【月間総括】批判が生み出すメガヒット――批判恐れない任天堂と批判を極度に恐れるソニー
今月は最初に「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」について話を進めたいと思う。
アメリカで人気になっていると前回述べたが,4月28日には日本でも公開され,本稿の執筆時点(5月25日)で国内興行収入100億円を突破したと報道されている。
興行収入全体でも,1600億円を超えたそうで,これは歴代3位となった「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の約3000億円の半分を超えた水準であり,アニメ映画としては異例の大ヒットと言っていいだろう。
ポイントとしては,映画の公開によってゲームソフトの販売が増えたことだ。ファミ通のデータだと,GWにマリオ関連とスマッシュブラザーズが押し上げられたように見える。
ソニーグループの説明では,「THE LAST OF US」のドラマ放映でゲームソフトの販売が増えたケースがあるとのことだったので,映像化はうまくいくとゲームソフト販売増効果があると思うが,これほど広範囲にゲームソフトの販売が目に見える形で増えるとは正直事前の予想ができなかった。
筆者は映画会社をフォローしておらず,映画業界は専門でないこともあり,この大ヒットとシナジー効果の予想に失敗したと捉えている。この点は素直に反省したいところである。
まだまだ解明されていない事象が多く,考える必要があると痛感した結果になったと言えるだろう。なお,映画による販売増という事象を考慮すると,任天堂が前回の決算時に説明した,リスタートからの回復でゲームが売れなくなるという話は,やはり誤りだったと思う。
映画を見に行くという行為はまさにリスタートであり,リスタートがゲーム販売を阻害するなら,このようなシナジー効果がでるとは考えにくいのである。
そして映画については,任天堂の古川社長が決算説明会でも説明した通り,長期にわたる影響が想定されよう。
これだけのヒットになれば続編が制作される可能性は非常に高く,続編公開時には,今作がテレビ放送されるだろうし,サブスクリプションサービスでも再生できるようになるだろう。二次利用での収益貢献は相当長く期待できるはずだ。
カプコンのストリートファイターの映画は,2020年でも二次利用収入があると以前コメントがあった。これほどのヒットになった「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は二次利用の収益も大きく,かつ長期間貢献するだろう。
もう一つ,宮本茂代表取締役がメディアの取材に対して,評論家の映画に対する評価が低いことが一般人に批判されたことが人気となった,という主旨の発言をしていた。
筆者も,批判されるときに知名度が高まるとたびたび指摘していた話と同じことを言っているのである。
任天堂は様々な批判をよくされるが,人間は本質的にリスクに敏感な傾向が存在するので,悪い話題がこのようなヒットの源泉になっているのであろう。
宮本氏はゲーム業界では比類なき実績を生み出したが,映画業界的には素人というのが米映画業界での評価だと思う。それが1600億円を超えるメガヒットを生み出したことを,評論家たちが素直に評価できなかったことが結果として,映画の知名度向上につながったということだろう。
次に語るべきなのは,5月12日に発売された「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」だ。
任天堂は発売から3日間の実売が1000万本に達したと5月17日の夜に発表した。この数字は,2バージョン発売された「「ポケモン スカーレット・バイオレット」」と遜色ない本数であり,サプライズだった。
前作の「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」は,WiiU とSwitchのマルチ展開だったものの,Wii Uは失敗ハードだったこと,Switchはローンチタイトルなので初動の比較ができなかったが,ロングランになっており累計は3000万本近くになっている。
本作も事前の期待は高かったものの,続編であることやハードが下り坂に入っていること,さらに操作性も難しいタイプのゲームなので,初動でこれほどのレベルの水準になるとは想定していなかった。
任天堂は「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」と同じく3000万本の販売を目指しているとし,マリオ映画の影響が任天堂タイトルの販売増にも寄与していることから,今期の2000万本販売は十分狙える状況だと考えている。
また,ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダムは,SNSなどに多数の動画が投稿されているが,その中身はストーリーよりも,クラフト要素が多いように思う。非常に自由度の高いゲームになっていて,戦車や爆撃機,果てはロボットまで作られている。このような世界観を破壊しかねないようなシステムを組み込める胆力には感嘆するしかないという印象だ。
アメリカにあるSIEが批判にばかり目を向けるのとは,まったく別のアプローチだろう。任天堂の,ユーザーを笑顔にするゲーム作りには敬意を表したい。
さて,後半はソニーの決算について話そう(任天堂は来月としたい)。
4月28日にソニーグループは決算を発表し,ゲーム事業については,増収減益で終わった。理由はいろいろあるのだが,根本的にはソフトが売れていないのである。
年間の販売本数は前年の3億本から2.64億本と減少していて,PS4の減少分をPS5の増加分で補えないということだと思われる。
また,昨年の事業説明会でジム・ライアン氏が誇っていたアドオンも,為替の影響を除く実質ベースでは停滞傾向が続いている。フルゲームが売れなくなったのでユーザーがアドオンに移ったという表面的な分析をしていたのだと思うのだが,日本でスマートフォンゲームに移行しなかった現実を知っている筆者としては,別要因だと考えたほうが良いと思う。
そして,ソニーグループの今回の決算の説明は,
(1)2023年3月末の流通在庫(小売店側の在庫・ソニーグループからは販売済)の水準は適正よりも多い。2024年3月末には適正化する予定で今夏は在庫(この在庫はおそらくソニーグループを指す)を積む
(2)今期のフルゲーム販売の見通しは慎重で,大きくは増えない
(3)PSVR2は,PSVRの初期よりも販売数は多いが,今期の販売は多くは期待せずラインナップの拡充で普及を目指す
であり,東洋証券としてはかなり解釈に困るものであった。
(1)は正直,驚きである。
第4四半期,PS5の販売(着荷)台数は630万台と第4四半期としては歴代最高となり,日本では80万台を超えるセルスルー(ファミ通調べ)となっていたので,在庫水準は適正以下だと考えていた。
だが,ソニーグループ側の見立てでは,在庫水準は適正水準を超えているというのだ。詳細は来月にしたいと思うが,5月24日に開催された事業説明会では,第4四半期のセルスルーは500万台とのことであった。だとすると流通在庫は200万台弱ということになる。
これが多いとはちょっと思えないのだが,それはさておき日本の同時期のセルスルーは80万台強だったので,日本のシェアは約16%といえる。
以前,生産難だったときに日本の割り当ては8%程度だったのではないかと指摘し,日本の実力に対しての供給が少なすぎるとして来た立場からすると,この主張は適切だったと思う。
供給が少なすぎたので供給が増えると買う人が多くなり,この四半期の販売を支える結果になったと考えている。
今頃になってジム・ライアン氏は日本市場について言及したのだが,日本のユーザーの実感からずれている内容に思う。そんなコメントを今さらするのであれば,筆者が指摘したときに直ぐにでも行えばよかったのである。ユーザーはSIEが行った冷たい仕打ちを大変よく覚えているので,後で影響が出てくるだろう。
(2)についても意外であった。2500万台も売れるのであればソフトは反転しないとおかしい。単に保守的に見ているだけかもしれないが,FF16の動向を注視しているかもしれない。この点は,また今後言及したい。
(3)のPSVR2については決算説明会でも言及がなく,ヒアリングでもソフトラインナップの拡充というありきたりの説明であった(事業説明会で55万台程度だったことが明らかになっている)。
しかし,長くゲーム機の販売を見てきた立場からするとサードパーティのAAAでハードの勝敗が決まっていないのは明らかだと思う。にもかかわらずソフトのラインナップというのは説明としては極めて不十分ではないだろうか?
初動で失敗したゲーム機が後から挽回したケースは一度もないのである。おそらくこのまま,PSVR 2は水に流されてしまうのであろう(PSVR 2は周辺機器だが)。
ハード販売は非常に強気な計画ながらソフトは低成長というのは,ちょっと過去にない計画の立て方である。
PS5のソフト販売が低迷していることを受けてであろうが,そうなると現状のソフトでハードが売れているという理論が成り立たないことになる。
デザインとストレージコスト問題は早急に対応が必要な状況にあると思うのだが,いかがだろうか? 5月24日の事業説明会の解説は来月にするが,今回はデザインについて言及があった。SIEとしては,PS5のデザイン性が優れているということなのだが,是非はともかくデザインに言及があったことは東洋証券としてはとても喜ばしいことだ。
アメリカで人気になっていると前回述べたが,4月28日には日本でも公開され,本稿の執筆時点(5月25日)で国内興行収入100億円を突破したと報道されている。
興行収入全体でも,1600億円を超えたそうで,これは歴代3位となった「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」の約3000億円の半分を超えた水準であり,アニメ映画としては異例の大ヒットと言っていいだろう。
ポイントとしては,映画の公開によってゲームソフトの販売が増えたことだ。ファミ通のデータだと,GWにマリオ関連とスマッシュブラザーズが押し上げられたように見える。
ソニーグループの説明では,「THE LAST OF US」のドラマ放映でゲームソフトの販売が増えたケースがあるとのことだったので,映像化はうまくいくとゲームソフト販売増効果があると思うが,これほど広範囲にゲームソフトの販売が目に見える形で増えるとは正直事前の予想ができなかった。
筆者は映画会社をフォローしておらず,映画業界は専門でないこともあり,この大ヒットとシナジー効果の予想に失敗したと捉えている。この点は素直に反省したいところである。
まだまだ解明されていない事象が多く,考える必要があると痛感した結果になったと言えるだろう。なお,映画による販売増という事象を考慮すると,任天堂が前回の決算時に説明した,リスタートからの回復でゲームが売れなくなるという話は,やはり誤りだったと思う。
映画を見に行くという行為はまさにリスタートであり,リスタートがゲーム販売を阻害するなら,このようなシナジー効果がでるとは考えにくいのである。
そして映画については,任天堂の古川社長が決算説明会でも説明した通り,長期にわたる影響が想定されよう。
これだけのヒットになれば続編が制作される可能性は非常に高く,続編公開時には,今作がテレビ放送されるだろうし,サブスクリプションサービスでも再生できるようになるだろう。二次利用での収益貢献は相当長く期待できるはずだ。
カプコンのストリートファイターの映画は,2020年でも二次利用収入があると以前コメントがあった。これほどのヒットになった「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は二次利用の収益も大きく,かつ長期間貢献するだろう。
もう一つ,宮本茂代表取締役がメディアの取材に対して,評論家の映画に対する評価が低いことが一般人に批判されたことが人気となった,という主旨の発言をしていた。
筆者も,批判されるときに知名度が高まるとたびたび指摘していた話と同じことを言っているのである。
任天堂は様々な批判をよくされるが,人間は本質的にリスクに敏感な傾向が存在するので,悪い話題がこのようなヒットの源泉になっているのであろう。
宮本氏はゲーム業界では比類なき実績を生み出したが,映画業界的には素人というのが米映画業界での評価だと思う。それが1600億円を超えるメガヒットを生み出したことを,評論家たちが素直に評価できなかったことが結果として,映画の知名度向上につながったということだろう。
次に語るべきなのは,5月12日に発売された「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」だ。
任天堂は発売から3日間の実売が1000万本に達したと5月17日の夜に発表した。この数字は,2バージョン発売された「「ポケモン スカーレット・バイオレット」」と遜色ない本数であり,サプライズだった。
前作の「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」は,WiiU とSwitchのマルチ展開だったものの,Wii Uは失敗ハードだったこと,Switchはローンチタイトルなので初動の比較ができなかったが,ロングランになっており累計は3000万本近くになっている。
本作も事前の期待は高かったものの,続編であることやハードが下り坂に入っていること,さらに操作性も難しいタイプのゲームなので,初動でこれほどのレベルの水準になるとは想定していなかった。
任天堂は「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」と同じく3000万本の販売を目指しているとし,マリオ映画の影響が任天堂タイトルの販売増にも寄与していることから,今期の2000万本販売は十分狙える状況だと考えている。
また,ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダムは,SNSなどに多数の動画が投稿されているが,その中身はストーリーよりも,クラフト要素が多いように思う。非常に自由度の高いゲームになっていて,戦車や爆撃機,果てはロボットまで作られている。このような世界観を破壊しかねないようなシステムを組み込める胆力には感嘆するしかないという印象だ。
アメリカにあるSIEが批判にばかり目を向けるのとは,まったく別のアプローチだろう。任天堂の,ユーザーを笑顔にするゲーム作りには敬意を表したい。
さて,後半はソニーの決算について話そう(任天堂は来月としたい)。
4月28日にソニーグループは決算を発表し,ゲーム事業については,増収減益で終わった。理由はいろいろあるのだが,根本的にはソフトが売れていないのである。
年間の販売本数は前年の3億本から2.64億本と減少していて,PS4の減少分をPS5の増加分で補えないということだと思われる。
また,昨年の事業説明会でジム・ライアン氏が誇っていたアドオンも,為替の影響を除く実質ベースでは停滞傾向が続いている。フルゲームが売れなくなったのでユーザーがアドオンに移ったという表面的な分析をしていたのだと思うのだが,日本でスマートフォンゲームに移行しなかった現実を知っている筆者としては,別要因だと考えたほうが良いと思う。
そして,ソニーグループの今回の決算の説明は,
(1)2023年3月末の流通在庫(小売店側の在庫・ソニーグループからは販売済)の水準は適正よりも多い。2024年3月末には適正化する予定で今夏は在庫(この在庫はおそらくソニーグループを指す)を積む
(2)今期のフルゲーム販売の見通しは慎重で,大きくは増えない
(3)PSVR2は,PSVRの初期よりも販売数は多いが,今期の販売は多くは期待せずラインナップの拡充で普及を目指す
であり,東洋証券としてはかなり解釈に困るものであった。
(1)は正直,驚きである。
第4四半期,PS5の販売(着荷)台数は630万台と第4四半期としては歴代最高となり,日本では80万台を超えるセルスルー(ファミ通調べ)となっていたので,在庫水準は適正以下だと考えていた。
だが,ソニーグループ側の見立てでは,在庫水準は適正水準を超えているというのだ。詳細は来月にしたいと思うが,5月24日に開催された事業説明会では,第4四半期のセルスルーは500万台とのことであった。だとすると流通在庫は200万台弱ということになる。
これが多いとはちょっと思えないのだが,それはさておき日本の同時期のセルスルーは80万台強だったので,日本のシェアは約16%といえる。
以前,生産難だったときに日本の割り当ては8%程度だったのではないかと指摘し,日本の実力に対しての供給が少なすぎるとして来た立場からすると,この主張は適切だったと思う。
供給が少なすぎたので供給が増えると買う人が多くなり,この四半期の販売を支える結果になったと考えている。
今頃になってジム・ライアン氏は日本市場について言及したのだが,日本のユーザーの実感からずれている内容に思う。そんなコメントを今さらするのであれば,筆者が指摘したときに直ぐにでも行えばよかったのである。ユーザーはSIEが行った冷たい仕打ちを大変よく覚えているので,後で影響が出てくるだろう。
(2)についても意外であった。2500万台も売れるのであればソフトは反転しないとおかしい。単に保守的に見ているだけかもしれないが,FF16の動向を注視しているかもしれない。この点は,また今後言及したい。
(3)のPSVR2については決算説明会でも言及がなく,ヒアリングでもソフトラインナップの拡充というありきたりの説明であった(事業説明会で55万台程度だったことが明らかになっている)。
しかし,長くゲーム機の販売を見てきた立場からするとサードパーティのAAAでハードの勝敗が決まっていないのは明らかだと思う。にもかかわらずソフトのラインナップというのは説明としては極めて不十分ではないだろうか?
初動で失敗したゲーム機が後から挽回したケースは一度もないのである。おそらくこのまま,PSVR 2は水に流されてしまうのであろう(PSVR 2は周辺機器だが)。
ハード販売は非常に強気な計画ながらソフトは低成長というのは,ちょっと過去にない計画の立て方である。
PS5のソフト販売が低迷していることを受けてであろうが,そうなると現状のソフトでハードが売れているという理論が成り立たないことになる。
デザインとストレージコスト問題は早急に対応が必要な状況にあると思うのだが,いかがだろうか? 5月24日の事業説明会の解説は来月にするが,今回はデザインについて言及があった。SIEとしては,PS5のデザイン性が優れているということなのだが,是非はともかくデザインに言及があったことは東洋証券としてはとても喜ばしいことだ。