【ACADEMY】インクルーシブなゲーム業界イベントを開催するための7つのステップ

業界全体でインクルーシブなイベントを作る最良の方法を考えるための実践的なガイド。

 Women In Games(参考URL)が支援する,Ukie(参考URL)とヨーク大学(参考URL)による最新の調査から,ゲームジャム,カンファレンス,ワークショップ,ミートアップ,実践コースなどの非公式な学習・ネットワークイベントは,キャリア開発や業界の拡大に不可欠な要素であることが分かった。

 しかし,こうしたイベントは,コスト,タイミング,地理的な場所,主催者や参加者の行動,会場へのアクセスなどの要因により,社会的に疎外された背景を持つ人々を直接的または間接的に排除してしまうことがある。

 イベントを真にインクルーシブなものにするには,イベント主催者はどのようなステップを踏めばよいのだろうか。我々はベストプラクティスガイド(参考URL)の要約版を作成し,そのためのアドバイスを提供したい。


【ACADEMY】インクルーシブなゲーム業界イベントを開催するための7つのステップ


1. インクルーシブなチームの構築


 イベントの主催者チームは,業界におけるインクスージョンとダイバーシティを高めるために重要な役割を果たしている。イベントの開催には,イベントを成功させるために,チームが多大な精神的労力を提供することが必要だからだ。

  • インクルージョンと多様性はここから始まり,インクルーシブなイベントを生み出すプロセスに新しい声,経験,ネットワークがもたらされる。
  • 可能であれば,スタッフの労働に見合った報酬を支払う。不可能な場合は,彼らの努力を評価する他の方法を検討する。
  • 適切であれば,チームは仕事を円滑に進めるためのリソースやトレーニングにアクセスできる機会を持てるようにする。

 イベントに多彩な人種・属性の講師や協力者を招くことも,コミュニティにおいて,さまざまな経験,職務,キャリアの軌跡を示すうえで重要な役割を果たす。

  • 講演者や協力者の候補者と連絡を取るために,十分な時間を確保する。さまざまな生活経験を持つ人々がイベントに参加できるかどうかはさまざまであることを考慮する。したがって,講演者の参加を容易にする方法,たとえば,柔軟な参加形態(オンラインなど)を提供することを検討する。

  • 組織の規模や利用可能な予算に応じて,講演者のイベント参加に対する報酬を提供し,金銭的な可能性について透明性を確保する。

あなたの組織のチームの内訳について考えてみてほしい。インクルージョンとダイバーシティはそこから始まる

  • 講演者のコンテンツがどのように提供されるべきか,またそのコンテンツはどうなるのかについて透明性を持たせること。講演者によっては,自分のプレゼンテーションがオンライン(ソーシャルメディアなど)で配信されたり,オンラインで議論されたりすることを望まない場合もある。

  • ゲーム業界で人気のあるソーシャルメディアチャンネルを利用するなど,既存のネットワーク以外の方法で,優れた協力者となりうる人々に働きかけることを忘れないようにしよう。

  • 新しい人(たとえば,新人の協力者)をスピーカーとしてイベントに招待することを恐れてはいけない。新しい人たちに自分のアイデアを発表してもらうことで,ネットワークを広げ,業界の新しい人材を育成できる。

  • また,業界のイベント向けに,人前で話すスキルを身につけたい人のためのリソースを用意するなど,人材育成を支援する方法についても考えておく必要がある。

 主催者,講演者,協力者は,インクルーシブなイベントを構築するための土台となる存在だ。


2. イベントの目的とオーディエンスを明確にする


 イベントの参加者を明確に定義することは,参加ルールを確立し,イベントから利益を得る参加者をより多く集めるために重要な役割を果たす。

 しかし,インクスージョンとダイバーシティを考えるうえで,誰のためにイベントスペースが存在するのかを透明性をもって示し,宣伝材料に含めることが重要である。

  • 誰のためにイベントを開催しているのかを明確にする。イベントは特定の疎外されたグループのために企画されているのか? 他のグループからの参加も可能なのか?

  • 特定の社会的弱者を対象としたイベントを企画する場合,イベントのテーマ,活動,言葉の使い方,会場の選択などについて,そのグループに直接相談してほしい。

  • イベントの構成や提案する活動を明確にすることで,見込み客に対してより明確な情報を提供できる。

  • イベントの目立ち方に問題があると,参加に支障をきたす場合がある。既知のネットワーク以外でイベントを宣伝する。また,転職に興味のある人への働きかけも行い,業界への関心を広げる。


イベントの開催時間(時間帯と期間)は,参加者の意思決定に大きく影響する

3. 開催時間を考慮する


 イベントの時間帯は,時間帯と期間の両面から,参加希望者の意思決定に大きく影響してくる。どのような時間帯,期間で開催するのが最も来場者に適しているのかを振り返り,以下のような検討を行おう。

●時間帯
 ランチタイムやアフタヌーン,ブランチなど,深夜に開催される交流会の代わりとなるようなイベントを開催しよう。

●イベントの開催時間
 参加希望者のニーズに合わせて開催期間を調整する。たとえば,週末に集中的に行う長時間のワークショップは,親や介護の責任を持つ参加者の参加を妨げる可能性がある。

●参加の柔軟性
 イベントによっては,時間的なプレッシャーから参加者が少なくなることもある。さまざまな生活経験を持つ参加者の参加を促すためには,柔軟性を持たせることが重要だ(例:イベントへの参加と退出)。

 可能であれば,参加者はオンラインまたは「ハイブリッド」モード(つまり,ある参加者はオンラインで,ある参加者は直接参加する)でイベントに参加し,イベントに関連する時間的プレッシャーを取り除くことができるようにすべきだ。

 これらの要素を考慮することで,学習やネットワーキングのイベントへのアクセスに影響する参加への障壁を取り除くことができる。

【ACADEMY】インクルーシブなゲーム業界イベントを開催するための7つのステップ

4.地理的な位置とアクセスを考慮する


 英国では,ゲーム産業は他の文化産業に比べて地理的に分散しており,ロンドンやイングランド南東部に集中する傾向がある。

 イベントの地理的な位置は,イベントへのアクセス,発見しやすさ,参加コストなどの問題を引き起こす。これらの障壁に対処するために,以下のようなことを反映させてみよう。

●情報と透明性
 参加希望者がそれに合わせて参加計画を立てられるように,事前に十分な宣伝をする。

 イベントや会場までの交通手段(およびそのアクセス)についての詳細な情報を提供する。

 イベントに適用される場合,宿泊施設や食事のオプションに関する詳細な情報を提供し,それらのさまざまなレベルの手頃な価格を考慮する。

イベントの地理的な位置は,イベントへのアクセス,発見しやすさ,出席のコストについての問題を提起する

●参加費用の軽減
 可能であれば,イベントへの参加費用を軽減するための奨励金を提供すること。イベントへの参加は,参加費以上の費用がかかる。交通費,宿泊費,子連れで参加できない場合の家庭での保育料などの追加費用がかかることが多いのだ。

●代替案を考える
 たとえば,ライブストリーミングでイベントに参加する,イベント後にオンラインでイベントの資料の一部にアクセスする,ネットワーキングを促進するために指定のフォーラムに参加するなど,別の参加形態を提供する。

 イベントを他の都市や地域に拡大する可能性を検討する。これは,他の組織とパートナーシップを確立することで可能になるかもしれない。イベントのために,よりインクルーシブでアクセスしやすい環境を作れるかは,オンラインとオフラインの環境の両方において,イベントが行われる空間によって定義される。

 以下の観点から,会場に関する詳細な情報を提供すること。

  • 会場へのアクセスや交通の便
  • イベントスペースへのアクセスや移動に問題がないように,イベントスペースのレイアウトに関する情報を提供する
  • 会場の収容人数(座席数,緊急時や安全確保のための立ち見可能なスペースなど)を確認する
  • トイレ,静粛室,祈祷室,ケータリングエリアなど,アクセス可能な施設の種類に関する情報
  • 利用可能な技術的インフラ(例:インターネット接続へのアクセス)

Emma Cowling氏
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 次に,そのスペースで行う可能性のある活動や交流について考えよう。

 計画されたアクティビティによって,参加者がどのように スペースを使うかを考えてみよう。たとえば,ワークショップでは,人々はコラボレーション をしたいので,椅子やテーブルを自由に移動させるかもしれない。

 騒がしくなく,快適な空間で過ごしたい参加者のために,静かな部屋へのアクセスを提供する。その静かな部屋は特別なものである必要はないが,感覚過敏になるような要素(例:明るい蛍光灯や大音量の音楽など)を含まないようにしてほしい。

 参加者が性自認に基づいて判断できるように,会場内のトイレの選択肢に関する情報を提供する。性別に関係なく利用できるトイレがない場合は,トイレの表示を変更したり,トイレの設備に関する追加情報を提供したりすることを検討してほしい。さらに,組織チームに関連情報を提供し,参加者を特定のトイレの選択肢に誘導してほしい。

 アクセシビリティとインクルーシビリティの解決策は,異なる会場やスペースで実施できるものばかりではない。常に潜在的な問題を認識し,潜在的な参加者がイベントへの参加について十分な情報を得たうえで決定できるように,事前に情報を提供してほしい。


5. アクセシブルな資料やコンテンツの提供,および参加者の快適さのための計画


 資料やコンテンツの提供とは,参加希望者がイベントへの参加を決定しやすくするため,また参加者がイベントの内容や活動に参加しやすくするために提供されるリソースのことを指す。

 資料やコンテンツの提供の準備を考えるうえで,以下の点を考慮してほしい。

●透明性
 イベント中に提供できること,できないことについて,参加希望者に透明性のある情報を提供すること。

騒がしくなく,快適な空間で過ごしたい参加者のために,静かな部屋へのアクセスを提供する

 イベントに関するすべての詳細は,事前に自社のWebサイト,イベントのWebサイト,参加者に送付するなどの方法で確認してほしい。

 特定の情報を提供できない場合,または参加者の特定のニーズに対応できない場合は,会場,インフラ,イベント活動の欠点について透明性を確保する。

 参加者からのフィードバックを積極的に受け,次回のイベントに向けてどのような変更が可能か議論してほしい。

●社会的交流の促進
 参加者の名札を用意する。

 イベントで使う代名詞を決めておく ―参加者の名札に代名詞を記入する欄を設け,参加者に代名詞を使った自己紹介を促す。

 参加者間の交流をどのように促したいかを考えておく。

 参加者からのフィードバックを反映し,さらなる社会的活動を促進する。

Carolina Rueda氏
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●イベントの事前・事後に提供される資料
 イベント中に参加者が資料に触れる必要がある場合,事前に資料を配布するようにしよう。そうすることで,参加者はそれぞれ異なるペースで情報を吸収することができ,参加しやすくなる。

 参加者のニーズに応じて,資料の量や配布のペース(例:プレゼンテーションやワークショップの活動)を調節してほしい。

 可能であれば,準備した資料や内容をイベント終了後も利用できるようにしよう。

●提供方法
 イベントの内容をどのようにすればより多くの人に届けることができるかを考え,イベントに参加し,他の人と交流する方法について聴衆に知らせる。

 しかし,オンラインと物理的な両方の柔軟な参加形態を可能にするには,交流の基本ルールを確立することが必要だ。

  • すべての参加者は,イベントがライブストリーム/または記録されることを事前に通知されるべきである。イベント後にコンテンツがどこで見られるか,また特定のプラットフォームでどれくらいの期間見られるかを知っておく。

  • すべての参加者は,音声や映像の使用を拒否できるようにする必要がある。これにはイベント中に撮影された写真やイベント中のプレゼンテーションの録音など,視覚的な資料が含まれる。

すべての参加者は,イベントがライブストリーム/または記録されることを事前に通知されるべきだ

  • 出席者によるイベント内容のオンライン配信に関するガイドラインを制定すること。たとえば,個人(出席者または講演者)は,自分の関与やコンテンツが他者によって撮影され,ソーシャルメディアを通じて配信されることを拒否する権利を持つべきだ。

 イベントのどの部分を記録し,配信してもよいか,またしてはならないかを決定しておこう。たとえば,組織によっては,主なプレゼンテーションや活動は記録するが,オンラインでの質疑応答セッションの記録や配信は認めないという場合がある。

  • 可能な場合は,プレゼンテーションのライブ字幕を提供する。多くのストリーミングプラットフォームやプレゼンテーションソフトウェアでは,プログラムオプションの中に原語字幕が用意されている。

 このような基本的なルールを作ることは,次のポイントである強固な行動規範を作り,実施することを検討するための出発点として有効である。

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6. 強固な行動規範の作成


 行動規範(CoC)は,組織の価値観やイベントのルールを明確にし,参加者が歓迎される環境を提供するうえで重要な役割を果たす。

  • 自分自身のCoCを準備する。組織の価値観を示し,行事で予定されている活動の種類に適切に対応できるよう,反省して修正する必要がある。

  • CoCは見つけやすいものでなければならない。Webサイトやイベント前の参加者へのeメールなどで,簡潔かつ明瞭に提示する。

  • CoCは,イベント中にそのコアバリューの実践を繰り返すことによって強化されるべきだ。この実践によって,聴衆は,a) イベントが行動規範に支配されていること,b) 行動規範の詳細がどこにあるのか,c) 主催者が特定の価値観にコミットしていること,を知ることができる。

行動規範は,イベント中にその中核となる価値観の実践を繰り返すことによって強化されるべきだ

 CoCは強制力を持つ必要がある。純粋にWebサイト上のガイドラインとしての存在ではなく,CoCの中の価値観に基づいてどのように行動するかに重点を置くこと。以下のことを考慮してほしい。

  • 組織やイベントの主催者は,CoCをどのように強化するかを決定する必要がある(例:反復またはWebサイトでの提示)。

  • イベントへの参加形態と,参加者の行動や活動がその空間でどのように監視されるかを振り返ってみてほしい。

  • 不適切な行動やその他の懸念事項が,イベントの前,中,後にどのように対処されるべきかを振り返る(例:対面やオンラインなど)。

  • 主催者の信頼できるメンバーとして,誰が参加者の懸念に対応する責任を負うかを定義する。このメンバーは,困っている人に即座にサポートを提供するための訓練を受けるか,リソースを持つべきだ。

  • 懸念事項や不品行があった場合,効率的かつ内密に報告できるようにする。

  • イベント主催者として,懸念や不適切な行為にどのように対応するかを振り返る(例:スペースから人を追い出す(オンラインまたはオフライン),警告を発するなど)。

  • CoCの実施可能性について振り返り,フィードバックを収集する。報告システムは効率的で,理解しやすく,イベント/コミュニティが簡単にアクセスできるか?


7. フィードバックと説明責任を果たすための余地を提供する


 イベントに関するフィードバックを求め,それを真剣に扱う。参加者や組織チームのメンバーは,イベントを改善するために利用できる情報を提供し,新しい視点を与えてくれる。

 参加者からのフィードバックは,正式なもの(イベント後に参加者に送られる用紙)でも非公式なもの(参加者との雑談)でも構わないが,よりインクルーシブなイベントを企画するための中心的な部分であるべきだ。

 参加者からのフィードバックについて,あなたのチームと話し合う必要がある。間違いや誤解は避けられないものだが,組織チームに責任を持たせ,問題に対処し,イベントに変化をもたらすことには計り知れない価値がある。したがって,インクルーシブで多様なイベントの開催は,さまざまなイベントの開催についてさらなる経験を積むことに基づく,反復的なアプローチであるべきだ。


Ukieとヨーク大学による報告書ベストプラクティスガイドの全文を読む

本記事はEmma Cowling氏, Anna Ozimek氏, Carolina Rueda氏が執筆した。Emma Cowling氏は,Emma Cowling Coachingのオーナーで,コーチ兼メンターとして,技術系の女性リーダーがレジリエンスと自己信頼感を身につけられるよう支援している。Anna Ozimek博士は,デジタルカルチャーとデジタルメディア産業を専門とし,以前はヨーク大学のリサーチアソシエイトを務めていた。Carolina Rueda氏は,神経障害のある人々や経験に焦点を当てたビデオゲーム研究者である。彼女らはAfternoonFikaチームの共同設立者であり,主要メンバーでもある。

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