[CEDEC]ゲームの面白さを司る「コントラスト」とは?
CEDEC2日めにあたる8月25日,20年以上の経歴を持つベテラン開発者,大野功二氏の講演「『コントラスト』で考えるゲームデザイン・レベルデザイン」は,そうした根幹問題へのヒントになる濃厚な講演だった。本稿では,そのダイジェストをお届けする。
大野氏は,フリーランスとしてゲームディレクターやプランナーを経て,現在はユニティ・テクノロジーズ・ジャパンにて業務を行っている。昨年のCEDEC 2015では,大野氏の著書である「3Dゲームをおもしろくする技術」がCEDEC著述賞を受賞するなど,ゲーム開発における知見の共有活動に精力的な人物だ。
ゲームデザインの難しさ
人間は二つのものを見たときに,その「コントラスト」の差が大きくないと,それらを同じものとして捉えてしまう。これはゲームのデザインでも同じで,「インパクトがない」というような問題は,実はさまざまな面で「コントラスト」がしっかりできていないから,ということが原因ではないか? というのが大野氏の視点だ。
人は,一定の変化速度で変化していくものは,狭い範囲で見ると気が付かないことがある。逆に,緩急のついた変化がある場合は,人はコントラストを強く感じ,インパクトを与えることができる。映画業界やシナリオではよくある手法で,最大のコントラストをとった終盤の部分を「クライマックス」と位置づけているものだ。
ゲームシステムの面白さの基礎
大野氏はまず,自己流のゲームシステムの要素分解として,「アクション」「パズル」「リソース」「官能性」「運」と分類した。これらの要素が組み合さってゲームシステムは構成されており,ジャンルによってその比重は大きく異なってることを説明した。
また,ゲームには「幅=横軸の面白さ」としてゲームのボリューム,キャラクターやステージの多彩さや,プレイバリューがあるとし,「深さ=縦軸の面白さ」として戦略の組み立ての面白さが存在していると紹介した。
これら2種類の組み合わせで,ゲームの遊びが広がっていくという捉え方だ。
リスクとリターンのコントラスト
シューティングゲームの場合,敵に向かって自機を寄せていかなければ弾は当たらないが,そうすると自分もやられるかもしれない。この場面では,自機を失うリスクと,それを乗り越えれば敵を倒せるというリターンで成立している。
このようなゲームシステムにおけるリスクとリターンはしばしば見られるが,レベルデザインにおいても同様の発想を取り入れることができる。横スクロールゲームならば,プレイヤーが大きい穴を飛び越えるときに,落ちるかもしれないリスクと飛び越えたときの達成感=リターンが成り立っていると考えられる。
そして,レベルデザインのリスクとリターンには,コントラストをつけることでさらに印象深くなる。「スーパーマリオ」にある有名な「Bダッシュ」システムは,使うとジャンプは遠くなるが,キャラクターの制御はしにくくなる。これは大野氏によると,リスクとリターンを最大化する仕掛けになっているのだそうだ。
アクションゲームや格闘ゲームの場合は,よく「ダメージが大きくて出が遅い技」と「ダメージが小さいが出が速い技」のようにバランスを取るものがよくある。この場合はプレイヤーがリスクとリターンを都度選べるため,自由選択型と言える。ほかにも,シューティングゲームの場合に,弾の発射中はプレイヤーの移動が遅くなるなど,プレイヤーが選択することはできず,強制的なリスクとリターンのシステムもある。
また,ありがちなゲーム開発の失敗として,アクションや格闘ゲームで攻撃の種類を作るときに,リスクとリターンのコントラストがよく考えられておらず,破綻していることがある。例えば,強い攻撃なのにスピードの制限が低いなど,リターンと比較してリスク側を弱めてしまうとプレイヤーがその攻撃しか使わなくなったりする状況が挙げられる。
アクションとリアクションのコントラスト
ゲームはアクションとリアクションの応報で成り立っている。「アクション」とは,プレイヤーがゲーム中に関与する行動を起こしたことで,「リアクション」とは,その行動に対してゲーム世界が反応することを示す。アクションのコントラストとして分かりやすいのは攻撃モーションのメリハリだ。「予備動作」「あたり判定発生」「硬直」などの状態遷移をはっきりさせないと,プレイヤーがどこで攻撃判定が出ているのか分からなくなる。複雑な攻撃モーションほどこの基礎を忘れてしまいがちなのだそうだ。
だが大野氏によると,実はアクションよりもリアクションのほうが手応えには重要なのだという。どんなにアクションを作っても,手応えを感じないゲームになっている場合はリアクションがうまく行っていない可能性がある。例えばダメージのリアクションを表現しようと思った場合は,「姿勢」「位置」「エフェクト」「色」といった5つの要素で表現でき,受けた技のダメージでどれくらいのコントラストを出すかを見極めなくてはならない。
リアクションのコントラストが薄いと,ダメージや効果が分からなくなるため,プレイヤーが失敗したときにその原因や理由が見えず,理不尽さを感じてしまう。単純に派手に見せたいゲームでリアクションが小さいと,技が当たった手応えが薄くなってしまう問題もある。ただし,アニメーションにノックバックまで入れる際は,コンボに影響するなど別の調整事項も発生するので注意が必要だ。
では,なんでもコントラストが強ければいいのか? というとそうでもないようで,リアクションのコントラストはゲームのジャンルにも当てはめて考えなくてはならないそうだ。簡単にいえば,ゲームの世界観がリアル寄りか,漫画・アニメ的な記号化されたものかで,バランスの取り方は大きく異なる。
時間のコントラスト
ゲーム内の時間の使い方にもコントラストが存在する。1点めは「ゲームのテンポ」のコントラストだ。「スペースインベーダー」の場合,敵を倒していくと数が減っていくが,だんだん移動速度が速くなってくる。加速度的に増えているわけではないが,1ステージは1分程度で,その間に移動スピードが5倍も変わるため,短期間に大きく変化するという意味でコントラストとして機能しているそうだ。2点めは「アクション速度のコントラスト」だ。これは先ほどのアクションの話と同じものだが,アクションの速度にどのくらいコントラストをつければ,リスクとリターンのバランスが取れるか,という意味合いだ。
パズルにおけるコントラスト
パズルでは,「試行錯誤」と「結果」のコントラストが重要になる。「答えが分かった!」という瞬間の連続性が必要だ。単純な単語の穴埋め問題では,「試行錯誤」と「結果」の変化が1回しかない。しかし,クロスワードパズルのように途中で「結果」が見える瞬間をプレイ中に何度も置くと,気持ちの変化が起きるタイミングの数が何回も起こる。
これはパズルの業界で「解き味」と呼ばれるのだそうで,大野氏によると,プレイヤーが正解に辿り着く前にそれが合っているかどうか,途中途中で結果を見せていくメカニクスが必要だとのことだ。
リソースにおけるコントラスト
リソースのコントラストは,戦術や戦略を作り出すために必要な要素だ。大野氏によると,ゲームにおけるパラメータの強さ,属性を考えていくうえで引っかかりがちな問題として,パラメータ上で数値を2倍にすると,プレイヤーは2倍強くなるか? という初歩的な問いがあるそうだ。
実際に2倍でテストプレイをすると,プレイヤーが実際に感じる強さは2倍にはならない。つまり,ゲームの中のパラメータはプレイヤーの感覚と比例しないことがほとんどなのだそうだ。
解決方法としては,先にゲームの進行に合わせたエモーショナル・デザインを行ったうえで調整するべし,とのことだ。これは,プレイヤーの感情のコントラストを先に計画しておき,それから逆算してパラメータを作っていくものだ。無意識に「数値を2倍にしてるからプレイヤーも2倍に感じるだろう」という見通しは甘い。
ゲームのパラメータとしては,単純な「強さ」から「炎」「氷」などの属性をつけ,それに明暗のコントラストとして「強い炎」などを作っていくことが基本パターンだ。
ただし,3すくみ式パラメータには落とし穴もある。実際にプレイしてみたときに偏りが出ており,いくら強さの強弱を調整しても改善されないことがある。こうした場合は間違いなく属性のコントラストが効いてない状況になっているため,個々の強さではなく,属性の3すくみ側に偏りがあることを認識できるかが,そのゲームが素早く改善できるかどうかの分かれ目となる。属性が本当に3すくみになっているどうかは,初期の仕様段階でExcelなどのうえで確認するか,プロトタイプを作って試してみるしかないとのことだ。
成長のコントラスト
レベルアップの直後などは,強さが急激に上がっているため,コントラストが効いた演出になる。ただし,これはどちらが正解ということはなく,手応えとして強さを階段状に味あわせたいか,「いつのまにか強くなっている」という風に感じさせたいか,というゲームデザインの決定によって考えるべきなのだそうだ。
運のコントラスト
ゲームの面白さを考えるということは,プレイヤーの行動と結果をループさせるゲームサイクルの設計を考えることだ。フィードバックには,チャレンジの成功やアイテムの獲得などのポジティブなフィードバックや,失敗・損失などのネガティブなフィードバックがある。
よく言われる「達成感」とは,このゲームサイクルを何回も繰り返してポジティブなフィードバックを得ることと言い換えることができる。この状態は,心理学の専門用語で「自己効力感」というそうだ。
先ほど,運まかせのサイコロゲームなのに「自己効力感」が働く例について紹介されたが,この理由は,人間が過去の事象を予測可能に思うことがある「認知バイアス」を持っているからなのだという。何回もチャレンジをしてから結果を出すと,自分でその結果を引き出したような錯覚がもたらされるそうだ。
すなわち,ネガティブなフィードバックを適量散りばめることによって,ポジティブなフィードバックを目立たせることが可能になる。「成功」と「失敗」のコントラストを効かせて認知バイアスの錯覚を呼び起こし,プレイヤーに達成感を与えることができるというわけだ。
しかし,これらはあくまで演出された達成感だ。本来の達成感は,プレイヤー自身が成長したかのように感じられるものでなくてはならないのだという。
ゲームの進行を面白くするコントラスト
ジャンプゲームなどで緊張感と達成感を感じられる瞬感には,単に地形の高さではなく,直前に乗り越えたものとの「差で見る」ことが重要だ。一つ前のチャレンジより差が大きくコントラストがとられていると,達成感を味合わせることができるのだという。
これは敵の出現数も同じだ。単純に数をだんだんと増やしていくだけでは難度の変化量は横ばいになる。一方で,いったん敵の出現量をクールダウンしたうえでわっと増やすと,変化量に起伏が出てそのほうが面白く感じる。よく「ウェーブ」と呼ばれる演出がこれにあてはまる。
ゲームにおける緊張感とは,プレイヤーが失敗をしてしまったとき,それまで行ってきた労力が失われてしまうことや,成功確率が低い場合に起きる。また,前述した「後知恵バイアス」が働かない状況ならば,さらにプレイヤーは追い込まれる。ゲームの勝敗が次の行動によって1回で決着する,という場合はかなり緊張するだろうとのことだ。
レベルデザインにおける物語のコントラスト
最近よく耳にする「ナラティブ」という言葉だが,大野氏によれば “プレイヤーの主体的な行動や思考によって「共感」を誘発する物語体験” であると定義している。ゲーム内でのプレイヤーの行動によって,感情の共感が起きる仕組みだ。
レベルデザインのコントラストがよく分かる例として,「風ノ旅ビト」では先に物語の進行におけるプレイヤーの感情の進行(エモーショナル・デザイン)を作っておいて,その後に地形やギミックを作っていたのだそうだ。地形の高さやステージの色,音楽のコントラストを,「物語の曲線」に合わせて設計してから実際のゲームプレイの開発に入ったのだという。
物語が盛り上がるところで上昇の表現があり,盛り下がりたいところで下降することはアニメなどでも常套手段だそうだ。「地形の高さで演出する」というのは誰がやっても効果が出るため,おすすめの手法だという。
また,よく物語の構成で「三幕構成」の話が出てくるが,大野氏はそれよりも重要な物語のポイントとして「ショック」「ギャップ」「ツイスト」「クライマックス」の四つの考え方を紹介した。ホラー映画,アクション映画などではよく出てくるものだ。
「ショック」は,初めに怖いシーンをドンと出して,観客を注目させる。これによって,最初の段階でコントラストを上げ,その後に落ち着く「ギャップ」フェーズでテンションを落としながら,物語が転換する「ツイスト」を挟む。この3セットを繰り返してから「クライマックス」へ導いていく。三幕構成よりも,この4点をどのように配分するかでゲームの面白さは大きく変わっていくという。
さらに,あまり注目されていない要素として「物語展開速度のコントラスト」という要素があるそうだ。これは,物語が上下する場面のテンポを調整して,速度にコントラストをつけることでより強調される考え方だ。
ゲームの場合,主人公のアクションの速度や高さの変動のコントラストでも演出できる。
ありがちな演出としては,大きなバトルの前の静かな部屋とセーブポイントという演出があるが,まったく考え方は同じだ。無意識にやっている人もいるだろうが,理論として理解しておくとより表現の幅が広がるそうだ。
これらの作り方は絶対のセオリーではなく,あえて外した作り方にすることもときにはあったほうがいい。また,テンポに関わるものは時代にあったはやりがあるのだそうだ。
映画的手法と演劇的手法
よく「映画を参考にしましょう」といわれるが,映画は場面転換が多くて,アセット数が多いシナリオになっているため,その手法を真似しようとすると,自然とアセット数を多くしなくてはならない。海外の開発スタジオで映画の真似ができてしまうのは,アセット数を多く作って使えるからという大前提があるからだ。
代わりに演劇の場合は,物理的制限で場面展開が少ないため,ローコストで作る場合は演劇的手法を参考にしたほうが楽な場合があるそうだ。大野氏は,そのうちの1例として,場面構成におけるプライベートとパブリックという概念を紹介した。プライベートは仲のよい人同士で,パブリックは公共の場,セミパブリックはその中間に位置する。
大野氏によれば「セミパブリックな状況のほうが,ドラマが起きやすい」のだそうだ。例としては,エレベータというパブリックな場面から,エレベータが非常停止して閉じ込められる,という段階でセミパブリックな環境になった場合だ。こうすると,情報があるキャラクターと情報がないキャラクターが存在することになり,物語の展開が自然になる。キャラクターとシチュエーションの対比による効果だ。
クリエイターとプレイヤーの「個性」のコントラスト
大野氏の持論として,キャラクターの対比では,似た個性の馴れ合いが「会話」で,違う個性のぶつかり合いが「対話」に相当すると考えているそうだ。そして,ゲームクリエイターとプレイヤーが,ゲームを通じて個性をぶつけ合うのも「対話」のほうが良いと考えているという。大野氏は,それらの個性の差が生み出すコントラストが,ゲームの面白さの根幹を生み出しているのではないかと問いかけて講演を終えた。