Amazonの二度め挑戦はすべてを支配する1つのMMOを作ることだった

Christoph Hartmann氏が,Amazon Gamesの新プロジェクトLord of the Ringsの野望と,老舗のライバルとの競争について語る。

Amazonの二度め挑戦はすべてを支配する1つのMMOを作ることだった

 こんな話を聞いたことがある人はいるだろうか: 「AmazonがLord of the Rings題材にしたMMOを制作している(関連英文記事)」と。

 もしそれが聞き覚えのあるのであれば,同社は2019年にすでにこれを発表しており(関連英文記事),中国に拠点を置くデベロッパLeyyou Technologiesと提携していたからだ。その2年後にプロジェクトが中止されたことが発表された(関連英文記事) ― Leyouが2020年にTencentに買収されたことが大きな理由だ(関連英文記事)。

Christoph Hartmann氏,Amazon Games
Amazonの二度め挑戦はすべてを支配する1つのMMOを作ることだった
 Amazon Gamesの副社長であるChristoph Hartmann氏は,GamesIndustry.bizに対し,「(権利が)Tencentに渡ったのかどうかは100%明らかではありませんでした」と説明している。「Tencentと我々は話し合いました。我々は彼らのことを知っていますし,私は彼らを尊敬していましたが,我々は2つの大企業なので,一緒に仕事をしないほうがよかったのでしょう。つまり,10年単位のプロジェクトなのですから,何が起こるか誰にも分かりません。ただの友達でいたほうがいいのです」

 さらに,ライセンス上の制約もあって,Tencent側もこのプロジェクトにあまり乗り気でなかったと氏は付け加えた。

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 「とても『好きなようにやれ,本に忠実にやれ,あとは素晴らしいゲームにするだけだ』という感じではなかったのです」とHartmann氏は語る。「詳細は伏せますが,一定の制約がありましたので,とても一筋縄ではいかなかったでしょう」

 JRRトールキン氏の作品の権利を管理するMiddle-earth Enterprisesは,その後,ライセンスが同社の管理に戻ったことをAmazonに伝えた。新たな話し合いが始まったが,両社は「合意を得ることができませんでした ― またもや『かなり制限されたライセンス』をめぐる争いもあって,両社は合意できなかった。

 昨年夏,Middle-Earth EnterprisesはEmbracer Groupに買収された(関連英文記事)。Embracer Groupは,昨年,Amazonと次のTomb Raiderを共同開発することを発表しており(関連英文記事),両社はすでに強い関係を持っていた。

 「そこには,(過去に)一緒に仕事をしたGearboxのRandy(Pitchford氏)のように,(知っている)人が大量にいいたんです。うまくいくとは思わなかったのですけど,電話して聞いてみてもいいかなくらいには思いました。やっても損はないでしょう。そして,彼らは実際に興味を持ってくれたのです」

 「今,Middle-earth Enterprisesの責任者になっているのが,私の昔の同僚だったというのも,ちょっとラッキーでしたね,90年代のTake-TwoとRockstarの初期に英国から来た同僚で,信頼関係を築くのに役立っています」

 Embracerには100弱の社内スタジオがあるが,Hartmann氏はグループとMiddle-earth Enterpriseに,アーバインにあるAmazon Games Orange Countyが,New Worldでの最近の成功により,大規模MMOの制作において最高の経験を持っていると説得したのだ。話し合いは進んで合意に至り,昨日,提携が発表されたわけだ。

AmazonとEmbracerの新たなLord of the Rings MMOに関する提携について
 すでにお伝えしたように,Hartmann氏の野望は「世界最大のMMO」にすることだが,すでにLord of the RingsのMMOが長く続いているため,その達成はやや困難なものとなっている。現在,Standing Stoneが運営するThe Lord of the Rings Onlineは2007年から運営されており,昨年のBefore The Shadowなど,今でも大規模な拡張が行われている。このゲームには10年以上の先行性があるわけだが,Amazon Games独自のトールキンタイトルの可能性に影響はないのだろうか。

 「まったく問題ありません」とHartmann氏は語る。「まず第一に,これだけ長く続けていることに敬意を表します。彼らには巨大ではありませんが,熱心なファンベースがあります。しかし,技術的なことだけを考えると,今いる場所と数年後にいる場所とでは,まさに隔世の感があります。白黒映画がカラーになるようなものだと言ったら少し大げさですが,私はあえてそう表現したいですね。これはもうまったく違う世界なのです」

 「実は私は,共存できると思っています。最も可能性の高いシナリオは……人々が移ってしまうことだ。なぜなら,もう一方のゲームは古いゲームだからです。悪いゲームではないのですが,業界はいつしか移り変わっていくものですし,彼らのリリースから我々のリリースまでは長い時間がかかっています」

 Hartmann氏は,このジャンルの顧客層を拡大すること,非MMOプレイヤーのためのMMOを作ることについて語っている。Amazonがこれを達成できれば,World of Warcraftと非常に似た構造を持つLOTROに対して,自社のゲームが優位に立てる可能性がある。

(我々のゲームとLord of the Rings Onlineは)実際に共存できると思います

 注目すべきは,Amazonが自社のプロジェクトを,LOTROとWoWが間違いなくそうであるMMORPGと称していないことだ。多人数参加型ゲームのコンセプトは,2007年以来劇的に進化しており,Destinyのようなタイトルは,ファーストパーソンシューターにMMO体験を提供するものだ。AmazonのLord of the Ringsがどのようなジャンルで構築されるかは不明であり,チームは現在アイデアを模索中だが,視聴者の期待も変化していることは明らかだ。

 「ソーシャルメディアやインターネットが普及してからは,即効性のある報酬が重要視されるようになりました」とHartmann氏は語る。「より早く,より速くなければならないのです」

 「以前と同じような仕組みなので,すぐに理解できるということなら,それはそれで素晴らしいことでしょう。しかし,アクセシビリティが重要であり,早い段階で報酬を与えて,進歩を実感させることが重要になります。そして,徐々に彼らを上達させていき,基本的にはこれまでとは違うペースで始められるようなオプションを与えて,挫折させないようにします。それが重要なのです」

 「また,多くのPvPゲームでは,新規参入者を獲得することが難しいのも大きな問題になっています。League of Legendsのような素晴らしいものをそのまま使ったとしても,怒鳴られるだけですから,どれだけの新しい人が入ってくれるのでしょうか?」

Amazonはトールキンに基づくMMOに着手したばかりだが,Standing StoneのThe Lord of the Rings Onlineは16周年を迎えている
Amazonの二度め挑戦はすべてを支配する1つのMMOを作ることだった

 幸いなことに,Amazon Games Orange Countryは,デビュー作であるNew Worldから教訓を得ることができた。おそらく最も明白なのは,技術的な学びだろう; 多くのオンラインゲームがそうであるように,New Worldも発売当初はサーバーの問題に悩まされたが,Hartmann氏は,この問題は解決され,チームが自社の技術をより理解するのに役立ったと語る。しかし,最大の学びは,コンテンツの需要に関するものだという。

 「人々は,文字どおり信じられないほどのスピードでコンテンツを消費していきます」と氏は語る。「我々は,新しいコンテンツの開発に追いつくことができませんでした。我々は当初『発売後のコンテンツも必要』だと言っていました。我々のゲームでは,多くの経験者が2〜3か月分だといってくれたコンテンツでタイムフレームを見ていましたが,それはたった1か月で使い切られてしまいました」

 「次に備えるしかありません。そして,実際に寝るのをやめて3倍速でコンテンツを消化する人がいることを想定しておく必要があるのです」

MMOも実はかなりクールなのですが,10年前ほどには注目されていなかったのです。だからこそ,我々は戦略的にそこに踏み込んだのです


 Amazonは,このゲームがHobbitとThe Lord of the Ringsの物語やキャラクターを中心に展開されることを明らかにしているが,このこと自体が新たな課題を提起している。Hobbitは1937年にパブリッシングされ,1世紀を迎えようとしているが,プレイヤーは過去20年間のPeter Jackson監督の映画に親しんでいる可能性が高い。どのようにすれば,自分の創造的なビジョンと,これまでの映画化作品を楽しんできた人たちに親しまれている新しい中つ国を作り上げることができるのだろうか?

 「スタジオでは,すでにそのような議論が行われているようです」とHartmann氏は語る。「我々の中にはThe Lord of the Ringsの熱狂的なファンもいるのですが,すでに『それはできない』『Middle-earth(Enterprises)はそれを許さない』『ストーリーを変えて,新しいキャラクターを登場させたり,本を書き換えたりすることはできない』と言っています」

AmazonのゲームはHobbitとThe Lord of the Ringsの両方を題材にする予定だ
Amazonの二度め挑戦はすべてを支配する1つのMMOを作ることだった
 「しかし,私にとっては,まずゲームであること,そして次に本を反映したものであることが,やはりとても重要になります。ですから,忠実であることは必要ですが,私はいつも,そしてすでにチームにも言い聞かせているのですが,『それは分かりますが,その細部が100%完璧かどうかを,すべての人が行って指摘することではありません』たとえば,(トールキンの)世界の描写の仕方で,もしかしたら風景が少し違って見えるかもしれません。それは,我々がそれを実現できないか,美術担当者が,人々が本の中で想定しているのと少し違って見えるかもしれないと感じているからです」

 「私は,絶対にゲームを優先して,素晴らしいゲームにしたいと思っています。先ほども言ったように,10年間遊んでもらいたいので,『本の内容を完璧にゲームで表現している』と言われると,どうしようもないんですよ。もし本当にそう思うのなら,本を読んでください。さらに5回くらい読んでください。言い換えると,もしゲームであるのであれば,ゲームとは遊びであり,遊び心がなければなりません。ですから,素晴らしいゲームにするためには,少しばかりルールを曲げることができる必要があるのです」

 また,このバランス感覚は,ライセンスを取得したMMOの成功の鍵でもあると付け加えている。我々は,2つのStar Wars MMO,現在進行中のStar Trek Online,前述のLord of the Rings Online,そしてPirates of the Caribbean OnlineやThe Matrix Onlineといった消滅した例まで,過去の例について議論した。Hartmann氏は,トールキンの作品から得られるソース素材の多さは,少なくとも,たった3本の映画に基づいて作られた後者よりもAmazonに有利であると語る。

 LOTROやWoWのようなタイトルの耐久性にもかかわらず,Hartmann氏はMMOというジャンルは実際には十分なサービスを受けていないと考えており,だからこそAmazonは近年,New Worldや今回のタイトルでこのジャンルに大きく投資してきたのだという。

まずゲームであること,そして次に原作を反映させることがとても重要です

 「バトルロイヤル,FortniteやPUBGは本当に長い間話題になっていました。例によってみんなそれに飛びつきました」と氏は語る。「それはホットな存在でした。しかし私は,『MMOも実はかなりクールだったんだけど,たぶん10年前にあったような注目を浴びていない』と感じていました。ですから,戦略的にそこに踏み込んだのです」

 Tomb Raiderとの契約が示すように,Amazonはこの分野だけに注力しているというわけではない。Hartmann氏はこう付け加える: 「ゲーム業界は日和見的です。素晴らしいチャンスが訪れれば,それを掴み取るだけです。私は『これしかやらない』というような独断的で頑固な人間ではありません。Tomb Raiderのような大作が来て,お互いにふさわしいパートナーだと思えば,それを受け入れるだけです。あのレベルのクオリティのIPがどれだけあるでしょうか」

 AmazonのThe Lord of the Ringsゲームの発売日については未定だが,チームは現在プロトタイプ作成中だ。Hartmann氏は10年以上続くMMOを作ろうと決意しているので,何かを市場に出すことを急ぐ必要はないだろう。

 「完成して準備が整ったときに完成します」と氏は語る。「それでいいのです。10年以上続いてほしいので,準備が整っていないものを出荷するつもりはありません。もちろん,個人的な興味から,できるだけ早くできてほしいとは思っていますが,本当に準備が整ったときにしか出すつもりはありません」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら