もはやE3は必要ない

Fancensusの分析責任者Ryan Janes氏が,夏の大発表でのメディアインパクトを分析した。

 業界としての「我々」がどれだけE3を必要としているかという問題は,ここ数年,賛否両論ある中で話題となっている。

 この数年間,我々Fancensusもこの問題について葛藤していた。驚きと衝撃的な瞬間が待っているこの1か月を失うことを悲しむゲーマー側の自分と,より真剣にこの問題を受け止めようとするアナリスト側の自分がいるのだ。

 とくに2020年は,少なくとも従来の意味でのE3は必要ないと最終的に確信させてくれた年かもしれない。

 しかし,なぜ今なのか? 何が変わったのか? まず第一に,世界だ。COVID-19の影響でゲーム業界だけでなく,あらゆる場所でイベントが中止になったため,2020年は伝統的なE3が行われない最初の年となった(関連記事)。

 つまり,イベントを開催しないことで,パブリッシャやその製品のために作られたプレスやソーシャルの報道に与える影響を実際に目の当たりにできる最初の年になったということだ。1995年まで1年も開催されなかったことがないため,これまでE3の重要性が低下していることを証明するために構築されたケースは,すべて理論的な条件に基づいていた。

2020年のイベントが分散して開催されることで,新しいゲームが発表される時間が確保され,スポットライトを争うのとは対照的なものになっている

 この25年は,業界がE3を最新かつ最高のものを世界に示す機会として利用してきた長い時間だ。そして,パブリッシャやメディア,その他の業界関係者はこの時期の大宣伝と興奮を利用しようとしているのは確かだが,振り返ってみると,2020年は「業界が実験をしてE3に取って代わろうとした時期」と見られてしまうだろう。

 これは否定的な意味で言っているわけではない。我々は現在,未知の海域を航海しているのだ。EAのようにいつもの「E3ではないが完全にE3関連」の流れを継続するか(関連英文記事),任天堂のようにダイレクトをやめて Paper Mario: The Origami Kingのアナウンストレイラーを木曜の午後のランダムな時間に投下するといった他の方法を試してみるしかないのだ(関連英文記事)。E3が業界にとって十分に重要かどうかを真に判断するには,今年のような年が必要だった。そして今,我々はE3のない夏がどのような結果になったのかの検討を始めることができる。

 この夏,大きなオンラインイベントの一環として発表されたゲームを見ているのか,それともより孤立した形で発表されたゲームを見ているのかに関わらず,これまでのところ非常に有望な結果が出ていることに対して異議を唱えるのは難しい。

 Assassin's Creed ValhallaとMarvel's Spiderman Miles Moralesは,4月末に正式発表された1作めと, PS5 Future of Gamingストリームで発表された2作めのデビュー作だ(関連英文記事)。両方のタイトルは,最初の 72 時間で強力な報道を受けた。彼らの発表後,とくにUbisoft の長期的に実行されているフランチャイズは,昨年中にE3 でデビューした発表後3日間の同じ時間スパンで比べて,任意のゲームよりもはるかに高いスコアだった。比較対象には,Elden RingやStar Wars: Jedi Fallen Orderなどの主要なプレスカンファレンスで取り上げられたゲームも含まれている(図1参照)。

図1 発表後72時間のメディアの動き
もはやE3は必要ない

 AAA分類以外のタイトルについても同様のことが言える(図2参照)。Worms RumbleやBugsnaxのような小規模な中堅タイトルは,No More Heroes 3(Nintendo Directでの発表)やBlair Witch(Xbox E3 Briefingでの発表)のように,E3 2019で明らかになった同規模タイトルに匹敵する報道を生み出している。

図2 明らかになってから72時間のメディア活動
もはやE3は必要ない

 実際,昨年のE3で明らかになったさらなるゲームの報道と今年の夏に発表されたゲームの報道を比較すると,2020年の取り組みが非常に実りあるものであることが改めて示されている。より大きなタイトルのサンプルを取ると,E3 2019での発表から最初の72時間に受け取られた記事の平均数は,今年の夏にオンラインイベントの一環として発表されたゲームと比較して,ゲーム1本あたり5%のわずかな減少となっている。また,今年まったくイベントを使わずに発表されたゲームと比べても5分の1以上低い。

かつて休眠状態にあったCrash Bandicootフランチャイズの続編が,Breath of the Wildの続編よりも強いオンラインの存在感を刈り取ることができるなら,2020年は何か正しいことをしているに違いない

 さらに注目すべきは,この範囲を広げて丸一週間後の発表までのカバレッジを含めると,E3 2019は2020年の発表に比べて平均記事数が今年のイベントタイドデビューよりも22%も低く,孤立したものよりも60%も大幅に低くなっていることだ。

 E3の来場者数の多さはよく称賛されるが,この統計はE3の問題点も浮き彫りにしている。タイトル数の増加は,他の多くのゲームと競合するため,1つのゲームがE3でカバーできる可能性に影響を与えている。一方,2020年のイベントは分散して開催されるため,新しいゲームの発表や情報が一斉に争われるのではなく,情報の流通に時間を割くことができているように見える。

 また,2020年の発表が好調なのは報道だけではなく,YouTube,Twitter,Facebookのいずれも同様に好調な結果を示している。改めて各ゲームの発表から72時間後を見てみると,3つのソーシャルアウトレットすべてで2020年の発表が総報道数とインタラクション数でトップとなっている(YouTubeとFacebookではCrash Bandicoot4: It's About Time,TwitterではAssassin's Creed Valhalla)。実際,ベストパフォーマンスの10製品を見ると,2020年の発表はE3 2019年のものよりも各ソーシャルメディアプラットフォームでより多くのスポットを主張している(図3,4,5を参照)。

図3 2019年(緑)と2020年(青)のゲームの発表後最初の72時間の間のYouTubeアクティビティ
もはやE3は必要ない

図4 2019年(緑)と2020年(青)の発表後72時間の間のTwitter活動を明らかにする
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図5 発表後72時間以内の2019年(緑)と2020年(青)のFacebookアクティビティが明らかに
もはやE3は必要ない

 ここで見ているのは,ゲームがE3イベントを失って苦しんでいる年ではなく,他の同じように成功した手段を使って前進し続けている年なのだ。長い間休眠していたCrash Bandicootのフランチャイズの続編の発表が,(※2019年にE3で発表された)Star WarsのゲームやThe Legend of Zelda: Breath of the Wildの続編よりもオンラインでの存在感を高めることができているのなら,2020年は何か正しいことをしているに違いない。

 とはいえ,2020年に落ち度がないわけではなく,数字はむしろポジティブな絵を描いているが,あらゆる角度からアプローチしてみると簡単なものになったとは言えない。実際にはそうではなく,これは以前のE3の問題点でもあったのだ。

我々がかつて愛していたE3は,安いストリームや驚くべき強印象を与えられないようなゲームのカバー率のために何もしていない

 2020年は,「ゲームデベロッパやパブリッシャからのビデオゲームニュースやイベントのシーズンに向けて,ゲームコミュニティを1つにする新しい,オールデジタルな方法」とWebサイトで説明されるオンラインイベント「Summer Game Fest」が登場した(関連英文記事)。ゲーム業界の未来を祝うためにゲームコミュニティを集め,全体的に盛り上げるというアイデアとしてはスマートなものだと思う。結局のところ,これこそがE3の原点であり,これまでもそうだったのだ。

 しかし,Summer Game Festで躓いた点は,その実行にある。1週間にわたって集中して行われたE3イベントから,次の発表やデジタルイベントがいつ行われるのかと思いきや,何気なく漂っているような感じのイベントになってしまったのは,正反対の方向に行ってしまったような気がする。

 実際,支柱となるストリームやトレイラー,そしてそれらの発表があまりにも散在しているため,自分がどこにいて,何を期待していて,いつ何をする必要があるのかを知ることは,1週間の積み重ねでチューニングするのと同じくらい単純なことではない。プラットフォームホルダーや大手サードパーティが独自のショーケースを提供するだけではなく,多くのビデオゲームサイトが独自のストリームをホストしていた。戻ってきたメディアストリームのうち,PC Gaming ShowとUpload VR Showcaseは,2019年のE3での彼らの成果に等しいか,いくつかのケースでより高い数字に到達する強力なプレスとソーシャルレスポンスを達成している。

 しかし,他のいくつかのメディアが作成したイベントは,あまり成功していなかった。たとえば,The Escapistは6月にIndie Showcaseを開催した。十分に興味深いイベントだったが,他のジャーナリストとソーシャルメディアの両方でインディーズ製品を取り上げても,あまり話題にならなかった(図6を参照)。

図6 The EscapistのIndie Showcase 開催後の4日間のメディア活動
もはやE3は必要ない

 IGNは,一方で,スケジュール面で同じ運命に苦しんだ。それはさらに混乱しており,参加したゲームのうち後半の日程のものは目立った成果を出すことができなかった(図7を参照)。イベントが増えたからといって,パブリッシャやデベロッパが求めているようなカバレージブーストが得られるとは限らないようだ。

図7 IGN Expoの4日目に明らかになったゲームの4日間のメディア活動
もはやE3は必要ない

 したがって,ここでの解決策は,E3イベントと2020年に見られたオンラインでのアプローチの間に幸せな中間を見つけることなのかもしれない。確かに,今年は多くの企業(図8,9,10を参照)と自社製品のキャンペーンが成功を収めたが,―我々がESAに何年も前から言ってきたように― 改善が必要だ。

図8 E3 2019で発表されたゲームの最初の24時間のメディア活動
もはやE3は必要ない

図9 2020年のオンラインイベントの一環として発表されたゲームの最初の24時間のメディア活動
もはやE3は必要ない

図10 オンラインイベントとは関係のない2020年の試合告知の最初の24時間のメディア活動
もはやE3は必要ない

 まず,Summer Game Festを30日間に凝縮して開催することで,ゲーマーの注目度が格段に上がるのではないだろうか。今年は発表に余裕があったにもかかわらず,業界の勢いにムラがあり,多くのギャップがあった。約束されていた4か月間のSummer Game Festも,イベントの発表が乱立したり,ゲームが散らばっているように感じられたりと,明快さに欠けているように感じる。少なくともE3では,世界はいつどこで何を見ればいいのかを知っていた。皆を一堂に会させるというアイデアは強力なものだったのだ。

 しかし,この一体感にはコストがかかる。複数の場所に分散したストリームとは対照的に,物理的な場所に参加するプロセスを考慮しなければならないのは,コストのかかるマーケティング作業になる。そのため,より集中的な期間に物事を抑制することで,業界のオンラインプレゼンスをより強固なものにし,かつてのE3のように,主流の見出しをつかむことができるかもしれない。

 そこで,業界がE3を必要としているかどうかという私の元の質問に戻りたい。少なくとも,ゲームのプレスやソーシャルカバレッジを生み出すという観点からは,答えは「ノー」のように見える。パブリッシャやデベロッパが自社製品をより大きな流れに乗せるにしても,いきなり発表するにしても,このアプローチはうまくいっているように見える。― ときとして昨年のE3での大規模なリリースの発表よりも良いものさえある。

 私の中のゲーマーはこれを言いたくないのだが,我々が馴染み愛していた従来のE3は,より安いストリームや驚くような強印象を与えることができないようなゲームに対して,カバー率の高い何かを与えていたわけではない。我々は業界が提供する最新かつ最高のものを祝い,その製品に対する興奮と報道を生み出すことができるようになった。 ― 単に,我々はもはやE3でそれを行う必要はないのだ。

※本記事はGamesIndustry.bizとのライセンス契約のもとで翻訳されています(元記事はこちら