VRはサウンド界の追い風となるか?

 Game On Audioの経営陣が,今まで見過ごされがちだったゲーム開発におけるサウンドの位置づけにVRが及ぼす可能性がある大きな影響を語る。

 仮想現実(VR)にまつわるバズトークの大半は,ユーザーが目にする新しい世界についてのものだが,実は耳にする世界にも変化は起きる。このほどGamesIndustry.bizのインタビューに応じたGame On AudioのCEOであるSam Girardin氏とエグゼクティブプロデューサーのJean-Christophe Verbert氏は,ゲームサウンド専業企業にとってVRの台頭は追い風になり得ると話した。

 「VRの到来によって,多くの開発者たちは彼らが思うよりもプロジェクトに占めるサウンドの割合が大きいことに気付いていると思います」と,Girardin氏は言う。「メディアが変わっても,常に軽視されてきたサウンドですが,実際には体験の重要な一部です。プラットフォームの性能は飛躍的に高まっていますが,サウンドに対する業界内の認識はいまだに大して変化していません」

 「私たちは,この機を活かして地位の向上を目指します。サウンドという仕事の創造性や技術性の話ではありません。プロデューサー,開発者,プログラマなど,この業界に携わる人々に対して,たとえば『この部分はゲームオブジェクト量がこれだけ足りない』とか,『そこの環境音が抜けています』とか,『あのシーンはサウンドが抜けているのでダメだ』と指摘するのが簡単になるからです」


「VRでは,没入感が非常に重要であり,没入感に不可欠なのがサウンドです。もし,VRのサウンドに不備があれば,体験者はすぐにそれに気づきます」Jean-Christophe Verbert氏

 Verbert氏も同じ思いを共有している。「VRでは,没入感が非常に重要であり,没入感に不可欠なのがサウンドです。もし,VRのサウンドに不備があれば,体験者はすぐにそれに気づきます。その場で体験をやめてしまうかもしれない。それほど重要なのです」

 開発者がゲームのサウンドをより重視し,考慮するようになれば,Game On Audioにとっては良い結果が生まれる。モントリオールに拠点を置き,サウンド関連のアウトソーシングを請け負っている同社は,大きく変化する業界のニーズに適応しながら13年間にわたって開発企業のサウンド業務を支援してきた。

 「2002年の設立当初,平均的なAAAゲーム(当時はまだそんな呼び名すらありませんでしたが)のセリフ数は500程度でした」と,Girardin氏は振り返った。「今では,通常のAAA[プロジェクト]でセリフ数2万5千といえば少ないほうです。5万から10万ということも多く,その値も数年前にすでに突破しています」

 こうした作業量の増加にも関わらず,Girardin氏によればゲームサウンドのコストは同じように段階を追っては増加してはいない。Game Onは,最近Remedyの「Quantum Break」の作業を終えたばかりだ。Remedyは,同タイトルの映像制作費用を出し惜しみすることはなかったが,予算はほかのタイトルとほとんど変わらなかった。

 「正直なところ,最後の最後にバタバタと複数のスタジオでたくさんの作業者を雇い入れて作業をしたりせず,1回の作業で適切に終わらせられればそんなに費用は掛かりません」と,Girardin氏は言う。「制作管理がカギです。何をしようとしているかを把握することが大事なのです。私の母は,よく『やるのは1回でいいからちゃんとやりなさい』と言いますが,彼女ならゲーム業界で成功できるでしょう。なぜなら,その言葉は真理だからです」

「インディーズの世界では,スタートアップ企業が爆発的に増えていますが,彼らは予算にシビアです。ですから,私たちは彼らと仕事をするときには1回でやります」Sam Girardin氏

 Girardin氏は,開発企業がサウンドによって得られる結果の質と費用は,準備によって大きく変わると主張した。

 「Remedyのようなストーリーテリングにこだわり,長編映画のようなサウンドを求めるデベロッパなら,設計からストーリー,脚本,その他プロジェクト全体についてそれに見合った計画を立てる必要があります。そうすることで,最後にサウンドや脚本をバタバタと片付けることにならずに済みますし,ゲームを俯瞰して筋の通ったストーリーを作成できます」

 ゲーム開発では,しばしば相互に依存するシステムをお手玉のように順番に扱う。そのたとえで言うならば,サウンドは一定の間隔で落ちてくる玉のようなものだ。しかし,本当に一丸となれるチームであれば,小さなスタジオであっても素晴らしい結果をもたらせるのだとGirardin氏は言う。たとえば,と彼が例に挙げたのはホラー作品「Outlast」でGame Onと作業を共にしたRed Barrel Studiosだ。Red Barrelのチームは,当時10人編成だった。Girardin氏によると,Game On側で同ゲームのサウンドに携わった従業員はその人数以上だったという。

 「Red Barrelは,作りたいゲーム像が非常に明確だったと思います。だからこそ,限られた時間と少ない人数であれだけの素晴らしい体験を届けることができたのでしょう」と,Girardin氏は言う。

 Game On Audioは,これまでにも小さなチームと仕事をしてきた。Girardin氏は,インディーズがGame Onにとって大きな事業になることはないと見ているが,それでもゲームサウンドに関していえば,インディーズのチームがAAA企業よりもうまくやっている部分がいくつかあるという。

 「インディーズの世界では,スタートアップ企業が爆発的に増えていますが,彼らは予算にシビアです」と,Girardin氏は説明した。「ですから,私たちは彼らと仕事をするときには1回でやります。彼らに落ち度があって一からやり直すということはまずありません。非常に正確です。リソースが多くないので,注意深くなるのです。それが,ゲームにプロのサウンドを利用する手段なのでしょう」


「大手でも,サウンドの価値を認めないところもあれば,認めるところもあります(中略)サウンドを重視しないゲームディレクターもいれば,体験の5割はサウンドだ,というディレクターもいます。評価は非常に主観的なものです」Sam Girardin氏


 とはいえ,各スタジオのサウンドに対する姿勢はいまだ千差万別だ。

 「私たちの社風にも関わってきます」と,Girardin氏は言う。「大手でも,サウンドの価値を認めないところもあれば,認めるところもあります。それはインディーズでも同じことです。サウンドを重視しないゲームディレクターもいれば,体験の5割はサウンドだ,というディレクターもいます。評価は非常に主観的なものです」

 アフレコに有名人を起用するか,より安価なプロの声優を起用するか,といった話でも開発企業の姿勢は分かれる。もちろんGirardin氏は,どちらの作業にも対応可能だが,必ずしもそこにコストに見合った差があるとは思っていないようだ。

 「プロデューサーやゲーム開発者は,自問自答すべきです。本当にゲームのためになるのか。自分のゲームに有名人を起用したいだけではないのか。有名人を使うことでゲームの価値は高まるのか。その価値とは,ゲームのマーケティングや売上に限りません。私見ですが,有名人を起用しても売上本数は増えません。ただ有名人を起用するだけでは数字につながらないのです」

 もちろんGirardin氏も,有名人をうまく起用することで良い話題作りができ,その結果タイトルのマーケティング費用を抑えられるケースがあることは認めている。いずれにしても,有名人を起用するかどうかの意思決定は,最終的にプロジェクトに最適なのは何か,あるいは誰かという判断に基づいて行われるべきだ。

 Girardin氏は,適切な状況でのみ効果がある,注目を集めるためのもう1つの戦略についても言及した。それは,Game On Audioが2011年からサービスとして提供しているパフォーマンスキャプチャーである。

 「2011年にモーションキャプチャーを導入しました。フルパフォーマンスキャプチャーが使われるようになると思ったからです。実際にその通りになりました」とGirardin氏は言う。「しかし,間違いなくこれからも声優がいなくなることはないでしょう。フルパフォーマンスキャプチャーで一番難しいのは,ちゃんと演出できる人を探すことです。俳優も適切に選ばなければなりません。全身を使って演じるわけですから,体を使って表現できる人が必要です」

 「フルパフォーマンスキャプチャーにもチャンスがあります。ただ,正直なところ,これまでに登場人物の説明文や,制作者のイメージするキャラクター像を聞いてから俳優を見ると,多くの場合,声や見た目で選ばれており,モーションキャプチャーで非常に重要な動き方は考慮されていません」

 これは,モーション専業の俳優を使わなければ,パフォーマンスキャプチャーの価値が出せないという意味ではない。Verbert氏によれば,効果的なキャプチャーと,いま一つしっくりこないキャプチャーの間にある大きな違いは,撮影監督だという。
 キャストの力を引き出したとしてVerbert氏が名前を挙げたのは,「Quantum Break」のドラマ監督Stobe Harju氏だ。Harju氏はフィンランド出身の映画制作者であり,映画での経験(2012年の「Imaginaerum」)とゲームでの経験(「Alan Wake」シリーズ)の両方が,撮影時にも完成した作品にも生かされているという。

 「もちろん,スター俳優をキャスティングできたということもありますが,彼の的確な演出により,俳優陣はセットでまごつくことがありませんでした。どういう状況なのか,[想定される]環境がどんなものなのかをしっかり理解していたからです」とGirardin氏は言う。「いろいろな複合要素の結果です。どのように撮影に向けて用意をするか。どのように俳優陣を準備させ,監督が準備をするか。すべて制作管理の手腕です」

 Girardin氏も,Game Onで同じアプローチを取っているという。

 「正直なところ,この仕事を14年もやっていて,大事なことは自分とプロジェクトをどのように準備するかということです」とGirardin氏。「それが期待以上の品質を達成し,予算オーバーするリスクを低下させる方法です」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら