AAAゲームがモバイルアプリを考慮しないわけにはいかない昨今の事情

AAAタイトルのリリース前にコンパニオンアプリが登場するという最近のトレンドについてのソニーやアナリストとの対談。

 長きにわたって,一流パブリッシャはモバイルゲームに注目する必要がないというのが通説だった。オーディエンスが,15〜20時間のAAA体験ができる家庭用ゲームを求めているのに,あえてモバイルゲームに手を出す必要はないというわけである。
 しかし,このような考え方は,2015年のE3でBethesda Studiosが「Fallout Shelter」を発表したことで明らかに変化した。このモバイルゲームは,すぐにモバイルチャートのトップに輝き,同スタジオが「Fallout 4」の開発を進める間のマーケティング戦略として大成功を収めたのだ。ファンは,「Fallout」と名のつくものなら何でも求めていたため,Todd Howard氏が指摘したとおり,このゲームのプレイ時間は累計10億時間を超えてしまった。現在では,「Battleborn」や「Uncharted 4」などのAAAタイトルでもローンチに先駆けて,「Battleborn Tap」や「Uncharted: Fortune Hunter」などの新しいモバイルゲームがリリースされている。

 GamesIndustry.bizに対し,Sony Interactive EntertainmentのシニアプロデューサーであるSam Thompson氏は,「このゲーム(『Uncharted: Fortune Hunter』)は,間違いなく『Uncharted 4』のマーケティング施策の一環だったと捉えています」と語った。「しかし,ファンにとっては新しい方向からシリーズを楽しめる素晴らしいゲームでもあります。長年のファンにとってはPlayStationから離れているときでもゲームに触れる機会となり,新規プレイヤーには『Uncharted』シリーズに参入するきっかけとなることを期待しています。『Fortune Hunter』で獲得できる『Uncharted 4』のマルチプレイヤー報酬も,両方のゲームにとって優れた追加要素となっています」

 ソニーと「Uncharted」を開発したNaughty Dogは,iOS/Android向けのパズルベースのアドベンチャーゲームをリリースするためにモバイル開発企業のPlayspreeと提携した。「メディアの仕様が異なるので,モバイル専業チームとの提携が重要でした。しかし,効果的なパートナーシップのためには,AAA開発のなんたるかをパートナーに理解してもらうことも必要でした」と,Playspreeの創業者であるMatt Griswold氏は語る。

 「Uncharted: Fortune Hunter」や「Battleborn Tap」のようなゲームが,AAA版のゲームの売り上げに直接的に寄与すると断定するのは難しいが,独立して遊べるモバイルタイトルを制作することは間違いなく役に立つ。だからこそ,「Fallout Shelter」はあれほどの成功を収めたのだと主張するのは,SuperDataのアナリストJoost van Dreunen氏だ。


「Bethesdaは,よくできたモバイルゲームをリリースすることが,どれだけHDゲームのマーケティングキャンペーンにおける主軸となりえるのかを実証しました。このトレンドは,今後もまだまだ続いていくと考えています」 Patrick Walker氏

 「明らかに,『Fallout Shelter』の成功は,ほかのパブリッシャをインスパイアしました。けれども,ここに二つの重要な要素があります。一つめは,コンパニオンアプリのリリースは収益のためなのか,マーケティング戦略の一環なのか,ということです。『Fallout Shelter』は,今でもアップデートが行われていますし,『Fallout 4』のリリースよりずっと前にローンチされました。二つめは,タイミングがカギである,ということです。『Uncharted Fortune Hunter』は,メインとなるゲームの前の週にリリースされたことで,メインタイトルへの導入部のような感じがありました」と,Dreunen氏は評した。

 「現段階では,まだモバイルアプリのリリースとゲーム内収益の相関関係を論じるのは難しいのですが,過去には全体的なエンゲージメントとマネタイズにおいてプラスの効果が見られた例がいくつもあります。例えば,『FIFA 16 UT』のコンパニオンアプリは,AndroidとiOSを合わせて1500万ダウンロード程度にもなっています。マイクロトランザクションに大きく依存するゲームにとって,このように市場に浸透したクロスプラットフォームな存在感を持つことは,プレイヤー保持力と課金額を高めるうえで重要です」

 EEDARのインサイト担当VPであるPatrick Walker氏(今後AAAタイトルのローンチ前にコンパニオンアプリが増えていくという予測をした人物:関連海外記事)は,「セカンドスクリーン」を通じてコンパニオンアプリを提供するというアイデアを形にした初期のゲームは,コアゲーマーにとっては価値のないものだったが,今後発売されるAAAタイトルを楽しみにしているプレイヤーに対して,アイテムや機能をアンロックするというインセンティブを与えることは,家庭用ゲーム機版のアップセールに大いに貢献する手法だという。

 「コンパニオンアプリに関するパブリッシャの考え方で大きく変わったのは,モバイルアプリとHDゲームをうまく統合する方法は,しっかりブランド化されたモバイルゲームを作成することだということが理解されたことです。(中略)もうすぐリリースされるHDゲームを楽しみにしているプレイヤーにとって,よくできたモバイルゲームを通じてそのゲームを味わうことができ,しかもHDゲーム内の要素をアンロックしていけるとなれば,これは非常にエキサイティングなことです。多くの企業が,すでに作り込まれたモバイルゲームでHDゲームのIPを活用しています(例えば,「Dragon Age Heroes」はHDゲームのリリースの合間にリリースされました)。しかし,Bethesdaは,よくできたモバイルゲームをリリースすることが,どれだけHDゲームのマーケティングキャンペーンにおける主軸となりえるのかを実証しました。このトレンドは,今後もまだまだ続いていくと考えています」とWalker氏は語った。

 では,ソニーは今後もメジャーなAAA IPのリリース前にモバイルゲームを出す予定なのだろうか。「近頃では,多くのプレイヤー(これには間違いなくAAAプレイヤーが含まれます)が,1日中モバイルデバイスで遊んでいるため,モバイルを考慮しないわけにはいきません」と,Griswold氏は言う。「モバイルと家庭用ゲーム機の体験をつなぐ適切な方法と量を見つけることが課題となりますが,必ず効果のある接続方法があるはずだと考えています」

 Thompson氏はさらに「私たちは,常に素晴らしいゲームの世界を拡張し,プレイヤーに新しい体験を提供しようとしています。そのために適切であるならば,あらゆるサイズの画面について方法を模索し続けます」と話した。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら