「Candy Crush」のTommy Palm氏が「VRにF2Pモデルは時期尚早」と語りつつもF2Pを展開する理由

 Resolution GamesのCEOで,かつて「Candy Crush」を成功させたことで知られるTommy Palm氏が,Gear VR向けタイトル「Bait!」にマイクロトランザクション(ゲーム内課金)を取り入れた理由や,VRが一部で叩かれている理由を語る

 F2P(Free to Play:基本無料)モデルのゲームに莫大な収益をもたらしているのが,極めて限られたプレイヤーであるという現状を踏まえれば,このビジネスモデルには巨大なプレイヤーベースが必要となることは自明だ。また,新しいハードウェアがゼロからユーザーを増やしている時期に,アーリーアダプター企業がF2Pを採用することは,一見すると賢明な判断には思えない。

 それでも,Resolution Gamesは,最初の2本の仮想現実(VR)プロジェクトである昨年発売の「Solitaire Jester」を無料公開したあと,先月発売の釣りゲーム「Bait!」をF2Pで提供している。先月行われたGame Developers Conference(GDC)の場でGamesIndustry.bizのインタビューを受けた同社のCEO,Tommy Palm氏は,Gear VRでF2Pモデルを採用することが,現在の市場に適していないことを認めた。

「まだゲームを高額で販売してもいい時期でしょう。1000円でも買う人はいます」

 「よほどハードコアなユーザーを獲得していて,彼らによる重課金が見込める場合を除けば,VRのインストール数はF2Pが運用可能な域に達していません。ただ,私たちの目的はそこではないのです」と,Palm氏は言う。
 「私たちには,VRに長期的な可能性を見出して支援してくれる投資者がいます。私たちは,早い段階で市場に参入し,その実態を把握したいのです。現在はさまざまなことが白紙のままですが,そこにはターゲットに的を絞る絶好のチャンスがあります」

 Palm氏はさらに「おそらく将来的にはF2PモデルのVRタイトルが増えてくるでしょうが,いまはまだゲームを高額で販売できる時期でしょう。1000円で売っても買う人はいます。開発の観点からすればそのようなモデルのほうがシンプルですから,多くの開発企業がF2P以外の戦略を採るのは当然です」と続けた。

 Resolution GamesのほかにもVRの将来性に期待する企業があることは明らかだ。Oculus RiftおよびHTC Viveのヘッドギア発売のわずか数週間前に開催されたこともあり,GDCはVRの話題で持ち切りだった。VRに特化した「VRDCトラック」での講演はあまりにも混雑していたため,ショーの2日めには主催者側が会場のキャパを増やして対応したほどである。それほどの熱狂の中にあっても,Palm氏は反動を覚悟しているという。

「2016年,そしておそらく2017年の初めにも,VRについて多くのネガティブな報道があると予測しています」

 「よくあることですが」と,Palm氏は語る。「今年は誰もがVRの時代がすぐにも到来すると考えます。けれども,初めのうちは期待されるほど数字が伸びません。すると,メディアがこぞって,今回のVRも我々が思い描いていたものとは違ったのだ,と喧伝し始めるのです。しかし,現時点で私には,今あるハードウェアで素晴らしいゲーム体験を作り出せるという確信があり,ユーザー数の増加とそれに伴うマネタイズの機会が見られるのは時間の問題だと考えています。それでも,2016年,そしておそらく2017年の初めにも,多くのネガティブな報道があると予測しています。(中略)私自身を含め,多くのハードコアなゲーマーが,80年代からこの時代の到来を待ち望み,あこがれ続けてきたんです。『トロン』や『マトリックス』のような映画を観てきた世代です。現時点で私たちに作り出せるVRゲームは,まだまだあの世界にはほど遠いものです。いずれは実現できるでしょうが,それには時間がかかります」

 ヒット作に恵まれることも不可欠だ。Palm氏は,過去のインタビューでVRのヘッドギアが売れるためにはキラーコンテンツが必要だと発言している。それでは,すでに発売されているVRゲームについてはどのように評価しているのだろうか。

Gear VRのユーザーはまだ少数だが,「Bait!」のダウンロード数は発売5日で15万に達した

 「いまのところ,スペースシューティングや伝統的なゲームが多いようですが,モバイルゲーム業界で働いてきた私には,ひとつの大きな直観があります。それは,世界の人口の大部分を占める人々を対象から除外することをやめれば,誰もがゲームを楽しめるということです。たとえば,プレイヤーキャラクターが男性に限定されているゲームのような,選択肢の不足は改善可能です」

 Palm氏はまた「Wii Sportsのような,新しいユーザー層にアプローチ可能なタイトルを求めています。私たちは,家庭用のヘッドギアを手に入れたプレイヤーが,家族や友達にVRとはどういうものかを見せるのに使えるようなゲームを作ろうとしています。任天堂は,その点において非常に成功しています」との見解を述べた。

「VRのセッション開始にあたっては,座って準備に時間をかける必要があります。その意味においては,コンソールゲームに近いといえます」

 「Bait!」には,Resolution Gamesの方針をうかがい知ることのできる要素がいくつかある。Palm氏が指摘するのは,暴力的ではない点,静止状態でプレイでき,カメラも動き回ることがないので,3D酔いのリスクが極めて低いという点である。また,ボタン1つで操作できるため,習熟の必要もない。このようなアプローチは,「Candy Crush」を世に送り出したKingで,Palm氏が大きな成功を収める要因となったマスアピール(対象を絞らない訴求)の手法のように見える。しかし,Palm氏は,モバイルVRは従来のモバイルタイトルよりもコンソールゲームやPCゲームに近いものであるという。

 「VRの場合,少し状況が異なると考えています。モバイルアプリはとても気軽です」と,Palm氏は説明する。「スマホを取り出して,ちょっと時間つぶしに遊ぼうかな,と思うものであって,時間をかけて良さそうなタイトルを探すものではありません。VRの場合,起動するまでにもう少し心構えが必要です。VRのセッションを開始するにあたっては,座って準備に時間をかける必要があります。その意味においては,コンソールゲームに近いといえます。また,それゆえに遊ぶゲームの本数は少なくなるかもしれませんが,1本1本にのめり込むようになるかもしれません」

 それでも,モバイルVRには従来のモバイルゲームと共通のあるメリットが存在する。それは,生活に欠かせないハードウェアで利用するということだ。

 「モバイルVRの最大の強みは,スマートフォンは極めて高額であっても,ほかに投資する理由があるという点です。ゲームはその延長線上にあるにすぎません」と,Palm氏は主張する。「スマートフォンが壊れたら,その日のうちに修理に出しますよね。それは多目的なデバイスだからです。ゲーム専用のハードウェアが壊れたときにその日のうちに修理に出すのは,よほどのコアゲーマーだけでしょう」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら