UE4によるモバイル開発の道標「Unreal Engine 4 Tokyo Meetup」レポート
本稿では,お馴染みUE4リーディングカンパニーであるヒストリアから語られた,UE4を使ったモバイルタイトル開発の最新状況について,講演レポートをお届けする。
モバイルタイトル開発への挑戦
佐々木 瞬氏率いるヒストリアは,UE4を使ったコンテンツ開発の専門会社だ。VRコンテンツの開発も多く行っており,現在バンダイナムコエンターテインメントがダイバーシティ東京プラザで開催している「VR ZONE Project i Can」では,「アーガイルシフト」の実装全般を担当したとのこと。
建築ジャンルでは,販売担当者がiPadを使ってプレゼンテーションをするスタイルで,UE4で開発したコンテンツからプリレンダーのムービーを出力し,ジャイロを使った360度動画として見せる方法を提案している。
そんなヒストリアは,これまで率先してUE4のモバイルタイトル開発を行ってきた。UE4はiOS,Androidに対応しており,すでにいくつか採用タイトルが配信されている。しかしながら,日本国内におけるモバイルでの利用は,まだまだスタートラインに立っているといった段階だ。
同社で最初のUE4モバイルタイトルは「ダンジョン・アンド・バーグラー」というタイトルだった。見下ろし型のアクションゲームで,アーティスト一人で開発されたという。リリースも同社が行っている自社タイトルだ。
佐々木氏は,UE3の時代にモバイルタイトルの開発にメインプログラマとして関わり,相当に苦労をされてきたそうだ。そんな佐々木氏が「ダンジョン・アンド・バーグラー」を計画したのは,UE3からUE4に世代が移り,モバイル開発がどれほど便利になったかをベンチマークとして確かめるためだという。
ヒストリアはこのタイトルでUE4のモバイル開発におけるポテンシャルと優位性を把握し,受託のモバイルタイトルの開発を経て,夏には「SPACE PENGUINS」と「KNIGHT FLIGHT」という2作の新作を控えている。
今回はそのうち,SPACE PENGUINSの開発経緯について紹介が行われた。
本タイトルには「ヒラメキパズルアクション」というジャンル名が与えられている。プレイヤーは,宇宙服を着た可愛いらしいペンギンで,フィールドの上を走るトロッコを,障害物をうまく取り除きながら,目的地に到着するように誘導することがゲームの目的となっている。
一件シンプルに見えるゲームだが,実は1回のプレイでは絶対にクリアできないようになっている。特徴的なポイントは,一度ゲームに失敗すると,2ターン目には子ペンギンが登場し,前ターンのプレイヤーの動きをそっくりまねてくれるところだ。いわゆる,「過去の自分と共闘する」タイプのアクションパズルゲームになっている。
ここまでの開発期間はのべ3か月で,人月換算で4〜5人月だという。内訳はプランナーとアーティストが1名ずつと,佐々木氏本人が加わって開発が行われている。
もともとは新卒2名で3日間のうちにゲームを作ろう,というコンセプトで始まった試験的なプロジェクトだったそうだが,うまく基礎の遊びを確立できたので,実際のプロジェクトまで育てたとのことだ。
佐々木氏は次に,ゲームのプロトタイプ(雛形)開発の心得について紹介した。プロトタイプ開発は,そのゲームのコアとなる面白さ確かめるフェーズだ。ひとまず企画が完成したら,お手本となるような別のゲームをよく分析しながら,ゲームが成り立つための必要最低限の要素を切り出していく。プロトタイプ開発には,要素が多ければ多いほど時間がかかってしまう。素早く作って捨てるサイクルを繰り返すためにも,要素をどれだけシンプルに考えられるかが勝敗を分けるポイントだと話していた。
モバイル一問一答
以上のSPACE PENGUINSの例を踏まえながら,佐々木氏は現状判明しているUE4のモバイル開発について一問一答形式による解説を行った。●PC/家庭用ゲーム機版との違い
シンプルな部分では,グラフィックス負荷関連であるライティング,ポストプロセスの使い道に制限があるとのことだ。モバイルでどのような機能が利用できるかについては,UE4のオフィシャルドキュメントに詳しいとのこと。
UE4では新たなグラフィックスAPIである「Vulkan」への対応も始まっている。しかし,対応端末の普及などを考えると,現実的にはOpenGL ES 2.0の機能を使って安定したリリースを目指す方が得策だ。
逆に言えば,PC/家庭用ゲーム機環境との違いはレンダリングの違いであって,それ以外はほとんど変わらないのだそうだ。
●端末へのデプロイ
UE4からモバイルデバイスへは,ボタン一つでデプロイできるようになっているが,パッケージングする際にどのレベルを含めるかの設定には注意が必要だという。
ヒストリアでは,DeployGate(開発中アプリを端末に配信できるサービス)を利用して,各端末へインストールしている。CI(Continuous Integration)ツールによる自動化も積極的に行っており,Jenkinsを使って自動化を進めているそうだ。
加えて,iOSビルドの場合は,Mac上でのビルドが必要になるが,リモートビルドを使って,Windows上から作業が完結するように整備しているとのことだ。
●2D機能
スプライトなどの2D画像に関しては,「Paper 2D」という標準機能もあるが,ヒストリアがお勧めするのは,ウェブテクノロジのミドルウェア「Sprite Studio」の利用だ。同社からはUE4用プラグインが提供されており,もちろんBlueprintでも使用できる。
●機種依存
Androidでは機種ごとの動作の違いが,かつては難問であった。最近の新しい機種では概ね大丈夫になったようだが,1年前の時点では「なぜか動かない」という端末も少数存在したという。こちらはオフィシャルのwikiに対応端末のリストが掲載されている(参考URL)。
ただし,マテリアル系には注意が必要だとしている。例えば,半透明が表示されない機種があるといった,実機でのレンダリング結果が異なってしまうことが若干あったそうだ。
●追加データ配信の対応について
ソーシャルゲーム開発者が最も気になるのが,「追加データダウンロード」の仕組みだろう。3G帯でもプレイヤーアプリをダウンロードできるよう,ストアに載せるアプリサイズを小さくするには,起動後に必要なリソースをダウンロードし,継続して細かなアップデートを行うことが必要だ。
現在はUE4の機能として搭載されていないが,エンジンを改造すれば独自で機能追加をすることも不可能ではない。ヒストリアでは機能の実現性をすでに調査しており,本気でやろうとしている開発会社があれば,ぜひ相談にのりたいとのことだ。
●アプリサイズの圧縮
いわゆる「100MB制限」にかからず,3G環境でダウンロードができるようにするためには,ライブラリサイズが小さければ小さいほどありがたい。UE4の2Dゲームサンプルである「Tappy Chiken」の場合は,Android版が26MB。iOS版が67.5MBと,100MBに収まる範囲でアプリを書き出すことができる。
この悩ましいポイントについてはEpic Gamesも把握しているそうで,ロードマップには「モバイルパッケージングサイズの最適化」としてリストアップされているそうだ。
また,もう一つロードマップ上に予定されているのが「CDN(コンテンツ配信サーバー)」を介したテクスチャデータの配信機能だ。
Android端末の場合,搭載するレンダリングハードウェアごとに扱えるテクスチャが異なるため,一つのアプリの中に異なる圧縮形式で同じテクスチャを数種類入れなくてはならないことがある。
この問題については,アプリ起動後にハードウェアの種類に応じてテクスチャデータの追加ダウンロードが行えるような機能を搭載予定なのだそうだ。ロードマップどおりであれば6月に入る予定なので,いまから開発を始める場合はこうしたモバイル向けの施策を待ってからのほうがいいだろうとのことだ。
佐々木氏の経験によるTipsとして,UE4からアプリをデプロイする際のモードについても触れていた。いわく「Developing」モードにしていると,実際に配信する際の「Shipping」モードとはかなり違うので,計測の際は「Shipping」にして測るようにとのことだ。
●サーバー連携
ソーシャルゲームでは必ず必要になるサーバーとの連携機能だが,これに関してはヒストリアのスタッフが「UE4Plugin_WebApi」(関連URL)というプラグインを公開している。
前職でソーシャルのサーバー側のリードを担当していたそうで,Blueprintsでhttp通信ができ,JSON形式を解釈できるようになる便利プラグインとなっている。
●広告系SDK
小規模開発の場合は広告を入れてアプリをルリリースすることが多い。ヒストリアが現在開発しているモバイル2タイトルも,広告表示での収益モデルを組み込んで開発されている。
バナー広告ならUE4のデフォルトの機能で提供されているのだが,最近のトレンドであるインターステイシャル広告や,全画面の動画広告などについては「Unreal Mobile ADS」(関連URL)が利用できるという。多数のアドネットワークを利用できるプラグインだ。ただし,このプラグインに関してはまだ若干使いにくいところもあるそうで,ヒストリアでは別のやり方も模索しているそうだ。
UE4でのモバイルゲーム開発はこれからが旬か
最後に佐々木氏は,企業として利用する場合においてはコンテンツの追加配信システムの開発が直近の課題にはなるのだが,ある程度の規模のある開発ならプログラマが対応することは十分に可能だと述べた。
つい最近に公開されたVersion 4.12にも,モバイル向けの修正と機能が数多く搭載されており,UE4のモバイル利用は,今後エピック・ゲームズ・ジャパンも盛り上げていく分野だろう。
佐々木氏は会場に向かって,一緒にUE4モバイルの分野を盛り上げていきましょうと呼びかけ,講演を締めくくった。
昨今では,国内でもUE4を使ったモバイルタイトルの開発が複数進行しており,まさにこの夏から事例がどんどん増えていくと思われる。UE4の心得がある開発者は,まずは手持ちの端末にプロジェクトをデプロイしてみることをお勧めしたい。