いかにしてアメリカ企業が中国モバイルゲーム市場で首位に立ったのか
欧米市場でモバイル向けファイティングアクション「Marvel: Contest of Champions」がローンチされたばかりの頃,Kabamはすでに本作を使っての中国市場への参入機会を窺っていた。つまるところ,最近リサーチ会社のNewzooが発表したように中国は単一では北米を超える世界最大のゲーム市場(関連海外記事)である。Kabamも,当初は現地企業のLongtu Gameと契約を結んで手に余る仕事を担ってもらうといった,多くの欧米企業が中国市場への進出に際して行うような手法を利用していたという。
しかし,その途中で計画,そして中国市場そのものが大きく変わっていった。KabamのCOOであるKent Wakeford氏は,そのことについてAppleとiOSが中国で市場シェアを獲得し始め,“ハイエンド”モバイルゲームの開発者たちから,その半分の利益がAppleストアからきているというのを耳にした頃に重なると話す。「それは,それまで80〜90%の市場がAndroidからきていた,ほんの12か月前と比べると急激な変化でした」と彼は続けた。
すでに結んでいた販売契約から,Android向けゲームは手の届く場所にはなかったのと比較して,Appleストアではまだ自由にできる余地があった。そこでKabamはセルフパブリッシングのための投資や将来的なパイプラインの構築に大きな時間を費やした。Kabamを設立した北京の支部で35人のチームメンバーを編成して,時間のかかるハードルを一つ一つクリアさせていったのだ。
「結果として,キャプテン・アメリカやアイアンマンとはまったく異なるスキルセットを持ったブラックウィドウが大きな人気を得ることになったのです」
二つの省庁から異なる認可を得る必要があったことに始まり,Amazon Chineとのパートナー契約でホストサーバーのインフラストラクチャーを設置。これだけでも6か月を必要としたが,Wakeford氏は当初考えていたよりもさらに複雑な行程だったと回想する。ゲームはもちろん翻訳され,欧米とはまったく異なる行動パターンを持つ現地のゲーマーに合わせたローカライズも行われた。「Marvelユニバースのいくつかのキャラクター,とくに中国でも放映された『アイアンマン』や『スパイダーマン』のようなキャラクターは,当然ながら現地でも人気が高くなることは予想していました」と語るWakeford氏は,続けて「しかし,中国のゲーマーたちはゲームプレイの機能という観点から,それぞれのキャラクターの能力に興味を持っていたようです。ですから,人気のキャラクターや話題の映画かどうかではなく,どのようなアビリティや性能を持っているかを重要視していたのです。結果として,キャプテン・アメリカやアイアンマンとはまったく異なるスキルセットを持ったブラックウィドウが大きな人気を得ることになったのです」と語った。
これは,その後に加えられえるキャラクターのデザインを行ううえで非常に役に立ったが,Kabamはローカライゼーションにも多大な変更を行わざるを得なかった。同社は中国市場で受け入れられているFree-to-Play型のゲームに見られる機能を追加することを検討し,キャラクターの能力値を変化させるギアシステムや,アクションゲームなのにアクション部分をスキップさせてしまうというような新しいフィーチャーをいくつか採用したとWakeford氏は話す。
また,Wakeford氏は「中国のプレイヤーは,キャラクターを急速に成長させていくことを好むようです」とし,「アクション部分をオートプレイ化させる“クイックファイト”システムの追加は,欧米のゲーマーにとっては奇妙に思えたかもしれませんが,自動化することによって何度も繰り返してプレイできるので,ルートドロップを多く回収しつつ,キャラクターの成長も早められるのです。ゲームそのものよりも“メタゲームの連続”へフォーカスする人が多いのでしょう」と続ける。
「つまるところは,どうやって中国の消費者を理解していくのかなのです。欧米のゲーマーたちよりもFree-to-Play型のゲームに慣れ親しみ,その分野で彼らは非常に洗練されているのです。Pay-to-Winモデルでさえも受け入れられており,VIPは特別に扱われるものであるのだと納得してゲームをプレイしているのです。これは,カスタマーサービスのすべてに言えることであり,VIPプレイヤーに対しては白手袋をつけてサービスするのは当たり前なのです」
Kabamは,こうして5月5日,「Marvel Contest of Champions in China」を「Man Wei Ge Dou: Guan Jun Zhi Zheng」(漫威格斗:冠?之争)というタイトルでAppleストアにて販売を開始した。すぐに,200万ダウンロードを獲得して,アイフォンやアイパッド向けの最も人気あるアプリになった。その理由の一つはゲームのローカライジングであったのは間違いではなかったが,マーケティングのローカライジングが成功したことも大きな要素になっていた。
「中国市場への参入時点では,どれだけの規模に対応していくべきかということは手探り状態だったのは確かで,欧米とまったく同じようにやってみることもできたと思います」
「広告のエコシステムに関しては言えば,中国市場は本当に異なっています。しかし,我々は欧米と同じように利用することにしました」とWakeford氏。「我々は,中国の地に根差したマーケティングチームを作り,広報ネットワークやサービスプロバイダー20社と契約して関係を構築していったのです。中国での広報活動がマーケティングにどのような影響を与えるのかを実際に確かめたいという理由がありますが,結局は投資費用に対してどれだけのインストールベースを獲得できるか,プレイヤーがプレイを止めるまでに利用する金額から,どれだけの収益を算出できるかといったことは,欧米のマーケティング市場とそれほど差があるわけでありません。中国市場への参入時点では,どれだけの規模に対応していくべきかということは手探り状態だったのは確かで,欧米とまったく同じようにやってみることもできたと思います。しかし,我々のマーケティングチームが広報のパフォーマンスを一つ一つ細かく解き明かしくという苦労を惜しまなかったからこそ,それが確証できたのです」中国ゲーム市場における大きな独自性は,Wakeford氏が“非常にパワフルなサービス”と形容するテキストチャットサービス「WeChat」の普及だった。「我々が学んだのは,中国では“ランクプッシュ”(ストアのチャートランキングを意図的に上昇させる行為)が非常に普及しているということでした」というWakeford氏は,「このプッシュはさまざまな形で行われるのですが,我々が学んだ一つの方法は,WeChatを使ってたった1日という限定期間でのみプッシュすることによって,ダウンロードのランキングに大きな影響を与えることができるということです。ですから,WeChatのマーケティングプログラムや,WeChatを使ったマーケティング手法は,ゲームアプリをいとも簡単にランキング上位に押し上げることを知りました。そんな方法は欧米ではありませんよね」と語る。
驚くべきは,Kabamは同国におけるWebビジネスの巨人Alibabaの直接的な協力をまったく受けていないということであろう。2014年には,AlibabaはKabamのゲーム作品が中国市場で販売されるよう,“戦略的協力”という名目で120万ドルに及ぶ投資をしている。
Wakeford氏は,「あの投資を受けたとき,Alibabaはゲームビジネスの戦略におけるビジョンを持っていたようですが,その戦略そのものが途中でシフトしてしまったのです」と解説し,「ですから,彼から我々のオフィスに常駐して毎日指南しているわけではありません。とはいえ,中国ゲーム市場への参入を後押ししてくれたという意味では非常に協力的であったと思います」と言う。
Kabamの現状は,「Man Wei Ge Dou: Guan Jun Zhi Zheng」をサービスとして安定させていくことであり,観客を増やし,マネタイゼーションをさらに効率化させていかなければならない。しかし,今後どのようなパフォーマンスを見せていくかということは別に,このゲームはすでに一つのレベルにおいては成功作であると言える。
「そもそも,このゲームを中国市場でセルフパブリッシングしようと考えたのは,今後の我々の製品すべてをこの市場に投入するインフラストラクチャーを築き上げ,マーケティングやホストサービス,その他最良のスタンダードでビジネスを展開できるテクノロジーを付け加えることでした」と語るWakeford氏は,「中国は,北米を超える世界最大のモバイルゲーム市場なのです。我々のようなモバイルソフトウェアの企業にとって,グローバル戦略を立てられるだけのインフラストラクチャーを持つことは非常に重要であり,中国でビジネスを行うのは,その戦略の非常に重要な要素なのです」と付け加えた。
※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら)