【ACADEMY】ゲーム業界での労働者協同組合の紹介
労働者協同組合は,ゲームではまだ比較的珍しい存在だが,近年,注目を集めているいくつかのインディーズスタジオがこのビジネスモデルを普及させている。
※労働者協同組合:労働組合と言葉は似ているが,それとは別物で,労働者が共同で運営する会社組織のこと。
Dead Cellsの開発元であるMotion Twin(関連英文記事),Night in the Woodsの共同デベロッパが結成したThe Glory Society(関連英文記事),Goodbye Volcano Highの開発元であるKO_OP(関連記事)など,これらの会社はすべて,スタッフが平等に所有・運営することを選択した。
第6回Game Devs of Color Expo(参考URL)では,Alex A.K.氏(Soft Not Weakのクリエイティブディレクター),Francesca Esquenazi氏(Future Clubの共同設立者,CEO,プロデューサー),Eva-Lea Longue氏(Lucid Talesの秘書兼アニメーター)の3人が,労働者協同組合の運営方法について説明し,Twitterで寄せられるよくある質問に答えた。
労働者協同組合とは何か?
最初の質問は,もちろん,労働者協同組合とは何か,どのように機能するのかということだった。
「一言で言えば,労働者協同組合とは,労働者が所有し,自主的に運営する組織です」とEsquenazi氏は説明する。「つまり,従業員は自分たちのビジネスを民主的に管理するのです」
通常,協同組合では各従業員が平等に出資し,平等に議決権を持つため,1人のスタッフが1株と1票を持つことになるという。
「労働者所有の協同組合は,外部の投資家ではなく,オーナーである従業員の利益を重視しており,事業の決定や会社の運営方法については,従業員同士で協力し合っています」と彼女は続ける。「また,地域社会への貢献や他の協同組合の支援にも力を入れています。協同組合の重要な要素は,オープンなコミュニケーションです。すべてが透明で,メンバー間で共有されているので,全員が会社で起きていることを理解し,方向性に影響を与えることができます」
組合の重要な要素は,本当にオープンなコミュニケーションです。すべてが非常に透明性が高く,メンバー間で共有されています -Francesca Esquenazi氏,Future Club
パネルディスカッションでは,1995年に国際協同組合同盟によって定義され(参考URL),業界を問わず世界中の協同組合のガイドラインとなっている,協同組合を支配する7つの原則が共有された。- 自発的で開かれた会員制であること
- 民主的な組合員管理:事業決定の権限を持つ者は労働者によって決定されること
- 組合員の経済的参加:労働者が平等に参加して利益を得ることができ,その利益が外部の影響を受けることはないこと
- 自律性と独立性
- 教育訓練と情報:誰もが,どのような決定がなされているかについての情報にアクセスでき,必要な訓練は提供されること
- 協同組合間の協力:協同組合がお互いに支援し合い,協力し合うことを奨励すること
- コミュニティへの配慮:コミュニティに還元したり,業界全体を改善しようとすること
協同組合には,会社の運営方法や意思決定の手順などを詳細に記した規則である「細則」が必要だ。
誰が意思決定をするのか?
パネルに寄せられた質問の中で最も多かったのは,「組合はフラットなヒエラルキーを意味するのか」「意思決定は実際にどのように行われるのか」というものだった。Alex A.K.氏は,「生協の正しいやり方は1つではありません」と強調し,このモデルが自動的にフラットなヒエラルキーを意味するわけではないことを説明した。
たとえば,Future Clubでは,会社の運営に関するほとんどのビジネス上の決定を行うために,取締役会を設置することにした。スタジオは14人の協同組合としてスタートしたが,Esquenazi氏によると,彼女が見てきた多くの協同組合(一般的には10人以下)よりも少し大きいとのことだ。
「我々は3人の取締役を持っていますが,チームが大きくなれば取締役会の人数を増やすことができます。そうすれば,我々に投票してくれた人たちをより代表できるでしょう」と彼女は語る。「また,選出された人であれば,誰でもその役割を担うことができ,必要なパフォーマンスが得られない場合には,誰でもその役割を罷免できるように,細則で定めています」
毎年,会社は会議を開いて結果を確認し,新しい役員に投票している。
何かあったときに,従業員が投票して行動を起こせるように,説明責任を果たすためのシステムを用意しておくことです -Alex A.K.氏,Soft Not Weak
もう1つ,Future Clubは規約に委員会を設けており,現在その導入に取り組んでいる。これは,さまざまな委員会を設置することで,従業員がビジネスの運営の一部を担うというもので,とくに紛争解決のために重要だ。また,Lucid Talesではフラットなヒエラルキーではなく,Eva-Lea Longue氏の説明によると,スタジオの役員は最低でも3名(社長,秘書,財務担当者)で構成されているという。
Soft Not Weakは,それでも,フラットな階層であるとAlex A.K.氏は説明している。現在,スタジオには5人しかおらず,すべて投票で決めている。しかし,A.K.氏以外の社員は全員パートタイムであり,お金に関わること以外の緊急のビジネス上の意思決定は,事実上,A.K.氏が行うことになっている。
「だからといって説明責任がないわけではなく,フラットなヒエラルキーや誰が決定権を持っているのかということを理解してもらう必要があると感じています」と彼らは語る。「誰もミスをしないとか,誰もが常に完璧な自分でいられるということを完全に保証するものではありません」
「誰かがレールから外れてしまうのではなく,何かが起こったときに,従業員が投票して行動を起こし,物事を変えたり修正したりできるように,説明責任を果たすためのシステムを用意することが重要なのです」
平等な所有権は平等な給与を意味するのか?
同一給与という考え方は,ゲームの世界でも徐々に浸透してきている。
共同創業者のAstrid Refstrup氏は,Triple Toppingがそれを行っているのは(関連英文記事),たとえば「誰もが会社にとって等しく有効であるというシグナルを送りたいから」だと語る。
また,Motion Twinは,ある人の貢献が他の人の貢献よりもゲームの業績に影響を与えていると主張することは「ほとんど不可能」であるとし,同一賃金制度を賞賛している(関連英文記事)。
しかし,労働者協同組合が自動的に同一賃金を意味するわけではなく,ゲーム業界では多くの人がこのコンセプトを少し恐れているとLongue氏は指摘する。現在,Lucid Talesは収益を上げていないが,収益を上げることができたら,同一賃金を提供したいと考えているという。
「なぜなら,我々は1人ひとりの貢献が協同組合にとって平等に利益をもたらすと考えているからです」と彼女は語る。「たとえば,プログラマだからアーティストよりも多くの収入を得なければならないということはありません」
我々は,1人ひとりの貢献を協同組合にとって平等に利益をもたらすものとして評価しています。プログラマだからアーティストよりも多くの収入を得なければならないということはありません -Eva-Lea Longue氏,Lucid Tales
Longue氏は,カナダでは利益の一部を協同組合が存続できるように再投資しなければならないと述べた(参考URL)。アメリカでは,ほとんどの州で協同組合の法的枠組みがないため,そのようなことはない,とAlex A.K.氏は明らかにした。Future Clubは,すべての従業員に平等な給与を与えているわけではない。協同組合が設立された当初は,個人の経済的ニーズに応じて給与を決めていた。しかし,最初の契約が成立し,お金が入ってくるようになると,給料についての話し合いが再開され,理事がチーム内で行ったアンケートをもとに提案書を作成した。
「一般的には,経験値が高いほどスキルセットや会社にもたらす価値が向上すると言われています」とEsquenazi氏は語る。「そこで,ジュニア,シニア,ディレクターの3段階に分けて,給与を設定しました」
「また,給与の最高額にも制限 ―文字どおり上限― を設け,最低額の人と最高額の人の差にも制限を設けました。これは主に,我々が皆に対して公平であることを確認するためのものです。たとえ業界の新人であっても,CEOよりも500%少ない給料であっていいわけではありません」
さらにEsquenazi氏は,協同組合の給与モデルは,会社の変化や規模の拡大に伴って進化するものであり,スタッフ間で頻繁にオープンに話し合うことの重要性を繰り返し語る。
また,スタッフ間で頻繁にオープンに話し合うことの重要性も強調している。「なぜ今年は昇給できないのか,その理由を全員が理解できるようにしておくことは非常に重要です。会社としての財務状況はこうで,もし全員がこれだけの給料をもらったら,これだけの資金があり,もし全員の給料が増えたり減ったりしたら,それによってどう変わるか,ということを明確に伝えることができるのです」
「このようなオープンな会話をして,人々に理解してもらうことが,私の楽しみです。最初は大変ですが,これは私がこの会社にしている投資なのです。なぜなら,将来,我々は何かを生み出し,私もその恩恵を受けることができると信じているからです」
私は誰の貢献も等しく価値があると思っていますが,私にとっては,それは皆のニーズが同じであることを意味しません -Alex A.K.氏,Soft Not Weak
Soft Not Weakは,Lucid TalesのモデルとFuture Clubのモデルの「中間」であると,Alex A.K.氏は語る。「我々は,『それぞれの能力に応じて,それぞれのニーズに応じて』ということを極めて重視しています」彼らは語る。「私は,誰もが同じように価値ある貢献をしていると考えていますが,だからといって,誰もが同じように必要としているわけではありません」
「学生時代に10万ドルの借金を抱えた人から,世代を超えて豊かな生活を送っている人まで,そのすべてを考慮に入れるようにしています。たとえあなたの会社への貢献度が同じであっても,あなたのニーズは違うかもしれません。我々は,お互いに率直に話し合えるような透明性を求めていたのです。毎日ラーメンを食べなくても生活していける最低限の金額,これが私が働くことのできる金額です」
「これは当社だけでなく,協力会社にも適用できるようにしたいと考えています。福利厚生を充実させ,どこにいても全員が快適に暮らせるようにし,賃金の完全な透明性を確保したいと考えています。これは本当に重要なことだと思っています。同一賃金は協同組合の厄介者ですので,その神話を払拭し,誰も搾取しようとせず,その説明責任を持っている限り,定款で定義されていることを明確にすることが非常に重要だと思います。規約で定められているのだから,誰かを搾取しようとしたり,システムに説明責任を持たせたりしない限り,全員が同一賃金である必要はないということを明確にしましょう」
なぜ協同組合のビジネスモデルを選ぶのか?
パネルの締めくくりとして,協同組合としての契約者との付き合い方や,メンバー削除の仕組みなどについても触れられ,登壇者はゲームで協同組合モデルを目指す理由について触れた。
「私が言いたいのは,それはあなたのためではないということです」とAlex A.K.氏は語る。「もし,あなたが集団的利益や労働者が自分の労働力を所有することに関心があるならば,正直なところ,これは資本主義の下で我々が持っている最高のシステムだと思います。非常に柔軟性があるので,嫌な奴ばかりの協同組合を作って,社会の害になってしまうこともあるかもしれません。でも,そうしてはいけません。正直に言うと,それは説明責任のメカニズムについての話です」
この説明責任は,FWGS(Federation of Worker-Owned Game Studios)のような協同組合の協同組合に参加することでも得られる。
「FWGSやゲームメーカーの協同組合の素晴らしいところは,グループ内に説明責任があることです」とA.K.氏は続けた。「FWGSのようなグループに所属していると,Lucid TalesやFuture Clubの人たちにこのような話をしたときに,彼らがどう考えているかを確認したり,『Alex,それは協同組合の原則に反しているよ』と教えてくれたりするので,説明責任を果たすことができるのです」
「こういった議論はとても重要です。では,なぜ協同組合のビジネスモデルを選ぶのでしょうか? 協同組合の中の協同組合であることを選ぶ理由は? それは,あなたが誠実であり続け,あなたが公正であり続け,その利益が労働者に行き渡るようにするためです。だから,やってみてください!」
集団的利益や労働者が自分の労働力を所有することに関心があるなら,正直なところ,これは資本主義下で我々が持っている最高のシステムだと思います -Alex A.K.氏,Soft Not Weak
FWGSの設立に貢献したEscenazi氏は,他の労働者所有のゲーム会社を支援することを目指していることを詳しく説明してくれた。「我々の使命は,ゲーム業界に革命を起こし,公正な賃金,安全な労働環境,仕事の所有権を主張する労働者に力を与え,メンバーや一般の人々に協同組合の原則に関するリソースや知識を提供することです」
また,組合員や一般の方々に,協同組合の理念に関する情報や知識を提供している。「これは,同じような考えを持つ人たちのサポートグループを作る方法です。アドバイスやサポート,知識などをお互いに共有できるので,とても助かっています」
興味のある人は,Discordでこのグループに参加できる(参考URL)。また,Alex A.K.氏は,FWGSは現在,他の人たちにも門戸を開いているところであり,それがGDoCEにスピーカーが参加した動機の1つでもあると語る。
「これまでのところ,FWGSは本当にホワイトです」と彼らは語った。「これまでのFWGSは本当に白かったのです。大いに。我々3人に惑わされないでください。我々がここにいるのは,社会から疎外された人々がその構造から恩恵を受けることができると考えているからです。もし,ゲーム業界やゲーム作業の共同モデルを民主化することが正しい方法であるならば,最初にリソースを得るべきなのは,社会から疎外されたコミュニティなのですから」
「だからこそ,我々はここにいます。我々はあなたを求めています。質問があれば,我々のところに来てください。また,Co-opを作りたいと思っても,どうすればいいの? というときには,我々がいます。相談してください。一緒にやりましょう。ゲーム業界に革命を起こそうじゃありませんか」
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