オーストラリアはどのようにして持続可能なビデオゲーム開発のエコシステムを構築していくのか

IGEAのCEOであるRon Curry氏は,待望の税制優遇措置とビザ発給の拡大が,いかにオーストラリアの開発現場を活性化するかについて語る。

 歴史的に見て,オーストラリアのゲーム産業は,英国やカナダ,さらには隣国のニュージーランドと比較すると,連邦政府や一部の例外を除いた州政府からの支援が不足していた。世界のゲーム産業は昨年,約2500億ドルの収益を上げているにもかかわらず,オーストラリアのゲームデベロッパが政府から受けたゲーム開発のための優遇措置や支援は先進国の中でも最低のものだった(※先進国ではそういう政策が行われているようだ)。

 オーストラリアでは,2009年の世界的な金融危機のピーク時に多くの大規模なゲーム開発スタジオが失われており,その後は,小規模なスタジオがわずかに残っているだけだった。また,多くの有能なデベロッパが,この分野での雇用と経験を確保するために海外に流出してしまった。2015年には,2K Australiaが閉鎖され(関連英文記事),オーストラリアにはAAAスタジオがなくなってしまっている。

 オーストラリアのゲーム開発業界は変革を迫られ,2010年代に入ってからは,インディーズゲームやモバイルゲームに注力するようになった。近年,多くの成功したインディペンデントスタジオが,評価的にも商業的にも成功したゲームを生み出している。当時のオーストラリアのゲームには,Fruit Ninja,Crossy Road,Hollow Knight,そしてこの10年間を締めくくるUntitled Goose Gameなどがあり,これらは有名であり,変革をもたらした。

Ron Curry氏(IGEA)
オーストラリアはどのようにして持続可能なビデオゲーム開発のエコシステムを構築していくのか
 しかし,他の地域のような税制上の優遇措置がないため,大手スタジオやパブリッシャがオーストラリアに進出することは困難だったその結果,中堅・上級レベルの人材が減り,頭脳流出が続いていた。

 IGEAとビデオゲーム業界による長期にわたるアドボカシー活動を経て,この数十億ドル規模の産業がオーストラリアの経済と雇用回復に大きく貢献する可能性があることが認識され,オーストラリア政府は5月初旬,デジタルエコノミー戦略の一環として,30%のデジタルゲーム税金控除(DGTO)という国際競争力のある制度を導入することを発表した(関連英文記事)。

 DGTOは2022年7月以降に適用され,適用を受けるためには,企業は最低50万オーストラリアドルの支出が必要となる。これは,オーストラリアの産業界で利用可能な初の連邦税控除であり,オーストラリアの特定の管轄区域では,州による補完的な資金提供が可能だ。

 DGTOの導入は,オーストラリアが完全なビデオゲーム開発のエコシステムを構築し,維持するのに役立つ。他の国や地域では,ビデオゲーム開発のエコシステムを確立することで,大規模なスタジオを設立することが,スタッフのトレーニングの場となり,そのスタッフが独立したスタジオを開くことができることを示している。スタジオが増えれば,オーストラリアでの雇用も増え,ゲーム業界全体でのトレーニングや経験が充実することになる。州政府は,デベロッパが自分たちの地域に入ってくることを奨励し,創造的で経済的な活動を支援する機会を得る。

デジタルゲーム税控除の導入は,オーストラリアが完全なビデオゲーム開発エコシステムを構築し,維持するのに役立つ

 オーストラリアのゲーム業界が成長し,爆発的な成長を遂げようとしている今,ゲーム開発業界のさまざまな分野で幅広い人材が必要とされている。オーストラリア政府も産業界の声に耳を傾け,2020年9月には「グローバルビジネスと人材誘致タスクフォース」を創設し,ビザ申請の迅速な処理,永住権の確実な取得,企業の役員や主要スタッフとその家族の転居の促進,移住者に合わせたアドバイスやコネクションの提供などを支援している。

 さらに,連邦政府は先日,熟練ビザの優先職業を2倍に増やすことを発表し,国内検疫の上限を条件に,移住や旅行の免除のための優先的な手続きが行われる22の職業を優先移住熟練職業リスト(PMSOL)に新たに加えた(関連英文記事)。新たに追加された職種は,「マルチメディアスペシャリスト」と「ソフトウェアエンジニア」で,ビデオゲームの開発に欠かせない職種だ。この2つの職種は,オーストラリアの永住権への道を提供する「中長期戦略スキルリスト」に含まれている。

 Sledgehammer Gamesなどの一部の企業は(関連英文記事),オーストラリアの可能性を認識し,現地市場の有機的な成長と,十分な教育を受けた即戦力となる卒業生の強固なパイプラインを利用して,DGTOの発表に先立ってメルボルンに拠点を設立した。WargamingやEA Firemonkeysも成長を遂げ,Ubisoftは開発人材の現地採用を開始した。また,ここ数か月の間に,多くのオーストラリアのスタジオが世界的なM&Aに参加しており,国際的なスタジオが地元市場の成長性と能力を認識していることを証明している。

 しかし,持続可能なビデオゲーム開発のエコシステムを構築するためには,業界が直面するグローバルな課題がある。たとえば,パイプラインの問題,ゲーム業界の多様性の向上,小規模なスタジオや個人事業者のビジネススキル向上の支援,即戦力となる卒業生の育成,国際的な国境閉鎖などだ。ゲーム業界は,適応力があり,これらの問題を解決策するために協力できることを何度も証明してきた。

 さらに,DGTOは中堅スタジオや既存のインディーズ企業を対象としているが,IGEAは,小規模スタジオを支援し,創造性に富んだオリジナルIPや世界中の何千人ものプレイヤーに楽しまれるゲームを制作するという強みを生かすために,インタラクティブゲーム基金の復活を提唱し続けている。

 このような課題はあるが,オーストラリアのゲーム開発の将来は非常に明るいと言える。オーストラリアには,ゲームデベロッパやスタジオの活気あるコミュニティがあり,オーストラリア政府からの新たな支援により,彼らの成功がさらに拡大し,将来的にはエコシステムをさらに充実させ,オーストラリアが,世界のゲーム開発産業の拠点として注目されることに期待している。


Ron Curry氏は,オーストラリアおよびニュージーランドのビデオゲーム産業の業界団体であるInteractive Games and Entertainment AssociationのCEOだ。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら