シリコンスタジオのVR戦略とノンゲーム分野への進出
このセミナーは,シリコンスタジオとの取引先や関係の深いエンジニア達に向けて開催されたもので,その内容は主に,3月にサンフランシスコで開催されたゲーム開発者会議,GDC2016に出展した展示物の紹介や2016年以降のシリコンスタジオの製品ラインナップおよび開発動向をアナウンスするものであった。会場には,4K&HDR表示が可能なソニーPCLの超大型LEDディスプレイが持ち込まれ,HDR表示を含むデモやプレゼンテーションが行われていた。
具体的なセッションラインナップは,
- 「Mizuchiを使ったフォトリアルな人肌,衣服の表現について」
- 「YEBIS for Maya」
- 「Mizuchiを使ったコンフィギュレーターアプリの事例およびVR対応について」
- 「シリコンスタジオが取り組むHDR対応と実例について」
の4セッションだ。
Mizuchiに新搭載された「肌」「髪」「布」表現機能について
ポストエフェクトミドルウェアYEBISがMayaに対応
「YEBIS for Maya」セッションは,シリコンスタジオが世界に誇る,光学シミュレーションベースの説得力の高いポストエフェクト処理が行えるミドルウェア「YEBIS」が,DCCツールの「Autodesk Maya」に対応することを報告するものであった。
近年は,低予算プロジェクト,納期速度優先プロジェクトなどにおいて,ファイナルレンダリングでレイトレーシングなどを用いず,リアルタイムもしくは,準リアルタイムで描画するケースが増えているそうで,その場合のエフェクト挿入もリアルタイムテクノロジーで行いたいというニーズが増えているのだとか。「YEBIS for Maya」はそうしたニーズに応えるために誕生したというわけである。
対応するMayaのバージョンは「Maya 2015」「Maya 2016」で,レンダービューとビューポートの両方にリアルタイムにYEBISが誇る各種光学系ポストエフェクトをかけることができる。
今後は,こうした速度感のある映像制作現場に向けてコンポジット工程においてもYEBISが利用できるように……と「YEBIS for Composite」の開発プロジェクトを立ち上げたこともアナウンスされた。ちなみに,こちらはNUKE,After Effectsといったコンポジットツールに対応するプラグインとなる可能性が高いとのこと。
「YEBIS for MAYA」については,前述のGDC2016レポート([GDC 2016]シリコンスタジオブースレポート。Mizuchiベースの美熟女YURIさんがデビュー,YEBISはDCCツール対応に」(関連記事)を参照いただきたい。)でも紹介しているので,興味のある方は合わせてそちらもご覧いただきたい。
「MizuchiのVR対応とコンフィギュレーターアプリ
シリコンスタジオのミドルウェア製品群では「Mizuchi」がRiftに対応済みで,こちらは会場で,実際,Mizuchiの技術デモとして著名な「MUSEUM」のVR版が体験できるようになっていた。
ゲームエンジンのOROCHIは「PlayStation VR」に対応済みで,OROCHIとMizuchiを組み合わせた環境では,MizuchiがOculus Riftに対応済みなので,自動的にOculus Riftへの対応がなされるとのことである。
このほか,Gear VRのような,スマホを挿入して活用するスマホVRゴーグル向けの360°映像を生成するモードをOROCHIやMizuchiに搭載することも検討中だとのこと。
ライティング条件を変えたり,登場オブジェクトの種類や配置,色などを変えたりしても,瞬間的にその変更や更新を反映して映像化し動かせるのがリアルタイムグラフィックス技術の最大の魅力なわけだが,この「リアルタイムグラフィックスの魅力」をゲーム以外にも応用していけるのではないか。とくにMizuchiは,物理ベースレンダリングを採用していることから極めてリアリティの高い映像を作り出すことができる。この「リアルタイム」×「フォトリアル」の表現力を,実在するプロダクトや,あるいはこれから具現化しようとしている製品のデザイン検討に使えるのではないか……シリコンスタジオはこう考えたのだろう。
そこで今回,具体的に住宅建築メーカーや自動車メーカーへの採用を目指す(あるいはそれを想定して),バーチャルショールーム的な技術デモを作り上げたことが報告されたというわけである。
住宅建築メーカー向けへのバーチャルショールームデモは,照明条件や家具の種類を変更したりできるモノで,部屋内装の見映えをリアルタイムに確認できる内容だ。
一方,自動車メーカー向けへのバーチャルショールームでデモは,ボディや内装の色を変えたり,ホイールの履き替えや背景シチュエーションの変更をリアルタイムに行って見映えを確認できる内容となっていた。
実は,こうしたゲームエンジンのノンゲーム分野の活用は,シリコンスタジオ以外にも,例えば海外のゲームエンジンのUnityやUnreal Engineでも積極的に訴求が行われている状況であり,いわばゲームエンジン業界全体の一つの潮流動向となりつつある。
「シリコンスタジオが取り組むHDR対応と実例について」セッション
最後に行われた「シリコンスタジオが取り組むHDR(ハイダイナミックレンジ)対応と実例について」セッションは,リアルタイムグラフィックスのHDR出力にまつわる実装実験で得られた知見が報告された。こちらについては,非常に密度の濃いセッションだったので,別レポートの形でお届けしたい。