの問題でもなく,言語であるとCharla氏は言う。「もしデベロッパが英語に堪能ではないのであれば,それはもちろん障壁になり得ます。そのために,我々は日本向けのID@Xboxサポートチームを置いているのであり,日本の地に足を置き,日本語で皆さんをローカライジングの過程などでお助けするシステムは整っているのです」とCharla氏が念を押すように,このアプローチが「QUBE」や「リバーシクエスト」,そしてなにより「悪魔城ドラキュラ」のクリエイターである五十嵐孝司の手掛ける「Bloodstained: Ritual of the Night」のような日本のゲーム開発チームをXboxプラットフォームに惹きつけてきたのである。

 Windows 10プラットフォームの一つのコンポーネントとして捉えられるXboxの継続的な進化は,ID@Xboxにも影響を及ぼしており,Xbox Live機能をWindows 10に加えたいというデベロッパ向けのサポートも,Microsoftは盛んに行っている。このことは,Xbox Oneの市場は小さくても,PCゲーム市場としての開拓の余地を残している日本においては大きな魅力になりえるはずだ。「もちろんWindows 10のID@Xboxについては,我々がデベロッパの皆さんに常にお話ししていることです」と言うCharla氏は,「とくにデベロッパの中にもその利点や,どのようにソーシャル性などの仕組みをゲームに生かせるのかを良く理解されておられない人もいます」と続けた。

「ゲームに対する熱心な態度は,ID@Xboxチームだけでなく,Microsoftの雇用者すべてに言えることだと思います。Phil Sponsorが我々にメールを寄越してくることもありますし,Excelのソフトウェアエンジニアが自分の友人が作っているゲームプロジェクトが面白そうなんで見てほしい,なんて言ってきたこともありました」

 Charla氏や,そのほかのID@XboxのチームメンバーがBitSummitのようなインディーズイベントに参加するとき,それは自分たちのサービスについての広報活動として壇上に上がるためだけではなく,ショーフロアを歩き回りながらデベロッパたちと接触を図るのも大きな目的の一つであり,Charla氏自身もそのことを非常に楽しみにしているようだ。
 BitSummitのフロアで彼が見た作品の中で最も印象的だったというのが,科学的な発見の時代をテーマにした「Principia: Master of Science」という作品であったという。「デモではアイザック・ニュートンとしてプレイしたのですが,光の反射に関する発見をしたら,それを論文に書き,王室研究所に提出したりするのです。そのことで有名度のメーカーが伸びていき,やがては王室研究所に雇用されるという流れになっていたと思うのですけど,それってとても面白いアイデアですよね。それを見ていて,本当に感嘆したのです」というCharla氏だが,そうしたゲームに対する彼の熱心すぎるほどの姿勢が,ゲームデベロッパたちにプラットフォームへの参加を促す結果になっているのだろう。ただし,Charla氏は,その熱心さは彼のものだけでなく,ID@Xboxチーム,そしてMicrosoft全体に見られるものだと説く。

 「このプログラムに参加するすべてのメンバーが,方々に出かけてプロジェクトをチェックし,ID@Xboxプログラムにゲームを持ってこようと熱心に動きます。私ではなければ,我々のデータベースアーキテクトであるKaren Mitchellがよくイベントに参加して独立系の作品を引っ張ってきますね。彼女はE3をはじめとしたさまざまなイベントに顔を出しますし,シアトル地域のデベロッパたちの会合にも参加しています。よく新しいゲームを見つけてきては,それをチェックするように言ってくるんですよ。こういうゲームに対する熱心な態度は,ID@Xboxチームだけでなく,Microsoftの雇用者すべてに言えることだと思います。Phil Sponsorが我々にメールを寄越してくることもありますし,Excelのソフトウェアエンジニアが自分の友人が作っているゲームプロジェクトが面白そうなんで見てほしい,なんて言ってきたこともありました。Microsoftの従業員の多くがID@Xboxに興味のありそうなゲームデベロッパたちにプログラムについての話を持ち掛けてくれているのです」

 このような,企業総出で才能のある新しいゲームデベロッパを探し出してコンタクトを取ろうというようなアプローチは,ほんの数年前までは考えられないことであった。その当時と言えば,デベロッパ側がパブリッシャやプラットフォームを歩いて回り,自分たちのアイデアを説明して興味を持ってもらおうとしていたものだ。それが今では,Microsoftばかりでなくソニーや任天堂も世界中にスタッフを送り出し,有能な才能を発掘しようとゲームショーや開発者イベントに参加するようになったのだ。

 「今日の会場で溝口哲也さんと話したのが,ちょうどそのことだったのです。彼とは20年ほどの知縁なのですが,現状がどのように変化したのかを話し合いましたね」というCharla氏は,「今の現状は,昔と比べて本当に良くなりました。勘違いしないでくださいよ。今でも,自分たちでパブリッシャやプラットフォームホールダーを歩き回って自分たちのアイデアを語り,提携を交わして成功作を生み出すというような例はいくつもあります。しかし,我々のほうから素晴らしいプロジェクトを自分のプラットフォーム向けにリリースしようと探し求めるというのは,ゲームデベロッパにとっては素晴らしいことだと思うのす」と続ける。

 また,「昔のやり方は,あまり良いビジネスモデルではなかったのです」というCharla氏は,「私がゲームデベロッパだった時代は,コンシューマ機向けの開発キットを入手するのに1年ほど前から動き回らなければならないこともありました。我々はPCと携帯ゲーム機向けのゲームを作っていましたが,携帯ゲーム機は開発キットがなければ何もできない状態だったのです。それが今では,開発キットは無料で配られます。プラットフォームホールダー側の私の今の観点から申しますと,個人的には私がもっと貪欲に動き,自分たちの求めているものを探して回らないなら,私は自分の職責を遂行しているとは思いません。もっと能動的にプラットフォーム向けのゲームを求めなければならないのです。もし,以前のような座って待つだけの職分であれば,それは随分と退屈でしょうし,そのやり方が正しいとは思えませんね」と話した。

 もちろんゲームを探して回るだけが,ID@Xboxチームの仕事のすべてではない。日本のようなローカルテリトリーでサポートチームが活動するのに加えて,Charla氏は,Xbox向けにゲームを開発するプロセスがゲームクリエイターにとってどれだけ円滑に進められるのかに多くの時間が割かれていることを強調し,「それは非常に大変な作業なのですが,表に出ないID@Xboxの多くの作業は,例えばゲームデベロッパがどれだけMicrosoftとのメールのやり取りを少なくしつつ,データベースを改善していくかに集約しています。この部分の改善をすればするほど,デベロッパたちの無駄な時間を節約し,その結果として我々との対話の時間が増えることになるのです」と説明を続ける。

「Xbox Oneを起動してもらったプレイヤーには,そこに可能な限り素晴らしいラインアップが揃っていることを見ていただきたいのです。それを実現する唯一の方法は,このプラットフォームへのデベロッパの参加をよりたやすいものにすることです」

 このようなデベロッパとの対話というのは,ID@Xboxプログラムの中でも最も価値のある活動の一つかもしれない。壇上において,Charla氏はXboxチームと直接的に話し合うことにより,プロモーションの機会であるとか最も有効的なローンチのタイミングについての情報交換するチャンスが生まれやすくなると話していたが,これは提出書類を作成するためのデータベースを読み漁るだけでは決して得ることはできない情報であり,AppleのAppストアやGoogleのGoogle Playのようなプラットフォームとは一線を記す。「我々は書類やツールの改善を改善することにより,デベロッパに不必要な問題を起こさせないように努力しています」と壇上で語るCharla氏は,「その代わりに,デベロッパは我々と彼らのプロジェクトに関する,より意義のあることについて語り合える時間ができるのです」と念を押した。

 小さなパブリッシャや独立系のデベロッパとの円滑な連携を改善するというのはMicrosoftに限ったことではなく,ソニーや任天堂も自分たちのプラットフォームがデベロッパにより魅力のあるものにしようと努力しているが,多くのデベロッパはコンシューマ機については,より開かれたプラットフォームになることを求めている。しかし,Xboxにとっては,ID@Xboxプログラムは,ほかにはない価値を生み出す潜在性を秘めており,Xboxプラットフォームが商業的に確立できない日本というゲーム市場において,徐々に発展しつつあるPCベースの独立系ゲームシーンにアピールすることもできるのである。Chris Charla氏やXboxチームにとって,日本のイベントに出席することは,アメリカやヨーロッパのゲームイベントに比べて険しい坂を歩いていくような困難さであるが,日本のゲームデベロッパの素晴らしいプロジェクトを少しでも勧誘できることができれば,それは立ち向かうのに価値のある困難でもあるのだ。

 「我々の考えの基本にあるのは,プレイヤーのことを考えることにあります。Xbox Oneを起動してもらったプレイヤーには,そこに可能な限り素晴らしいラインアップが揃っていることを見ていただきたいのです。それを実現する唯一の方法は,このプラットフォームへのデベロッパの参加をより容やすいものにすることです。それがID@Xboxの目標で,デベロッパとのさらなる協力関係を築いていきたいのです。彼らを手助けすることでプラットフォームに良いゲームが集まるのであり,それが我々のプレイヤーにとって良いことなのですから」とCharla氏は締めくくった。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら