【ACADEMY】ゲーム専攻の学生が直面する障壁を理解し,それを取り除く方法

Cristina Amaya氏とKenzie Gordon氏は,ゲーム教育の問題点と,学生や新卒者を助けるために何ができるかをGDCで説明した

【ACADEMY】ゲーム専攻の学生が直面する障壁を理解し,それを取り除く方法

 今年,GDCで「From Rosy-Eyed to Dissatisfied: What Game Education Is Missing」と題した講演が行われ,ゲーム専攻の学生が遭遇する主な問題と,その解決策が取り上げられた。

 講演は,Latinx in Gamingの代表でDreamHackのディレクターでもあるCristina Amaya氏と,カナダのアルバータ大学でメディア・テクノロジー学の博士候補生かつ講師のKenzie Gordon氏によって行われた。

 また,Gordon氏はゲーム専攻の学生を卒業後まで追跡する長期的な研究「The First Three Years」(外部リンク)のプロジェクトマネージャーも務めている。

 「基本的に私たちが行っているのは,ゲーム専攻を卒業した年と,その後の3年間に毎年,ゲーム業界への移行がどのようなものかを確認するために,人々に話を聞くことです」と彼女はGDCで説明した。

 「プログラムの最終学年を終えた人たちが,そのプログラムでどのようなことを学んだのかに興味があります。インターンシップやプロフェッショナルになるための機会はあったのか。ゲーム教育はどのようなものだったのか。そして,その後どのように移行していったのか。どのようなネットワークが支えとなり,どのような経験をしたのかを聞きたいです」

“包括的な質問は,新卒者,特に社会的に疎外された背景を持つ人々が,業界で仕事を見つけ,維持するために何が必要なのかということです”
Kenzie Gordon氏

 Gordon氏は,ゲーム業界に進まなかった学生にも話を聞き,何が起こったのかを理解することが,この研究にとって重要だと語った。

 研究は現在2年目なので,講演で分析された回答は卒業直後の学生を対象としたものだが,それでも彼らが直面している問題についての興味深い洞察が得られた。この調査は,カナダの4大学(ウェスタン大学,アルバータ大学,ウォータールー大学,ヨーク大学)が,Higher Education Video Game Alliance(HEVGA)と共同で実施したものだ。

 「包括的な質問は,新卒者,特に社会的に疎外された背景を持つ人々が,業界で仕事を見つけ,維持するために何が必要なのかということです」とGordon氏は説明する。

 研究チームは第1弾として,米国とカナダ(拡張性の観点からこの2地域に限定している)で約100人の学生に話を聞いた。

 「学生は,約半数が白人で,次に多いのが東アジア人,そして混血の人たちです」とGordon氏は言う。「私たちが話している学生は,実は業界よりも少し多様で,最初の数年間に多様な人々が業界から追い出されたことを示しています」

 「LGBTQだと自認している人はサンプルの約39%で,一般人口よりも明らかに多いのですが,実際にはゲーム業界の傾向とほぼ同じです。また,参加者の約3分の1は,精神的・身体的な差異があることを自覚しています。そして興味深いことに,また悲しいことに,参加者の約20%は自分のアイデンティティの一面が,ゲーム業界での経験にすでに悪影響を及ぼしていると感じています。まだゲーム業界で実際に働いていない人がほとんどですが」




ゲーム専攻の学生が卒業時に不安に思うこと


 講演の前半は,学生が卒業時に抱く不安に焦点が当てられた。Gordon氏によると,要点は彼らが“怖がっている”ことで,労働条件や差別が主な悩みになっているという。

 「話を聞いた新卒者の多くは,ゲーム業界で働きたいと切に願っています。子供の頃からの夢である場合が多いのですが,同時にその実態を,圧倒的に恐れているようです」

Kenzie Gordon氏
【ACADEMY】ゲーム専攻の学生が直面する障壁を理解し,それを取り除く方法
 「それは,クランチ(修羅場)や労働条件の実態を恐れているのかもしれません。しかし,多くの人が職場での差別も心配していて,こうした障壁にぶつかることがあるのです。多くの人は,職場を去る主な理由は有害さであるとか,自分が歓迎されない環境だったと言いますが,私たちが尋ねると,彼らはとても必死なので,たとえ社員の扱い方に関する悪い評判のある会社であっても,大多数はどんな仕事でも受けると答えます」

 「一方ではこうした諸問題の存在を知り,絶対に嫌だと思いながら,他方ではゲーム業界で働きたいがために,何でもすると語るような,身動きの取れない状況に新卒者は置かれています。これが,ゲーム業界ですぐ壁にぶつかる人を見る理由だと思います」


ゲーム専攻の問題点


  • クランチ(修羅場)

 Gordon氏は,学生が勉強する際に出てくる問題についての知見を披露した。繰り返し出てくるテーマがクランチだ。

 「ほとんどの人がクランチを意識し,講師が彼らの理解を促していますが,多くのプログラムにおいて,プログラムの構造が学生をクランチさせているという話も聞きます」

 「そして,これはゲームに限ったことではないと思うのです。クランチは大学の仕組みのようなものですが,多くの学生がクランチは良くないもので,ゲームを作る方法ではないと聞いているのに,ほかのゲームの作り方を教育課程で学んでいないのです」

 これは,ほとんどの学期が凝縮された開発サイクルとして構成されていることが原因だと,彼女は指摘する。

  • 実務経験を積むことの困難

 実務経験を積むことも,ゲーム専攻の問題の一面だとGordon氏は言う。

 「私たちが聞いたところでは,約75%の教育機関が何らかの職業体験の場を設けているそうです。しかし,インターンシップを見つけるのは学生次第であることが多く,保証されていなかったり,プログラムの参加者全員分の枠がなかったりすることがあります」

 学校と並行して働かなければならない学生であれば,無給のインターンシップに参加できる可能性の低下などにより,この問題は10倍となる。

  • キャリアカウンセリングの欠如

 勉強と並行してキャリアカウンセリングを受けられないことも,調査で明らかになった問題点だ。

 「私たちが話を聞いた中で,ゲームに特化したキャリアカウンセリングを構成要素としているプログラムは,ほとんどありませんでした」とGordon氏は語る。「大学のキャリアセンターを紹介された人もいますが,一般的に大学のキャリアセンターは,ゲームやクリエイティブな業界の人を支援する設備が,あまり整っていないという話を聞きます」

  • 学内における多様性の欠如

 大学内における多様性の欠如も問題であり,今回調査したプログラムの中には男女の割合が近いものも存在したが,現実としてアート分野は女性によって,コンピュータサイエンスは男性によって占められていると,Gordon氏は指摘する。

 「学生の多様性に見合った多様性が,本当に不足しているのです」と彼女は続けた。「そして,ゲーム業界における差別の実態についての,知識や実体験が不足しています」

 「多くの教授が差別を意識し,それについて話しているのとは対照的に,差別やハラスメントは話題にのぼるものの,教授たちはそれに職場でどう対処するかという実体験を持っていないことが多く,これは多くの学生が指摘する欠点です」

  • ポートフォリオ作成の難しさ

 最後に,学生たちが繰り返し強調しているもう一つのテーマは,ポートフォリオを作ることの難しさです。

 「多くの学生が,教育課程でポートフォリオに必要なものを得られないと感じているようです。特に美術系の学生は,キャップストーン(最終プログラム)で短期間の制作を行うため,ポートフォリオに必要だと言われているような,洗練された素材が得られないと言います」

Cristina Amaya氏
【ACADEMY】ゲーム専攻の学生が直面する障壁を理解し,それを取り除く方法
 「しかし,それ以上に,私たちが話を聞いたほとんどの学生は教授から,ポートフォリオには教育課程のプロジェクトだけでは不十分だと伝えられています。けれども,特定のグループの学生だけが,教授が言うような業界の求める強固なポートフォリオを構築するための,サイドプロジェクトを実施する時間や余裕を持っています」

 「例えば,有色人種の学生や,介護の仕事がある人たちは,ポートフォリオの作成において非常に不利となります。同級生は,教育課程以外のことで,自分よりもしっかりしたポートフォリオを作成しているからです」

 そこでCristina Amaya氏は,Latinx in Gamingのような組織の活動が重要だと述べ,このようなギャップを埋めるために役立つグループとして,Black in Gaming FoundationやWomen in Games Internationalも挙げている。例えば,Latinx in Gamingは,学生が業界への進路を見つけ,キャリアを発展させることを支援している。


社会的に疎外された卒業生が抱える問題点


 Gordon氏は,特に社会的に疎外された背景を持つ学生や新卒者が直面する問題に,焦点を当てて時間を取った。

 「第一は,疎外された人々が離れていく原因となる,このようなパイプラインがあると思います」と彼女は言う。「パイプラインの漏れという考え方は新しいものではありませんが,より新しいのは,特定の人々が漏れやすいという考え方です。そして,ゲーム教育の構造的な状態によって,不公平に漏れているのです」

 その状態とは,上記で取り上げたすべての問題(無給の実務経験,学内の多様性の欠如,クランチなど)であり,それらは特に社会的地位が低いグループの学生に影響を与えている。彼女は,これらの学生が“業界に入る前に,燃え尽き症候群の道を一歩進んでいる”ことを指摘した。

 「多くの学生は,ゲーム教育の大半で基本的にクランチしています。そして,ゲーム関係の仕事に就けるのであれば,どんな仕事でも引き受けようとするのです。そのため,自分にとって健全な労働環境となるような,職場選択をする余裕があまりないのです」

“社会的地位が低い背景を持つゲーム開発者は,業界に入る前に,燃え尽き症候群の道を一歩進んでいる”
Kenzie Gordon氏

 「教育課程で仕事をたくさん抱えるため,ゲーム業界で働き始めて3〜4年目の学生でも,すでに6〜7年間,非常に激しい開発サイクルの仕事を経験しており,十分な経験を積んで新入社員の地位から抜け出せるようになった頃には,すでに燃え尽き症候群の段階に達しています」

 「そして,彼らは学校でそれに対処するスキルを身につけることができません。なぜなら,クランチは教育の一部となっていて,切り離せないものだからです」

 Amaya氏は,直近の卒業生の流れは,世界的なパンデミックだけが理由ではなく,“Me Too運動が広まり,訴訟や告発を目の当たりにした”からだと指摘した。

 「どの会社が悪いかという問題です」と彼女は語り,「大辞職」について言及した。「ミレニアル世代は,ある会社から別の会社へと移り,1年か2年以内に退職してしまいます。なぜなら,その会社は燃え尽き症候群の文化という観点で,同じようにひどかったからです」

 「また,私たちが住んでいる都市では,市場価値と比較して給与が低く,平均して10%から20%下回っているのです。マーケティングは特にそうですが,ほかの分野でもそうです。私たちはテック業界の一員ですから,それなりの給料をもらうべきなのに,とても残念です」


ゲーム教育の不安を解消するためにできること


  • 有意義な会話をし,学習環境を多様化する

 Gordon氏は,“これらの非常に憂鬱なこと”に対して何ができるかを考え,“ハラスメントや差別について,ゲーム教育の中でもっと意図的に話し合うこと”が一つの方法であると述べた。

 企業が文化的な問題でニュースになるたびに,このような話は出てくるが,例えば職場で差別に直面した時にどうすればいいのか,教育課程の一環として“体系的な試み”が行われているわけではない。

 「このような会話は,生徒のすべてのグループが参加する必要があることを忘れてはいけません。疎外された学生たちは,すでに自分たちの間でこのことについて話しているはずですから,本当に会話に参加する必要があるのはシスヘテロの白人学生であり,それが文化的な問題の一部であることを認識する必要があります」

“そのような道筋を作成できる組織はありますが,企業自身も単にダイバーシティ・インクルージョン・プログラムの一環としてだけではなく,道筋を作るべきです”
Cristina Amaya氏

 「“保護”されている,あるいはゲーム業界でより楽な立場にある人々の一部である学生と話すこともあり,その中には仲間として行動し,差別がある職場で声を上げる人もいますが,彼らの多くはそれが起きていることに目を向けることすらありません」

 「しかし,有色人種や疎外された性別の人たちは,明らかに知っています。こうしたことが起こるのは,彼らにとって驚きではありませんし,このような会話は,すべての人を巻き込む必要があります。どうすれば誰にとっても安全で,包容力のある職場を作れるのでしょうか。そして,その一部はゲーム教育プログラムの講師が,誰であるかに帰着すると思います」

 「彼らと似たような講師を持つ多くの学生から,業界の状況に関する恐怖心が薄れたという声が届きます。これらの問題への対処法や,ゲーム業界での仕事を愛していること,自分に合った職場を見つけられたという話を聞けたからです。しかし,未経験の人たちからしか話を聞かないと,問題に対処するためのツールがないような,厄介な存在になりかねません。そのため,学習環境の多様化に帰結することになります。もちろん,ゲーム業界だけではなく,もっと大きな問題なのですが」

  • 公平性の妨げとなる教育におけるクランチへの対応

 こうした課題に対処するための2つ目の側面は,“公平性の妨げとなる教育におけるクランチへの対応”だとGordon氏は指摘する。

 「健全なゲーム開発の方法を学べないような状況を作り出していること,そしてこのような教育形式が,特定のグループの学生に不釣り合いな影響を与えているという認識は,業界だけではなく教育現場でも問題になっています」

 この研究は,プログラムを最後までやり遂げられなかった学生については触れていない。あまりの激しさに,かなりの割合の学生が退学していると,Gordon氏は強調した。また,このことは社会的に疎外された背景を持つ学生に,不釣り合いな影響を与えることとなる。

 「私たちは,プログラムの構成によって,学生が身につけるスキルの種類が変化することだけでなく,学生が卒業できるかも考える必要があります。また,激しい開発サイクルしか学べなかったことが原因で,3年でクラッシュして燃え尽きてしまうのではなく,長期的に業界で働く準備はできているのでしょうか?」

  • 成長への道筋を示す

 Amaya氏は,“業界で人材が成長するための道筋を作ること”も議題だと付け加えた。

 「そのような道筋を作成できる組織はありますが,企業自身も単にダイバーシティ・インクルージョン・プログラムの一環としてだけではなく,道筋を作るべきです」と彼女は語る。「チーム内で何かを考え,採用活動について考え,入社した若者に成功への道を示し,必ずレベルアップさせることを考えることです」

 「インターンの学生に生活費を支給し,会社に留まっている時間が経てば経つほど,支給額が増える会社の話を聞いたことがあります。特に,給与の格差が生じる可能性を考えると,興味深い話だと思いました」

 「また,人材への投資も大切にしたいです。教育への投資,彼らの教育課程への投資,メンターの確保,成長のための機会の提供など,会社にとってだけではなく,彼らがキャリアを積んで良い人材となるような投資を行っている企業があります」

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※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら