EA「我々の業界は,何をすれば成功できるのかを理解し始めている」

過去のリスクを今負うことはない,とPatrick Soderlund氏は語るが,それにはゲーマーたちが何を欲しているかをより明確に理解することが必要となる。

 私のPatrick Soderlund氏(Executive Vice President, EA Studios)との会合は工事現場で行われた。gamescom 2016が正式に開催する直前のビジネスエリアにあったElectronic Artsブースはまだ作りかけでハンマーの音が鳴り響いていた。Soderlund氏はそんなことにお構いなく,とても落ち着いた様子で「Battlefield 1」「Titanfall 2」,そして「FIFA 2017」といった,ひょっとしたらこのヨーロッパ最大のゲームイベントの中でも最も強力なラインアップを発表するための,プレスカンファレンスの最後の調整を行っているところだった。

 家庭用ゲーム機市場の空間において,AAAタイトル市場の状況は常に変化するのは避けられない。Xbox 360やPlayStation 3がローンチされてから3年経った頃は,EAは「Army of Two」「Dead Space」「Mirror’s Edge」「Dragon Age: Origins」「Spore」といった新しいIPを次々と発表していた。今回のインタビューにおいてSoderlund氏には,なぜAAAタイトルの開発現場に見られる変化がゲーマーたちにとって良いものなのか,EAがどんな新作を構想しているのか。そして独立系デベロッパをサポートすることの重要性などについて語ってもらった。

Q:
 FIFA 17は,ほかのEAの多くのタイトルと同様に「Frostbite」ゲームエンジンが採用されています。Frostbiteは,異なるゲームジャンルの開発をサポートできるだけの順応性を持っているのでしょうか? ゲームエンジンの限界が,ゲームの限界になるとも考えられるのですが?

PS:
 そうお考えになられるのは当然ですが,今日のFrostbiteは“一つのゲームエンジン”というわけではないのです。レンダリングなど最低限必要なものを処理するための一つのゲームエンジンを基礎にしていますが,それぞれの開発チームが自分たちの開発環境に合わせるために。大幅にカスタマイズさせているのです。そうしたカスタマイズ部分を,Frostbiteのメイン開発チームがゲームエンジンに正式に移植させるという手順になっています。

「新しいコンシューマ機が登場しても我々は恐れたりはしません。むしろワクワクしますね」

 数年前までは,CGシネマティックスを作成するための良いツールがありませんでしたが,「Dragon Age: Inquisition」を開発していたBioWareがストーリー性の強いゲームの物語の表現を可能にするの非常に有効なツールを作り上げました。それが正式にFrostbiteに採用されており,「FIFA 17」のストーリーモードである「The Journey」 に一役買っているのです。もちろん,このゲームエンジンが何でも対処できるというわけではありません。すべてのゲーム開発は,最初は何かから手を付ける必要がありますが,我社にはFrostbiteというゲームエンジンがありますから,利用できるようであれば利用し,必要なものは書き加えたり,書き換えるといった作業を行うわけです。

Q:
 Frostbiteエンジンは,新しいコンシューマ機とウワサされる「Xbox Scorpio」や「PlayStation Neo」にも十分に対処できるのでしょうか?

PS:
 昨今のコンシューマ機というものは,ある意味,PCをベースにしたアーキテクチャですので,それほど対応が難しくなることはありません。すでに4K解像度に対応したゲームも出てきていますが,Direct X12のサポートを含め,そうしたことはFrostbiteでも十分にスケールアップもしくはスケールダウンさせることは可能なのです。実際のところ,スケールアップのほうが下方互換よりも簡単ですね。

 MicrosoftやSonyが新しいコンシューマ機を開発中であるということは,消費者にとってもゲームクリエイターたちにとっても非常に良いことだと思いますが,少なくとも我々開発の側にとっては,変化に対応していくことはチャレンジだと思っておりません。我々はテクノロジーオタクであり,こうした新しい変化があるとヤル気にさせられるのでしょうね。

Q:
 EAにとってのFrostbiteの役割を考えた場合,かなり先のことまですでに計画されているということでしょうか?

PS:
 すべては,我々がどのようなアーキテクチャを選ぶのかというところから始まるものなのです。もしスケーラブルにしたいのなら,孤立したシステムやクローズドなシステムよりは,モジュール型になるでしょう。
 Frostbiteというゲームエンジンは,モジュラーシステムを採用しており,好きなパーツを選んで採用したり,除外したりすることができます。ですから,新しいコンシューマ機が登場しても我々は恐れません。むしろワクワクするくらいです。


Q:
 前世代のゲーム機において,ちょうどハードウェアがリリースされて3年目くらいのことは,EAは,「Mirror’s Edge」や「Dead Space」「Dragon Age」,それから「Army of Two」といった新しいIPを次々と市場に投入していました。ここしばらく,EAはより少ないゲームをリリースするようになっていますが,これはモジュラー型のゲームエンジンを主力にした結果としての変化でしょうか?

PS:
 その質問に対しては二つのことが考えられますね。テクノロジーそのものとは異なる議論であると思います。一般的に言って,我々の業界においては,開発コストが上がったために少ないタイトルに集約しなければならなかったという現実があります。それと同時に,我々EAについては,外からはgamescomのラインアップをご覧になられた人には,少ない作品に絞り込んでいると誤解されているのかもしれません。我々の雇用者の多くが新しいIPを開発中ですが,現在のところはお見せできていないというわけです。

 私にとって,テクノロジーというものはすべてを可能にするものです。一つのゲームエンジンが用意されていれば,プロトタイプを作りやすい環境にあるわけです。アセットという意味では,Frostbiteがこれまで培ってきたデータベースは途方もないものになっていますから,なんらかのコンセプトを映像化しようという内部開発者は,ほかの作品で使われたアセットを借用して簡単にプロトタイプを作ることも可能なのです。まさに開発キットというようなものであり,社内においては非常に役立っています。

Q:
 先ほど,ゲーム開発における問題点を述べられましたよね,開発コストが上がっているという。それは同時に,EAがモットーのように掲げる「Player First」(プレイヤー第一)にも影響を受けたのでしょうか? プレイヤーは,数年ごとにリリースされる新しいIPではなく,一年中プレイできるような大作を求めているのでしょうか?

PS:
 それは正しくもあり間違ってもいます。近年の我々のゲームは,ファンとの密接な協力によって,彼らの要望をしっかりと聞き入れながらゲームを制作されています。つまりは,より多くのファンに,少しでも長く我々のゲームを楽しんでもらおうというのが一つのモチベーションになっているわけですね。それがプレイヤー人口を増やしている要因となり,ゲームを成功へと導くのです。

「5000人以上もの人々を雇用しているEAほどの規模の企業になれば,この業界を前に進めていく義務もあります」

 しかし,それと並行して,ゲーム開発,もしくはすべてのエンターテイメントの美点と言ってもよいと思うのですが,人は自分が何を知らないかを知ることはないのです。これはよく考えてみる必要のあることだと思います。我々の存在意義の多くを占める問題でもあるからです。つまり,もし我々がすでにやってきたことだけを続けているとしたら,それは会社が必要とし,人々が真に欲しているものだからです。無理をして未知の世界に飛び込んでいく意味はないのです。その一方で,5000人以上もの人々を雇用しているEAほどの規模の企業になれば,この業界を前に進めていく義務もあります。我々は,常に新しいものを皆さんにご提供することも義務なのです。

Q:
 現存するフランチャイズは,新しいIPとは異なる形で改革していく必要もありますよね。例えば,Battlefield 1はシリーズ続編なのに第一次世界大戦という過去に戻るわけですが,プレイヤーが求めているものと,新しいゲーム要素はどのように線引きしているのでしょうか?

PS:
 第一次世界大戦というのは,あまりにも昔の話で,とくに若い世代はよく分かっていない人が多いのではないかと思います。

Q:
 第一次世界大戦が泥沼化していった悲惨な時期は,ちょうど100年前の今頃でしたね。

PS:
 ええ,もう100年も前なのです。それに多くの人々の印象として,第一次世界大戦というものは白黒の世界であり,泥だらけで雨ばかりが降っていて,塹壕の中を走り回っているような戦争でした。教科書であれ,映画やドキュメンタリー番組であれ,我々は第一次世界大戦について,そう印象付けられているのです。多くの人にとって思いもよらないことで,開発チームが私自身の目を開かせてくれたことが二つありました。一つに,第一次世界大戦というのは,西ヨーロッパの塹壕ばかりではなく,地球規模で行われていた戦争であったということで,ゲーム環境としても非常にバリエーションが豊富だということです。二つめは,戦争が始まった1914年頃は騎馬兵が剣や簡素なライフル銃を持って戦っていましたが,終盤に差し掛かる1918年にもなると,戦車から爆撃機,潜水艦までが各地に実戦配備されていたということなのです。

 この時代のテクノロジーというのは,人類の歴史の中でも最も急速に進化していたのだと思いますが,これって本当に興味深いことですよね。Battlefield 1では,ゲームで目にするものは,大なり小なり,あの時代では実際に使われていたものなのです。広範囲で利用されていたものではないにせよ,なるべく歴史に基づいたゲームの時代設定をしようと心がけているんです。

Q:
 しかし,多くのゲーマーの間で広く認知されている第二次世界大戦のように,適格な悪役が存在していたというわけではありませんよね。第一次世界大戦では善悪の境界線が不明瞭であったように考えますが。

PS:
 我々は常に,戦争や紛争はそのままの状態でゲーム化しようと心掛けております。ドイツ軍が悪者だったとか,実は悪くはなかったというような判断をゲームでしているつもりはありません。戦地で死んだ人々には敬意を払いますが,ゲームは非政治的でなければならず,プレイヤーの意見に影響させるべきではありません。政治的な意見をゲームで表現するのではなく,それを人々が自分なりに考えてもらうのがよいと思います。

 これは「Battlefield 1942」から続くアプローチで,当時のオリジナル開発メンバーでよく話し合ったのを思えています。ゲーム開発するうえで,こうした非政治的なスタンスというのは常に細部まで意識しておかなければなりません。その意味では,我々の開発者はうまくやっていると思います。

Q:
 新しいIPという意味で,スター・ウォーズを扱った結果から我々が期待できるものはありますか?

「我々の持ついくつかのIPは,今日の市場の動向にうまくマッチしていないものもあります」

PS:
 我々は全社のエコシステムから最高の開発チームを2つ選び,スター・ウォーズに充てることを決めました。彼らはスター・ウォーズ以外の新規IPを作れるかもしれません。しかし,我が社と開発チームにとってのチャンスと,その枠組みの中で作れるものを考えると……,誰もそんなものは作らないでしょう。彼らは十分幸せなのですから。これは非常に重要なことです。もし彼らが幸せで,やる気に満ち,彼らの仕事を完全に楽しんでいるなら,きっと素晴らしい製品が生まれてくるはずですから。

Q:
 「Rogue One」というタイトルで知られる新作スター・ウォーズ映画は,同じ世界観ながらもまったく別の場所のストーリーという設定になっているとのことです。これは,ゲームのストーリーを作り出すうえでもEAに自由を与えるものですか?

PS:
 ええ。本当に良い方向に流れていますね。我々の新作も新しい展開を作り出していくことも可能になるはずです。

 しかし,現実的には,我々はすでにBioWareが新しいIPのタイトルを開発しているということは公言しており,それほど遠くない未来に発表することになると思います。ほかにも新しいIPを開発中のチームもあり,そのあたりはバランスを取りながら運用しています。「バトルフィールド」や「FIFA」「Madden」などの続編が素晴らしい仕上がりになることに精を出す一方,「スター・ウォーズ」のような新作にも投資しています。

 私が言いたいのは,一般的に言って我々のゲーム業界は,何をすれば成功できるのか,何をすれば失敗するのかをよく分析して理解し始めているのです。我々の持ついくつかのIPは,今日の市場の動向にうまくマッチしていないものもあり,そうした分析やファンとのコミュニケーションの中でどのようなプロジェクトを進展させるのか,それとも異なるアプローチを取るべきなのかを判断しやすくなっています。決して,大人数のコミュニティ的なゲーム作りをしているわけではなく,ファンの要望に丸投げしてしまうというのでもなく,実際の市場を形成しているゲーマーたちと常に視線を合わせてゲーム作りしていくことになり,常に方向転換しやすい状態に保っていくことが重要になります。


 だからこそ,我々ゲーム業界は消費者とより密接な関係を築かなければならないのです。ストックホルムでは,最近我々はDICE Studioのために新しい施設となるUX Labsを開業しており,試遊台とカメラを設置してゲーマーたちのスタイルや表情などを記録したり,そのあとで彼らにインタビューする専用のテストルームをオープンしました。どこで詰まってしまうのか,どれほどイライラが募っているのか,何が楽しくて何が面白くないと感じるのか……。こうした,より科学的なアプローチは今後も改良を続けていく予定ですが,もちろんそれで面白いゲームを作れるとは思っていません。

 我々は想像力を逞しくしなければなりませんし,ゲーム市場がどこに向かっていくのかということに責任をもたなければなりませんね。

Q:
 つまり,クリエイティビティと収集したデータが,特定のIPを推進するかどうかを決定するうえでの自信になると?

PS:
 はい。正直に申し上げておくと,それにAAAタイトルを作るだけの資金力を加えて,ですね。ですから,昨今のゲーム市場には,より多くの低予算による独立系のゲーム開発が増えているのだと思います。最近の映画産業も同じパターンが見られます。例えば「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」以前には,低予算の映画を多くの劇場で公開するというのはありえないなことでした。そういうことが,今のゲーム業界でも起こっているのです。独立系ゲームの中には,より注目されて然るべきな作品も多いですよね。それが,EAが新しいイニシアチブである「Originals」をスタートさせた理由でもあるのですが。

Q:
 Originalsでは,EAはかねてから,「このイニシアチブはクリエイターたちに利益を還元するものだ」と話されています。インディーズ開発への投資は利益を得るのが目的ではなく,ラインアップを多様化させるということなのでしょうか?

PS:
 我々がOriginalsで選ぶインディーズ作品は,それがもっと注目されて然るべきであると考えらるものだからです。「Steam」でリリースされるインディーズゲームを見ても,毎日何本もリリースされてますが,何の注目もされることなく消えていくような作品が少なくありません。ほんの一握りが成功して,利益を得ることができているだけなのです。少なくとも,我々のイニシアチブがその中の2〜3本,理想的には10本ほどの手助けとなり,我々の持つパブリッシャとしての経験や広報のノウハウ,プレイヤーへのアウトリーチを生かして成功に導ければと考えています。

 E3 2016で「Fe」をステージ上でアナウンスしたのも,それ以前には「Unravel」をプロデュースしたのも,そういう理由からなのです。今後,より多くのインディーズ作品へのサポートをアナウンスしていくことになると思いますが,ゲーム開発者たちとは50/50で利益を折半していく予定です。

Q:
 EAのような大きな組織の企業が,そうした小さなゲーム開発に参加することに意義はあるのでしょうか?

「たった一人のゲーム開発者が,自分の部屋で次の「グランド・セフト・オート」を構想することだってできるんです」

PS:
 そう思いますね。内部開発チームには,それぞれのプロジェクトに参加しながらも,次の「バトルフィールド」を生み出すことを常に考えてもらっています。続編という意味ではなく,「バトルフィールド」や「タイタンフォール」,もしくはスポーツゲームのようなヒット作のことですね。内部では,そうしたことにフォーカスしてもらい,小さいプロジェクトは外部に任せようという発想なのです。

 これはまた,開発面での人材を確保することにもなります。たった一人のゲーム開発者が,自分の部屋で次の「グランド・セフト・オート」を構想することだってできるんです。このイニシアチブで,そうしたアイデアを知る機会があれば,次のヒット作をサポートするよい機会にもなるわけですから。

Q:
 ですが,“成功”というのは,何を基準に言われているのでしょう? 今年リリースされた「Mirror’s Edge Catalyst」は,これまで何度となく行われたファンに対するレスポンスとして開発が行われたとのことですが,その投資に対するリターンという意味では,はたして同作はプレイヤーが求めているものだったのでしょうか?

PS:
 もちろん,我々はすべてのプロジェクトについて,その採算性を考慮し,十分に開発や投資を回収できるかどうかを考えます。しかし,もしあなたがゲーム開発を行う組織を率いる私の立場にあり,25〜30ものプロジェクトが同時進行している状況ならば,より大きな視点で見ようと思うでしょう。Mirror’s Edge Catalystをラインアップの中に見据えるか,一つのプロジェクトとして見るかで大きく変わっていくものですが,ご質問に答えるのであれば「イエス」でしょう。

 またいつか「ミラーズ・エッジ」の続編を作るかどうかは,今のところお答えすることはできませんが,言えることはプレイヤーの声に我々は常に耳を傾けていく企業であるべきだということで,ファンたちは今のところ,続編の制作を強く要望している状況です。時間はかかるかもしれませんが,そうしたリクエストにはしっかり応えていきたいのです。

 もちろん,それぞれの作品でMetacriticで95点を獲得し,2000万本も売れるような作品になるなら,それに越したことはありません。我々は,何かをするたびにそれが正しい判断であったかどうかを自問しなければならす,未来に向けてどのように変わっていくかを決定しなければいけないのです。良いゲームが売れないことがあります。素晴らしい映画なのに誰も見ていない作品もあるでしょうし,バカバカしくて仕方ないのに皆が見るような映画もあるのです。エンターテイメントというのは,そんなものなのだと思います。

 我々はElectronic Artsです。ゲーム開発に関しては,世界で最も大きな企業の一つであり,我々はAAAタイトルについて,メインストリーム市場において,一人でも多くのプレイヤーがゲームをプレイしてくれることを常に考えています。ゲームを我々が提供でき得る最高の品質で提供し,常に新鮮で新しいことをしていく宿命にあるのです。それと同時に,それだけを追求しているわけではないことも知ってもらいたいですね。EAはより大きな視点で見ているのであり,だからこそMirror’s Edge Catalystのような作品が,我々のラインアップにあってもよいわけです。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら