[CEDEC 2016]UIデザインの品質を効率的に向上させるため,グリーが行ってきた「UI Discussion」

 CEDEC 2016の初日である2016年8月24日,「UI Discussionのススメ -UIデザインの品質を効率的に向上させるには -」と題された講演が行われた。
 この講演では,グリーの長﨑二郎氏が,2015年6月から行ってきたUI Discussionという試みとその成果を語ってくれた。

グリー ライトフライヤースタジオ NTプロダクション所属 長﨑二郎氏
[CEDEC 2016]UIデザインの品質を効率的に向上させるため,グリーが行ってきた「UI Discussion」


UIデザインにおける「注力ポイント」


 現在,アートグループのシニアマネージャーとしてメンバーの取りまとめ,UI・UXチームのマネージャーとしてゲームUI関係の業務を担当している長﨑氏。まず,「UIデザインに関わっている人はいるのか?」「毎日大変だな,と思っている人は?」と問いかけたあと,挙手した数十人の人々を前に,UIデザインというポジションが仕様の変更を受けやすいところであり,かつ作るものの数が多いと,本題に切り込んでいった。「注意すべきことが多いと,あれもこれもがんばってしまい,結果,消耗してしまうでしょう。あれこれ作っては考え,意見をすり合わせていったが,1日終わってみると何も作れていない」,実際の開発現場ではそんなことがよくあったという。

 そこで,ただ闇雲に改善していくのではなく,「注力ポイント」を定めて効率よくUIの品質を高めていきたいと思って始めたのが,今回紹介するUI Discussionだという。これは,UIの効果的な改善ポイントを明確化し,他社と自社ゲームの品質差の認識,改善思考力の強化を目的とした会議だ。簡単にいうと,既出ゲームのUIデザインについてレビューし,良い所,悪い所の傾向を知ろうという試みのようだ。
 その注力ポイントを洗い出しする方法は,「とにかく人がゲームをたくさんプレイしている様子を観察し,その人々がUIのどこを気にしているかの傾向を導き出す」という物量作戦となる。当初,社外の調査会社に頼めばいいと考えたが,それでは情報のみがフィードバックされ,社内メンバーの知見の蓄積にはつながらないということで,社内で実施することにしたという。

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 次に長﨑氏は,このUI Discussionを具体的にどう実施していったのかの流れ,それぞれの詳細に言及していった。
 調査するタイトルは,無作為に抽出するのではなく品質の高いものを選定。やはり,高品質なゲームから学ぶことはあるだろうということのようだ。ほかには,蓄積する知識を偏らせないために,レビューするゲームのジャンルに偏りがないようにし,その時期のトレンドのタイトルをピックアップする意味で,ランキングの上位タイトルをレビューしていったようだ。

 メンバーがプレイしたあとは,UIの「Good」「Bad」としてそれぞれに感想を記入。「Good」であれば,良かった所とその理由,「Bad」であれば,よくなかった場所とその理由に加えて,どうすれば改善できるかまで考えさせたという。
 そして,そのコメント群を一つのリストにまとめて,「演出・音・アニメ」「アート・世界観」「使い易さ」「見易さ」「解り易さ」「統一性」「仕様」の7つの分類にコメントを振り分けて集計する。これにより,UIデザインにおける「注力ポイント」をより明確にできたという。なお,この分類は,メンバーがただ良い悪いをコメントするだけでなく,一つ一つの事象を網羅的に捉えられるようにするために,UI Discussionテスト運用時に長﨑氏が独自に考えて設定したものだそうだ。

 分類・集計まで終えたらメンバーによるディスカッションを実施。ベテランスタッフからジュニアスタッフまで,同じ空間で集計された結果,UIの良し悪しを話し合うことで,スタッフ同士の目線や価値観の統一,さらに育成にもつなげることができたという。ディスカッションの成果としては,目的としていたUIデザインの「注力ポイント」を知るだけでなく,育成面・効率面においてメリットを生み出すことができたようだ。

育成面・効率面での成果。普段ゲーム制作をしていてもゲームを遊ぶことが少なかったメンバーが,他社のゲームに触れることで刺激を受け,メンバーとの統一した価値観を持つことで作業効率もアップしたという
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「Good UI」「Bad UI」の傾向


 続いて今回の試みで集計された結果,「Good UI」「Bad UI」で数が多くコメントされた事象のそれぞれ上位10個を紹介。まずは,UIを作成するときには気をつけておきたい事例「Bad UI」だ。

 ここで一番多く集めていたコメントが,「演出・音・アニメ」に分類される「UIの演出不足・演出過多により,ユーザーの感情を高めていない」というもの。
 これは,苦労してボスを倒した後や,ガチャで滅多に手に入らないものを入手した時の演出が物足りず,プレイへのモチベーションが上がらなかった,逆に常に手に入るようなアイテムでも過剰な演出を見せられてげんなり,といったもの。演出次第でプレイヤーへの印象がガラリと変わるため,事象に対する適切な演出を心がける必要があるということだ。

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 次にコメント多く集めていたのが,「見易さ」に分類される「UIの文字の可読性が低い」というもの。とにかくパッと見て何が書いてあるか分かることが大事ということだが,これが上位に来るということは,いかにプレイヤーが文字を認識する行為を重要視しているかが分かる。

 続いては,実際にプレイヤーが手に触って感じる不満の数々が出てきた。「使い易さ」の分類からは,「UIパーツの機能が不足しているため使いづらい」「UIが誤操作を招くため使いづらい」というものがあったようだ。例えばメニューを移動するためのボタンが分かりにくかったり,適切な配置でなく使いにくかったりすると,「ほかのゲームで当たり前のように実装している機能がない」となり,使いにくさを感じるようだ。

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 そして,「解り易さ」の分類へのコメントも多い。「UIのビジュアル要素が整理されていない」に始まり,「UIの画面用途や攻略についての説明が不足している」「UIのビジュアルから操作方法や機能が予測できない」「ビジュアルや文言が一般的でない」と,ゲームを遊ぶ為に必要な情報・操作をうまく伝えられていないことによる不満が多いようだ。コメント紹介の最後に長﨑氏は「UIの表面的な課題ではあるが,ユーザーは使い勝手だけでなく,パッと見の絵的なところにも高い質を求めていることが言えるのではないでしょうか」と分析していた。

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 「Bad」コメントの最後に7つの分類の割合が公開された。「解り易さ」「使い易さ」だけで半分を超えており,この結果から「品質の低いUIデザインを抱えているのなら,とにかく遊び方や,それにまつわる情報が簡単に分かることを最優先にすること。それを行いつつも,ユーザーのやりたい操作をグラフィックス表現を用いていかに快適にフィードバックしてあげるかが,効率的な改善ポイントである」と長﨑氏はまとめていた。

 続いて「Good UI」のコメントも紹介された。とくにコメントが多かったのが,「演出・音・アニメ」に分類される「UIの画面ごとの演出によりユーザーの感情を高めている」「UIの操作感・挙動・演出の魅力によりユーザー感情を高めている」だ。この結果に長﨑氏は,「やはりゲームの盛り上がりに対しての適切な演出が,とても重要だと思います。また,ソーシャルゲームは長くプレイしてもらうものでもあり,季節ごとにUIを変えてユーザーをおもてなしすることを重要」と語っていた。

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 コメントのランキングとしては,「解り易さ」で「UIの画面用途,ゲーム攻略についての説明が解り易い」,「アート・世界観」で「UIのビジュアルが統一されてい魅力的である」,「使い易さ」で「UIパーツの高い有用性により使い易い」と続いていた。「解り易い」ものに関しては,とくにチュートリアルに対しての評価が多かったようだ。そして,「解り易い」「使い易い」ものが評価を受けている中,「Bad」コメントでは上位にこなかったビジュアル面での評価が高いのが印象的だった。これに関して長﨑氏は,「やはりUIパーツに一定の統一感があると,よりゲーム世界に没入感できる」と分析している。

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 そして「Bad UI」の傾向と同じく「Good UI」での分類結果の割合も公開された。「演出・音・アニメ」が40%を超え,続いて「解り易さ」が重要視されている集計結果であるが,「解りやすさ」と同じくらい「使い易さ」「アート・世界観」に対する評価も高い結果となっている。この結果を受け「単に感情を想起させるような演出を高めるだけでは不十分で,道具としての利便性を同時に高めていかなくてはならないということが見えてきます。UIに関する品質を高めるには,ユーザーの感情の移り変わりを演出する,チュートリアルを中心とした『解り易さ』をとことん追求し,ストレスなく遊べるユーザーインターフェイスを磨き上げましょう。そうすれば,GooD UIとして狙ったものを高めることができるはず」と長﨑氏はまとめた。

 最後にUI Discussionで使っていたコメントシートの紹介,そして,改めてUI Discussionを行うメリットを力説して本セッションは終了となった。UIの開発でつまづきやすかったり,意見がまとまらない場合には,品質向上の効率化と育成促進を同時に行えるUI Discussionを取り入れてみる価値はあるのかもしれない。

CEDEC 2016公式Webサイト

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