最新のVRタイトルが勢揃い。Unity VR EXPO AKIBAレポート

最新のVRタイトルが勢揃い。Unity VR EXPO AKIBAレポート
 2016年7月17日,東京・秋葉原にてUnity Technologies JapanによるVRコンテンツ展示イベント「Unity VR Expo AKIBA」が開催された。日本全国からUnityを使ったVRコンテンツクリエイターが集まり,各々の自慢のタイトルを出展した。本稿では,イベント会場の模様をレポートしてみたい。


アミューズメント型のVR/ARシステム


 VR EXPOの会場入口でひときわ目立っていたのは,meleap(公式サイト)が提供する「HADO」のデモ展示だ。HADOは4人同時に対戦プレイができるARシステムである。

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 HADOはこのARシステム全体の名前となっている。すでにアミューズメント施設にはHADOを使ったアトラクションがあり,ナムコ・ナンジャタウンでは「ゴジラアタック出撃!G-FORCE」,ハウステンボスでは「リアルモンスターバトル」といったコンテンツが稼働している。
 VR EXPOでは,同社のオリジナルタイトルである対戦型のゲームをプレイすることができた。

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 システムはAndroid端末ベースのヘッドセットと腕のセンサー,すべての端末を一括してコントロールする母艦PCで構成されている。独自に開発した統制システムは遅延も少なく,またローカルネットワーク上にシステムを構築しているため,外部ネット接続が遅い環境でも快適に遊べることが特徴だという。将来的にはリピーターのプレイヤー動向なども取れるようにシステムを改良していきたいとのことだ。

システム全体とカメラ
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 会場内部で大きな注目を集めていたのがPDトウキョウ(公式サイト)の「CIRCLE of SAVIORS」だ。
 VRシステムにはHTCのViveを使用しており,プレイヤーはグリーンバックのミニスタジオの中に立ち,Viveのコントローラを使ってVR空間内で剣戟バトルを繰り広げる。その様子は同じくViveコントローラを固定したビデオカメラによって撮影され,隣の大型モニターにVR内の描画結果と合成した映像を見ることができるようになっている。

 担当者によると,映像処理にはハードウェアエンコーダ搭載のカードを使用しており,撮影から映像合成まで行って,わずか2フレームで出力ができるように調整を重ねたのだという。今回はデモ目的の展示であったが,同社はこのシステムをアミューズメント施設などに提供することを目指しているそうだ。


ストアでの配信を目指すVRコンテンツ


 現在,VRコンテンツはOculus StoreやSteamのVRタイトルストアで購入することができるが,日本からの配信事例はまだまだ少ない。

 Steamでゲームタイトルをリリースする場合,通常はValveとパブリッシング契約を結んだ企業を経由するか,Steam Greenlightと呼ばれるプレイヤー投票制のシステムを通過する必要がある。しかしVRコンテンツの配信に限っては,このプロセスをスキップできるボーナスゲーム状態となっている(参考URL
 そこで筆者は,Steamでのリリースを目指すタイトルを会場内で探して,開発者に話を聞いてみた。

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 カバー(公式サイト)は卓球シミュレーションゲーム「PING PONG LEAGUE」を出展していた。こちらはSteamでの配信に向けて,現在準備中なのだという。

 同社ではかなり以前から開発をしており,当初はOculus Rift DK2で開発したデモをValveに見せたうえで,Viveの開発キットを2セット借り受けたのだという。すでにSteamにはVR卓球ゲームが三つ存在するものの,同社ではリアル寄りに寄せたゲームバランスと,オンライン対戦機能によって差別化を図っていくそうだ。Steamの統計データによればViveは10万台近く販売しているそうで,今後の市場拡大にも期待を寄せていた。

 個人や法人でSteamに配信する場合に面倒なのが,売上に対して日米間の租税条約を適用するための手続きだ。源泉税の免除を受けるためにはIRS(Internal Revenue Service, アメリカ合衆国内国歳入庁)から米国法人番号を取得し,「Form W-8BEN」の書類をValveに提出する必要がある。やり取りは当然英語だ。

 同社でもタイトルの開発と並行してこの手続を行っている最中なのだという。手続きには数週間かかる場合があるため,早めの対応が必要なのだそうだ。

 いくつかのブースで話を聞いていく中で,「忍VR」を展開するEXPVR(公式サイト)からも,将来的にSteamでの販売を目指しているとのことだった。。

 本ゲームではプレイヤーは忍者となり,敵を倒すために指で“印”を結んで忍術を繰り出す。VRヘッドセットの正面には手のトラッキングを行うLeap Motionが装着されており,手の形を正確にVR空間内に投影することができる。

忍者装束のスタッフ。来場者とは逆に目だけ出していたのが印象的だった
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 曰く,まだゲームシステムやステージ構成,モデルデータなどは追加しているので時期は未定ではあるものの,実際にストアにリリースするプロジェクトして進めているのだという。また,同時にSIEJAが募集している「Made With Unity Contest with PlayStation VR(参考URL)」へのチャレンジも検討しているそうだ。

 VRタイトルを世の中にリリースする道はまだ限定的なものの,いまのところは積極的にコンテストやイベントを通じてアピールしていくことが重要そうだ。


VRを通じた新しい体験を模索するクリエイターたち


 いわゆるVR空間内で体を動かすアクションタイプのコンテンツ以外にも,新しい視点でVRを活用しようとする個人クリエイターの試みも多く見られた。Max Neet Games x ゆうき@姉妹物語(公式サイト)が展示した「Project 空白(仮)」は,VR空間におけるノベルゲームを目指して作られたタイトルだ。
 展示機器はGear VRとAndroid端末+ハコスコの2台体制という,比較的ロースペックな環境で,ほかの展示がアクション体感系が多い中,椅子に座って周りを見回しながら物語を体験するという珍しいタイプの作品である。

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 宇宙の中で惑星や星座を探すストーリーとなっており,数分の体験で,ゆったりとした宇宙の広がりを感じることができる。VR空間を活かした,縦横無尽に走るテキストが印象的だった。感覚としては,プラネタリウムの話系映像コンテンツにかなり近いものを感じた。今後は開発とブラッシュアップを重ねて,各種ストアでの配信を目指しているそうだ。

 ストーリーを楽しむのとは真逆に,より実用方向でVRを活用するコンテンツも見られた。わっふるめーかー氏(公式サイト)が開発した「ペンタVR」は,VR機器を使って究極の作業環境を作ろう,というコンセプトの展示である。

「現実世界」の説明がちょっと辛辣だ
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 ペンタブレットの前でVRヘッドセットを被ると,山の頂上に置いたキャンバスの前に座っている状態になる。そして,目の前には大きなドラゴンがポーズを構えて(?)いる。ペンを手に取れば,その目の前のキャンバスになんら違和感なく絵を描くことができる。ペンタブはワコムの「Intuos」が使われている。これは液晶タイプではないタブレットだが,VR空間内では描いた線がそのままペンタブ上に表示される仕組みになっていた。遅延も少なく,好きなモデルを目の前に表示させることができればそのまま実作業ができそうな雰囲気もある。
 まだまだ描画ツール側の機能は少ないが,ここはツールやタブレットメーカーとの協業による本腰入れを期待したいところだ。

 このデモは,コンセプトアーティストのよー清水氏の発言(参考URL)から始まったという。「仮想空間で快適な創作環境を作ってくれるシステムを実現して欲しい」という思いに開発者のわっふるめーかー氏が共鳴し,ついに実現できたというわけだ。

 PlayStation 3用のタイトル「HEAVY RAIN ?心の軋むとき? 」では,汚い事務所での作業の際にVRガジェットを用いて周りの環境を変える描写があった。ペンタVRはまさにそれが現実に可能になった形である。各社ゲームエンジンはVRヘッドセットを使った開発モードをすでに発表しているが,今後はイラストツールやモデリングツール,あるいは作曲ツールなどがVRに対応していくのかもしれない。


開発者の活気を再確認できたVR EXPO


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 HTCによるViveの安定供給,Oculus VRのRift CV1の配送状況の改善などで,VRを取り巻く状況は徐々によくなってきている。秋にはPS VRの発売も控えている。
 「ドスパラ」ブランドで協賛していたサードウェーブは,会場内でVive本体(9万9800円)を10台ほど販売していたが,なんと完売したのだそうだ。

 会場の全体的な雰囲気は,プレイヤー向けの「お祭りイベント」といった感覚があった。とにかく一般プレイヤーにVRの楽しさ,新しさを知ってもらおうという雰囲気だ。しかし,「VR元年」もすでに半ばを通過している。今後はクリエイターたちの開発したタイトルを一般プレイヤーにいかに買ってもらうかという課題が浮上してくる。今後のイベントでは,そうしたマネタイズ方面にも注目が集まるはずだ。

コントローラに加えて独自のデバイスを組み合わせるタイトルも多く見られた。
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 残念ながらすべてのコンテンツを体験することはできなかったが,多くのユニークな作品が集まっており,ここからワールドワイドで成功するタイトルが出ることもあるのかもしれない。
 また,いわゆる技術デモクオリティのコンテンツは減っており,すでに一般プレイヤー向けサービスを展開しているタイトルや,すぐにも配信できそうな完成度のコンテンツも多く見られた。

 おそらく来年のVR EXPOでは,リリースして成功を収めた「ヒーロー開発者」が現れていることだろう。期待したい。

Unity VR Expo AKIBA公式サイト