PUBG Mobileに見るブランドコラボ成功の秘訣とは

Tencent GamesのVincent Wang氏が,勝者総取り型バトルロイヤルが他者とうまく協業する方法を説明してくれた。

 バトルロイヤルというジャンルは,ハイランダー的な「生き残るのは1人だけ」というコンセプトに基づいているが,このジャンルはほかのものとうまく調和するように進化しており,ブランドとのコラボレーションが頻繁に行われることで注目されるヒット作がいくつも生まれてきた。

 PUBG Mobileはその一例だ。発売から4年あまりの間に,PUBG Mobileは映画,テレビシリーズ,ミュージシャン,自動車ブランド,スポーツチーム,他のビデオゲーム,ソフトドリンク,そしてBaby Sharkとのコラボレーションを実現している。2度もだ。


 先日GamesIndustry.bizの取材に応じてくれたTencent GamesのPUBGモバイルパブリッシング責任者Vincent Wang氏は,これらのコラボレーションの背景には,かなりの変化があったと語っている。

 「4年以上前にPUBGモバイルを立ち上げたとき,我々はほぼ常にさまざまなブランドとコラボレーションの可能性について打診していました」とWang氏は語る。「しかし,今では,我々がブランドに売り込むのと依頼を受けるのは半々くらいでしょう」

良いコラボレーションとは,既存のゲームのファンと新しいIPのファンの両方を念頭に置いて作られたものです

 ブランドオーナーの多くは将来のクロスオーバーに使用できるさまざまなプロパティを保有しており,同社が関係を構築するのに役立っている。もちろん,それぞれのキャンペーンが単独で意味を成すことも必要だ。

 「良いコラボレーションとは,既存のゲームのファンと新しいIPのファンの両方を念頭に置いてデザインされたものです」とWang氏は語る。「デザイン,構築,配信のプロセスを通じて,既存のプレイヤーが好むものを維持しながら,インスピレーションを得たIPを尊重し,適切なバランスを取る必要があります」

 これは,常にではないが,新しいゲームプレイの要素を追加することもよくある。

 「新しいストーリーを導入することはとても素晴らしいことですが,コラボレーションは,既存のプレイヤーを疎外することなく,ゲームプレイシステムを完全に切り替えるという,素晴らしくユニークな機会を与えてくれます」とWang氏は語る。

 コラボレーションゲームのもう1つの変化は,独占の概念だ。人気キャラクターやブランドのビデオゲーム版権を1社が独占する時代はとっくに終わり,ブランドホルダーは,クロスメディアマーケティングキャンペーンが大作映画の公開で最高潮に達すると,コラボレーションを重ねるようになった。たとえば, Spider-Man: No Way Homeでは,劇場公開中にPUBG MobileとライバルのバトルロイヤルゲームFortniteの両方でイベントが開催された。

Spider-Manは今年の初めにPUBG Mobileに登場し,ほかにも多くのゲームに登場した
PUBG Mobileに見るブランドコラボ成功の秘訣とは

 「あらゆる業界のブランドが,ビデオゲームとのパートナーシップは素晴らしく価値をもたらすと知っているため,独占的なパートナーシップは,現在では非常にまれになっています」と氏は語る。「現在では,必ずしもビッグブランドとの独占的なパートナーシップを獲得するための競争ではありません。その代わり,誰が一番うまくやれるかを競うようになったのです。そのコラボレーションがどれだけ深いものであるかが問われるようになりました。新しいアバターアイテムがいくつか導入されるだけなのか,それともゲームプレイが全面的に変更されるのかなどです」

必ずしもビッグブランドとの独占的なパートナーシップを獲得するための競争ではありません。むしろ,誰が一番うまくできるかを競うものなのです

 「たとえば我々のArcaneのパートナーシップ(League of LegendsアニメのNetflixシリーズ)では,彼らはさまざまなゲームとパートナーシップを組んでいましたが,我々はIPを使って,その周りに完全にユニークなゲームプレイ体験を提供することに焦点を当ていました。その結果,コミュニティから好評を博し,Arcaneが提携したほかのゲームとは一線を画すものとなったのです」

 「このようなアプローチは,コラボレーションの時代において,ほかのゲームと差別化するための方法となっています。今では,コラボレーションに取り組む際には,新しい世界,エキサイティングなキャラクター,ストーリー,バトルをどこまで探求できるかを真剣に考えるようにしています。2021年初頭にPUBG MobileがGodzilla vs Kongと提携したとき,我々はまたしても際立った,本当に特別なことをしたいと思いました。実際に映画の壮大な最終決戦をゲーム内で完全に再現し,プレイヤーはメカゴジラを倒すための重要な役割を担うことになったのです」

 また,ブランド側も,ゲームとのコラボレーションという考え方に慣れてきているとWang氏は語る。

 「PUBGモバイルのプレイヤーやゲーマーは,一般消費者よりもブランドへの忠誠心が高く,単なる広告ではなく,彼らの体験に価値を与えるような適切な方法で話しかければ,より多くの人に受け入れてもらえるのです」と氏は語る。「この1年間のパートナーシップの数を見れば,ブランドがいかにビデオゲームとのコラボレーションに抵抗がないかが分かります。我々は,ほとんどすべての業界のブランドと仕事をしていました。業界として示せる数字は非常に説得力があり,コラボレーションの成功後にパートナーに示せる数字もそうです」

 さらに氏は,「2022年,ほとんどのブランドが,良いパートナーシップを築くための基本的な要素について,かなりしっかりと理解しています。ブランドはすでに明確なアイデアを持ってテーブルに着いているので,どのようなアバターアイテムを入れるかといった議論に費やす時間はかなり少なくなってきています。これは,我々がどんな大きなアイデアを生み出し,提供できるかに,より多くの時間とエネルギーを集中させることができるという意味で,素晴らしいことです」と付け加えている。

 前述のBaby Sharkのキャンペーンはあったものの,PUBG Mobileのリアル/ミリタリーなモチーフは一部のパートナーで問題になっていないのか,一方,Fortniteのより様式化された見た目は,ブランドにとってより受け入れやすいと考えられるのかについて尋ねてみた。

このゲームは過度に暴力的ではなく,それを賛美することもないので,PUBGモバイルはその点で非常にブランドセーフです

 「PUBGモバイルのミリタリーモチーフについて言及されましたが,このゲームは過度に暴力的ではなく,それを美化することもないので,PUBGモバイルはその点で非常にブランドセーフです」とWang氏は語る。「だからTeslaやLine Friends,フランスのオートクチュールファッションのJulien Fournieなどと提携できたのです」

 「我々が大切にしているのは,プレイヤーの表現力です。だから,Julien FournieやZaha Hadid Architectsのようなクリエイティブで多彩なブランドと組むことができ,プレイヤーが自分を表現できる新しい面白さが加わりました。これはPUBG Mobileの成功の主な鍵の1つで,プレイヤーに自己表現のための多くの選択肢を与えているのです」

 PUBG Mobileがいかに「ブランドセーフ」であっても,当局がゲームを規制する理由として,子供たちが中毒になったり,暴力的な行動を取ったりすることへの懸念を挙げていることから,このゲームは長年にわたって多くの市場で規制されてもいる(関連英文記事)。

 「PUBG Mobileは膨大な数の市場で運営されており,ビデオゲームが一部の人々からどのように見られているかは非常に意識しています」とWang氏は語る。「また,過度なビデオゲームプレイに起因する,身体的な健康問題やそれ以外の問題から若い人たちを保護することに,我々は大きな責任を感じています」

 「プレイヤーの健康と安全は,我々にとって最も重要なことです。我々にできること,そして今していることは,PUBGモバイルが若者の生活にプラスになるあらゆることをリストアップすることです。我々は,特定の市場でプレイ時間を制限するゲームプレイ管理システムを導入し,我々が運営するすべての市場で現地の法律や規制を完全に遵守するように努めてきました。また,WHOのPlayApartTogetherイニシアティブやDirect Relief Foundationを支援するPlay as Oneキャンペーンなど,多くのコミュニティプロジェクトを主導または支援しています。これらはいずれも,ユーザー数の増加や収益に直接影響するものではありませんが,社会的責任を果たすブランドであることを目指す上で欠かせないものです」

PUBGモバイルでは現在エヴァンゲリオンのイベントを実施中
PUBG Mobileに見るブランドコラボ成功の秘訣とは

 これらの禁止事項は,市場ごとに特徴があり,同じコンテンツやプロモーションでも反応が異なるということを思い出させるものでもある。そのため,Wang氏によると,PUBGモバイルには世界規模のコラボレーションだけでなく,日本限定のアニメシリーズであるブラックラグーンとのクロスオーバーや,エジプトのコメディアンMohamed Henediを起用した中東Crew Unknownのプロモーションのように,特定の市場に特化したものもあるとのことだ。

すべての人に最高の体験を届けることは,ときに地域の違いを理解し,尊重することを意味します

 「最高の体験をすべての人に届けることは,ときに地域の違いを理解し,尊重することを意味し,ときに異なる場所で異なるコラボレーションを生み出すことを意味します」と氏は語る。「PUBG Mobileは,IPの規模,ゲームに加える変更の規模,さらにIPが実際に何であるかなど多くの要因によって,この2つをミックスして行っています。世界的に公開される映画,地域的に人気のあるシリーズ,自動車の企画など,それぞれで異なるアプローチが必要かもしれません」

 ゲームにおけるブランドコラボの将来を考えるとき,多くの企業が現在追求しているメタバースの概念とどのように関連するかを考えるのは自然なことだ。結局のところ,ポップカルチャーの中で最も広く理解されているメタバースのビジョンは,スティーブン・スピルバーグのReady Player Oneの映画化であり,これは映画そのものと同様に,関連する知的財産の氾濫で注目されていた(参考URL)。

 「ブランドのクロスオーバーは,本質的にメタバースの概念に関連しています。メタバースは,現時点では非常に抽象的ですが,複数のブランド,企業,IPが集まって,ユーザーがアクセスしたり関与したりできるものを拡大するという考えと明らかに結びついています」とWang氏は語る。

 このようなビジョンを実現するための土台作りを行ってきたWang氏は,ビジョンを実現しようとする人たちにどのようなアドバイスをするのだろうか。

 「PUBG Mobileをここまで成長させることができたのと同じアドバイスです」と氏は語る。「楽しくて魅力的なコンテンツや,自己表現のためのさまざまな機会を通じて,プレイヤーに最高の価値を提供することに集中してください。人々が本当に戻ってきたい,社交的になりたい,関わりたいと思う空間を構築することが,成功の鍵となるでしょう」

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら