【月間総括】ポケモン神話を考える〜ゲームボーイ復活の謎〜

 今月は,先月に予告していたようにゲームボーイの不思議な話をしたいと思う。

 下に掲載したグラフを見ると一目瞭然だと思うが,ゲームボーイの動きがおかしいのである。岩田 聡氏もよく話していたが,ポケットモンスター1本で,ゲームボーイは息を吹き返した。世間でもそう思われている。しかし,それから四半世紀同じことは起こっていない。

【月間総括】ポケモン神話を考える〜ゲームボーイ復活の謎〜

 前回の連載でも触れたが,2023年3月期第3四半期は,「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」は2061万本(実売1820万本)と過去最高の販売(着荷)本数となったものの,Switchの販売は伸びなかった。

 初代のポケモンも,発売から1年半後に販売伸びてきたと,過去のインタビューでコメントされているので,ソフトが爆発的に売れてゲームボーイの状況が改善したわけでもなさそうである。なにより。ポケモンの発売から11年も経ってゲームボーイが1700万台を超えるような販売になっているのは不自然極まりない。
 そして,任天堂ハードの売り上げは多くが3年目,一部が5年目にピークになっており,こんなに遅くピークがきた例は存在しない。ゲームボーイは例外中の例外なのである。

 ただ,この台数は,任天堂のサイトに掲載されていたものであり,決算資料ではない点はお断りしておく。(11年目と12年目はこちら ※Excelファイル)

 8年目以降の動きは,1996年7月にゲームボーイポケット,1998年10月にゲームボーイカラーが発売されたことが大きな要因になっているのだろう。初めての世代でありゲームボーイのため,データも乏しく理解されていなかったと思われるが,ゲームボーイカラーはマイナーチェンジではなく,世代交代だったと考えたほうが良い動きだ。ゲームボーイカラーは,白黒から画面がカラー化された大きな変化だし,テレビも白黒テレビからカラーテレビへは大きな変革だと思われているので,ゲームボーイも同様だったのだろう。

 販売台数が同一比較できる形で開示されているのが,任天堂とPS4,PS5しかないので,サンプルとしてはちょっと少ない。このため現時点では断定を避けるが,このグラフからは以下のことが分かると思う。

(1)発売から数年でピークアウトし,一度減り始めると穏やかにすることははできても反転は困難である
(2)ピークまでの年数を意識した供給体制を構築する必要があること

 ピークアウトするまでの数年で勝負しないといけないのであるから,供給量は絶対条件であるだろう。売れないかもしれないからと生産を躊躇することはあってはいけないことを示唆している。生産出来なかったから仕方がない,非難されて悲しい気持ちになるということは,ビジネス的にやってはいけないことなのである。

 ソニーグループが,このような知見を与えてくれたのは任天堂やMicrosoftにとっては大チャンスであろう。特にソニーグループは,MicrosoftのActivision買収に関する各種報道を見ていると,ハード供給よりもAAAのほうが大事であるといっているようである。

 ソニーグループがこのような迷信を優先させている間に,よりハードウェアの体制強化を図ったほうが良いだろう。Microsoftは,Xboxビジネスをうまくコントロールできていない。これは,因果関係の乏しい定額サービスに多額のリソースを投入してしまっていることが要因にあると東洋証券では考えている。Xbox Series X|Sの挽回はもはや難しいだろうが,次世代機ではビジネスの在り方を見直す必要があろう。フィル・スペンサー氏の頑張りに期待したい。

 次にPSVR 2について話していきたい。初週の販売動向はまったく報道されなかったので分からないが(入稿後にブルームバーグが三月末までの出荷台数が30万に届かない水準であると報道があった),ソニーグループから数量に関する開示がなかったところを見ると,やはり弱かったと考えてよさそうだ。本決算の発表で何も触れられないと,PS Vitaと同じ非開示コースとなるだろう。

 PS Vitaは,発売当初から人気がなかったゲーム機だったこともあってか,ソニーグループでゲームを管轄するSIEのサイトにも非開示とはっきり書かれている。
 この連載を開始したときには,すでにPS Vitaの大勢は決していたので初動については触れたことがあまりないが,PS Vitaの日本での初週は30万台強(ファミ通調べ)であった。しかし,2週目には7万台に落ち込み。東洋証券でヒットの目安にしている初動45万台程度にまったく届かず,低迷したのである。

 次のグラフでも明らかだと思うが,PS5も含めてPlayStationはここ15年以上まったく振るわないのである。PS5が累計300万台を超えたのが121週目だったのに対して,Switchは43週目である。PS2も43週目だった。PS Vitaは135週目なのでそれよりは早いが,3か月ほどの差異でしかない。


 PSVR 2はこの水準を大幅に下回っていると思われる。周辺機器だから仕方ないということで済ますかもしれないが,過去に何度も述べたように,VRはユーザーに遊びたい機器と認識されていないのである。価格の問題ではないので値下げなどの施策では対応しきれないと東洋証券では考えている。
 また,ソフトでも挽回できないだろう。PS5の供給が改善した年初以来,本数はそれほどでもないが,PS5のタイトルはヒットチャートに載るようになった。

 いかに,品薄が海外流出を引き起こしていたが分かるような状況だが,それでもハードが売れるとソフトも売れるようになっているのである。
 ソフトで状況を反転できないのは明らか(先月連載で触れたポケモンが任天堂の業績を反転できなかった)なのにCall of Dutyに執着するのは面白い現象だと思う。ゲームビジネスの本質は,ハードが主であることを示しているのだが,迷信に嵌ってしまっているので,もはや抜け出せないのである。

 熱心なユーザーほどソフトが主でソニーグループを応援することになるだろう。そうすると,批判されることが辛いと感じるように見えるソニーグループは,ソフトこそが勝利のカギであるとの迷信にずっと苛まれ続けるのではないだろうか。