GAME: 我々は,物理的なビデオゲーム販売の最後の1人になるだろう

パンデミックからの脱出,デジタル時代における役割,そして花開く玩具ビジネスについて英国のゲーム小売業者が語る。

GAME: 我々は,物理的なビデオゲーム販売の最後の1人になるだろう

 Nick Arran氏がGAME(※英国の大手ゲーム販売チェーン)のビジネスを率いると聞いたとき,私はある種の同情を覚えたものだ。

 Arran氏は,HMV,Blockbuster,Amazon,Sainsbury's,ShopToなどで経験を積んだゲーム小売業のベテランだ。だから,同社の前CEO Martyn Gibbs氏の後任として呼び出されたのは驚くような話ではない。

 しかし,Arran氏が直面した状況は,激しい不確実性の中にあった。2020年7月に彼が就任した時期,世界は壊滅的なパンデミックの初期段階だった。GAMEの店舗は閉鎖され,オンラインストアは事業の重責を担うことになり,顧客はゲームをダウンロードすることを選ぶようになっていたのだ。

 しかし,Arran氏に「実際のところ,どうだったのか」と尋ねると,「火の粉が降りかかるようなことばかりではありませんでした」と語るので驚かされた。

 「私は25年間ゲーム業界で働いていますが,これほど短期間に大きな変化を見たのは初めてです」と氏は我々に語ってくれた。

市場データを見れば分かりますが,オンラインは市場の75%を占めています。パンデミック以前は45%でした

 「その先頭に立つことは,エキサイティングなことです。我々は,未来のためのビジネスを創造しているのですからね。パンデミックが始まったとき,多くの人がこう思ったはずです: 『GAMEはこれで終わりか』と。正直なところ,Frasers Group(2019年にGAMEを買収した小売コングロマリット)がなければ,おそらくそうなっていたでしょう。しかし,彼らは我々に投資して,ビジネスを成功させるために必要なもの(主に現金)を与えてくれたのです」

 「我々は,かなり堅実な3年間を過ごしていました。パンデミックの影響で店舗が閉鎖され,大変な思いをしましたが,Webサイトがその分を補ってくれました。そして,新しいゲーム機が発売されました。もちろん,その年は素晴らしい年でした。翌年も好調で,ゲーム機はまだ割り当てがあり,我々も非常に良い割り当てを得ることができたのです。その翌年になると…… PlayStationとXboxは,(供給制約のため)以前ほど売上に大きな影響を与えることはありませんでした。しかし,おもちゃのビジネスは本領を発揮し,クリスマスには驚異的な数字を記録したのです」

 玩具について,Arran氏は熱心に語っている。ゲームがビジネスの中心であることに変わりはなく,ビデオゲーム業界の行く末を否定しているわけではない。

 「我々はビジネスの未来を守る必要があります」と氏は語る。「だからこそ,ゲーム,玩具,ボードゲーム,そして技術に至るまで,総合的なエンターテインメントとしてのアプローチをとっているのです」

 今日,GAMEに行くと,ピカチュウのぬいぐるみやバイオハザードのアクションフィギュアだけでなく,店内の大部分が玩具にあてられているのを目にするだろう。「明らかなゲームグッズ……それは新しいものではありません」とArran氏は説明する。「何年も前からやっていることです。しかし,我々は,ゲームソフトの発売日やその年のある時期にしか,ゲームソフトの数を稼げないことに気づきました。我々は,1年中売れる玩具ビジネスをしたいのです。未就学児相手とかだけじゃなく,5歳,6歳,そして大人,いわゆる大きなお友達までを相手にしたビジネスがしたいのです」

 「新しいお客さまを呼び込む,新しい提案がしたかったのです。今ではトランスフォーマーのおもちゃやHotWheel(※電動ミニカー),バービーのおもちゃを買いに来る人がいます。そして,我々の報酬データベースや社会的な活動を通じて,こうしたお客さまに声をかけることができるのです。それで,その人たちや,親御さんにも,早いうちからゲームに興味を持ってもらうことができ, そして,いつかはゲームに熱中するようになるでしょう。そうなれば,我々は彼らにゲームを勧めることができるようになるのです」

 「主要産業は衰退していますので,そのギャップを埋める必要があるが,将来的には,新しい顧客を取り込み,オンラインショップから脱却させることも必要です」

クリスマスにGAMEのおもちゃをアピールするNever Grow Upキャンペーン
GAME: 我々は,物理的なビデオゲーム販売の最後の1人になるだろう

 GAMEの店舗は以前より少なくなっている。単体の店舗はだが。Arran氏は,店舗ポートフォリオの変革について,基本的には専用店舗を減らし,他の店舗(Frasers Group傘下のSports DirectやHouse of Fraserなど)の売店を増やすことを意味すると話している。

 「パンデミック以前は,250店舗ほどありましたが,当然ながら独立した店舗で,Sports Directには1,2店舗の試験店舗がありました」とArran氏は語る。

 「パンデミック(世界的大流行)の影響で,我々の予想以上にデジタル化が進んでいるのを目の当たりにしました。顧客はオンラインに殺到し,何人かは戻っていましたが,すべてが戻ってきたわけではありません。市場データを見れば分かるように,オンラインは市場の75%を占めています。パンデミック以前は45%でした」

 「そのため,店舗のポートフォリオを調整する必要がありました。現在では,より多くの拠点で取引を行っています。90の独立したGAMEストアと,House of FraserとSports Directの170の売店で,300以上の場所で取引をしています。これらは完全にGAME側の提案です。さらに,GAME Lightと呼んでいる50店舗があり,各フォーマット1ベイずつ,おもちゃやボードゲームなど,小さな商品群を扱っています。これらは,GAMEの売店がないSports Directにあります」

 少なくとも将来的には,この300店舗は,ゲームよりも玩具に重点を置くようになるのだろうか。

 「いいえ」とArran氏は反論した。「ゲームは我々のコアビジネスであり,物理的なビデオゲームを販売する最後の1人になるでしょう。我々は,ビデオゲームのレコード盤のようなコレクターズエディションや,クリスマスにダウンロードコードを包むのを嫌がる贈り主など,物理的なものの居場所があることを証明することが,この市場における我々の役割だと考えています。しかし,我々は現実的になる必要があります。我々にはビジネスがあり,これは衰退していくものと予想されます。ですから,そのギャップを埋める必要があるのです」

(ソニーがPSVR 2直販するのを見るのは)飲み込むのが大変なことです

 「今日,ほとんどの消費者に話しかけて,『GAME』と言っても,『Hot Wheelsを買いに行く』と言う人はほとんどいませんが,我々はそれを変えようとしているのです。その一環と言えるのが,我が社がクリスマスに実施した「Never Grow Up」キャンペーンです。これは,玩具のラインアップで大人層をターゲットにしたものでした」

 「玩具市場の25%は大人だと思います」とArran氏は語る。「レゴや1000ポンドのトランスフォーマー,オプティマスプライム,そしてトレーディングカードは大成功を収めました。確実に,その大半は子供たちが買っているわけではありません。そして,それは我々が参入しやすい市場の一部なのです。Hot Wheelsのおもちゃよりもずっと早く,その結果を見ることができるのです」

 GAMEは,コレクターズエディションや予約特典など,独占的なアイテムに関しても,パブリッシャとの提携を続けている。そしてArran氏は,GAMEがゲームの発売を "イベント化 "するための鍵は,この点にあると語る。ゲーム発売時の深夜営業は現在では珍しいが,今でも行われており,GAMEでは11月にGod of War Ragnarokの深夜営業が実施された。

 「また,コスプレをしたり,店舗を完全に占拠したり……独占販売によってそれが可能になります」とArran氏は語る。「ただダウンロードできる商品を売るために店舗を開くのでは,お客さまに来店する意欲を持たせることができません。この戦略では,すべての重要なリリースについて,独占的な製品を探します。サプライヤーとの話し合いは,通常,必ず独占販売から始まります。玩具にもそれを取り入れています」

 パブリッシャはGAMEを独占販売でバックアップしているように見えるが,小売業者と敵対しているように見えることもある。たとえばPlayStationは,PlayStation VR 2を含む新しいハードウェア製品をまず直営店で販売し,あとから他の小売店にも卸している。

 「私はそのことに不満でした」とArran氏は率直に語る。「PlayStationは,Day Oneの消費者を多く取り込んでいるのは確かです。下取りが必要なお客さまは,購入することも,ロイヤリティポイントを獲得することも,使うこともできなかったはずです。そういう顧客は取り逃がしていましたので,それを今我々が取り込めるのは嬉しいですね」

 「デジタル市場は,フォーマットホルダーがすべてを牛耳っているため,正直言って受け入れがたいものがあります。しかし,それを乗り越えていかなければなりません。我々の大きなパートナーです。ソニーとのGod of War の独占契約を考えてみてください。我々は,家庭用ゲーム機の大きな割り当てを受けることができます。PSVR 2が発売されたとき,我々は良い配分を受け,本当に強力な市場シェアを確保しました……我々は,この時代を受け入れ,適応する必要があります」

我々は,この時代を受け入れ,適応しなければなりません

 もちろん,PS5やXbox Series S/Xの発売当初は,ゲーム機がすぐに売り切れ,オークションサイトで高値で取引されるという,小売業にとって大きな試練があった。このような事態を招いたのは小売業者であり,転売屋は行列を避けるために技術的な解決策を講じていた。これが,プラットフォームホルダーが直接販売に踏み切る理由なのだろうか? 

 「転売が大きな影響を及ぼしていなければいいのですが……」と,Arran氏は思案する。「我々が一番望まないのは,誰かがゲーム機を持ち出し,それでお金を儲けて,そのお客さまに二度と会えなくなることです。我々は,お客様がコントローラやゲームを購入するために戻ってくることを望んでいます」

 「我々は打撃を受けましたが,多くのことを実施していました。カードが重複していないか,メールアドレスが重複していないか,住所が重複していないか……郵便番号も重複していないか……など,手作業で注文をチェックしました。 なぜなら,このような事態を回避するために,人々はあらゆる手段を講じていたからです。我々は前面で多くのテクノロジーを導入して事件の発生を阻止しており,多くの人々になにがあっても大丈夫なようにしていました」

 「ソニーとMicrosoftからは,いい話を聞きました。彼らは,ゲーム機の行き先を追跡できますし,我々のゲーム機がすべてエンドユーザーの手元に届いていることも確認できたのです。我々がそれを管理できることを証明できたと思います」

GAMEの実店舗は現在,170のSports DirectとHouse of Fraserの店舗が中心となっている
GAME: 我々は,物理的なビデオゲーム販売の最後の1人になるだろう

 GAMEのビジネスの中で,以前は重要な位置を占めていたのが下取りだ。しかし,デジタルで購入する人が増えたことで,下取りされるタイトルが減り,結果的に中古市場が急速に衰退することになった。しかし,Arran氏は,生活費の危機が,ときに物議を醸すこの慣習を再び重要なものにしていると感じている。

 「生活費……小売業にとっては本当に大変なことです」と氏は語る。「GAMEと我々の業界は,その影響を免れることはできません。しかし,ここが我々の本領発揮の場であると私は考えています。我々は,下取りを行っている数少ない,いや,唯一の小売業者です。消費者は,これまで以上に下取りを利用して,購入の手助けをするようになるでしょう」

 「デジタルが問題になるのは,この点です。デジタルゲームは下取りができませんので,我々はフィジカルを支持し,下取りを促進することで,消費者がより多くのゲームをプレイしたり,より多くのおもちゃを購入したりできるようにします。これからは下取りについての話をよく見かけるようになるでしょう。下取りは再び重要な役割を果たすようになってきています」

これからは我々が下取りについての話をよく見かけるようになるでしょう。下取りはまた本領を発揮しつつあります

 GAMEとの対談では,窮地に立たされた小売業者について聞くことになると思っていた。GAMEは,ハイストリートの単独店舗の3分の2近くを失い,物理的なゲームの急速な減少,生活費の危機,プラットフォームホルダーによる消費者への直接販売に直面している企業なのだ。

 しかし,GAMEには将来の計画があり,今日のビデオゲーム業界で果たすべき役割(たとえそれが小さなものであったとしても)があることも明らかだ。

 「GAMEの今後の展開にご期待ください」と,Arran氏は締めくくる。「Frasersグループとは,もっと多くの店舗をオープンできないかと常に話し合っています。今年は,GAMEが出店していません,あるいは数年前に撤退した市場を15〜20カ所開拓したと思います。玩具に関しては,カテゴリーが150%アップしています。まだ新しいものです。我々は関係を築きながら,このビジネスを再び成長させていくつもりです」

 「今年は良い年になると思っていますよ。ソフトウェアが好調で,PlayStationとXboxは滞りなく供給されています。そして……これらのゲーム機でブラックフライデーを見るのは今年が初めてでしょう?」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら