Live2D Euclidの全貌が明らかに。Cubism 3.0など新情報が続々だった「alive 2016」基調講演レポート
その基調講演で同社代表取締役中城哲也氏は,多くの来場者や関係者に感謝をしつつ,今年のイベントのテーマは「アイディアをLive2Dしよう!」というものだったが,これには「Live2D」が「絵を動かす」といった意味の一般動詞として使われるようになるようにという願いが込められているということを語った。
Live2Dの未来を語る前に2015年の活動がまとめられた。3次元的に絵を動かせるEuclidが発表され大きな話題となったが,主力製品であるCubismは2.1となり,機能と使い勝手が大幅に向上している。また,インディーズ版がリリースされたことも大きなトピックだ。これにより,Pro版の登録ユーザー数は一気に8倍に伸びている。
同社は創業時より海外展開を目指していたとのことだが,現在では海外ユーザーの比率が40%に伸びてきているという。昨年の時点では30%だったとのことなので,Live2D自体が国内でも広まっていることを考えれば勢いのほどが分かる。
海外採用事例として挙げられた韓国shift upの「DESTINY CHILD」はまだリリースされていないタイトルなのだが,簡単にいうと「キム・ヒョンテのキャラが動きまくる」スマホゲームである。以下のムービーを見ると雰囲気は分かるだろう。
このムービーだと,あちこちがちょっとバネっぽく伸び縮みしすぎな感もあるが,かなり力の入った作品であることは間違いない。Live2Dでは元絵のクオリティが重要なのだが,有名イラストレーターの作品がこれだけ動きまくるというのは,まさに理想的な展開といえるのではないだろうか。そのほか,公開はできないものの,多くのタイトルが準備中であり,その中には世界でもトップ5に入るような会社も含まれるという。
このイベントに合わせて,ルーマニアから開発元であるHoletech Studiosのスタッフが来日しており,CEOのDragos Stanculescu氏が挨拶を行った。
Facerigはプレイヤーをアバターに変えるモーションキャプチャソフトであり,昨年Live2Dモジュールを公開したことで一気に注目度が上がったという。とくにLive2Dによる表情の表現力,クリエイターに力を与えようという姿勢などを高く評価していた。
今後の話に入る前に,中城氏は今年で同社が10年めを迎えたことに触れ,たった一人で始めた会社がLive2Dという単一製品をだけを扱ってきて,いまでは50人の社員を抱えるまでになってきているという。今後1年で70人規模になる予定だそうだ。
会社が大きくなったことも含めて,開発のやり方などに変革が生じているという。これまではなかなか利用者の目線に立った開発が行えなかったのだが,社内でLive2Dを使った開発部門を作ったり,ゲーム以外にデジタルサイネージやアバター,VRなどといった新しい分野にも進出するなど研究と活動の場を広げているとのこと。
●Live2D Creators Circle
●aliveちゃん
そのaliveちゃんの動いているところは展示会場で公開されていた。個人的な印象ではイマイチだ。元のポーズは一連の動きの中での一コマであろうと思われるのだが,停止したポーズのままゆらゆらしているのはちょっと異様であった。想定される前後のモーションをきっちり起こしてからそのポーズまでの動きをつけるなど措置が必要だったと思う。少なくとも,横に伸びたもみあげがその位置でゆらゆらしているのは無重力としか思えない。
あくまでも1枚絵から動かせるというところにCubismの価値を置いているのも分からなくはないのだが,元絵のポーズがどう見ても非常にダイナミックな動きの一部なので,かなり大きな動きの描き足しは避けられないのではないかと思われる(それが自在にできたらEuclidの立場が)。募集時は,どんなポーズであれ,静止していることは最低限の条件にしないと無理があると思う。やればできるのかもしれないが,短時間での作業では難しい作品だったようだ。
Cubism 3.0やEuclid最新情報,表現技法の研究も進む
例年は中城氏一人で進めていた基調講演だが,チームが育ってきたということで,今回は3つのチームから代表者がそれぞれの分野での進捗を紹介することになった。
●Creative Studio
Creative Studioは,Live2D社内で作品制作を行う部署であり,Live2Dの先端的な使い方を研究する部門でもある。例えば,髪の毛の揺れを自然にするようなパラーメータの研究などがすでにCubism 2.1で生かされているという。
その活動の一部がデモリールで紹介された。
極端な表情の変化や光と影の表現などLive2Dの限界に挑むような活用法が研究されていることが分かるだろう。これまではシンプルなサンプルが多かったのだが,今後はLive2Dの進化が感じられるようなサンプルも提供していき,デモリールのサンプルもすべて公開予定とのことだ。
そのほか,Webマニュアルの作成や各種サンプルの提供,セミナーの開催などユーザーサポート活動も合わせて行っているという。今後はオンラインのセミナーなど,遠隔地ユーザーのサポートやユーザーのフィードバックをもらいやすいラボのような場所を導入していく予定とのこと。
●Cubismチーム
昨年までは観客席側にいたという笹原氏は,まずCubismにもプロダクトロゴが決定したという報告をした。1枚絵からさまざまな表現を可能にすることを表すとともにCubismの頭文字であるCをあしらったものとなっている。
Cubism 3.0は,Cubism 2.0で挙がってきた要望を積極的に取り入れつつ,開発メンバーを大幅に増強して急ピッチで開発が進んでいるという。
Cubism 3.0の進化はなかなか劇的だ。まず,開発体制そのものが変更されている。Live2DはJavaベースのシステムで作られていたのだが,それがKotlinベースに移行されている。
KotlinはJavaをモダンにした派生言語のようだが,Javaとの親和性が高く,生産性も高いという。ざっと調べるとぬるぽを防げるというあたりも有用そうだ。
ツール自体についての大きなトピックは,モデラーとアニメータに分かれていたツールが統合されるということだろう。複数のビューを使ってモデリングとアニメーションの確認を行っている様子がスライドで示された。制作環境を劇的に変えてくれることだろう。以下,掲載されている画面は開発中のものであり,UIなどはかなり変わる可能性があるのでご注意を。
これまで関節部分などの動きの大きなパーツの継ぎ目では,自然な仕上がりにするために職人芸が要求されていたようだが,パーツ間を自動でつないでくれるグルー機能が実装される。これは上下左右の動きだけでなく,ある程度は前後の動きにも対応しているというものとなる。数ピクセル単位のズレが自動で補正され,口パクで唇のズレなども気にせず作業できるようになるという。
さらに楕円での補間機能が追加される。
これまでは頂点を直線的に移動させる方式の変形で物体を回転させると,中央あたりで縮小が発生していた。よって,回転では回転デフォーマーを使う必要があった。
これが,新たに導入されるパラメータで楕円補間を指定すると,軌道を計算して楕円で面積を保ったまま回転ができるようになる。これは顔のX方向の動きにも対応できるものだとのことで,表現の幅が広がることが期待される。
パラメータパレットは大きく改良中で,ドラッグ&ドロップで場所の移動ができたり,パラメータのグループ化などが導入される予定だという。
そのほかの改善要素としては,部分テンプレート,デフォーマの再利用,ベクターラインでの描画機能,ペンタブの筆圧感知などが検討されているとのこと。現在利用できなくなっている動画書き出し機能については,Quicktimeに依存しない処理系を現在開発中とのことで,利用できるようになるまでもう少しかかってしまうようだ。
CubismはUnityとの親和性を上げ,ドラッグ&ドロップだけでLive2Dのオブジェクトをシーンに配置できたり,SDKがコンポーネント化され,ほしい機能だけを選択して組み込むことも可能になる。デザイナーが直接Unity上で動きを確認できるので,制作工程が大幅に効率化されることが期待される。
笹原氏は,デモ中で腕がテレビアニメのように自然に動いており,Mechanimによって新しい発想でアニメーションが作れる可能性を指摘していた。
この作品では,腕の動きに注力しているわけだが,XY方向だけでなく,Z方向への動きも多用して自然なアニメーションを実現しているという。その分,デフォーマが非常に複雑になっており,詰めのアニメーション調整で時間がかかるのだが,Mecanimを使えばピンポイントで問題点を修正できるので,おそらくMecanimを使わない場合の半分くらいの工数で制作できたのではないかと語っていた。確認の工数が減れば,それをモデルのクオリティアップにつなげることもできるため,将来的にはもっとリッチなアニメーションも導入されるようになるのかもしれない。Mecanimについては,表現の設定ができるようになると嬉しいとのことだった。
このように,かなり大きなアップデートとなるCubism 3.0は,夏から秋にかけてβ版をリリースする予定だという。
Euclidが登場して以来,そちらに注目が移りがちになっているが,別にEuclidが出てきてもCubismがなくなるわけではない。Cubismは今後も「1枚絵からの究極の表現」を追求し,独自の進化をしていくとのことだ。
●Euclidチーム
1枚絵を拡張して動かしていくCubismに対して,Euclidは最初から3D空間を動き回ることを前提に開発されており,工数が増えることからより効率的なツール作り,そして3Dの作業と並行して作業できる環境作りなど,Cubismとは少し違った方向性で開発されているという。
その概要として,以下のイメージビデオが紹介された。
ここに登場するキャラクターの「ユイ」は,会場で展示されていたVRデモでも使われているものだが,Euclidで初となる完全に3D回転に対応したモデルとなるという。昨年展示されていた「メリル」は横方向360度回転にしか対応しておらず,VRデモなどでちょっと破綻することもあった(上下から見ても,ある程度追従はしていた)。
そのためには上下左右360度,どの方向から見ても破綻しないLive2Dモデルが要求される。Euclidは複数の原画を用いることを前提としているのだが,では何枚の絵が必要なのか?
Euclidでは,45度を単位にして横方向に8段階,縦方向に5段階の40枚原画が想定されている。しかし,このすべてが必要というわけでもない。いろいろ試行錯誤した結果,下の図で,色の着いた丸で囲まれている7種類の原画を使うのが効率がよいことが判明したという。地に色が着いた区間は,その色の原画をベースに描画する。
Euclidは「3Dでは表現しきれない部分」を重視して開発してきたと阿曽氏は語り,作品の中で「この部分は3Dで,この部分はLive2Dで」といった使い分けができるように,3D映像製作の中でLive2Dがより身近な選択肢になることを目指しており,そういった新しい表現のできるプラットフォームを確立したい考えだ。
現在は頭部だけがLive2Dで身体は3Dで描画という使い分けだが,将来的には全身Live2Dで描画できるシステムにすることを目指しているという。
「2Dと3Dのいいとこ取り」がEuclidのウリでもあるわけだが,どこがLive2Dに向いているかは作品の制作者が判断することであり,割り当てを決め付けることで表現力の幅を狭くしてはならないと阿曽氏は語る。そういうこともあり,いずれは全身をLive2Dで表現できるシステムを現実的なコストで提供できるようにしたいとのことだ。
Euclid Editorは,濃いグレーを基調としたダークテーマに仕上げられている。Cubism 3.0と同様に,もでラーとアニメータの区別のない一体型のツールとなっている。
3Dツールで作成したモデリングデータをエディタ上に読み込み,ここでアニメーションを作成できるようになっている。3Dデータには,Mayaで出力されたFBXファイルが想定されている。
Live2D部分は,視点方向から見て常に2レイヤーで構成されており,その情景を横から見るとちょっと異様な雰囲気ではある。板2枚ではいかにも平面的な表現になってしまいそうではあるのだが,板に描かれる内容は視点や視差を考慮してあるものなので,VR環境で見てもそれなりに立体感を得られる。
髪の毛が前後2レイヤー構成になっているあたり,立体視だと継ぎ目が破綻するのではないかという懸念もあったのだが,VR版で確認してもとくにおかしいと感じることはなかった。ベタ塗りでは前後の境界も自然につながるのだろう。髪の毛のテクスチャが細かくなると少し状況は変わるかもしれない。
髪の毛などの揺れモノは,3Dでの情報をLive2D側に反映して自然な動きを実現できるという。これをLive2Dでまともにやろうとすると,パラメータ数がとんでもないことになるらしいのだが,シミュレーションによる揺れ表現を後処理で加えるようにした結果,パラメータ数も少なくて済んでいるという。
3Dツールとの連携だけでなく,2Dツールとの連携も強化されている。ポリゴン分割をレイヤー単位でできるようにしたり,PSDのインポート/エクスポートをサポートして簡単に連携できるようにしたりといった工夫が加えられている。キャラクターの大きな動きが予想されるEuclidでは,Cubismと比べても,動かしてみて隠れたところが出てきたら描き足しという作業が頻発するのだという。その工程がかなり効率化される模様だ。
また,工数を減らす機能としては,ミラーリングが挙げられる。左右対称な操作を一括で行えるようにするもので,生産性を大きく上げてくれそうだ。一つのオブジェクトを対称構造と見て操作をミラーリングすることもできれば,複数のオブジェクトでミラーリングをすることもできる。
なお,会場では「Cubismにミラーリングは搭載されないのか」という話をたびたび聞いたのだが,現在のところ導入予定には入っていないとのこと。要望は多そうなので,そのうち導入されることになるのではあろう。
そのほか,作業の自動化を目指してPythonスクリプトが導入されるという。現在,Live2DのデザイナーもPythonを勉強中だそうで,どの程度効率化に貢献してくれるのか分かるのはもう少しあとになりそうだ。
SDKとしては,まずUnityに対応して,Unreal Engineは対応予定となっている。そのほか,VR環境にも対応している。
以前から実施するとされていたクローズドβテストがついにこの夏に行われると発表された。応募資格は,alive 2016会場にいた人,Live2D Creative Arard 2016に応募した人で,そこから30名程度が選考されるとのこと。
Euclidを使ったVRデモが作成され,その実用性とともに同時にまだまだ多くの課題が残っていることも明らかになったという。近年,3D表現のクオリティはどんどん上がっているのだが,表現の自由度に関してはさほど上がっておらず,Live2Dによる手描きの表現は十分に意味を持つと阿曽氏は語る。
現在,人員を強化して開発にあたっているとのことで,今後は完成度をますます上げていくことだろう。Euclidの今後に期待したい。
*2つのLive2D
2つのアプローチからそれぞれ2D表現の可能性を探り,社内で競い合っていくことで,ともにより発展し,「部分最適解に陥ってしまわない」理想の表現を追及していくというのがCubismとEuclidの位置付けとなる。立ち絵や1対1での会話などではCubism,3Dで動かすならEuclidと使い分けていってほしいとのこと。
CubismとEuclidは目指す方向も少し違い,Cubismは1枚絵を動かすことを極めていく方向で進化させていくという。そのライバルは静止画だそうだ。つまり,静止画に対し「なぜ動かさないの? もったいないよ」といわれるようになるくらい,1枚絵が動くということが当たり前の世界を作ることがCubismの理想でもある。
それに対して,Euclidは,3Dに負けない,やりたい表現がすべてLive2Dでできるような方向を目指して進化させていくという。ハサミとナイフのように,CubiamとEuclidを目的によって使い分けるような関係のツールに例えて説明していた。
Live2Dは,10年やってきてようやく50点になってきたと中城氏は語った。2Dの絵を自在に動かしたいというところから始まったLive2Dは,Cubismは3.0で大幅に進化する。現在,古い設計を見直しており,今後はさらに加速して60点,70点とクオリティを上げていくだろう。Euclidも50点くらいのところでリリースが行われ,さらに発展していくことは間違いない。Live2Dの理想とするところまで到達する日もそう遠くはないのかもしれない。
ただ,100点を超える進化も2Dグラフィックスには残されているのではないか,まだ誰も思いつかないような方向でさらなる進化が行われる日もくるだろうと氏は予測する。その基盤としても,Live2Dを今後50年100年残るような技術として育てていきたいと語っていた。