Steamは毒気を持ち始めているが,Valveは気にしていないようだ

PCゲームにおいて最も重要なストアフロントが,いじめっ子やトロールたちの遊び場と化しており,デベロッパやゲーマーが被害にあっている。

 Steamはかつて,PCゲーム市場を救済した。当時,小売店はPCゲームタイトルの棚をどんどん縮小していた。海賊版やリセールバリューのほとんどないMMOなどのオンラインゲームが増殖している状況ではモチベーションを保てるわけもなかったのだ。
 Valveは自ら行動を起こしてデジタルディストリビューションという原野を開拓した。その道は当初は険しかったが,Valveが開発したサービスはゲーム業界とPCゲーム市場にとって,新しくも頼もしい時代を切り開いたのだ。それまでの伝統的な販売や流通モデルから解き放たれたことにより,実験的でクリエイティビティにあふれたプラットフォームとしてSteamは盛り上がっていった。まだすべての人向けとは言えないまでも,PCゲーム市場を救済したのは確かなのだ。
 しかしながら,Steamの現状を眺めていると,PCゲーム市場は救済するに相応しかったのだろうかと疑問に持つことがある。新しいゲームで遊べないかとSteamをブラウジングしていると,なにか嫌な気持ちになってアプリケーションを閉じてしまおうと感じることもしばしばで,火にかけて燃やし尽くしてしまいたいと思うことだってある。
 その理由は,使い勝手が悪いだとか,バグだらけだなんてことではない。Steamも技術面で問題がないわけではないが,市場に安定したサービスを提供している。むしろ,このプラットフォーム上でValveが野放しにしているゲーマーコミュニティに問題があり,Steamが新参者や知られざる独立系デベロッパたちを発掘する最良の場であるのにも関わらず,コミュニティのフィードバックやレビュー,推薦といった必要不可欠なSteamの要素が,思慮の足りないValveのために,まるでドブの中を泳がされているかのような感覚になっているのだ。

「Steamが,まったく管理されていないというのが最大の問題であり,いかにも違法な行為でもない限り,コミュニティの方向性を示そうという努力は皆無に等しい」

 Steamが,まったく管理されていないというのが最大の問題である。明らかに違法な行為でもない限り,コミュニティの方向性を示そうという努力は皆無に等しい。その結果として,インターネットにおける過剰な反動的行動のさまざまなやり口が,表立って行われるようになってしまっており,ゲームのことにいて何も知らない多くのプレイヤーが大挙して低評価をつけたり,レビューにもなっていない文章や意味のないコメントでページを溢れさせている。ゲームの内容やテーマが気に入らないとか,開発者の過去のTwitterコメントを問題視したり,さらには女性によって作られているといった,ストーカー的に批判を繰り返すことで鬱憤を発散している“トロール”たちのお気に召さない些細なことが,いついつでもターゲットになってしまうのだ。
 Steamにあるほとんどのゲームのレビュー欄には,ゲームにまったく似つかわしくない用語や視点が書かれているが,上記のようにトロールたちにターゲットにされているゲームに出会ってしまったときなどは,まるで憎悪で塗り固められた壁にぶち当たってしまったかのような気にさせられる。

 もちろんSteamは,さまざまな手法でターゲットに対してハラスメントを加える野蛮な人たちが常駐しているRedditや4Chanと比べれば悪いサービスではない。しかしながら,そうした行為に規制を加えないというのは,プレイヤーから直接収益を得ている商業サービスとしてはあってはないらないだけでなく,もう一方の顧客であるゲームデベロッパにも損害を被らせてしまうのである。

 おそらく,ValveがSteamの品質管理に対する意識に欠けているというわけではないだろう。つい最近も,ゲームの発売後もアップデートが頻繁に行われるという昨今の事情を考慮して,古いレビューのスコアではなく新しいものの平均値を算出するように表示システムが変更されたが,これは非常に評価できる改良点である。
 しかし,そういった改良よりも,ハラスメントを加えるプレイヤーについて何の対処も加えていないということこそがValveの姿勢を詳らかにしている。こうしたプレイヤーたちのコメントは,ゲームのリリース時期に関係なく寄せられるものだが,憎悪に満ちたレビューやコメントは見たくないという多くの意見を考慮していないことで明らかであろう。
 確かに,Valveがなにもしなければ,既成のゲーム小売り店によってPCゲーム市場は完全に干乾びさせられていただろうが,少なくともこうした販売店というものは,店内にいる女の子に卑猥なコメントを投げかけるような客はつまみ出すに違いないのだ。

「確かに,Valveがなにもしなければ,既成のゲーム小売り店によってPCゲーム市場は完全に干乾びさせられていただろうが,少なくともこうした販売店というものは,店内にいた女の子に対して卑猥なコメントを投げかけるような客をつまみ出すに違いないのだ」

 もちろん,コミュニティの管理がそんなにたやすいものではないというのは理解できる。最新のレビューを中心に算出されるレビュースコアのアルゴリズムを作るよりもずっと難しいだろうし,だからこそValveは先にレビュースコアの調整をしたのかもしれない。しかし,ハラスメントや野蛮な言動というものは,Steamやほかのオンラインサービスでは昨今始まったことではなく,誰かが梯子を持ってくるまでもなく,低く垂れた果実はいつでも取り切ることができたはずだ。Valveはそれをしようともしていないし,まるでそれを避けているかのようにさえも見える。
 Steamがこうなったのは,Valveの過去の判断が悪かったからだというのはすでに述べたことだが,つまりはValveは今までにこの問題に対処しようとしたことさえないという意味なのである。もしくは,やがて有能なエンジニアがValveに入社して,Steamを24時間開放された公衆便所のように悪用するトロールたちを止めるために,ちょっとしたコードを書き加えて問題をうまく解決してくれるという夢でも見ているのかもしれない。

 コミュニティの管理は,そんな単純なものではないはずだ。国政術から,ルームメートたちが誰が皿洗いの当番になるかを決めるといった,さまざまなコミュニティをサポートしていくための,なんらかの(普遍的な)システムデザインが存在するというのは愚鈍な見識違いであろう。コミュニティの管理には,実際にそこを管理していく人が必要であり,コミュニティが道を踏み外してしまったときに軌道修正をする権限と,なるべくしっかりと習練された管理者たちがいなければならない。
 難しいばかりか,非常に資本のいることであり,ケアや注意力も必要になるが,Valveであればできないことではない。実際にRiot Gamesは,元々ゲーマーの間では毒気の強いコミュニティであると悪名を誇っていた「League of Legends」を,大きく好転させている。もちろん完璧ではないが,Riot Gamesはコミュニティを深く注視しているという姿勢と,問題の解決のために戦いを辞さない構えを見せ,「League of Legends」を非常にアットホームなゲームに仕上げている。
 その過程に,システムやプロトコルの改良もあったのは疑いないが,結局は息をする人間たちが前面に立ち,相手を傷付けようとする人たちからコミュニティを守ってきたために目的が達成されたのだ。なぜならそれは,我々人類が何世紀にも渡って見事に築き上げてきた,クリエイティブな人間関係によって問題を解決するという手法なのであるから。

「Riot Gamesが最善を尽くしたのは,それが最善を尽くすべきことであったと考えたからであろう。それがゆえに,Valveはまったく関心がないと思えるのである。PCゲームのデジタル流通においては独占状態にあるSteamだからこそ,Valveには責任も生じてくるのだ」

 Riot Gamesが最善を尽くしたのは,それが最善を尽くすべきことであったと考えたからであろう。それがゆえに,Valveはまったく関心がないと思えるのである。
 PCゲームのデジタル流通においては独占状態にあるSteamだからこそ,Valveには責任も生じてくるのである。もし,そんな責任感をまったく感じていないとすれば,それはとても悲しいことであるが,お金で溢れるプールに飛び込んで気分がよくなってくれれば,少しは痛みを分かち合おうという気になるのではないだろうか。
 もちろん,顧客やクライエントがハラスメントに遭い続けるようであれば,やがてはビジネスの成長が止まってしまうという現実には,Valveも関心を持たずにいられないはずだ。
 難しいテーマのゲームを作っているデベロッパや,特定のマイノリティグループに属する人など,彼らもSteamをプラットフォームにゲーム開発やゲームライフを楽しみたいと願っているはずだが,それが良いかどうかは熟考しなけれならないだろう。これは憶測ではなく,実際に私がゲーム開発者たちから毎週のように聞いていることで,数年前に目を輝かせながらSteamに飛び込んでいった彼らが,ゲームコミュニティという大義を前にストアフロントの矢面に立たされることに恐怖し,あるいは避け始めてすらいる。

 毒気のあるコミュニティ環境に嫌気したデベロッパやゲーマーたちが出ていっても,Steamには財政上の影響は今のところほとんどない。が,ゲーム市場そのものが多様化していく契機にはなりえる。Steamは,PCゲームに関心の高いゲーマー層を認知できなかったゲーム小売り店から大きなシェアを奪った。それが事実であるのだから,もし,さまざまな嗜好やバックグラウンドを持った新たなゲーマー層やデベロッパが台頭した場合,彼らは自分の利用するサービスに傷付けられることに我慢するだろうか。Valveは,もはや商業的な利益を考えて行動を起こす必要もなく,ただそれが正しいことであるという信念で問題解決に当たるべきである。ハラスメントする人と,それを野放しにする人に,どれほどの差があるというのか。
 もし,その信念が十分な理由になりえないのであれば,このままSteamに市場独占を許すべきかどうかについてはデベロッパやゲーマーたちの判断に委ねられることになる。長期的に,人を傷付ける行為を許すことは,それを阻止することよりビジネス的な損失になるはずだ。Valveには,後者を選んで実践してくれることを望みたい。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら