シリコンスタジオのVR戦略とノンゲーム分野への進出

セミナー会場風景。都内の倉庫を借りて行われていた。なお,VRデモではGeForce GTX 1080が使用されていた
シリコンスタジオのVR戦略とノンゲーム分野への進出
 ゲーム用ミドルウェア開発大手のシリコンスタジオは,2016年5月24日,東京都内の特設会場で同社初となるプライベートセミナーを開催した。
 このセミナーは,シリコンスタジオとの取引先や関係の深いエンジニア達に向けて開催されたもので,その内容は主に,3月にサンフランシスコで開催されたゲーム開発者会議,GDC2016に出展した展示物の紹介や2016年以降のシリコンスタジオの製品ラインナップおよび開発動向をアナウンスするものであった。会場には,4K&HDR表示が可能なソニーPCLの超大型LEDディスプレイが持ち込まれ,HDR表示を含むデモやプレゼンテーションが行われていた。

 具体的なセッションラインナップは,

  • 「Mizuchiを使ったフォトリアルな人肌,衣服の表現について」
  • 「YEBIS for Maya」
  • 「Mizuchiを使ったコンフィギュレーターアプリの事例およびVR対応について」
  • 「シリコンスタジオが取り組むHDR対応と実例について」

の4セッションだ。


Mizuchiに新搭載された「肌」「髪」「布」表現機能について


シリコンスタジオのVR戦略とノンゲーム分野への進出
 「Mizuchiを使ったフォトリアルな人肌,衣服の表現について」セッションは,2014年にデビューしたシリコンスタジオの新リアルタイムレンダラー「Mizuchi」がキャラクター表現向けの新機能を実装したことを報告するもので,これについては回を改めて深く解説を行う予定なので本稿では省略することにする。GDC時点での概略については,GDC2016レポート記事「[GDC 2016]シリコンスタジオブースレポート。Mizuchiベースの美熟女YURIさんがデビュー,YEBISはDCCツール対応に」(関連記事)のほうを参照いただきたい。

Mizuchi向けの新機能「肌」「髪」「布」表現機能のデモ用にシリコンスタジオが創出したオリジナル女性キャラクター「YURI」のメイキングセッションに相当した「Mizuchiを使ったフォトリアルな人肌,衣服の表現について」セッション。詳細は改めて別記事にて
シリコンスタジオのVR戦略とノンゲーム分野への進出
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YURIさんの公式プロフィールも本邦初公開
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ポストエフェクトミドルウェアYEBISがMayaに対応


 「YEBIS for Maya」セッションは,シリコンスタジオが世界に誇る,光学シミュレーションベースの説得力の高いポストエフェクト処理が行えるミドルウェア「YEBIS」が,DCCツールの「Autodesk Maya」に対応することを報告するものであった。
 近年は,低予算プロジェクト,納期速度優先プロジェクトなどにおいて,ファイナルレンダリングでレイトレーシングなどを用いず,リアルタイムもしくは,準リアルタイムで描画するケースが増えているそうで,その場合のエフェクト挿入もリアルタイムテクノロジーで行いたいというニーズが増えているのだとか。「YEBIS for Maya」はそうしたニーズに応えるために誕生したというわけである。

シリコンスタジオのVR戦略とノンゲーム分野への進出

 対応するMayaのバージョンは「Maya 2015」「Maya 2016」で,レンダービューとビューポートの両方にリアルタイムにYEBISが誇る各種光学系ポストエフェクトをかけることができる。
 今後は,こうした速度感のある映像制作現場に向けてコンポジット工程においてもYEBISが利用できるように……と「YEBIS for Composite」の開発プロジェクトを立ち上げたこともアナウンスされた。ちなみに,こちらはNUKE,After Effectsといったコンポジットツールに対応するプラグインとなる可能性が高いとのこと。

 「YEBIS for MAYA」については,前述のGDC2016レポート([GDC 2016]シリコンスタジオブースレポート。Mizuchiベースの美熟女YURIさんがデビュー,YEBISはDCCツール対応に」(関連記事)を参照いただきたい。)でも紹介しているので,興味のある方は合わせてそちらもご覧いただきたい。 

定評のある光学シミュレーションベースのポストエフェクト・ミドルウェア「YEBIS」が,DCCツールの「Autodesk Maya」に対応。価格も発表に
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「YEBIS for Composite」の開発プロジェクトの存在も明らかに
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「MizuchiのVR対応とコンフィギュレーターアプリ


シリコンスタジオのVR戦略とノンゲーム分野への進出
 「Mizuchiを使ったコンフィギュレーターアプリの事例およびVR対応について」セッションでは,シリコンスタジオ製品のVR対応取り組み状況と,Mizuchiのゲーム分野以外への応用事例の報告が行われた。
 シリコンスタジオのミドルウェア製品群では「Mizuchi」がRiftに対応済みで,こちらは会場で,実際,Mizuchiの技術デモとして著名な「MUSEUM」のVR版が体験できるようになっていた。
 ゲームエンジンのOROCHIは「PlayStation VR」に対応済みで,OROCHIとMizuchiを組み合わせた環境では,MizuchiがOculus Riftに対応済みなので,自動的にOculus Riftへの対応がなされるとのことである。
 このほか,Gear VRのような,スマホを挿入して活用するスマホVRゴーグル向けの360°映像を生成するモードをOROCHIやMizuchiに搭載することも検討中だとのこと。

シリコンスタジオのVR戦略とノンゲーム分野への進出 シリコンスタジオのVR戦略とノンゲーム分野への進出

シリコンスタジオのVR戦略とノンゲーム分野への進出
 続いて,Mizuchiをゲーム以外の分野に応用していくための事業展望についての説明が行われた。
 ライティング条件を変えたり,登場オブジェクトの種類や配置,色などを変えたりしても,瞬間的にその変更や更新を反映して映像化し動かせるのがリアルタイムグラフィックス技術の最大の魅力なわけだが,この「リアルタイムグラフィックスの魅力」をゲーム以外にも応用していけるのではないか。とくにMizuchiは,物理ベースレンダリングを採用していることから極めてリアリティの高い映像を作り出すことができる。この「リアルタイム」×「フォトリアル」の表現力を,実在するプロダクトや,あるいはこれから具現化しようとしている製品のデザイン検討に使えるのではないか……シリコンスタジオはこう考えたのだろう。
 そこで今回,具体的に住宅建築メーカーや自動車メーカーへの採用を目指す(あるいはそれを想定して),バーチャルショールーム的な技術デモを作り上げたことが報告されたというわけである。

 住宅建築メーカー向けへのバーチャルショールームデモは,照明条件や家具の種類を変更したりできるモノで,部屋内装の見映えをリアルタイムに確認できる内容だ。

Mizuchiを使ったバーチャルショールームの技術デモを発表。実際に会場で動いている様子を見ることもできた。部屋内装変更のデモはRiftで見ることもできた。スケール感までを感じられるのはバーチャルとはいえ,価値は大きい。
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 一方,自動車メーカー向けへのバーチャルショールームでデモは,ボディや内装の色を変えたり,ホイールの履き替えや背景シチュエーションの変更をリアルタイムに行って見映えを確認できる内容となっていた。
 実は,こうしたゲームエンジンのノンゲーム分野の活用は,シリコンスタジオ以外にも,例えば海外のゲームエンジンのUnityやUnreal Engineでも積極的に訴求が行われている状況であり,いわばゲームエンジン業界全体の一つの潮流動向となりつつある。

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「シリコンスタジオが取り組むHDR対応と実例について」セッション


 最後に行われた「シリコンスタジオが取り組むHDR(ハイダイナミックレンジ)対応と実例について」セッションは,リアルタイムグラフィックスのHDR出力にまつわる実装実験で得られた知見が報告された。こちらについては,非常に密度の濃いセッションだったので,別レポートの形でお届けしたい。

シリコンスタジオ公式サイト