「24Frameの邪道経営哲学」第10回:正式リリースを振り返る時の哲学


 さて資金調達から独自のミクロなマーケティングを経て,Steamという大いなる謎を垣間見つつアーリーアクセスまではなんとかまとまった「METAL DOGS」ですが,まだ大き目のイベントはいくつか残っています。アーリーの後に来る正式リリースは勿論のこと,家庭用でのリリース,というのもこのタイミングでやってきます。

残すは家庭用&正式リリース!
「24Frameの邪道経営哲学」第10回:正式リリースを振り返る時の哲学

 家庭用でのリリースは,SteamというPCプラットフォームでのリリースとは異なります。この二者を比べて「どちらがやりやすいか?」という議論を起こすことは控えますが,そこには宗教戦争といっても過言ではないほどのイデオロギーの衝突が生まれがちなこともまた事実。

 ともあれ,まずはその深淵に迫る前に,アーリーアクセス直後の状況から振り返っていきましょう。


大型アップデート実施 2021年12月3日


リリースにはユーザーレビューがつきものです
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 アーリーアクセスとはいえ,リリースはリリースなのでユーザーからは様々な反応が出てきます。大まかにいうとMETAL DOGSに対するそれは大まかに言って二分されました。それらは「もっと犬を見たい」というものと「もっと難度を!」というものでした。

 それらは本作においては「犬を見る」と「ハードコアモード」の実装により対応されました。

 「犬をもっと見たい」という要望については「ですよね!」で終了の明快さがあるのですが「難度」についてはいろいろと思考が複雑になります。そもそも「METAL DOGS」はそもそもハードルが高めのシリーズであるメタルマックスの布教版,という側面を背負っており,当初からカジュアル寄りのコンセプトでした。

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やはりこれくらい,犬は見たいですよね
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死んだら何もかも終わり,ではありつつもクリアしたステージだけは積み上げられます
 ゆえに「ハードコアモード」が迅速に実装されつつも,その先には根本的にカジュアルである,という運命もあり,このねじれは根源的には「Steamでリリースすべきゲームはよりハードコアであるべきではないのか?」という問いへとつながっていきます。この辺りは次に活かすべきことなのでここでは深追いしませんが,そんな深淵な課題を得つつも「犬を見る」モードと,ハードコアモードの実装を軸としてアーリーアクセス後,最初の大型アップデートは行われました。


家庭用機でのリリース 2022年4月8日

 そして次の大き目のイベントは割と早めにやってきます。それはNintendo Switch版とPS4版の発売です。当初はDL販売のみの予定だったのですがSteamでのリリースの初動を見ていけると踏んだのか,パッケージ版での発売も急遽決定し,端的に言えば大わらわです。

 ちなみに我々だけではパッケージ版を出すことはできなかったため(これを実行にするには結構いろいろなハードルがあったんですよね)ここでのパブリッシャはDL版も含めて角川ゲームスさんにお願いしておりました。

パッケージでのリリースも急遽決まり,犬たちも忙しい!
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 ちなみにパッケージ版の発売以外にも,プロモーションでは角川ゲームスの担当さんにはその手腕というか剛腕を見せつけてもらいました。コロナ禍も落ち着いてきたなか実施した発売に合わせたお渡し会の開催や,その他いろいろなコラボなど,プレスリリースを出すだけでヒイヒイ言っていた我々に比べるとその頼りがいときたらもう……!

 ちなみに実装的には「家庭用ゲーム機」でのリリースはPCに比べると別の意味で難度が高いです。当初から見込んでいればマルチプラットフォーム同発,なんてことも可能ではありますが,基本的には家庭用機は独自の機能などもありつつ,後はスペックが固定されるという喜びと悲しみの同居する事態がありまして。

 PCは逆に環境が統一されていないのがつらい時がありますが(固有環境で操作がバグった,などはトレース,再現しようがないものもあったりしますし),割と容量と処理の節約を前提としたスペックで固定だと,けっこうテクニカルなハードルが上がります。

 うちの場合はこの時はすでにそんなこともあろうかと,基本的に社内での実装テストは家庭用機で行っていましたし,デイリーでROMが自動でビルドされるシステムなんかも組んであったので,急なバグに見舞われることは少なかったように思います。

 かくてPC,家庭用機,それぞれで一旦のリリースは終え,残すはSteamでの「正式リリース」と,それに伴う家庭用機のアップデート,となりました。

 特にPCでは英語圏とアジアの主要言語を含めた多言語対応も同時進行で進んでおり,マルチプラットフォーム,マルチ言語の対応まで独力でできたことには強い手ごたえを感じました。

 しかしようやくゴールが見えてきたかな,と思ったその時「それ」は起こったのです。


権利の移動 2022年6月

 「それ」とはすなわちこの連載でも触れてきた「メタルマックス ワイルドウエスト」の制作中止と,それに伴う「権利の移動」です。
 開発中止の詳細は本連載の過去回を見ていただくとして,今回はその後に起こった「権利の移動」についてお話ししたいと思います。
開発中止からまさかの「権利移動」が発生
「24Frameの邪道経営哲学」第10回:正式リリースを振り返る時の哲学

 まず既報の通り「METAL DOGS」のスピンオフ元である「メタルマックス」の権利が株式会社角川ゲームスから株式会社Cygamesへと移動となりました。

 それに伴い勃興するのが「METAL DOGS」はどうなるのか? という議論なわけですが,当然なのか意外にもなのか,この権利もCygamesに移動となりました。

 ここまではさもありなん,ではありつつもこの後の展開がちょっと変わったことに。
 上述の通り家庭用機でのリリースは角川ゲームスがパブリッシャだったわけですが,これも普通に考えればCygamesに移動となるはずです。しかし現実にはそうならず,ここでのパブリッシャが弊社「株式会社24Frame」になるという案が浮上したのです。

 「それってどういうこと?」が少し分かりにくいかもしれないので具体的に説明しますと,各家庭用機でのオンラインストア,ここに表示される「発売元」が「株式会社角川ゲームス」から「株式会社Cygames」になるのではなく「株式会社24Frame」に置き換わることになったのです。

 「こんなことってある?」と狐につままれた感じに襲われつつも関係者各位の尽力たるや,常識外のレベルのものがあったんだろうな……と思うと目頭が熱くなります。

 こうしてプロジェクトの中止を経て,PCと家庭用機での販売元となる,という奇妙な放物線を描いて「METAL DOGS」と我々は着地していくことになったわけです。



正式リリースに向けて 2022年8月

かくて後は正式リリースのみ,となります
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 そんな経緯が落ち着いていくのをどこか現実感がないままに経験しつつ,着地したからには次のジャンプのことを考えねばなりません。

 そういった意味ではここでもやることは山積みでした。

 まずは中止となったプロジェクトの現場の解体。具体的にはラインのスタッフを減らしつつ別の仕事を入れていき,同時にMETAL DOGSの正式リリースで必要となる要素の洗い出しとゴール地点の確認。

 これは最終的にシリーズでも人気かつ「これは出ていてほしい」と僕が強く思うボスの選定が主なものになりました。それらをエンドコンテンツとして実装しつつ,それを取り巻くザコモンスターや報酬周りのアクセサリ(「犬を見る」モードで映えるやつです)の制作もTo doとして付加されます。

 そしてそれらを終わらせていく訳ですが,一つの作品制作が終わっても人生は続きます。そして人生には夢が必要です。夢をつかむためにはあがかなければなりません。

 次は何のため,何をゴールとしてあがくのか? それを考えていくのです。

正式リリース実施 2023年3月24日


何かの終わりは,すなわち何かの始まりです
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 そんな葛藤と懊悩の中で気が付けば家庭用機でのリリースから約1年が経ちました。
上記の作業は問題なく進行し,去る2023年3月24日,晴れて「METAL DOGS」は念願の「正式リリース」を迎えます。
 正式リリースをきっかけとした売り上げの伸びも上々で,紆余曲折はありつつもなんとか大団円,といえなくもない結末です。

 これを書いている時点で「正式リリースからまだ2か月しか経っていない」ことに戦慄を覚えなくもないのですが,ここからはまさに上記の「次のゴール」を見据えていかねばなりません。

 そしてそれはおぼろげに現在,我々の中で具体的な形をとりつつあります。
 この連載でも触れたようにUnreal Engineなどにも接近してみるといった手探りもしていました。次の作品でこれを採用するかはまた別の話ですが,するにせよしないにせよ,知見は深まった気がします。

 そして,今の我々には最低限,マルチプラットフォームで多言語化されたゲームをリリースできたことへの手ごたえもあります。

 これらの経験を携えつつ,我々はどこに向かっているのか? それは近々,この連載でもお話しすることになると思います。乞うご期待!